2006年12月18日 23:00 [Edit]

包丁には銃刀法、ではソフトウェアには?

確かにWinnyを包丁や自動車にたとえるのは間違っている。

それが価値中立的かどうかだからではない。包丁に対する銃刀法に相当する法が、ソフトウェアに対してはおよそ電子計算機損壊等業務妨害罪を除けば存在しないからだ。


元検弁護士のつぶやき: 高性能車とウィニー
朝日の社説は「そんな理屈が通らないのは常識だと思っていたが、」と言っていますが、たしかに高性能車の提供が速度違反の幇助に当たらないことは常識と言っていいです。
しかし、ウィニーの公開が著作権法違反幇助に当たらないというのは起訴当時においても判決時においても常識とは言えません。

それ以前に、包丁は銃刀法で、自動車は道路交通法でそれぞれ適法とされるために満たしていなければならない諸元が定められている。100km/以上出る車は適法でも、ブレーキが壊れた車は違法である。私がかつて乗っていた初代Honda Civicは50ml/h(80km/h)近辺になると、速度計の針が振り子運動するという代物だったが、これは中古車にやさしい合州国においては適法でも、日本では完全に違法だったはずである。

要は、どんなものでも作るのは基本的に自由だが、特定のものに制限をかけるためには、そのための法をきちんと用意せよ、ということである。だから私は銃刀法で刃物を制限することも、道路交通法で自動車を制限することにも賛成なのである。

しかし、著作権法においては、道具を作成することそのものを禁じる条項はどこをどう見ても存在しない。

私がWinny地裁判決を支持できない理由は、その一点なのだ。

Winnyで違法ダウンロードするのも「ソフトウェアという道具の誤った使い方」なら、それを著作権法違反幇助に問うのもまた「法という道具の誤った使い方」なのではないだろうか。

よしんば著作権法違反幇助が、金子氏を処するのに正しい法律だったとしても、氷室裁判長は「少なくともこの刃では金子氏は切れない」と認定している。

Winny裁判、罰金刑は重いか?軽いか?--自己矛盾を抱えた判決 - CNET Japan
ところが判決理由をここまで朗読してきた氷室裁判長は、ここで突然語調を思い切り強めた。そうして、次のように言ったのである。「ただし、Winnyによって著作権侵害の蔓延を積極的に企図したとまでは、認められない」

容疑が「著作権侵害幇助」であるのであれば、この時点で無罪でなければおかしい。「積極的に企図」していないのにどうやって幇助できるというのだろうか。これがまだ検察側の主張のとおり、「金子氏はWinnyによって著作権侵害の蔓延を積極的に企図した」と認定したのであれば、裁判そのものの正統性はとにかく、判決に関する整合性は保たれる。

しかし、有罪である。率直に言って、石田衣良の「サイレントマジョリティー」を見た時のような唐突さを覚える。「法律では、金子氏は罪は問えないのだが、サイレントマジョリティーの声を反映させて有罪」というわけである。もっとも「サイレントマジョリティー」という言葉は判決論旨に書きようがないので、

asahi.com:「ウィニー」裁判、判決要旨?-?社会
結局、外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、提供する際の主観的態様によると解するべきである。

としているわけだ。しかし作った本人でさえ、それを作った際の「主観的態様」がどのようであるか理解しているとは言い難いのに、判事にはそれがわかるのだろうか。

判事としても、「主観的態様」で道具の制作者を裁くのは本意ではないだろう。銃刀法は何が銃で何が刀かを客観的に定義している。少なくともそれが包丁か刀かは、判事ではなく法が定めている。

高木浩光@自宅の日記 - 「不 当 判 決」 村井証人証言は僕ら技術者を幸せにしたか
ここで、一般に、次の2つの司法判断を想定してみる。
  1. 違法な利用目的以外に利用価値のない技術(違法目的以外の利用には他の十分な技術が存在する)について、開発者が犯罪幇助の罪で処罰される。
  2. 有意義で価値中立的な技術について、開発者が犯罪幇助の罪で処罰される。社会における現実の利用状況に対する開発者の認識によって。
どちらが技術者にとって不安が大きいか。

今回のケースは、まさにb.であり、そして高木氏も指摘しているように、そちらの方が開発者一般に対する影響はずっと大きいのである。ずっと大きいからこそ、価値中立的であっても危険な技術には、銃刀法のような特別な法を用意し、対象をなるべく客観的に限定することで対処してきたのではないか。

このような状況は、単に被告である金子氏や原告(正確にはその代理人)である検察のみならず、「主観的様態」を裁かねばならぬ判事にも、そしていつ自らの「主観的様態」を裁かれる羽目になるかもしれない開発者にも不安を与え続ける。

もしソフトウェアが刃物のように危険ならば、それはやはり銃刀法のような特別法を用意してその枠内で裁くべきなのではないか。それがない以上、罪刑法定主義に基づけば金子氏は無罪とするしかないのではないか。

Dan the Codesmith


この記事へのトラックバックURL

この記事へのトラックバック
「日本クオリティ」とは、出る杭を打つ事そのものではなく、出る杭を打つものが絶対に打たれないことなのではないだろうか。
出る杭を打つものは打たれない【404 Blog Not Found】at 2006年12月19日 20:25
とりあえず弾さんのところにトラックバック。 んでもって幇助をgoo辞書で引いてみる。 ほうじょ はう― 1 【▼幇助】 (名)スル (1)手助けをす ...
Winnyに関するあれこれの続き【('A`)ウェーblog】at 2006年12月19日 17:34
この記事へのコメント
結局、nyを使った匿名での告発を防ぎたいだけなんじゃないんですか?

http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061226k0000m040135000c.html

> 発信者情報:同意なしで開示へ ネット被害で業界が新指針
 インターネット上のプライバシー侵害や名誉棄損について総務省と業界団体は、情報を書き込んだ発信者の同意がなくても被害者に発信者の氏名や住所などを開示する方針を固めた。
Posted by 脳頭 at 2006年12月29日 04:33
もう新著作権法の条文とかをwiki上の共同作業でつくって、
関係者と議論して法律を通していく、そういう時代なんじゃ
ないかって思う。 誰かやりません?
Posted by shousiminjp at 2006年12月20日 14:00
>判決内容は、ソフトウェア開発全般に及ぶような内容では無い

この判決の怖いところは、Dan氏が述べているように、「Winnyによって著作権侵害の蔓延を積極的に企図したとまでは、認められない」と言っているのに、有罪としたところ。これじゃー「幇助の無限拡大」が起きてしまう。「犯罪行為が容易になれば幇助」なんだから。
コンピュータを発明した人なんかも、著作権法違反の幇助犯になるのかな。ワープロソフトを作った人も、誰かがそれで脅迫文を作れば、脅迫の幇助犯かな。ファーストフードで飯を食った人が、その後殺人を犯せば、ファーストフード店の従業員や本部社員は、殺人の幇助犯かな。

「判決内容は、社会生活全般に及ぶ」と言った方が良いような。
Posted by 根拠のない断言が多いですが at 2006年12月20日 12:50
例えば、目薬で痺れさせて強姦する事件が渋谷で流行っていたとする。
そういう事情を「知っていて」、渋谷で(その成分を含む)目薬をモニターとして不特定多数に配る、なんて事を良識がある人間がするのだろうか。場所を変えるなり時期を変えるなり、の配慮が常識的に求められるあって、、、。

ところで、判決内容は、ソフトウェア開発全般に及ぶような内容では無いと思いますが、そう理解できない人も多いようです。こんなんで裁判員制度を本当にやるんですかね? 
Posted by 刑法リテラシー無きネット言論 at 2006年12月20日 05:53
 銃や刀は小さな子供でさえ大人を殺すことを可能にする。
 つまり、他の道具とは圧倒的に「力」の大きさが違う。
…というのが根本の発想だと思います。でも、そういう理屈抜きに定義と制限を与えたのが銃刀法だと思っています。道具の(違法行為を可能にする)力の差なんて明確な指標はないですが、そんな論争をしてる間にも違法行為は行われるので、そこは割り切っているのではと。(金子さんへの判決は、納得行かない面もありますが、やはり割り切りがあったのでしょう。『空気』のせいなのか、『空気』のせいに見せかけているのかはわかりませんが)
 で、問題なのは、「(違法行為を容易にする)強力なソフトウェア」を客観的に定義できるか、その定義に当てはまるモノの開発などを制限してよいのか、ということですね。(具体的な機能に関するブラックリストってのもなぁ…)
Posted by Tets at 2006年12月20日 03:18
金子被告は日頃から著作権法をぶっ壊してやる的な発言をしていた。
ここがポイント。
Winny を作った事が問題なのではなく、Winny による違法行為の蔓延を容認(暗黙に推奨)していたのが問題。
効果ないのわかっていても、「著作権違反だめですよー」とか発言していたら有罪にはならなかったでしょう。
Posted by yt at 2006年12月19日 23:32
京都地裁は判決で「技術を提供すること一般が犯罪行為になりかねないような無限定な幇助犯の成立範囲の拡大は妥当でない」と言っていて、刑法62条の文章だけだと「幇助の無限拡大」の危険があるので、法解釈で歯止めをかけないといけないといっている訳だな。でも、京都地裁の出した基準は、抽象的過ぎて、使えそうにないけどね。
それなら、法律で、「こういう場合は幇助になる」「こういう場合は幇助にならない」と石や傘や紐の場合について、いちいち決めるのも、ありだと思いますがね。
Posted by 根拠のない断言が多いですが at 2006年12月19日 17:58
石や傘や紐でも人を殺す凶器に使えますよね?
犯罪に使う道具毎に取り締まる法律を作りますか?
それじゃ面倒臭いですよね

刑法第62条に「正犯を幇助した者は、従犯とする。」と書くだけじゃ罪刑法定主義の原則に反しますか?

Posted by なんだかなぁ at 2006年12月19日 15:23
ソフトで人は直接的には死なないしねえ
Posted by 少 at 2006年12月19日 13:48
中立的技術が幇助となる基準をどうするかだが、
「違法な使われ方を認識し、それを容認した」という基準だと、自動車やコピー機(ゼロックス)、包丁なんかも全て幇助になってしまう。
「違法な使われ方が【蔓延】していることを認識し、それを容認した」という基準だと、自動車製造は、スピード違反や駐車違反の幇助になってしまう。
結局、京都地裁の判決は、良い判断基準を示すのに失敗した訳だ。
一方、検事さん(元を含む)は、「国民は全員犯罪者。起訴しないのは検察のお情け。」という世界の実現に日々努力しているから、幇助の概念が歯止めなく広がってくことに拍手喝采なのだろう。
Posted by 根拠のない断言が多いですが at 2006年12月19日 13:22
ソフトウェアだけで人は殺せないからなぁ。
Posted by x at 2006年12月19日 13:07
「著作権法違反幇助の意図が明かにあったので違法」
何を根拠にそんなこと言っているのか?少なくとも「明らか」と言えるような単純な事例でないことだけは確か。
「中立的なソフトウェアを作る「だけ」なら、、、」
ソフトを作って、コンピュータにかけないのならそうかも知れないが、ソフトを実行した段階でアウトになるのであれば、一般プログラマは安心できない。
「法律違反を犯して法廷で争っても」
そもそも、「法律違反した」という認識はないし、違法ではないという法解釈も十分成り立つ。
Posted by 根拠のない断言が多いですが at 2006年12月19日 12:42
確かに現状の著作権業界は問題が多い.
しかし,現状がおかしいからと法律違反を犯して法廷で争っても,そこで法律が変わるわけじゃない.
単に被告が有罪になるだけだ.
「Winny は作っただけだ」と幇助を否定し,
「デジタル証券によるコンテンツ流通システム」を実現して外堀から埋めるという方法はとれなかったものか?
Posted by yt at 2006年12月19日 11:58
著作権法違反幇助の意図が明かにあったので違法.
だが,金子被告の考えにも一理あり,自らを利するための違法行為でもなかったので,減刑して 150万円.
中立的なソフトウェアを作る「だけ」なら著作権法違反幇助で糾弾されることもないので,一般プログラマは安心して良いのでは.
Posted by yt at 2006年12月19日 11:41
「積極的に企図したとまでは、認められない」というのは「未必の故意」を意味すると思われます。著作権侵害が目的ではないが、容認はしていた、ということでしょう。
Posted by Tskk at 2006年12月19日 11:06
「「積極的に企図」していないのにどうやって幇助できるというのだろうか。」とのことですが、日本では、幇助者の主観的要件として、「積極的な企図」までは要求されていません(ex組合名義の預金を.横領する目的があることを知りながら、理事長からの払い戻し請求に淡々と応じた出納事務担当者について、高松高判昭和45年1月13日判時596号98頁等)。
Posted by 小倉秀夫 at 2006年12月19日 08:55
原告(正確にはその代理人)である検察

って、刑事裁判には原告という用語はないんじゃない?原告ってのは、私訴の時だよね。

公訴は、検察官がこれを行う(刑事訴訟法247条、起訴独占主義)。
Posted by sakurada at 2006年12月19日 04:16
「正統性」の使い方について

アカデミズムの世界では、一般に「正統性」と「正当性」を分けて使います。

「正当性」→それ自体(意見など)の正しさを問う局面で使う

例:あの判決には正当性がない(不当だ)

「正統性」→ある組織などの出自・構成方法の正しさを問う局面で使う

例:〔碓佞亡陲鼎ないA国の政府には民主的見地から言って正統性がない

憲法では職業裁判官による裁判が保障されているのに、職業裁判官の入っていない法廷で行われたあの裁判は正統性を欠く
Posted by どうでもいいことですが at 2006年12月19日 00:39