2007年01月16日 06:30 [Edit]

ローマは気候変動で滅びたか?

はっきり言って同意しかねる。

raurublockの日記 - 「ローマ人の物語」シリーズに欠けているもの
塩野七生の悪いところは「キャラ萌え」の癖があるところです。歴史をキャラクタとしての人物を通して見ることしかできない。「英雄(およびボケ為政者)によって歴史が作られてきた」史観ですね。まあ物語作家って職業の限界だと思う。

キャラ萌えだけの人が、わざわざ「インフラ」を主人公にした巻を書くだろうか。

何も「ローマ人の物語」が「科学的」というつもりはないし、一人の作家の限界だって当然ある。個人的に私が「ローマ人の物語」で一番残念だったのは、「なぜローマはキリスト教にハイジャックされたのか」ということがあまり納得できなかったこと。個人的にはローマを滅ぼした最重要要因がこれだと感じているので。

graph

それはそれで別の機会に改めて書く予定だが、ローマを滅ぼしたのが気候変動というのはかなり疑問なのである。確かに気候変動もまた帝国の危機の一つには違いないが、帝国がしっかりしていればそれも乗り切れたはずだ。実際ポンペイがヴェスヴィオの噴火に飲み込まれた際には少なからぬ気候変動があったはずなのだが、ローマの最盛期である五賢帝の時代はその後ではないか。

実際、右のグラフを見てもわかるとおり、帝政ローマ時代の気候は、小氷期よりは温暖だったようだ。小氷期は日本では江戸時代。この時代の北半球が寒冷だったのは有名な話で、日本でも何度も飢饉があった。浅間山や富士山の噴火もそれに追い打ちをかけただろう。しかし江戸時代は三世紀近く続いた。

むしろ環境に要因を求めるのであれば、森林伐採の方が影響が大きいような気がする。「ローマ人の物語」に登場する地図には、当時の海岸線に現代の海岸線が重ねられた地図がよく登場するが、海が後退した理由の一つは森林伐採だろう。森林が減れば、当時は燃料が減ったも同義なので、当然気候変動にも脆弱になる。

raurublockの日記 - 「ローマ人の物語」シリーズに欠けているもの
我々が未来をかけるべきは、物語じゃなくて、サイエンスですよ。

私もそう思うが、しかしここでいう「サイエンス」というのは本来の意味である「解明」であって、自然科学だけでは足りない。「ローマ人の物語」に話を戻せば、塩野七生はまだ自然科学に敬意を払っている方だと思う。実際同シリーズには何度も専門家の意見をあおいだという記載が登場する。「すべての道はローマに通ず」では特にそうである。彼女が本シリーズを通して伝えようとしたのが「なぜローマが滅んだか」ではなく、「なぜローマはあんなに長く続いたのか」であることを考えれば、エンジニアリングはスルーできない話題であり、実際彼女はスルーしていない。

私は「ローマ人の物語」を読んで、(いい意味で)大いに欲求不満になったし、「塩野七生は間違っている!実はこうだった」という作品があれば是非読んでみたいとも思うし、おそらくそれはもっと現代の科学を駆使したものになるだろうという感触も持っているが、この説はあまりにずさんで、「物語史観」の対抗馬としてはあまりにお粗末だと結論付けざるをえない。

Dan the Reader Thereof


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ローマ人の物語【enchanting an air of joyous bliss】at 2007年01月17日 12:56
この記事へのコメント
精緻なエントリー感心しました。こちらでネタにされた先で、ややうんざりした気分になっていたところからTBをたどってこちらに伺いましたので、すっきり感をいただきました。
 ところで、なぜキリスト教が勝利を収めたか? この解釈は、作家が自説をまとめるのでなく、読者それぞれに問いかけていたのが前巻の趣旨であったように思ってました。社会不安の加速のため? 大樹に流れる人間性の帰結?・・・考えるヒントが多かった本シリーズは、きっとこれからも多くに読み返されるものになるでしょうね。
Posted by blues1974 at 2007年01月19日 00:55
てっきりローマが滅びたのは
金持ちと庶民の格差が開き過ぎたからだとおもっていました。

いやそんなことが「金持ち父さん」かなんかに書いてあったような。

Posted by ほろほろ at 2007年01月17日 12:50
ただキリスト教に敬意を払っただけで厳しく叱責されるのですか??
美智子さん、かわいそうに…(というか意外と偏狭だったんですね…、昭和天皇って。
Posted by ↑本当? at 2007年01月16日 22:16
ただ (誰だったか忘れましたが)いかに巨大な帝国でも、やや凋落傾向が始まれば、為政者自身もやや弱気になってしまうという事態になったとき、時の為政者までもが すなどられ絡め取られてしまうのがキリスト教の怖さです。
神道を司る昭和天皇が キリスト教に敬意を払う美智子妃殿下を大変厳しくお叱りになったことは勇名だったような気がします。(ちなみに美智子妃殿下の人格ではなく、聖心女子出身の美智子妃殿下がキリスト教に敬意を払ったことを お叱りになったわけです。)
弾さんが既にご存知の内容(基本的なこと)しか書いていないかもしれません。それだったら 申し訳ないです。

Posted by 貞子ちゃん at 2007年01月16日 21:55
弾さん いつも愛読されていただいてます!弾さんの聡明さにはいつも感嘆しております。

「なぜローマはキリスト教にハイジャックされたのか」とのことですが、『個人的にはローマを滅ぼした最重要要因がこれだと感じているので。』とまで鋭い洞察をされていらっしゃるのに、本当に納得できないのでしょうか?
聖書を実際に読んでみるとすぐ解ると思います。
キリスト教(ユダヤ教ではなく、新約聖書)は 奴隷とか農奴とか(労働者)が羊のように大人しく(従順に)なる教えです。キリスト教は マルクスの言うところの一種の麻薬です。
ローマ帝国時代に、巨大になった時の為政者が その点に目を付けない訳がないとは思います。
Posted by 貞子ちゃん at 2007年01月16日 21:53
はじめまして、このブログはすんごくおもしろいブログです!!うちの友達に見せてあげたいくらいおもしろいブログでした。もしよかったら僕のブログにも遊びに来てください!!http://ameblo.jp/probably2007/

では、またどこかでお会いしましょう。BYE BYE
Posted by hiro at 2007年01月16日 19:42
巨大な帝国を治めるためには偉大なカリスマか、国民統合の象徴となるべき存在が必要だったのでしょう。運良く偉大なカリスマがいればよいですが、いつの時代にもいるものではないので国民統合の象徴として一神教であるキリスト教が選ばれたのでは?ただ効き目が強すぎて解釈の違いなどから帝国崩壊のきっかけとなったのは皮肉なことですが。
Posted by bob at 2007年01月16日 14:22
キリスト教にハイジャックとは言い得て妙ですね。
しかし、なぜあんなに多神教だった社会が一神教に塗り変わったんでしょうかね。
小プリニウスが現在のトルコあたりに赴任した際にトラヤヌス帝にまるで伝染病のように広がっていくと報告をあげているように、かなりの勢いで拡大したのは確かのようですが・・・。
まぁ、キリスト教嫌いな人の書くローマ史は貴重かもしれませんね。
Posted by ななし@北海道 at 2007年01月16日 12:21
 サイエンスに未来をかけるにしても、国際的な政策決定にかなり特殊なパラダイムシフトを導き出す英雄が必要です。

…これがいなかったので地球の文明は一度滅んだ…などと後世の物語作家に揶揄されるような気がします。

 サイエンスはツールに過ぎず、黙っていては誰にも恩恵を与えては呉れないのではないでしょうか。
Posted by rijin at 2007年01月16日 09:42