2007年01月04日 17:30 [Edit]

書評 - 怪文書

何ともへんてこな気持ちになる本だ。

本書も、その続編である「怪文書II」も確かに面白いのだが、なぜかそこにそれを面白がる自分が後ろめたい気持ちにさせられるのだ。


本書「怪文書」およびその続編「怪文書II」は、週刊文春の元記者である六角弘が、怪文書を枕に戦後のさまざまな事件、それも主に経済事件を振り返る二冊である。従って両書は怪文書そのものの「傾向と対策」本ではない。私もこれらの「怪文書でない部分」は素直に読む事が出来た。

問題は、怪文書の扱いだ。

筆者は、怪文書を以下のように定義している。

「怪文書」p.13
  1. 差出人が不明であること
  2. ターゲットがあること
  3. 不特定多数にバラまかれていること

2chなどに流れる書き込みも、その点では立派な怪文書であるのだが、残念ながら本書でもIIでもこれらのネット怪文書は本書の対象外である。私としては是非ネット怪文書も「六角文庫」の蒐集の対象として貰った上で、「怪文書III」を読んでみたいと思うのだが、それはさておき、著者の怪文書に対するスタンスは以下のとおりである。

p. 34
こうしてみると、怪文書には「功」の要素があることは否めない。しかし、いくら会社を救い、社会正義に役立つ怪文書が合ったとしても、制作者が社会的に賞賛されたり、社史に堂々と登場することはありえない。いずれにしろ、怪文書という手段は、その理由のいかんにかかわらず、不正であることには変わりはない、というのが私の考えである。

しかし、著者はそれに対する「正当な手段」に関しては何も教えてくれない。「うしろめたさ」の理由が、ここにある。

日本では、内部告発者を保護するという考えそのものがほとんどないのだ。政府にもないし、マスメディアにもないし、市井にももちろんない。正当な手段に対する報酬が何ら存在しない以上、何かを告発しようとすれば、差出人がわからないように工夫しつつ、誰かが取り上げてくれるように不特定多数にバラまくしかないではないか。そして告発である以上、ターゲットの存在は自明である。すなわち、全ての告発は怪文書となってしまう。

マスメディアにいかに情報提供者を保護する姿勢が欠落しているかといえば、以下を挙げれば十分だろう。

J-CAST ニュース : 鳥越俊太郎に聞く(2) ネットでも実名文化がいい
中央官庁の役人が、実名で内部の腐敗を書いてもらえると

私もテラ藁わかせてもらったが、日本のマスメディアには「自分が情報提供者の立場になったら」という想像力を働かせる人は誰もいないのだろうか?確かに欧米、少なくとも合州国は実名社会だ。しかしその一方で情報提供者の保護にも熱心だ。裁判所と新聞社というのは、「そこに行って情報を提供すれば匿ってくれる」というイメージは、市井にも深く浸透しているのは数々の映画や小説で日本でもよく知られている。もちろん実際にそううまく行くとは限らないのだが、少なくとも欧米では「正当な手段」はこうであり、正当な手段をとればこのような報酬があるということは明示されている。

本書に話を戻すと、本書にはいくつかの怪文書が、そのまま図版として登場する。そのいくつかは手書きである。筆跡鑑定にかければ、誰が書いたかが確実にわかってしまうのではないか。そこには「怪文書」の作者を内部告発者として保護する姿勢は全く見られない。

木走日記 - 「オーマイニュース」鳥越氏の無責任な「責任ある参加」論
プロのジャーナリストでもない素人のサラリーマンやOLがなぜ実名で「会社の中で言いたいけれど言えないことを書」くことが、一体全体この日本社会でできると鳥越氏は本気でお思いなのでしょうか。

鳥越氏だけが特別ではないのは、本書の行間まで読めばよくわかる。鳥越氏は、ここでは典型的な実名ジャーナリストだ。

そのジャーナリストに最も必要な能力というのは何だろうか?「自分がその取材の対象となったらどう振る舞うだろうか」という想像力だと私は思う。情報提供者の保護する姿勢の欠如というのは、この想像力のイロハのイの欠如である。この程度の想像力しか持ち得ない人々に、期待する方がおかしいとは思わないのだろうか?

いや、思っていないのだろう。マスメディアは何も最初から第四の権力だったわけではない。市井の人々の信仰が彼らをそうたらしめたのだ。その市井の人々が、情報提供者の保護がなぜ必要かを理解していない以上、政府もマスメディアも聞く耳を持つはずがない。そもそもそんな声がない以上、それを取り上げない政府もマスメディアも「不当」ではない。

そんなことを考えさせられる連作であった。

Dan the (Un|Self-)protected Witness


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この件に関して、小倉弁護士から再度の反対エントリーをいただいた。 オーマイニュー
オーマイニュースを巡る匿名性の問題について(2)---小倉弁護士に答える/ 心苦しいが鳥越編集長には勇退をお奨めする。【BigBang】at 2007年01月05日 12:14
この記事へのコメント
地に足がついていない情報屋が多いというだけだよ。

頭が名誉だとか金だとか正義とか愛国とか、
足がない幽霊みたいな存在でしかないんだな。

外国は、地に足がついていないでけで軽蔑されるのに、
ニホンは、尊敬されているとさらに思い込むガカが大杉。

なんで本しか読まないで歩かない人が尊敬されるのか不思議でしょうがない。
Posted by えっと at 2007年01月05日 08:44