2006年10月03日 20:45 [Edit]

仕事をできる人作れる人

実は仕事ができる人より、もう「一枚上」の人がいる。

レジデント初期研修用資料: 凄いのにそう見えない人
本当に仕事ができる人というのは、一見すると何も仕事をしていないように見えるのかもしれない。

「仕事を作れる」人だ。


「人の仕事を増やしやがって」という意味の「作る」ではない。仕事そのものを「発見」し「整理」し、それを「業務化」する人のことである。

何か特別な資格を持っているとか、ものすごく大きなプロジェクトを成功させたとか、そういう武勇伝みたいなものはなんにも無くて、淡々と医療事務をこなすだけの人。

でもすごい。仕事が快適。

なぜあなたの仕事が快適かといえば、それはあなたが見つけて整理していなかったことを、彼が「仕事化」したからだ。あなたはここでは「何々をこれこれの方法でいつまでに完了せよ」などと彼にはいわなかったはずだ。「何々」「これこれ」「いつまで」といった「変数」は、彼が決めていたのだ。

彼は最終的に「業務化」されたものを「実行」していたかも知れないけど、重要なのは「仕事をした」ことではなく「仕事にした」ことだ。曖昧模糊な、客たるあなたの要求を、具体的な作業に分解し、それを再構築して業務化する。

実はこれ、まさしくプログラマーが日々行っていることだ。違うのは、最終的な「実行」を自分自身ではなく電脳にやらせることだけ。

「仕事を作る」作業は、要求が曖昧であればあるほど、また「実行者」の「再構築能力」が低ければ低いほど大変になる。プログラマーが大変なのは、実行者が「再構築能力」ゼロの電脳ということもある。最も能力の低い実行者に実行できるまで「仕事」を作り込まなければならないのだから大変である。

しかも、これだけ難しい「仕事作り」を終えても、いやだからこそその「仕事」はなるべく「透明」でなくてはならない。大事なのは仕事を片付ける(Getting your job done)であって、仕事に立ちふさがること(Getting in your way)ではないのだから。

ああ」したいとか「こう」したいとか、医療者側があいまいな概念を放り投げても、上手な事務方は、それを行政に伝わるように言語化してしまう。あんまりスムーズだから、医事なんかいないように仕事がすすむ。

よいプログラムも、またしかり。よいプログラムにとって、いかに目立たないことが大事かは、上記の「Unixという考えかた」が教えてくれる。本書の原題は"The Unix Phiosophy"。「哲学書」だけあって、プログラマーというより、プログラマーに仕事を頼む立場にある人たちに読んで欲しい本だ。

MacやWindowsに勝るとも劣らないGUI環境を持つ今でこそ事情は異なるが、かつてUnixのプログラムは、「静かな」プログラムの代表だった。実行が上手く行った時、Unixのコマンドは「実行は無事完了しました」なんてことは一言も言わない。黙ってシェルに実行権を戻すだけだ。基本的に「何かを言う」のは問題が起きたときだけ。それも問題に関しては「標準エラー出力」(STDERR)というチャンネルでそれを伝えるのがしきたりで、通常使う「標準出力」(STDOUT)にそれを出力するのはマナー違反だ。端末から見ているとこのチャンネルは双方とも画面に表示されてしまうのでそれがわかりにくいが、command > std.outという形で、出力をstd.outという名前のファイルに出力する時にはエラーだけが画面に表示され、実行結果はstd.outに出力されるのでそうとわかる。

大きな何でもできるプログラムで何でも済ませるのではなく、小さな、しかしその小さな仕事に関しては「黙ってきちんとこなす」プログラムを連携させて仕事を片付けるのがUnix流である。

普段は黙っていること。連携を常に考えること。そして問題が起こった場合にそれを報告する手段を、仕事の成果を伝える手段とは別に用意しておくこと。これらはプログラムに限らず全ての業務において応用が利く「作法」でもある。

しかし、Gancarzの読みが浅かったところが一つだけある。

小さなプログラムを連携させて大きな仕事を片付けることが出来る人が限られている、ということ。

我々が欲していることは、仕事を片付けることであって、プログラムを連携させるというのはその手段に過ぎない。そしてどのプログラムをどう連携させるという仕事は、上で述べたとおり、実は仕事の中でもっとも力量が問われる「仕事」なのだ。

例えば、Webページを見るのに

get http://blog.livedoor.jp/dankogai/ | viewer

というコマンドをいちいち発行しなければならないのであったら、Webはこんなに普及しなかっただろう。Webブラウザという「大きな」プログラムがあるからこそ、フツーの人でも使えるメディアとなったのだ。

もちろん、Webブラウザーは「大きく」ても「それだけで仕事が片付く」タイプのプログラムとも違う。ヘルパーアプリケーション、プラグインといった「小さなプログラム」に仕事を頼むこともままあるし、たとえ図体は大きくとも、それは数多のモジュールの組み合わせで出来ている。

そして全てのブラウザーの背後には、Webサーバーという別の「小さなプログラムを従えた大きなプログラム」が控えている。

medtoolzさんの言うところの「凄いのにそう見えない人」というのは、Webサーバーに似た所がある。ユーザーに見えるのはあくまでブラウザー。そしてユーザーは今ブラウザーに表示されているコンテンツが、Webサーバー上のファイルなのかそれともCGIなど、別の「小さな」プログラムに生成されたものなのを気にする必要はない。必要なのは基本的にURIだけだ。いや、実際はもっときめ細かい「指示」がサーバーに飛ぶのだけど、実はそれもブラウザーがやってくれるので、ユーザーが気にする必要はない。

ベテランの医事課のスタッフが重要なのは確かだ。しかしそれもやはり医師あってのこと、看護師あってのことでもある。どんなに優れたWebサーバーでも、ブラウザーなしには力を発揮できないのに似て。

そして、仕事を最終的に評価するのはユーザー。事務方の場合、ユーザーは現場職人なので、お互い「適当にやっておいて下さい」でも通じる。しかし医療全体ともなると、ユーザーは患者。患者が「適当にやっておいて下さい」と言わない限り、医者としても適当にやっておく訳には行かないだろう。

はてブを見てもわかるとおり、この国においては「凄いのにそう見えない人」の評価は決して低くない。常日頃そういう人々の世話になっている私としても、それをうれしく思う。

しかしそれは「凄く見えてやっぱり凄い人」が不要であることを全く意味しないのだ。凄く見えなくてはならない場所というのは確かにあるのだ。医師というのはその代表中の代表だろう。なにしろユーザーは命を預けにくるのだから。

そういう立場にあるあなたは、だから自分を凄く見せることの重要性を理解しておいて欲しい。それこそが、凄いのにそう見えない人に報いる最良の仕事なのではないだろうか。

Dan the (Client|Server) of Yours

追記:

はてなブックマーク - レジデント初期研修用資料: 凄いのにそう見えない人
10万人のDanさん->六本木ヒルズは自重で崩壊するだろう…

8000トンぐらいで崩壊するほどやわなのだろうか>森ビル。いや、そういう話じゃないって?


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この記事へのコメント
774さん、
どちらも使います。が、the wayの場合には"of something"と、
具体的に何に対してが続くことがinferされています。
というわけで、もっと強い"your"に換えてみました。こちらの方が私好み。
Dan the Man on His Way
Posted by at 2006年10月05日 01:49
> 仕事に立ちふさがること(Getting in a way)
Getting in the way ではない?
Posted by 774 at 2006年10月05日 01:20
支持?さん
指示されたとおり直しました。
皆様の支持のおかげでTypoがあっという魔に直ります:)
Dan the Typo Generator
Posted by at 2006年10月04日 14:56
>8000トンぐらいで崩壊するほど
蔵書が……
Posted by 図書館にしてしまえばよい at 2006年10月04日 11:22
問題は「凄くないのに凄く見える人」だな。
Posted by 喇叭 at 2006年10月04日 10:27
見えない凄い人=Web サーバーというのは分かりやすいたとえですね。
知っている人ならサーバーを捨てるなんてありえないのに、コンピューター
を知らない人なら、もしかしたら「すみで埃をかぶっている、あの大きな奴」
から捨てろと言い出すかもしれないという…。

「UNIX という考えかた」は、何回読んだか分からないぐらい。
ベタな心理学の本よりも、よっぽど腑に落ちる内容ですね。
Posted by medtoolz at 2006年10月04日 08:18
指示?
Posted by 支持? at 2006年10月04日 07:22
要するにマネージャーはPeoplewareを読めと。
いや、そうじゃないか、、、
Posted by hama at 2006年10月04日 01:42
Danさんのいう仕事を「作れる人」っていうのは、最終的には無駄な仕事を減らして「仕事を減らせる人」になるんだけどなぁ……
Posted by shy_ad at 2006年10月03日 23:02
仕事を作れる人より上手なのは、今度は「仕事を減らせる人」
とかそういうオチになりそうな予感。
Posted by @ at 2006年10月03日 22:09