2006年03月09日 02:52 [Edit]

実名は振込口座?それとも振替口座?

ネットの話題として、時候の挨拶の次に多いのが、実名/匿名問題かも知れない。

My Life Between Silicon Valley and Japan - Blog論2005年バージョン(2)
アメリカは実名Blogが多く、日本は匿名(ペンネーム)Blogが多いというのもよく言われていることだが、それとも関連するのかもしれない。

これはすでにありふれた考察で、すでに数ある「日本では欧米では」論の一つとして扱われているかも知れないが、この考察に関してはどちらかというと「今頃そんなことを。今や日本だって」という反論よりも、「うん、確かにそうだよな、でもなぜだろう」という同意に基づくさらなる考察を志向する。

実名とは、一種の「口座」なのではないか。文字通り「名声」(reputation)を決済するための。

だから、名声を受け取りたかったら実名を晒すしかないのである。もちろんペンネーム(あるいは「コテハン」を使う事もできるが、この場合、名声はそのペンネームに帰属し、その人の「実名世界」には帰属しないので、せっかく「振り込まれた」名声も実名世界で「援用」することは出来ない。

実は、「受け取る」ところまでは匿名でも可能ではある。やり方は2chを見ればよい。

>>128
テラワロスwww

というあれだ。確かにこの時点で発言番号128番の「名無しさん」は、「テラワロスwww」という「反応」を受け取っている。この名無しさんは他の名無しさんとは別人だ。もちろん発言右側に現れるID:dEAdbEEfという識別子だって使う気になれば使えるだろうが面倒だしそれはおいておく。

しかし、この発言番号128番の「名無しさん」は、それを「持ち帰って」「再利用」することはできない。名声の流通と決済が、板を超えることは「名無し」である限りありえないのだ。匿名での名声には、流動性がないのだ。

それを念頭におきつつ、梅田氏の言葉をもう一度見てみる。

My Life Between Silicon Valley and Japan - Blog論2005年バージョン(2)
アメリカに住んでいて思うのは、アメリカ人の自己主張の強さ、「人と違うことをする」ことに対する強迫観念の存在である。

そう。合州国において、名前というのは明らかに「名声の振込口座」として見られている(実際は小切手決済が多いので、これはかの国では使えない比喩だが(苦笑))。彼らにとって名前とは「売り込むべき」ものであり、それゆえありとあらゆる機会を捉えて名売りに励む。

しかし、もしこの口座が、振込口座ではなく振替口座だと認識されていたらどうだろうか?

日本がまさにそれに当るのではないか。

asahi.com: 経産省部長ブログ「炎上」 PSE法巡り書き込み殺到 - 社会
ブログで谷さんは、この法律への理解を求めた。だが、同法に対する意見に交じり、反対派とみられる人たちから「死んでわびろ」「能なしの税金泥棒」など中傷も寄せられた。冷静な意見を含めて、書き込みは最終的に1600通にのぼった。ネット用語で言う、書き込みが殺到し、収拾がつかなくなる「炎上」状態になった。他のネットの掲示板でも話題になり、騒ぎは大きくなった。また、ブログ更新が平日の勤務時間内だったため「公務中の更新は問題」と議論は思わぬ方向に飛び火した。

こういった場で、実名で谷部長と対峙する人はほとんどいなかったろう。実名で「死んでわびろ」といえばそれは本人に必ず帰って来てしまう。上述のように匿名であるということは、名声を受け取れないということでもあるが、逆に言えば「負の名声」の決済を彼らが迫られることもないということである。

谷部長のblogは、その意味では振替口座となってしまったわけだ。しかも匿名で残高を引き出せる。

これでは、実名で発言しようという気も引けるのではないか。日本では名は文字通り惜しむものというわけなのだろうか?

私がblogに限らず実名を使い続けるのは、それでも振込額が振替額より多い、「黒字」の状態に持って行けるという自信がそこそこにあるからだ。だからTVで得た「名声」もblogで「再利用」できるし、blogで得た「名声」を実世界で「援用」することも自由だ。もちろんその代償として、「汚名」もまた再利用されるというリスクを追うわけだが。

当blogは、アクセス数などの割にはコメントが比較的少なく、むしろ反応はTBやはてブなど、実名とは言わないまでもコテハン程度には「所有者」が明らかなところから来ることが多いのだが、面白いことにこれがネガティブなものだとほとんどが匿名である(実はIPアドレスがblog管理人には通知される以上、それほど匿名性は高くないのだが)。

実は発言そのものの価値は、実名と匿名でさほど変わることはないと思う。さすがに2chを私が巡回することはないが、ニャー速程度は時々眺めるし、Refererが2chの板ならとりあえず覗いてみることぐらいはする。彼らのほとんどが社会的にも知的にも劣る「厨房」だとはとても思えない。しかし臆病であるとは思う。そしてなぜ臆病になるのかを思い図ると、上記のような結論になるのだ。

とりあえず、欲深い私は実名で行く事にする。

小飼 弾 aka Dan the Man with Variable Signatures

追伸:
404 Blog Not Found:親の資格-ぬっこさんのコメント

時間を割いてこのような書き込みをしていただけているということは、私の書き込みを単なる「荒らし」扱いで一蹴していらっしゃらないということと思い感謝します。

とおっしゃるのであれば、やはりご自身でblogを開設して、そこからTBするなりcomment欄にblogへのlinkを残すなりされた方がよろしいのではないか。佐藤さんがそうしたように。


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それではご期待にお答えして。 実名推進派は人の気持ちがわからない人が多い。 : ひろゆき@オープンSNS 匿名派の人は、相手の意見も踏まえた上で判断してるわけですが、 実名派の人は、相手の意見に耳を傾けずに、自分の主張だけを 声高に叫ぶ人が多いように見えるわ....
匿名発言者は、自分の気持ちがわからない人が多い【404 Blog Not Found】at 2009年10月06日 15:12
 我々は、法律もしくは契約によって求められない限り、戸籍上に登録された名前ではない別名を使う権利を持つ。  また、何らかの事情により戸籍上に登録された名前を秘すとき、歮..
ボクたちは匿名で議論する権利がある【blog.桜井@猫丸屋】at 2007年12月26日 00:01
 我々は、法律もしくは契約によって求められない限り、戸籍上に登録された名前ではない別名を使う権利を持つ。  また、何らかの事情により戸籍上に登録された名前を秘すとき、歮..
ボクたちは匿名で議論する権利がある【blog.桜井@猫丸屋】at 2007年12月25日 23:58
というわけで、その続き。 404 Blog Not Found:ニコニ考 - オープンソースプログラマーとニコ厨の違いその力学が一体何なのか。ここまで書いてもう時間がなくなった。もう出かけなければ。というわけで続きはまたの機会に。
ニコニ考 - 名無しがニコ厨でOKでオープンソースプログラマーでNGな理由【404 Blog Not Found】at 2007年11月17日 00:31
実名匿名に関する私の意見は、すでに何度も述べてきているのだけど、最近また変化があったので改めて書き加えてみる。
匿名に関してそろそろまた一言言っとくか【404 Blog Not Found】at 2007年07月26日 04:02
 「実名/匿名」論議においては、しばしば「自分たちには実名を用いるメリットがない
実名は「いわゆる」強者だけの特権ではない。【Annex de BENLI】at 2006年07月01日 12:59
 「実名/匿名」論議においては、しばしば「自分たちには実名を用いるメリットがない
実名は「いわゆる」強者だけの特権ではない。【Annex de BENLI】at 2006年07月01日 12:58
もう一つは、→。 404 Blog Not Found:弱いんじゃない、力がないだけだ返信したい点が二つあるので、Entryを分けます。 CNET Japan Blog - 江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance:匿名性は(いわゆる)弱者だけの特権ではないそういえば、テクノラティCEOのDave Sifryが報...
名前のスケーラビリティ【404 Blog Not Found】at 2006年05月23日 18:43
もう一つは、→。 404 Blog Not Found:弱いんじゃない、力がないだけだ返信したい点が二つあるので、Entryを分けます。 CNET Japan Blog - 江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance:匿名性は(いわゆる)弱者だけの特権ではないそういえば、テクノラティCEOのDave Sifryが報...
名前のスケーラビリティ【404 Blog Not Found】at 2006年05月23日 15:05
たけくまメモ: 「名声の口座」としての「実名」(1) たけくまメモ: 「名声の口座」としての「実名」(2) たけくまメモ: 西村博之氏という存在 実名について興味深いテキスト。コメント欄に枡野浩一さんらが。 私もずっと実名だし、それで問題を感じたことないな。 404 Bl...
060316メモ【gekka blog】at 2006年03月16日 10:05
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060316メモ【gekka blog】at 2006年03月16日 09:55
名前とは、一種の「ベクトル」なのではないか。文字通り「大きさと向き」(Vektor)を表すための。 名乗ることにより、その意見の方向性(偏向性)が際立ってくる。その商標(ブランド)が、??
名前=ブランド=意見のベクトル【牌_フェディダのノート】at 2006年03月13日 20:29
「404 Blog Not Found」の小飼弾さんが、この間から自身のブログで面白い議論を展開しています。3月9日付の「実名は振込口座?それとも振替口座?」か
「名声の口座」としての「実名」(1)【たけくまメモ】at 2006年03月12日 23:56
梅田望夫氏の「ウェブ進化論」を読みました。ここ数年間のネットを巡る変化がわかりやすく解説されていてオススメです。僕も会社の同僚に勧めておきました。3月13日には朝日新聞の全五段広告で本書が紹介されるそうです。僕自身としては、このように現在のネットの大変動をわ...
シリコンバレーと日本の溝【次世代情報都市みらいBlog】at 2006年03月11日 21:43
既にこのネタは匿名実名の是非ということでいうと結論は出ているんだけど僕のサムいネタはもう少し続く。匿名実名ってのは各人でメリデメ考えて選択しましょうというのがとりあえずの結論で、どっちを支持する人間も逆の選択をした人間が居心地の悪くなるようなことはする...
【匿名実名】デジタル・ディバイドの二つの境目【好むと好まざるとにかかわらず富士山とにゃんこ写真ブログ】at 2006年03月11日 19:32
だから、問題はそのペンネームの名声を実名、あるいは別のペンネームで援用できるかどうかということ。 実名の日米差って、文化的な背景もあるんじゃないのかな。 浅倉卓司のログ/ウェブリブログ少なくとも日本ではペンネームに「振り込まれた」名声をペンネームのまま「援....
芸名口座【404 Blog Not Found】at 2006年03月11日 10:32
 ペンネームを15年近く使っていて、おそらく実名よりペンネームのほうが広く知られているという場合はどうなんでしょうね?
実名の日米差って、文化的な背景もあるんじゃないのかな。【浅倉卓司のログ】at 2006年03月10日 21:38
実名は振込口座?それとも振替口座? 匿名性を槍玉に挙げた時点で完全なコミュニケーション拒否ですがな。 どうも、この人言われてることの内容を理解してないんだよなあ。 ネットコミュニティである程度慣れてくると陥ってしまう良くない傾向 というか思春期の率直な...
お騒がせ小飼さん【kokonalっつ_fUteiKi_niKKi in lolypoBlog】at 2006年03月09日 08:24
この記事へのコメント
小飼さんすみません、さきほどTB送ったんですが、こちらのブログを修正するたびにダブって送られてしまったようです。恐縮ですが、ひとつを除いて削除してくださいませ。
Posted by たけくま at 2006年03月12日 23:58
つか、たった一言ごめん言い過ぎたって言えば済むことじゃんよ。
Posted by kokona at 2006年03月10日 18:25
実名でブログやサイトを持って意味がある人というのは、やはり実社会においても名が既に知れている・社会的影響力のある人間か、或いは何かのきっかけがあればすぐにそうなり得る人です。

そういう方々は、実名と、そこに付いてくるステータスを有効利用して自分の言説に説得力を持たせたり反響を大きくすることは可能ですが(「利用」と送り手が意識的にやらなくても受け手の側で自然にそうなるし)、ただ人が同じことをやっても、メリットが少ないのにリスクだけ大きくなります。

だから、ネット上でのまともな議論・コミュニケーションのためには、HNを統一して使い続けるだけで一応十分だとは思いますが。

P.S.
ところで弾さん、「新書萌のハードカバー萎え」にTB送らせて頂いたのですが、目は通して頂けたでしょうか?弾さんに対しての質問もエントリー中にあったのですが。まぁ、既にご一読されててスルー、であれば別に構わないんですけど。
Posted by ncd108 at 2006年03月10日 18:04
本人のところに書くのだから「陰口」ではないじゃん。
※その人のいない所で、悪口を言うこと。また、その悪口。[大辞泉]

ブログをもっていない人が発言権がないというのならコメント欄を作らなければいい。
今回DANさんがやったように、自分のブログで他人のブログの感想を書いてトラックバックするのみにすれば、ブログをもたない「まだマシ以下」の人を切り捨てられますよ。
Posted by ゆん at 2006年03月10日 11:42
何をおっしゃろうが所詮、「匿名」の陰口じゃねーかってのはありますね。。
自身のブログやサイトも持たずに、人の記事にイチャモンつけてるだけっていう。
うーん、匿名でもブログ持ちの人はまだマシなんじゃないですかねえ。
Posted by syuu at 2006年03月10日 02:32
実名を名乗る勇気がありません。
心配しすぎかもしれませんが、
ボクには守るべき家族がいますので、
自由な発言が制限されてしまうのです。
Posted by はちゃあど at 2006年03月09日 21:53
【振替口座】
「郵便振替口座」の略。
三省堂提供「大辞林 第二版」より
郵便振替口座?
Posted by sima at 2006年03月09日 18:09
>どんなTBも受けて立つぜ!という表明なのですよ

いやw
その前に、自分の発言に責任持てよとw
(このwは失笑の意味ですwww
Posted by 呆れた at 2006年03月09日 11:58
弾さんがコメントよりもブログを持つことを推奨するのは別の理由だと記憶しています。

自分のブログについたコメントは自由に消すことが出来ますので、都合の悪い意見は消して無視をしてなにも無かったことにするという対応が可能なのです。
TBも消せますが、TB元の本文にエントリへのリンクや引用が示されていればTBが消されたことは一目瞭然です。
それを防ぐにはTBされた記事も消すという対応になり、もはや読者から見て何もなかったことにはならないので著者の信頼は失墜します。

よってフェアな議論をするならばTBのほうが優れている、というのが弾さんのスタンスだったはず。
ま、弾さんはそんなことをしませんがね。

どんなTBも受けて立つぜ!という表明なのですよ。
Posted by Youth at 2006年03月09日 11:54
そもそもコミュニケーションしに来てる人と議論しに来てる人を同一に扱ってることに腹を立てている人が大半かと。

馴れ合いがウザイならはっきりとそう書いてしまえばよいんじゃないの?
Posted by kokona at 2006年03月09日 09:36
追伸
「自分でBLOGをつくり、そこからトラックバックするかコメントからリンクをする。」
ということは、ブログコミュニティでは、ブログを開設していない人は発言権は無い、と?そこにコメント欄があっても?
ここでの話題を、自分のブログに持ち帰って議論する、という形になるのですか?
Posted by ぬっこ at 2006年03月09日 08:21
匿名だと実名では言えないことが言えるという面は否めませんが、単純にネットでのつながりを実生活でどうこうしたいと思わないから、という点もあるのでは。
会社での肩書きを、家庭生活で使わないし、趣味は趣味で仕事に活かすためにやっているのでもない。どこにいくにもすべてのしがらみをつれて歩こうとは思わない。

2ちゃんねるの「名無しさん」はまた別ですが、ネット上のペンネームでの活動はその程度のものなのではないですか?
仲間うちではニックネームで呼び合う、だけど、小学校のあだ名と大学時代のあだ名は違う。ネット上のペンネームは数あるあだ名の中のひとつ。
Posted by ぬっこ at 2006年03月09日 08:21