2007年02月15日 18:00 [Edit]

生産性は誰のものか

私は絵心がないので、図を使わないで、かつ我が家の8歳と5歳の娘達にもわかるように説明してみる。

分裂勘違い君劇場 - 「他人の生産性が向上すると自分の給料も増えるのか?」を中学生でもわかるように図解する
これについて、中学生にもわかるように説明してみます。

Q:社員100名のある会社にナナ氏が入社しました。ナナ氏が入社してから、会社の売上げが倍になりました。ナナ氏の生産性はいくら?

単純に考えると、ナナ氏の生産性は他の社員の100倍ということになる。しかしそれって本当だろうか。

Q:その会社にいるまで、ナナ氏はニートでした。家ではパンツ一つ自分では洗いません。ナナ氏の生産性はいくら?

そう。ナナ氏の生産性は、ナナ氏がどこにいるかで変わってしまうのだ。パンツ一つ自分で洗えないナナ氏も、会社というシステムに組み込まれた途端、生産性が上がったりするのだ。他の社員がナナ氏が働けるような環境を用意してくれて、はじめてナナ氏に生産性が生じるのだ。

それでは、この向上した生産性を、社内で全部配分してしまうのが正解だろうか?次の設問を考えてみよう。

Q:この会社がカンボジアにあったとしたら、この会社の生産性は?

業態にもよると思うが、日本で「生産性が高い」会社のほとんどが、ゼロ生産になってしまうと思う。よく見ればわかるとおり、生産性が高い業態ほど、社会依存性が高い。良好な治安、安定した物流、廉価な通信、そしてそれらを担保する法....こういったものがなければ、生産性が高い人々は明日にもパンツ一枚洗えない穀潰しなのだ。

そう、実は会社というシステムもまた、社会というさらに大きなシステムのコンポーネントとなることで生産性を上げている。

だから、

池田信夫 blog 賃金格差の拡大が必要だ
要するに、山形氏が当然のものと思い込んでいる横並びの賃金決定が、一方では非正規労働者や失業者を増やし、他方ではプログラマの悲惨な生活をもたらしているのだ。日本経済が中国との競争で生き残るためには、むしろ各部門の限界生産性の差に対応して正社員の賃金格差がもっと拡大する必要がある。効率の高いIT部門の賃金を高めることによって人的資本の移行を促進し、TFPを引き上げることが「成長戦略」のポイントだ。その結果、所得が高くなる人は問題ではないので、生存最低限度より低くなる人にセーフティ・ネットを提供することが行政の仕事である。

という主張はまっとうに見えても、人体に向かって「脳細胞の生産性が高いから、筋細胞の取り分を減らすべきだ」と言っているような空しさがある。我々はシステムを組むことで生産性を上げてきたのに、個々のコンポーネントの生産性ばかり取りざたするのはそれこそ木を見て森を見ぬという話ではないのか?

とはいえ、簡単なのは定性的な説明までで、それを定量的にやろうとするととたんに難しなる。

Q: それでは、生産性が上がって増えたアガリを、どう分けるのがいいでしょう?

これは未だに最適解というのがわからない。とりあえずわかるのは、ナナ氏の取り分は、仮に社内で全部配分してしまうとして、ナナ氏入社前の社員取り分の2倍弱(2 * 100/101 = 他の社員の新しい取り分)から100倍の間にあるべきということだけだ。ナナ氏が全部もっていっては、他の社員が納得しない。ナナ氏の取り分が他の社員と同じでは今度はナナ氏が納得しない。どう配分するのが適切だろうか?

一つ考えられる方法は、とりあえずナナ氏に全部増収分を渡してから、今度はナナ氏が他の社員にボーナスを払うというものだろう。それをすごく間接的かつ強制的にやると累進課税ということになり、直接的かつ意図的にやると、トリクルダウン理論ということになる。

その逆に、一端ナナ氏も含めた社員全員に増収分を配布してから、残りの社員がナナ氏にボーナスを出すというやり方もある。が、こちらの方はあまり使われていない手法だ。おそらくその方が手間がかかるからだろう。しかし「システムで生産性を上げる」という実情から行けば、こちらの方が理想に近い。

他にも方法はいろいろ考えられるのだろうけど、忘れては行けないのは、生産性というのは一人で上げるものではないということ。「できる」と思い込んでいる人ほどこのことを忘れてしまいがちだけど、できる人はそれができる舞台があってはじめてできるのだから。

Dan the Lazy, Impatient, and Hubristic


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小飼弾氏に田中秀臣氏が何かする模様 両者のブログはほぼ毎日チェックしているのだが、さてどうなることやら ...
さてさて両者の動きは【streamliner world よしくん2.0】at 2007年02月15日 23:33
この記事へのコメント
>金持ちのメイドの方が貧乏人のメイドより賃金が高いのに、
>主人以外の第三者(例えば通行人)の生産性は関係ないのです。
>もちろん、実際は社会との関連はその職業によって異なり、
>例えばタクシー運転手など不特定多数相手のサービス業では、
>「全ての職業の平均的な生産性」というものを持ち出しても
>大きな違和感はないでしょう。

Unknown (一研究者) 2007-02-18 11:36:51
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/470cbdc39360f5b3c77d0372e3ddcb6e
Posted by ぐへへへ at 2007年02月18日 13:09
読み返して見ると解りにくいので、最初の文は
『そもそも、「限界」の議論というのは、「最後の1人」の話だから、限界で議論する池田氏の立場で、「流動性がない」と主張するのは許されないと思います。工場労働者で農家になろうと思う人が「たった一人」いれば、「限界」的には成立するのだから。』とした方が良かったでしょうか。

流動性がないことを言い出すのは、限界の議論を捨てて、全体の議論をすることですよね。
Posted by 元数学者のMBA at 2007年02月18日 11:43
>流動性が少ない
そもそも、「限界」の議論というのは、「最後の1人」の話だから、流動性はあると考えるのが現実に合っていると思いますよ。工場労働者で農家になろうと思う人が「たった一人」いれば、「限界」的には成立するのだから。

池田氏の議論の欠点は、(1)限界生産性=限界賃金が成り立つのは限界労働力(最後の1人の労働者、おもに臨時工やバイト)についてなのに、それで産業全体の賃金(正社員の賃金)を説明できるとしている点、(2)産業間の均衡を無視している点の2点なんですよ。
Posted by 元数学者のMBA at 2007年02月18日 11:31
>労働力市場というものを否定

いや否定しているんじゃなくて流動性が少ないと主張しているのでは?
分裂くんの工場労働者と掃除人だったら、どちらもサラリーマンで、
相互に流動性はあるけど、じゃあ工場労働者が明日から農家になろう
とか自営業をやろうとか思ったって、そう簡単にはいかないでしょ?
逆方向だったら簡単だし、現実に今の日本では、その方向で
サラリーマンに転向する人が増えてますよね。
Posted by おやじです at 2007年02月17日 15:54
完全市場では、何人たりとも:利潤=0
Posted by うが at 2007年02月16日 23:47
池田さんは、産業によって賃金に開きがあって当然と思っているけど、それは労働力市場というものを否定しているのと同義なんですよね。労働力市場があってマーケットメカニズムが働けば、産業自体が変わって賃金格差は是正されざるを得ない。池田さんは、労働力に限っては、反市場主義なのですかね。

しかし、経済の人と話すと、前提の違いを確認せずに自説を述べられるので疲れる。しかも、前提の違いが原因だと説明しても、理解してくれない。
Posted by 元数学者のMBA at 2007年02月16日 22:23
池田さんのBLOGに書いても、掲示してもらえなくなったようなのでこっちに。

限界賃金は限界労働生産性によって決まるという池田さんの説は正しいけど、それで全部じゃない。残りの話は、限界労働力は産業間を移動するから、全ての産業の限界生産性は均衡し同じになり、結局、限界賃金は全産業同じになる。だから、「自動車産業のバイト(限界労働力)も、喫茶店のバイトも、ITのバイトも賃金は同じ」ということになる。

でも、限界生産性で説明できるのは、限界賃金だけなんですよね。限界労働力でない人(正社員)の賃金は限界生産性じゃ説明できない。あえて説明しようとすると、「全労働者は、市場価格(限界賃金)を見てそれを自分に適用しようとする」という仮定をたてることになる。妥当かな?
Posted by 元数学者のMBA at 2007年02月16日 22:22
わからん。わしは5歳の娘以下じゃあ(笑)。
でもトリクルダウン理論は日本でやると、ほとんどの金持ちは貯金に回すからうまく機能しないような気はする(日本以外でもかな?)
Posted by おやじです at 2007年02月16日 15:18
 ああ〜、そうですね。

 この狭いコメント欄でさえ、物的労働生産性、価値労働生産性、付加価値労働生産性が入り乱れています。
Posted by rijin at 2007年02月16日 14:26
そういえば南方熊楠はフンイチだったそうですね。
福沢諭吉はスッポンポンだったららしいし。
Posted by ニクイチ at 2007年02月16日 12:40
どうもここんところが誤解されているような気がします。日本と途上国で同じ水準のサービスをしているんであれば、同じ生産性だという物的生産性概念で議論しているから混乱しているんではないのでしょうか。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/post_b2df.html#c13781196
Posted by こぴぺ2 at 2007年02月16日 12:01
価値生産性というのは値段で計るわけだから、値段が上がれば生産性が上がったことになるわけです。売れなきゃいつまでも高い値段を付けていられないから、まあ生産性を計るのにおおむね間違いではない、と製造業であればいえるでしょう。だけど、サービス業というのは労働供給即商品で加工過程はないわけだから、床屋さんでもメイドさんでもいいけど、労働市場で調達可能な給料を賄うためにサービス価格が上がれば生産性が上がったことになるわけですよ。日本国内で生身でサービスを提供する労働者の限界生産性は、途上国で同じサービスを提供する人のそれより高いということになるわけです。
Posted by こぴぺ1 at 2007年02月16日 12:01
お話に関係ないけど、久々、このブログを覗いたら、画面の構成が見やすくなりましたね。
前は、リセントエントリー・トラックバックがずっと下のほうにあって、見るのに面倒でした。
なんとかしてほしいと思っていました。
画面構成は改善されたけれど、弾さんの頭の中は変わってないですね。
Posted by たいらのはねよしの母 at 2007年02月16日 10:12
 生産性の議論と言うよりも、生産された付加価値をどう分配するかという問題ですね。

…観察される事実としては、付加価値労働生産性の高い人と雖も、その付加価値を全て分配されるということはありません。高収益企業で働いていらっしゃる皆さんが必ずしも高額のボーナスに恵まれているわけでないのは周知の事実です。むしろ、近年は企業業績の改善と労働分配率の間に明らかな乖離が認められると言われています。

 他方、実際に生産した付加価値よりも高い分配が行われることもあるはずです。

 Danさんがご指摘のように、ひとつには付加価値労働生産性には社会的コストの配賦が行われていないことが理由でもありますが、それ以上に、労働市場というのは補償賃金差額、情報の非対称性、代替可能性などの生産性以外の要素が大きな役割を果たしているということのように思います。
Posted by rijin at 2007年02月16日 09:20
この説明で理解できるとしたら、8歳と5歳の娘さん達は天才と言わざるを得ない。
Posted by これでわかるの? at 2007年02月16日 07:33
小飼さんのお宅のようにハウスキーパーにパンツを洗ってもらいましょう。
Posted by どうでもいいところにヤジを入れてみます at 2007年02月16日 07:01
議題の正解ですが、

他人の生産性が向上しても、その条件だけでは自分の給料はまだどうなるかわからないが正しい。

世界が2人しかいないとしよう。

他人がいい奴ならば、他人の生産性が向上した場合、その生産性の果実が自分に恵まれ、給料は上がることもある。

他人が嫌な奴ならば、他人の生産性が向上した場合、その生産性の果実が自分に恵まれることなく、他人の物理的な優位性を高め、自分の給料を搾取する方向になれば、自分の給料は下がるのである。
Posted by 直感で野次を入れてみます at 2007年02月16日 01:33
経済の「取説」or「広告」?
http://d.hatena.ne.jp/sivad/20070215#p1
Posted by これもGJ! at 2007年02月16日 00:32
誘致すれば、その周辺で「スピルオーバー」が発生するんじゃないの。

まず、税収が上がる。下請け工場もできるかもしれん。ベッドタウン
できて土地の値段も上がるし、商売もできる…
Posted by 痴呆自治 at 2007年02月16日 00:13
みんなして生産性と社会システムの相関性を語ろうとしてる中で…
斉藤さんは地方自治だけにして、経済語らない方がよさそうです。
Posted by @ at 2007年02月15日 23:06
池田さんと山形さんと小飼さんの三つ巴ですね(笑)

専門的なことはともかく、直感的には3人とも同じことを言っていると思います。

とりあえず現時点では工業製品は基本的に輸出入でき、サービス業の中でもプログラミングは輸出入できるところがあり、喫茶店のサービスは輸出入できないので、現状に落ち着いているというところなのかな?

プログラミングでなく、高度な要件定義ならば、輸出入は出来なさそうですけど。。
Posted by ひろ at 2007年02月15日 22:34
↑だからそうじゃないだろ・・・
Posted by ばんごん at 2007年02月15日 20:57
私が小学生に説明するとしたら、「日本はトヨタみたいな凄いものを作っている人たちがいるから、トヨタにいない人たちも豊かな暮らしができるんだよ」ですね。実際、国際競争力のある強い製造業は、自治体の間で奪い合いのようになっています。
Posted by 斉藤久典 at 2007年02月15日 19:15
キターーー♪
Posted by ふま at 2007年02月15日 19:14