2007年03月01日 17:45 [Edit]

刑法三十九条は世界の非常識

これを見て、「またか。でも法治国家だからしょうがない」と思っているあなた、それは違う。

livedoor ニュース - <5人殺傷>車ではねた被告、心神喪失で無罪 大阪地裁判決
大阪府茨木市で04年、5人を車ではね、2人を殺害、3人を負傷させたして殺人などの罪に問われた元新聞販売所従業員の男(25)に対し、大阪地裁は28日、犯行当時は心神喪失状態で刑事責任能力がなかったとして、無罪を言い渡した。裁判長は「『悪魔の命令』という幻聴に支配され、犯行に及んだ」などと判断した。 

詳しくは、「そして殺人者は野に放たれる」の終章をご覧頂くとして、心神喪失者を全く罰しないというのは、ジャパニーズスタンダードではあってもグローバルスタンダードでは全くない。

刑法
心神喪失及び心神耗弱)
第39条 心神喪失者の行為は、罰しない。
2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
「そして殺人者は野に放たれる」p.294
スウェーデン改正刑法はそのうえで、心神喪失の範疇を明示し、掲示治療措置施設への入院命令か、必要に応じて一般刑罰も科しうるとした。
同 p. 296
心神喪失規定をもつ、日本以外の国々ではその点、刑法上で明確に歯止めをかけている。
同 p. 297
《犯人自身が、意識の重大な変調または障害の状態において罪となるべき行為をなそうという意図で、その状態を招来したとき》は有責とみなす(スイス刑法十二条)
心神喪失や心神耗弱には精神病質(人格障害)者を含まないと明言する刑法も増えている。

以上を踏まえた上で、以下を見てみよう。

フォーカスして空想する、世界を変えるには - 精神異常者を死刑にしたい人へ
確かに起こってしまったことは悲しいし、遺族の人には気の毒だとは思う。でもさ、いくら恨んでも死んだ人は戻ってこない。罪をかぶせて誰かを殺してもなにも解決しないんです。苦しいけれども過去のこと惜しむのではなく、未来のことを考えましょう。それが生き残った者にできる精一杯の努力です。

「何も解決しない」のだとしたら、なぜ諸外国では心神喪失を簡単に無罪の理由としないのか。同書をお読みになれば分かるが、これらの国では別に被害者や国民の溜飲を下げるためにそのような規定にしたわけでは決してなく、そうすることが社会にとってより有益だという判断のもとに法を作成または改訂し、運用しているのである。

事件が起きた時に、社会はそれに対する対応を求められる。その対応は、大まかに分けて次の三つとなるだろう。

  1. 被害者の救済
  2. 再発の防止
  3. 加害者の「修復」

残念ながら、日本の刑法システムは、これらの目的がいずれも曖昧で、1に至ってはほとんど何もなされていない。刑法三十九条抜きにしても不備が大きいのに、刑法三十九条の適用は残った2および3をも「さじなげ」してしまう。そこに問題がある。2003年成立の「心神喪失者医療観察法」により、辛うじて3が強化されたのみで、残りに関しては依然棚上げ状態だ。

事件に対して、社会が何もしない、となったら何が起きるか?

自分たちでなんとかしよう、ということになる。要するに私刑ということだ。刑事罰を免れた加害者を社会的に制裁したり(これは村八分という形で日本各地で今も見られる)、それがもっと進めば心神喪失者を「未然に始末しておく」とか。そちらの方がよほど怖くはないか。

結局社会が個人の集まりである以上、社会が与える恩恵が社会が課す負担より大きくないと、社会というのは成り立たない。「過去のこと惜しむのではなく、未来のことを考えましょう」というのは、実は社会の否定であり、社会にとって有害かつ危険な思考停止なのだ。

Dan the Sinner but not Criminal, Weird but not Insane


この記事へのトラックバックURL

この記事へのトラックバック
刑法三十九条は世界の非常識 死刑確定囚が常時百人の時代 前にも書いたが、(死刑の是非) そして、最後にして最も根源的な理由が報復だ。犯罪者は被害者を生む。そして、被害者は犯罪者に対して復讐をしようとする。それを国家が被害者に成り代わって果たす。もし、国家...
日本の法曹【賢太郎の物書き修行】at 2007年03月04日 11:52
この記事へのコメント
・・・。
精神病であろうと、他人を殺害した者を終身刑にし、治療と再教育を、厳罰を与えるべきです。それが本当の人道というものでしょう。
39条は被害者とその遺族たちを弄ぶことでしかない「悪法」です。いかなる者であろうとも、他人を殺害することは重罪でしょう。犯罪が「ある種の病気」であることは事実です。

CIAなどは、統合失調患者を使い、政敵暗殺に使うこともありますし。
また、人為的に幼少期から虐待し多重人格者を作り、利用している事例もあります。軍や諜報機関と関係する優生学精神医学権力組織は、悪魔や悪霊や宇宙人を演じ、患者まで政治に使っています。こういうこともあるわけですから。
Posted by MKウルトラっす ゲーレン&ダレス at 2007年03月11日 18:27
弾さんは日垣隆が知り合いだから共感しやすいんでしょうけれど、心神喪失者が免罪されてしまうのは、裁判の実務に問題があるからじゃないですか。弾さんが紹介されている「《犯人自身が、意識の重大な変調または障害の状態において罪となるべき行為をなそうという意図で、なおその状態を招来したとき》は有責とみなす(スイス刑法十二条) 」もよく読んでください。既に指摘されていますが、「罪となるべき行為をなそうという意図で」と弱い意志性が認められるとき有責とする規定です。これは日本の心神耗弱に相当する事例を表現した条文でしょう。日本の刑法39条は、心神耗弱で減軽を定めているのに対し、日垣隆が紹介した国々ではそういった事例に有責性を定める条文があるということです。あまり煽られないほうがいいと思います。
Posted by 一読者 at 2007年03月03日 01:48
「累犯障害者」

秘書費用でズラを買って刑務所に入っていた元衆議院議員の山本譲司氏が刑務所でみた障害者の現実を記した本です。
Posted by wacky at 2007年03月02日 08:45
「心神喪失及び心神耗弱」で責任が取れないので無罪扱いにしてください、というのは
理にかなっていると思います。

その代わり、責任を取れない奴は権利も著しく失わせるべきです。
Posted by X at 2007年03月01日 20:18
デサフィナード事件もそうだけど、大阪地裁か。
ザ・大阪地裁クオリティ。
Posted by nanasi at 2007年03月01日 18:58
蛇足ですが、この件に関しては間違いなく高裁で判決がひっくり返ると思います。
Posted by bob at 2007年03月01日 18:54
日本では「刑法三十九条」が万能の免罪符のように扱われていて、何か以上な事件があると必ずと言っていいほど弁護側は「心神喪失及び心神耗弱」による減刑を訴えてきますよね。それがいかに可能性が低くても。そうすると裁判の過程で精神鑑定などに時間や予算が割かれることになり本質を見過ごしたまま裁判が進む事態なども生じてしまっていると思います。
そもそも最近の脳科学や精神医学の研究からすると「責任能力」という概念自体が非科学的なのではないかと言う議論もあったはずです。日本の法曹関係者は法律の檻に閉じこもっていないで広く一般や他の分野の専門家の声に耳を傾けるべきです。
Posted by bob at 2007年03月01日 18:53
>《犯人自身が、意識の重大な変調または障害の状態において罪となるべき行為をなそうという意図で、そおその状態を招来したとき》は有責とみなす(スイス刑法十二条)
これについては、日本の刑法の解釈論でも同様の結論が導き出されています。それに、そういう規定があるということは、「犯人自身が、意識の重大な変調または障害の状態において罪となるべき行為をなそうという意図でなく、そおその状態を招来したとき」や、元々「意識の重大な変調または障害の状態」であったときは、やはり有責ではなくなってしまうことになりますね。

>心神喪失や心神耗弱には精神病質(人格障害)者を含まないと明言する刑法も増えている。
これは、「精神病質であるというだけでは当然には心神喪失や心神耗弱にはならない」という趣旨でしょうか。そうだったら日本の刑法でも同様に解されていると思います。
Posted by 名無し法学徒 at 2007年03月01日 18:49