2007年05月18日 05:55 [Edit]

書評 - 前頭葉は脳の社長さん?

そのすごくなさが、すごい。

なにがすごいかというと、その腰の低さ。


本書「前頭葉は脳の社長さん?」は、前頭葉に関して今までわかっている知見を、最前線で研究している研究者の一人である著者が一般向けにまとめたもの。

目次

  • 第1章 前頭葉は脳の最高経営責任者
  • 第2章 前頭葉損傷による症状
  • 第3章 前頭前野は脳の重役室
  • 第4章 企画担当重役 - クールな外側前頭前野
  • 第5章 営業担当重役 - 儲かって何ぼの底部前頭前野
  • 第6章 総務担当重役 - 調整役の内側前頭前野
  • 第7章 特別仕様の前頭前野
  • 第8章 前頭葉から意思は生まれるのか

「研究者の一人である著者が一般向けにまとめたもの」なのだが、著者の坂井先生、のっけからこうである。

まえがき
うーん。まずこの本は、脳科学はすごいぞ、という本ではありません。脳はここまでわかったのだから、こーんなことも、あーんなこともイロイロできるかもしれない、という夢を語るわけでもありません。ましてや読んだだけで「脳が鍛えられる」本でもありません。

なんかいきなりごめんなさいごめんなさいモードである。しかしこの後にこう続く。

この本ではまず、脳の研究者たちが日々どのような実験をしているかを紹介したいと思います。地道な実験にこそ真実があり、それこそが本当の脳科学の面白さだと筆者は信じています。

この芯の強さは、本書の最後まで共通している。しかし、それ以上に思わず苦笑してしまうのが、そういったすぐ後に、

でも勢い余ったらごめんなさい。

と書いてしまう著者の腰の低さ。商人には珍しくないこの姿勢も、研究者となるとむしろ珍しい、むしろ傲慢の一歩手前なほどの自信をみなぎらせるのが、第一線の研究者たちの肖像だ。それくらい自信をみなぎらせないと、科学でも技術でも第一線に居続けるのは難しい。彼らの堂々たる姿勢は、自分を奮い立たせるための自己暗示でもあるのだ。

その自己暗示のありようが、時に科学を超えた傑作を生む。「パンダの死体はよみがえる」、「解剖男」、そして「人体 失敗の進化史」を著した遠藤秀紀はまさにその典型だろう。遠藤節は遠藤節から生まれたが、研究を超えた味わいがある。

本書の坂井節は、ある意味その対局にある。なんだか二言目には「えらそうなこといってすみません」という声が聞こえてきそうな感じなのである。参考文献ではなく本文の方で「進化しすぎた脳」をはじめとするブルーバックスの脳関連の本をさりげなく売り込むお茶目さをなんというべきか。遠藤が「かっこいい求道者」なら、坂井は「かわいい求道者」とでもいおうか。

しかし、見た目がどうであれ、求道者であることはきちんと伝わる。

おわりに
結局、現時点における脳科学は完全無欠な美しさとはほど遠いものなのです。唯一の真理を追い求めるのが研究者であるとはいえ、現状では自分の説を唯一の真理であると信じ込む事は危険極まりない行為なのです。でもこのどうしようもない矛盾が私は好きです。

この最後の一文が、坂井節である。「このどうしようもない矛盾」とは坂井節そのものでもあるのだから。

なんとcharmingな人なのだろう。脳科学に限らず、科学はそれ自身で面白いのに、その上科学者が面白いのだから堪えられない。本書はどうやら坂井先生の初単著のようなのだが、遠藤節と同じように次の坂井節を期待せずにはいられない。

Dan the Brand-new Fan Thereof


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中公新書編集部より献本御礼。 心の脳科学 坂井克之 その曖昧でおとなしい書名と、そして典型的な中公新書の地味な装丁からは想像できないほど、痣やかで艶やかな一冊である。なにしろ、修辞抜きで心の動きを観ているのだから。
もはや心理物理学 - 書評 - 心の脳科学【404 Blog Not Found】at 2008年12月11日 17:10
書評 - 前頭葉は脳の社長さん?(404 Blog Not Found) を見て興味を持ったので。 『前頭葉は脳の社長さん?/坂井克之/講談社ブルーバックス/2007』 著者:認知神経科学 評価:前頭前野の役割分担と意識のしくみを知る・良書 続きを読む
前頭葉は脳の社長さん?−意志決定とホムンクルス問題(講談社ブルーバックス)【新書中心主義−心理学者の読書日記(livedoor館)】at 2007年11月03日 01:08
この記事へのコメント
「勉強しまっせ」さん、
ほんとだ。直しました。
#ひっこしのサカイはどっちなんだろ。
Dan the Typo Generator
Posted by at 2007年05月19日 14:34
酒井と坂井が混在してます。
Posted by 勉強しまっせ at 2007年05月19日 06:51
いまんとこ「どうしよもね〜」。でも好き。だから研究。こういう姿勢は大好きです。
マルチメディアとかWEB2.0とかさも「答えありそ〜」でも「ない」よりはるかにいいですね。

「社長さん?」という題も秀逸。

「シャッチョーさんっ!」なら尚秀逸。

blog49 勝手に変作
Posted by blog49 at 2007年05月18日 08:13
hyukiさん、
いつもりがとうございます:)直しました。
Dan the Typo Generator
Posted by at 2007年05月18日 07:25
s/研究者でるとはいえ/研究者であるとはいえ/
Posted by hyuki at 2007年05月18日 07:15