2007年04月13日 22:30 [Edit]

書評 - ハーバードMBA留学記

本日はオフィスにお招き頂きありがとうございました。

そこで頂いた土産が、こちら。

最高の土産でした。


本書「ハーバードMBA留学記」は、岩瀬氏の人気ブログ、ハーバード留学記を書籍化したもの。となっているが、実際はブログをメモに、あらたに書き下ろしたものというのに近い。「コピペして印刷しただけじゃなねーか」としか思えないような巷にあふれる数多のブログ本は、岩瀬氏の爪の垢を煎じて飲むべし。

かといって、まとめすぎていないのもいい。まとめすぎてはblogの臨場感を損なう。ブログ本を出したいと思っている人は、MBAというものに全く興味がなくても本書を入手するべきだろう。1800円というのはblog本としてはやや高めだが、ブログ本の多くが高橋メソッドと見間違うようなでかい活字で200ページ弱であることを考えれば、300ページ超の本書がこの値段というのは実に良心的な価格である。

もちろん、本書は単に「blogを書籍化しますた」という本ではなく、「ハーバードMBA留学」というアジェンダがきちんとある。本書中でHBSと略記されるHarvard Business Schoolとは一体どのような存在であろうか。本書は副題で、これ以上ないというほど的確な表現でそれを示している。

資本主義の士官学校

Business Schoolは数あれど、確かにHBSは別格である。School抜きのBusiness一つ見ても、Harvard University運営のファンドは2兆円。単なる象牙の塔ではない。この象牙の塔には、実に切れ味のいい刃がついているのだ。

それでも、士官学校は戦場そのものではない。士官学校の卒業生というのは、戦時任官された「歴戦の勇者」の前にある程度卑屈ならざるを得ない。私自身、Business Schoolと聞いて真っ先に思い出すのが映画"Back to School (1986)"だ。これは功なり名を遂げた主人公が、息子と同じ大学に入るというコメディなのだが、そこの経済学の教授の「このビジネスの必要経費は」と問われた時に「役人への付け届けに、口止め料に....」といきなり「戦場経験」を話される。教授カタナシである。

しかし本書を読めば、HBSがいかに実地から授業が浮かないように工夫しているかがよくわかる。MBAでなくともビジネスで成功している者がいれば臆面もなく講師として招くし、また岩瀬氏も含め生徒達も学校しか知らないぼんぼんではない。ある程度実際のビジネスで経験を積んだ上に、それでも「もっと冴えたやり方があるのでは」という渇望を満たすべく授業に臨んでいるのである。

畳の上の水鍛?絵に書いた餅?捕らぬ狸の皮算用?いずれもごもっとも。それでもHBSは世界で一番本物に近いニセモノであることは確かだ。ニセモノにはニセモノのいい点がある。そこでの怪我も死亡もニセモノなのだ。「歴戦の勇者」は確かに強い。しかし強い以上に運だってよかったのだ。死なずに経験を積めたらその方がずっといいに決まってる。ましてや、HBSでは環境は「ニセモノ」でも教えているのは本物の歴戦の勇者達なのだから。

それでもなお、HBSに限らず Masters Schools には課題が二つあると考える。

一つは、学び場としての質。確かに一流校では、一流の人々と一緒の時を過ごす。これがどれほど人々を磨くかというのは、その場にいないとわからない。しかしその「一流体験」が全部とまでは言わぬまでもかなり体験できる場が今はある。言わずもがな、blogosphereである。

すでにGeekの世界では、こちらの方こそメインの学び場になりつつある。そしてそれがどれほど凄い学び場かというのは、ちょっとRSSを購読すればわかる。学校に行っている暇があったらblogでTBかけて道場破りして来いと極論したくなるほどだ。そして今やblogosphereはGeeksたちだけの遊び場にして学び場ではない。「学校」と名が付くものは、すべてblogosphereからの挑戦を受けていると言ってもいい。「物理的に交流するの場は、YAPCじゃないが時々でいい」という意見だってある。これなら費用は数千万ではなくせいぜい数十万だ。

もっとも、一流校の方はむしろ価値が高まるという意見もありうるし、実際トレンドはそうなりつつあるようにも見える。知の二極分化といえば言い過ぎかも知れないが、無料の次はいきなり数千万の学費と偏差値75という時代がやってきつつある。

そこで考えなければならないのが、より深刻なもう一つの課題である。

士官学校では、士官というのは何のためにあるのか、きちんと教えているのだろうか、という問題である。

より大きな手柄を立てるため?それは違う。

士官というのは、一人でも多くの兵卒を生きて返す、ただそれだけのために存在するのだ。

HBSは果たしてそれをきちんと教えているのだろうか。

卒業生たちの行く末を見ると、その点に関しては多いに不満と不安を感じずにはいられない。

確かに彼らは実に多くの手柄を立てている。サラリー何百億円という話が本書にも何度か登場する。しかしそれは手柄のための手柄であって、兵卒のためになっているのだろうか。

私は彼らのサラリーの額には大して興味がない。しかし彼らがそのサラリーを何に使ってきたには興味がある。が、それはほとんどが闇の中であり、公開されているものもそれほど感銘を受けるものはあまりない。

HBSは一番大事なことを教えそびれている。本書を読んだ限りではそう思わざるを得ない。

しかし勘違いしないで欲しい。賢明な生徒は教えられないものでも学び取ることが出来るのだ。岩瀬氏はそのうちの一人であると確信している。彼が卒業後に選んだのは、生保。手っ取り早く手柄を立てるには最低の職域といっても良いだろう。今日作って来年には会社ごと売れました、というものではないのだ。ある程度の感覚をつかむだけで十年以上かかってもおかしくない。「卒業」するには、さらにそれ以上の年月がかかるだろう。幸運を祈らずにはいられない。

結局のところ、学校というのは掛け算なのだ。いくら学校が優れていても、生徒が0なら結果も0。本書が教えてくれるのは、実に単純にして明解な真理である。しかし、この真理は知っているだけでは役立たない真理でもある。血肉になって初めて自らを助けてくれる、そんな真理である。

その真理の一端に触れる金額として、1800万円ではなく1800円というのは安い。しかし、読書もまた掛け算である。1800万かける0も0なら、1800かける0も0。本書から何が得られるかは、読者のあなたが決めるのである。幸運を祈る。

Dan the Dropout


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「ハーバードMBA留学記」に本書を頂いた。 生命保険入門 出口治明 この一年、いや数年のうちに読んだ中で、もっとも目から鱗を落としてくれた本であった。
書評 - 生命保険入門【404 Blog Not Found】at 2007年04月16日 12:25
この記事へのコメント
「特殊な訓練をうけてきたんだ♪」

って歌があったなあ。
Posted by ホゲ at 2007年04月16日 23:13
ありきたりですが、ミンツバーグさんと弾さんは気が合いそうですね(^^;

理論だけでなく、実践だけでなく、両方身につけようと思います。GDBAのカリキュラムを履修するものとして。
Posted by ひろ at 2007年04月15日 00:14