2006年06月13日 02:00 [Edit]

貧すれば鈍、鈍すれば廃刊

この話題を正面から取り上げたのは、漫画ではたけくま教授の「マンガ原稿料はなぜ安いのか?」、そして一般的な「売文」では本書ぐらいしか未だにないのはなぜだろう。

たけくまメモ: フリーにとって原稿料とは何か(2)
はっきり申しまして、俺は文章で飯を食べるようになってそろそろ四半世紀になりますが、いまだに「原稿料の相場」というものがよくわかりません。

この二つの他に、自分の原稿料に関する愚痴を超えて、業界全体を分析した作品は、あとは過去の筒井康隆のエッセイぐらいしか思いつかず、しかもそれは本一冊まるごと、ではなく他のエッセイと一緒にまとめられているので、この主題に関しては上記二冊ぐらいしか薦めようがない。この二冊は、有料原稿を執筆する人は必読だろう。


日垣さんとは今ではときどきお会いする間柄であるが、糧を得る手段として執筆にこれほど正面から取り組み、かつ実行している人を私は知らない。そして彼と話をする都度痛感するのは、「書く」ことだけを考えていては、「稼ぐ」ことは難しいという、ごく当たり前だけど当たり前すぎて書き手が見落とす、いや目をそらす事実だ。この手の本の極端な少なさも、それの強い裏付けとなっている。

なぜそれから目をそらすか、といえば、「書く」意欲の方が「稼ぐ」意欲よりもどうしても強く、それゆえ執筆業というのは常に買い手市場となる運命にあるからだ。この傾向は時代とともにどんどん強くなり、そしてWebとblogの到来により加速度がかかっている。

しかし、「買い手市場」という売文業の本質は、別にblogにはじまった事ではなく、そのこと自体は原稿料破壊の理由ではない。雑誌が売れなくなった事ですら、その根源的な理由ではないと思う。

出版業全体が、売り上げを増やすのではなくコストを削ることによる生き残りを計っていることこそ、その理由である。一言で言い切ってしまえば「貧すれば鈍」ということだ。

雑誌の売り上げ低迷 → 収益悪化
↑                        ↓
原稿料値下げ ← 原稿の品質低下

というスパイラルに陥っているのである。そしてこの「原稿の品質低下」というのは、同じライターによる手抜きと、原稿料破壊に応じるライターの登用という形で二重にかかっている。

そこには、売り上げ向上という他の業界ではごく当然に見られる対策の後は、あまり感じ取れない。

もちろん例外はあるし、そうした例外はきちんと「回っている」ようにも見える。しかし、多くの雑誌が、上のスパイラルにはまったまま抜け出せず、最後は廃刊となっている。特に電脳業界はこのスパイラルがきついようで、こないだはついに月刊ASCIIが休刊の運びとなったことが発表された。はぁ。

ただし、電脳業界にとって幸いなのは、雑誌の終焉が即情報流通の終焉とはなっておらず、むしろその役割がWebに移ったことによる「発展的解消」の意味合いもなきにしもあらずだ。1ページ1万円というのが「最終防衛ライン」で、それを切ると原稿料を値切ってでも存続させるのではなく、「潔く」休刊するようであるというのが一ライターとしての実感である。

このページ単価というのは、どうも電脳系の雑誌では執筆者やページ構成による区別はなくて、カラーでも白黒でも、インタビュー記事でも紹介記事でもある雑誌なら一律ページ単価 x ページ数というのが流儀なようだ。これは雑誌の多くが早くから執筆者MLなどを使っていて横のつながりも豊富な上、「専業ライター」があまり存在せず本業のかたわら執筆している故そうなったようである。ソースコードが多くてページ数が増えた時などはずいぶん楽に感じるし、インタビュー記事など実働時間が長い記事などはずいぶん苦しく感じるものだ。ただしインタビューそのものは、それ自身が報酬となりえるほど面白い、というか私にとってはそちらが「本賞」で原稿料は副賞という感じだ。

また、電脳雑誌の場合、むしろそこに執筆しているというのが明らかに本業における「権威向上」につながっており、書く動機としてはこれが一番大きそうだ。もしかして電脳雑誌の休刊ブームは、Pagerankやはてブといった、ネット上での権威付け機能しはじめたこととも関係しているかも知れない。

だから逆に最近の雑誌では、ネット上での格付けがむしろ執筆依頼を決めているようにも思える。今年の私の執筆原稿は、私が知る限りすべてが本blogの文章が依頼の元となっている。電脳雑誌以外の界隈をながめてみても、最近デビューしたライターはほとんどblog経由だ。

ある意味、今や出版社は「品質チェック済み」のライターからしか文章を仕入れないとも言える。これは出版社にとってだけではなく、作家にとってもよいことではないだろうか。作家としては、blogなどで充分肩ならしをしてからデビューできるわけで、デビューする頃には自分がどの程度の文章を、どの程度の分量書けるかということを知ってからデビューできるし、何より「フルタイム」に拘泥する必要がない。

業界の斜陽を横目に、日垣氏はかなりしっかりやっている。収入源も原稿料一辺倒でも印税一辺倒でもなく、原稿料、印税、メルマガ、そしてその他の4つが売り上げがほぼ拮抗していて、非常にバランスがいい。そんな彼が一番心がけているのは、「書く事」というより「書き続けること」、それも「読者のために書き続けること」だ。

自分の本を仕入れて販売している作家は彼ぐらいだし、彼のblogから直販される本は送料無料であり、しかも彼のサインが必ず付いてくる。彼のメルマガにはタイアップ商品が時々紹介され、それによる収益も無視できない金額のようであるが、しかし数あるアフィリエイトだらけのblogのような「品質より売り上げ」感はない程度に抑えられている。

なんというか、合州国のマイナーリーグや欧州のクラブチームのような経営なのだ。これはなにも日垣さんがマイナーリーガーというわけではない。プロであればマイナーだろうがメイジャーだろうが行って当然のことを淡々とやっているだけである。彼にとってはそういった地道な努力をせず、読者とコミュニケートしようとしない他のライターこそ不思議であり、実は私にも不思議である。

少なくともblogを開設してそこで自分の本を売るというのは、今や売文家としては基本中の基本だと思える。

それにしても「400字1000円以下」とは、これぞ悪魔の契約という奴ではないか。これは悪魔ばかりが悪いとは言えないだろう。「興味本位」で「魂を売った」方には問題はないのだろうか?

Dan the Part-Time Writer


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刺身(広告)のつま(原稿)【佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン】at 2006年06月15日 18:17
Actiblogというブログサービスがある。AFP BB Newsの記事や写真を...
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http://d.hatena.ne.jp/rioysd/20060611 http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/http.html http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_e6ae.html http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50529972.html 日本ジャーナリスト専門学校の授業の教科書
備忘録【石猿日記】at 2006年06月13日 10:20
この記事へのコメント
原稿料って安いんだな・・・
ブログやっても米つかなく情報集まらないし
アフィつけても収入ないし、カウンターばかりが
くるくる回ってやる気なくなった。(俺)

良い物造る人より売れる人が強いらしいよ。
Posted by yuhjk at 2006年06月14日 14:17
貧すれば鈍、富めば豚、
なにごとも中庸が肝要ということでしょうか
Posted by ゲロリーノ at 2006年06月13日 12:11
貧すれば鈍、富すれば豚
なんてね。
Posted by ダジャレ at 2006年06月13日 12:03
では、絵本作家の収入はどうだろう?
http://ehonsakka.exblog.jp/2395640
http://ehonsakka.exblog.jp/2119846/
何処も同じ秋の夕暮れ
Posted by sionoiri at 2006年06月13日 12:03
原稿の品質低下スパイラルは「原稿の品質低下」より「原稿料値下げ」が先のような気がします。

雑誌の売り上げ低迷 → 収益悪化
↑ ↓
原稿の品質低下 ← 原稿料値下げ
Posted by 海賊たろ at 2006年06月13日 11:18
フリーマガジン、フリーペーパーの市場は急成長。発行部数も60億部と有料紙を上回りました
http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/2005/04/15/news_day/n5.html
Posted by ふ at 2006年06月13日 08:12
s/対策の後/対策の跡/ (おそらく)

思うところの多いエントリでした。いつもありがとうございます。
Posted by hyuki at 2006年06月13日 04:10
iTunes,テキストベースの雑誌を購読する場にも
http://zen.seesaa.net/article/18984793.html

iTMSで、PDF 形式の音楽誌「FADER」の無料配布が始まっています。
http://phobos.apple.com/WebObjects/MZStore.woa/wa/viewPodcast?id=159159073

O’ReillyのMAKE magazineのPDF版もすでに配布されています。
http://phobos.apple.com/WebObjects/MZStore.woa/wa/viewPodcast?id=74069835
Posted by nus at 2006年06月13日 03:43