2007年02月12日 11:30 [Edit]

生産性より消費性

そしてその社会の平均的な生産性というのは、何が決めるのだろうか?

山形浩生 の「経済のトリセツ」  Supported by WindowsLiveJournal - 生産性の話の基礎
賃金水準は、絶対的な生産性で決まるんじゃない。その社会の平均的な生産性で決まるんだ

どう考えても、「その社会の総消費量で決まる」という結論になると思う。

ちなみにここでは、貯蓄も消費に含めている。お金の行き先を決める行為は、すべて消費ということにしている。

なぜ生産するかといったら、消費するためだ。使いもしないのに作ってもしょうがない。たとえ本を20冊翻訳しても、誰も買ってくれなければ「生産」とは見なされない。読まれるでも「積読」されるのでもどちらでもいいけれど、とにかく買ってもらわなければ話にならない。一冊あたり50万円だった収入が、20冊翻訳してもそのまま50万円とは限らない理由がそこにある。

もっとわかりやすい例で言うと、米がそうだ。日本では減反政策といって、わざわざ米を作らないことに対してお金を払ったりしてきた。作ろうと思えばもっと作れるのに、作っても食べてくれないのでそうしている。仮に減反前と減反後で、政府の補助金まで加えた農家の収入が変わらなかったとしたら、この農家の生産性は米で測ると減っていることになるけど、金で測ると変化なし、ってことになる。

ここで、今の日本で「高給」の仕事を見てみる。これらの数字はちょっとぐぐれば沢山出てくるのだけど、ここではとりあえず「職業別給料ランキング」をリンクしておくにとどめておく。これを見ると、生産性がずっと高いはずの「実業」より、生産性から見ると大したことがないはずの「虚業」の方が高いように見える。なぜだろうか。

一つ考えられるのは、「虚業」は自身の生産性は低くとも、他者の「消費性」を高めているのではないかということ。たとえば社員1万人の製造業の会社が、一人当たり1,000万円の売上げを上げていたとする。売上げを伸ばすために、ここでは社員100人の広告代理店にCMを依頼し、そのCMのおかげで売上げが倍になったとする。ここで「CMによって上がった収益は、発注者と受注者で折半する」という取り決めがあったとする。増加した売上げは1,000億円。これを両者で折半して500億円。一人当たりの売上げでは製造業の方はこれで1,500万円。しかし広告代理店の方は5億円だ。

もちろん実際の話はこう単純とは行かないけど、生産者よりも「消費加速者」の方が儲かりそうだというのは、これでおぼろげに見えてくる。

賃金水準は、生産性で決まるんじゃない。社会の消費性で決まるんだ。

なぜそうなってしまったかといえば、「生産業」のほとんどが、「過剰生産性」を抱えるようになったからだ。米だってかつては足りなかった。足りなかったから八郎潟を埋め立てたりしてせっせと生産性を上げようとした。でも生産性が上がったら、今度は余ってしまった。こうなると補助金を出してでも「非生産」してもらうか、なんとかして余った分を売りつくすしかない。こうなると「作る人」より「余った分を売ってくれる人」の「生産性」の方が高くなったりする。

「作る人」にとって、これは決して愉快な話じゃない。でもすでに余った分を売ってもらわないと、「作る人」が満足する収益は上がらなくなってしまっている。かくして「虚業」と彼らを蔑みつつも、ますます「売ってくれる人」への依存が高まって行く。それが常態化すると、今まで蔑んでいた彼らが偉く見えるようになってくる。「やっぱり稼ぎがいい以上、彼らの生産性は高いんじゃないか」、と。

現在進行中なのは、つまりこういうことなのではないか。

にも関わらず、なぜか「生産性」という言葉は巷に溢れていても、「消費性」という言葉は見かけない。英語でも"productivity"という言葉は目にするけど、"consumability"という言葉はお目にかからない。でもそろそろ気がついてもいいのではないだろうか。生産性が上がれば上がるほど、生産性という言葉が持つ価値は下がり、消費性こそ重要となり、そして今や消費性の方が生産性よりはるかに決定的となっていることに。

Dan the Prosumer, Whatever that Means


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消費と生産【enchanting an air of joyous bliss】at 2007年02月12日 16:43
山形浩生の「経済のトリセツ」:生産性の話の基礎を読んでみた。 要約すると2点。 1.賃金水準は、その社会(国)の生産性の平均で決まる。 2.同じ社会の中での賃金は需給で決まる。 生産性の水準 生産性は、商品がいくらで売れるかによる。品質も価格も同じなら原価が...
生産性、為替、賃金【worldNote】at 2007年02月12日 15:55
なとこがあったので、軽く補足。 元ネタ: >所得水準は、社会の平均的な生産性で決まる――そしてそれを >引き上げているのは製造業だ 誤:所得水準は、社会の平均的な生産性で決まる――そしてそれを 引き上げているのは製造業【の労働者達】だ 正:所得水準...
微妙にミスリーディング【あほあほ機動戦隊フマさん】at 2007年02月12日 13:26
この記事へのコメント
2年も前のポストに、いまごろコメントをすること、お許しください。

このポストに関係して、長いコメントを書いたのですが、字数制限が800字で掲載できません。

以下のUTLから読んでください。

http://www.shiozawa.net/blogcomments/yamgata_ikeda_ronso90411.html

ついでながら、小飼弾さんの著書『小飼弾の「仕組み」進化論』、最近買いました。まだ読めていませんが、「仕組みの進化」はわたしが中央大学商学部で講義している「応用経済論(進化経済学)」で使わせてもらうつもりです。
Posted by 塩沢由典 at 2009年04月11日 23:03
経済人は服を体に合わせ、経済学者は体を服に合わせる。
Posted by ファン at 2007年02月14日 01:07
池田さんから批判されてますが、弾さんのいっていることは、非主流の経済学では割とメジャーで、スラッファが販売費をかけなくては販売量をふやせない制約が企業の生産量の制約であると指摘したことから、いろいろと議論があるようです。

塩沢由典の『市場の秩序学』(筑摩学芸文庫)の「スラッファと不況の理論」あたりに書いてます。あと、根岸隆の『ケインズ経済学のミクロ理論」とかも。

それと実感としても、経済学者って、営業活動を過小評価しがちですね。伊藤元重さんのような流通が専門の人は別として。
Posted by osakaeco at 2007年02月14日 00:43
率直に、これは痛いと思う
Posted by PK at 2007年02月13日 18:05
虚業と実業の生産性の差は、虚業と実業の定義によって決まる。
Posted by ファン at 2007年02月13日 13:11
マクロ経済の観点からすると、この消費性=需要の存在は常識だと思うのだが。
ミクロとマクロを混同している方が多いので、この点も分けないといつまで
経っても平行線。

あと、
「賃金水準は、生産性で決まるんじゃない。社会の消費性で決まるんだ。」
はどう考えても誤り。需要と供給の双方が必要です。
Posted by なすび at 2007年02月13日 13:02
池田先生の批判
ttp://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/cd4e52fd7cca96ac71d0841c5da0cb75
Posted by Y at 2007年02月13日 10:50
では、アフリカの貧国で賃金水準が低いのは、消費性が足りないからだと?

すごい結論ですね。

経済の価格(賃金も含む)と取引量っていうのは、需要面だけではなく、また生産面だけでもなく、その両方によって決まるんですよ。

ってまあ、そんなこたあ中学の社会の教科書にも書いてるけどね。

いい加減に経済を論じるなら、謙虚に経済学の本くらい読んでからにすれば?

すでに読んだのなら、理解してからにすれば?

Posted by 匿名 at 2007年02月13日 04:41
マルチ力と流動性での消費→生産→消費
消費が落ちたときでも流動性とマルチ力での生産キープ率
その繰り返しとスピードコントロール(強弱)。
そして思い切った投資。
またその繰り返し。

もちろん人と市場、社会の動きを見ながら考える。
そこにそれを統率する人がいれば安定。
そしてより水準を上げられる。

消費とは究極、生きているということなのかな。
生産とは生きるため考えるや動くということなのかな。

どちらもそこに”心”があるということを忘れてはならない。

温める 心があって 温まる 
温まる 心ができて 温める (笑)
Posted by トンでもん at 2007年02月12日 23:34
>ちなみにここでは、貯蓄も消費に含めている。
えーと、つまり普通の言葉で言うと「所得」のことですな。
「所得を増やす」って結局「生産を増やす」とイコールですから
この定義だと「消費を増やす」=「生産を増やす」なわけですが、
後のほうだと別の意味で消費を使って話をズラしてますな。

>作ろうと思えばもっと作れるのに、作っても食べてくれないのでそうしている。
じゃなくて、生産性が低すぎて割高な米しか作れないからですよ。
タイやカリフォルニアより安く作れれば世界中にいくらでも売れますぜ。
Posted by あれ at 2007年02月12日 21:29
そしてその消費性は誰が決めるのでしょうか?

というか、結局何が言いたいのでしょうか?
現代は生産力は余ってるから、消費の欲求を満たすものを作る、または煽らない限り「社会の平均的な生産性」は上がらず、賃金水準は上がらないということですか?


なんか小野善康っぽいですね。
Posted by kosmo at 2007年02月12日 20:49
15年ほど昔の佐伯啓思とかの通俗本を懐かしく思い出し、しばし甘辛い青春の日々を追想し紅茶など飲みました。ありがとうございます。
Posted by 周回遅れて日が暮れて at 2007年02月12日 17:43
フラットな世界においては“その社会”と言う概念が自明ではなくなってくると思われ
Posted by 挧 at 2007年02月12日 17:33
消費しまくる事で発言力を強め消費しつづける。
作らせておいてから、安くしないと買わないと叩く。
この部分は別に新発明ではない。
Posted by アメリカーナ at 2007年02月12日 16:56
生産じゃなくて付加価値って言ったら実業とか虚業とかなくなるんではないかと思います
Posted by 名前 at 2007年02月12日 13:53
マイナスイオンで消費者の需要を煽れ!!!

総需要、総需要、総需要!

リフレ、リフレ、リフレ!

総需要、総需要、総需要!

マイナスイオンで消費者の需要を煽れ!!!
Posted by リフレリフレリフレ! at 2007年02月12日 13:20
また新たな経済理論を発明しましたね。
なんたる斬新さでしょう。今経済の教科書は燃やしてきました。

>考えられる反論や揚げ足取りはもう過去 100 年以上で出尽くしてるんだもん。

って山形は言うけど、ここを見ろと。
すべての経済学者は弾さんに謝罪すべき。
Posted by あなたは天才 at 2007年02月12日 13:20
> 生産性が上がれば上がるほど、生産性という言葉が持つ価値は下がり、消費性こそ重要となり、そして今や消費性の方が生産性よりはるかに決定的となっていることに。

(a) internationalに考えると、日本企業(特に製造業)の生産性の高さが日本全体の高い給与水準を支えていて、

(b) nationalに考えると需要(bobさんの言うとおり消費性っていうか需要ですよね。)が飽和しているので弾さんの言うようなこともある、と。

でも結局日本国内の「虚業」の給与水準が高いのは(a)だからなわけで、別に「生産性という言葉の持つ価値は下が」ってないのでは。
Posted by po at 2007年02月12日 12:55
「消費性」≒「需要」なのでは?
Posted by bob at 2007年02月12日 12:11