2006年11月15日 19:00 [Edit]

支出税(expenditure tax)とは何か

というわけで、支出税について考察する。

404 Blog Not Found:ワーキングプア
「支出税(expenditure tax)」の導入と最低賃金(minimum wage)の増額を提案しているが、後者はとにかく前者はあまりに現実離れしていている。どう現実離れしているかは別entryに書く予定だが、書生論といえば書生論ではある。

支出税(expenditure tax)とは

まず支出税とは何かだが、これは読んで字のごとく、「支出した額に応じて税額が決まる税」であり、直接税である。直接税であるところは所得税(income tax)と同じであり、支出に対してかかるという点では消費税(sales tax)と同じである。

消費税と同じく出る金に対する課税なので、所得税のいわゆる「クロヨン」問題といった公正の問題もクリアーされているし、所得税と同じように累進課税を適用すれば、逆進性の問題も回避できる。これ以上フェアなフローに対する課税というのはないだろう。ただ、面白いことに、門倉氏は一番肝心な「累進課税」という言葉を書き落としている。あまりに自明なので書くまでもないと思ってしまったのだろうか?


「ワーキングプア」p.189 より。弾追記
所得税消費税支出税弾のメモ
税の種類直接税間接税直接税
利点 すでに慣れ親しんだ税制。逆進性の問題をクリア 高齢化社会に対応できる。公正の問題をクリア 公正の問題、逆進性の問題、高齢化の問題をクリア 高齢化社会の原資として、フロー課税が適切か?
欠点 公正の問題、高齢化社会ではサラリーマンに過剰な負担。 逆進性の問題 実行可能性の問題(ただし最近では改善されつつある) そこまで政府を信頼できるか?

その実装

「しかし、これでは、何を買ったかまで政府に教えなければならないの?」という心配は実は無用で、この点は門倉氏もきちんと考えている。

p.188
消費額は、一定期間(通常は一年)の所得から貯蓄を控除することによって間接的に求める。

この「間接的に」というのがポイントで、これであれば「いくら使ったか」は政府にバレても「何に使ったか」ということは政府にはバレない。このやり方のすごいところは、地下経済まで課税対象にできることにある。買ったのがソープ(石けん)だろうがソープ嬢だろうが、それは支出なのだから 確実に課税の対象となる。地下経済を専門の一つとする門倉氏らしいアイディアである。

その問題

少なくとも三つ。フローのストック化、購入決断の複雑化、そして政府に対する信頼である。

フローのストック化

まず一つ目から。この税制の元では、最も確実な節税法は貯蓄である。消費税にもこれと同じ効果があるが、支出税ではそれがさらに顕著となる。そしてその貯蓄にはいわゆる貯金だけではなく、資産の購入や借金の利息および元本の返済が含まれる。税制に後押しされたバブルの原因とはならないか。

購入決断の複雑化

「購入決断の複雑化」とは、何かを買う前に考えることが増えるということである。例えば10万円のパソコンを買っても、税率は文字通り一年を総決算してみないと決まらないので、それに対する売上税が1万円(10%)なのか2万円(20%)なのかわからない。何かを買うという行為は、たいていの人にとっては何かを売る(自分の労働力も含めて)という行為よりも遥かに多く行われる行為なので、これだと心理負担は消費税よりもさらに大きくなり、前述の問題と合わせるとさらに消費を冷やすことになりかねない。

政府への信頼

そして何より支出税を「書生論」っぽくしているのが、この「政府への信頼」、あるいはその欠如である。この税制を導入するには、納税者の政府に対する絶大な信頼が不可欠である。なにしろいくら稼いだかだけではなくいくら貯蓄したかまで政府に知らせなければならないのだ。実は今でも高額納税者は、ラフではあるけれども資産のうちわけを税務署に知らせなければならないのだが、支出税が導入されたら全員がこれを行うのである。

そこまで親方日の丸に腹を割って自分を明かしてもいいという納税者がどれだけいるのだろうか?

とりあえずの結論

そういうわけで、私としては支出税の理念に共感しつつも、支出税には賛成しかねる。おそらく導入の難しさは、人頭税にまさるとも劣らないだろう。また、課税ベースが一挙に広がることによる税務署の事務負担も見逃せない。所得税の徴税を各会社にアウトソースしているほど「ものぐさ」な日本にはある意味もっともなじまなくかつ受け入れ難い税制といえる。以前私が提示した相続税100%の方がはるかに敷居は低いだろう(それでも反対は根強いが)。

むしろ、これから日本が強化すべきは、資産課税ではないだろうか。その中でももっとも導入コストが低くかつ抵抗が少なそうなのが相続税の課税強化である。いきなり100%は無理でもまずこれに手をつけるべきではないだろうか。

とはいえ、この支出税、フェアという点ではこの上ない税制であり、それ以外の美点も多い。「日本では無理ぽ」と思いつつ、どこかの導入事例激ヴォンヌというのが偽らざる心境だ。

政府への信頼をクリアーされている北欧などでは案外すんなり導入されるかも知れない。

Dan the Skeptical Taxpayer


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大和書房の三輪様より献本御礼。 ワーキングプアは自己責任か 門倉貴史 門倉貴史の本はすでに数多く書評してきたが、献本を受けたのは初めてのはず。
門倉onベーシック・インカム - 書評 - ワーキングプアは自己責任か【404 Blog Not Found】at 2008年03月12日 22:51
この記事へのコメント
そんな複雑なことをしなくても、消費税とベーシックインカムを組み合わせると、実質的には累進消費税になりますよ。

あと所得税は、借金で贅沢をして結局破産してしまう人には課税をしないという面がありますが、消費税だと課税されます。ま、払うのは、実質的(概念的?)には貸した方ですが。
Posted by ポスト小泉チルドレン at 2008年12月18日 00:45
ふざけるな。
相続税は都市部住民の家をとる制度だ。
国家が家庭に踏み込むべきではない。
むしろ相続税は廃止すべき。

だれもが公平に納める消費税こそ思い切り増税すべき。
Posted by 純一 at 2007年04月14日 08:00
物(商品、資産)の流通に税金を掛けるという点で
消費税、贈与税、相続税は同じですよね。
流通に税を掛けるか、所有に税を掛けるかが基本的
問題です。

Posted by もういっちょ at 2006年11月18日 12:56
Posted by コピペちゃん at 2006年11月19日 10:57
贈与税に関してはどうですか?
相続というのは死後贈与です。
寄付も贈与ですね。

Posted by う〜ん! at 2006年11月18日 12:42
Posted by コピペちゃん at 2006年11月19日 10:57
消費を冷え込ませないには、支出税より貯蓄税のほうがいいんじゃないでしょうか。それに所得税がサラリーマンばかりに負担というのは違うような気がします。所得税の年金控除を縮小すればもっと老人に課税できます。
支出税は結局所得の捕捉率が上がるわけではないので支出税は黒ヨン問題の解決にはならない気がします。国税庁の事務負担も全銀行口座・株債権に納税者番号つければ解決するはず。前月とか前年と比べて貯蓄が増えた額にあわせて課税すれば良いはず。
Posted by (  ゚Д゚)⊃旦 at 2006年11月18日 16:06
所得がなくて貯蓄食い潰して生活している人には貯蓄控除のしようもない地獄のような税かも。貯蓄は所得のストック化だが、所得で稼いだときはたんまり所得税を取られ、いざ貯蓄を食い潰すとなると支出税を目一杯取られて往復ビンタ。高齢者いじめか?
Posted by 佐藤秀 at 2006年11月15日 23:01