2006年09月21日 19:00 [Edit]

喰われる前に - 書評 - 下流喰い

私もそう考えていたので、実態を知るべく本書を入手した。

H-Yamaguchi.net: 問題の本質は、金利とか生保とかではないと思う
解決すべきなのは、彼らがもうかっていることとかではなく、困っている人たち、苦しんでいる人たちがいるということだ。

消費者金融の今を知りたい人は、すぐに手に入れるべき本だ。

残念なのは、消費者金融で身を持ち崩しそうな「多重債務者」予備軍は、本書を手にしないだろう、ということ。


下流喰い」は大変バランスが取れた本である。上限金利をめぐる最新の状況や街角における街金の現状といった虫瞰的な視野と、業界全体の沿革や他の金融業との関連などの鳥瞰的な視野が適度に配合されている。須田さんはTVにもよく出ていて、私も何度かご一緒したことがあるのだが、TVでのイメージ、「コワモテの裏事情通」とは異なり、大変に誠実で腰の低い方である。須田像は本書の方が「本物」に近い。

ほんと、口座開設のティッシュやタオルの代わりに本書を配ったらいいと思うのだが、税込み735円を金利で捻出するとなると、現在の定期預金金利は、上がったとはいえ0.3%程度。一年で「元を取ろう」と思うと245,000円分に相当する。しかしグレー金利の上限、29.2%で計算すると、わずか2,517円。空疎な「ご利用は計画的に」というCMをじゃかすか流すより、初めての客には本書を渡すことを義務づけた方がよっぽど効果が高いのではないか。

言い換える。消費者金融の問題とは、少なくない数の人々が、消費者金融からの借入れを返済できず苦境に陥っていること、及び、消費者金融会社が度を越した取立てを行い、そのために債務者の生活基盤が破壊されたり、債務者が自殺に至ってしまったりといった状況が生じていることだ。

なぜそうなのかというヒントが、本書にも示されている。

コミュニティ金融の衰退、である。

実は小額の金を借りる手段はサラ金だけではない。友人も質屋も信用金庫もあったのである。いや、今だってある。しかし多重債務者で、これらのコミュニティ金融からはじめて、サラ金に「落ちて行った」という人はどれくらいいるのだろう。最初からサラ金ではなかったのだろうか。

おそらくこれらの「優しい金融」が減った理由は二つある。まず一つはリテラシーの欠如。サラ金はTVをつければCMをやっているし、街を歩けばティッシュをくれる。思い立てばそこに「円むすび」も「むじんくん」もある。要はみんな知っている。しかし今時最寄りの質屋を知っている人はどれくらいいるのだろう。

次に、逆説的にはなるが、借金に対する罪悪感がむしろ多重債務者予備軍をサラ金に追いやっている懸念がある。「借金は悪」と子どもの頃から耳たこになるぐらい聞かされれば、相談だってしにくくなる。身内に無心を頼めば説教される。銀行に融資を頼めば山のような書類を書かされる。それなら何も言わずに黙ってかしてくれる方がいいではないか。

私自身はサラ金から借りたことはまだない。しかし借金ならある。翻訳から電網土方にメインの仕事を移す際には、サーバーを買う費用をお得意さんから借りたし、最初のマンションは住宅ローンを組んで買った。借金がなければ今の自分はありえないというのは確かだ。借金なきところに成金はありえない。

しかし、コミュニティ金融から借りたこともまたない。こちらに関しては「単に運がよかった」だけなのだとも思う。借金なしでは乗り切れない「急な入り用」がなかったのだから。しかしそれがあった時に、それを利用したかと思うとそれもまた疑問である。泣きついて用立てしてくれるような親戚はいない、というよりそれをやって焦げ付かせて信用を失った親戚がすでにいたし、最寄りの質屋がどこにあるかも知らない。そして私が借金をした当時、私は信金の存在を知らないも同然だったし、当時の信金が私の生業を見て融資をしてくれたとも思えない。

結局、一番借り易いところから借りていたのではないか。

そう考えて行けば、消費者金融の問題は誰にとっても人ごとではない。合州国の個人破産の件数を見て、日本はまだまだましだと思う人もいるかと思うが、それは一方で日本ではそれだけ破産に対する心理障壁が高いことをも示唆している。借金は悪ではない。借金が何たるかを知らぬことが悪なのだ。

現況の関する卓越したリポートである本書も、提言に関しては月並みではある。セイフティネットの必要性と、マスメディアの糾弾で本書は結ばれている。それだけでは、明らかに足りない。その足りない部分を「用立て」することは、我々全員にとっての宿題に思われる。

一つ思いつきがある。この現況を変える手段としてネットは何ができるか。Entryを改めて考察したい。

Dan the (Debt|Credit)or

追記:

校正日記
真理障壁→心理障壁

修正しました。しかし心理障壁は真理障壁でもあるなあ。

追記[2006.10.06]:

[を] 下流喰い?消費者金融の実態
消費者金融の利用者数は2004年の一年間で2000万人突破。 平均借入額は101万円。

貸し出し残高20兆2000億。平均金利と調達金利の差が20%として利息が4兆4000億。たしかにこれはやめられないわ...


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下流喰い―消費者金融の実態 作者: 須田慎一郎 出版社/メーカー: 筑摩書房 メディア: 新書 金融ジャーナリスト須田慎一郎による消費者金融のルポ。この人の本ははじめてだが、名前は神足裕司がよく紙面でスダッチって書いてる人だよね。 知り合いが相次いで感想を書いていた
[読書] 須田慎一郎『下流喰い―消費者金融の実態』【ogijunのあとで書く日記】at 2006年10月31日 12:30
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404 Blog Not Found:下流喰いに喰われる前に 真理障壁→心理障壁
2006-09-21【校正日記】at 2006年09月21日 21:03
この記事へのコメント
ちょっと風俗関係の運営に携わったことがあるのではっきりと断言できるが
風俗は一般的にそゆとこのすくつです。

極めて理論的ではない思考体系の人が集まってきます。超田舎なので社長や運営陣はそれなりにちゃんと別の社会ステータスがある人々が行っているのでなかなか切れ者が多いのですが

働いている人は多重債務をしてしまって、なぜだか風俗で仕事をしてしまう人が多いのが現状です。メディアリテラシー云々の前にまず勘定できない人が多い。

たとえば稼いだ金を全部パチンコに使ってしまったり
必要の無い高いブランド物のかばんを月代わりで買ってしまったり

そゆ人たちはまず友人なんていない。
彼ら彼女らは縁すら食いつぶしてしまってもう立ち回りができない。

縁もある種のステータスですが、縁も無くなった人たちがたどり着くところです。
Posted by n at 2008年03月28日 00:41
質に出せるようなもの持ってないもんなぁ…。PC類は全部自作だし。

たぶん、いまの日本の“コミュニティ金融”は
「ブックオフ」
だと思いますよ。

マイクロファイナンス的な事業を、誰か起業したらいいのに。おもしろいよね。
Posted by Bar at 2006年09月24日 23:54
コミュニティー金融の崩壊とはつまり都市化した社会で地域コミュニティーが崩壊してるってことですね。人と人のつながりが希薄化してる証拠のような気がします。かといってネットにおけるコミュニティーでは、気軽に送金できないからコミュニティー金融の土壌たり得ない。Google Checkoutのような送金メソッドが確立すれば少しは問題解決になるのでしょうか。
Posted by takuya at 2006年09月23日 03:35
合衆国のしゅうの字が違います
Posted by リンカーン at 2006年09月22日 23:14
北斗柄さん、
ありがとうございます。
誤字の多さもある種の心理障壁かも。
でもちゃんとそれが誤字だというのがわかるのは真理障壁が打破されている証拠かも。
Dan the Typo Generator
Posted by at 2006年09月21日 21:21
s/破産に対する真理障壁/破産に対する心理障壁/;
Posted by 北斗柄 at 2006年09月21日 20:31