2007年05月28日 00:30 [Edit]

書評 - 「法令遵守」が日本を滅ぼす

本書を読む、あるいは読み返すには、格好の機会かも知れない。

切込隊長BLOG(ブログ): たけくまさん、こっちを騒ごうよ(笑)
まだありもしねえ危機を喧伝するより、地裁で変な判決が出たほうがよほど影響が大きいと思うんですけどねえ。 http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070526_music_storage_illegal/

本書「「法令遵守」が日本を滅ぼす」は、その法令遵守の走狗であることが期待されている検事でもあった著者が、日本においては法を守ることが必ずしも社会を守るどころに結びつかず、それどころか社会を損ねる結果につながっていることを指摘し、その理由を解説し、それに対して我々がどうしたらよいかを提案した本である。

目次 - http://www.shinchosha.co.jp/book/610197/より抜粋
  • 第1章 日本は法治国家か
  • 第2章 「法令遵守」が企業をダメにする
  • 第3章 官とマスコミが弊害を助長する
  • 第4章 日本の法律は象徴に過ぎない
  • 第5章 「フルセット・コンプライアンス」という考え方
  • 終章 眼を持つ組織になる
  • ムリ、ムダ、ムラを排した簡潔な構成は、新潮新書の面目躍如。本をじっくり読む時間も習慣もない人にも、というよりそういう人にこそむしろ薦めたい。

    200ページ弱の本書を瞬読した瞬間に出た感想は、「なぜ法律もこういう風に簡潔に書けないのか」という、我ながらプログラマーらしいと思う一言。なぜ法令遵守が駄目なのか?法令そのものが駄目だからだ。どんなに優れたユーザーでも、いや優れたユーザーであればこそ、駄目プログラムは避ける。そしてOSが駄目ならOSを回避して直接ハードウェアを操作するようなプログラムを作る。MS-DOSの時代がそうであったように。

    そう。日本が曲がりなりにも滅びずに来たのは、プログラムがよかったからではない。ユーザーがよかったからだ。ところが、今やプログラムを使わずに問題を解決するユーザーは悪人ということになってしまった。駄目なプログラムを使って駄目な仕事をしていも、それを使っている限り悪人にはならない。本書の主張をプログラマーが一段落でまとめるとそういうことになる。

    いちいちうなずく点の多い本書だが、終章の主張だけは異議を申し立てたい。それは著者「ではどうすればよいか」の主張の主眼が、「眼」にあることだ。参考文献に「眼の誕生」を上げるほどこの「眼」というのは重要なポイントで、その主張そのものには反対しないのだが、しかし眼は二番目に重要な点であって、最も重要な点ではない。

    最も重要な点、それは「眼」ではない。「手」である。眼にかんしていえば、ヒトは生物トップではない。「脳」に関しても、ヒトより巨大で複雑なそれを持つ動物は複数ある。しかしヒトを凌駕する手をもつものは、この惑星には存在しない。ヒトは眼でも脳でもなく手で世界を制覇したのだ。

    日本の法律を振り返ると、手の役割である「使う」ということをあまり考慮していない。少なくとも、市民の手になじむ道具ではない。誰が使って来たかというと「官」であることは言うまでもないだろう。法令遵守は、法の「高速開発」があってはじめて「使える」手法なのに、法を手に馴染むものにしていくという工程が、日本ではないがしろにされている。

    美しい国なんぞいらない。使える国があればいい。国を使って国民が勝手に国を美しくしてくれるはずだ。そして、国を使うということは、法を使うということなのだ。

    法曹の中に著者のような存在もいることに「法曹も捨てたもんじゃない」と思いつつも、著者のような優れた眼を持つ人々が、手に馴染む法を作る方に行かないことこそが、日本を滅ぼしているのではないだろうか。

    Dan the Coder


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    日常において法の網の目で生活しているにもかかわらず、法というものを学ぶ機会は本当に少ない。大学で法律学等を専攻しなければ学ぶ機会は一生無いといっても過言ではありません。法律に対しての無知は、立法府の横暴を見逃し、改正や修正等においても的を得ない批判や騒ぐ
    [法律]法律が法律である理由は誰も答えられない。【keitaro-news】at 2009年12月08日 05:53
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    コンプラ・・・【blog50-1】at 2007年08月01日 10:34
    久しぶりの読書机です。今日は電車でのお出かけついでに移動時間を使っての読書となりました。今日の一冊はこちらです。 「法令遵守」が日本を滅ぼす (郷原信郎著、新潮社) 本書は、検事という立場で司法に携わる筆者が、日本における「あるべきコンプライアンス像」の本...
    法令遵守:コンプライアンスが招く思考停止【コンサルタントのネタモト帳+(プラス)】at 2007年05月28日 12:50
    カラオケ法理って始めて知りました。無知ですみません。画像ちゃんねるの管理人を逮捕したのもカラオケ法理が背景にあるんですかね。カラオケ法理とは、以下の2点を満たせばカラオケ利用者の代わりにカラオケ店を侵害主体と見なす un1
    憂鬱な判決【コマネタ帳】at 2007年05月28日 10:46
    この記事へのコメント
    ものすごく身近な問題だったので・・・不祥事とか。
    Posted by blog49 at 2007年06月29日 10:24
    ある分野の条例を全国の都道府県について横断的に調べたことがあるんですが、基本的にはほとんど同じ内容なのに、理解しやすく読みたくなる条文になっているところと、逆に「コレ他人が読むと思って書いてねーだろ」というところがあり、書いた役人の賢さ、そして知事の政治姿勢が如実に表れるもんだなあと思った次第。
    Posted by cepsorp at 2007年05月31日 00:18
    変な法律、使えない法律が増えるのは、何か不祥事があると、「規制法令がないなんて、お上は何をしとるのか!」と言ってすぐ騒ぎ立てる一般人の方にも原因があると思います。
    Posted by bu at 2007年05月28日 08:40
    漏れのないルールを作ろうと 傲慢なんですよ。ルールなんて 最初からざるでいい。ざるで救えないものは運用や道徳で十分かと。シンプルに設計しても複雑になるのに、複雑に作ってさらに複雑にする。木があれば、バットは作れるのに、バットを最初から作ろうとする。バットは野球しか使えない。違う使い方をする人もいるでしょうけど。法はむき出しの木で十分だと思うのです。意外な解釈も判例として。いつもどおりの判例なら判例主義も意味ないですし。
    Posted by blog49 at 2007年05月28日 08:22
    法律単体でなく、そのインタプリタたる裁判所もセットで考えないとダメかもね。
    Posted by な at 2007年05月28日 03:23
    さっそく、有難うございました。
    私にも理解できます。:)
    Posted by くま at 2007年05月28日 01:07
    ひろさん、
    立法<こそ>必要だと考えています。
    くまさん、
    ちょっと書き換えてみました。今度はどうでしょうか?
    Dan the Nullingual
    Posted by at 2007年05月28日 01:03
    すみません。以下の部分が少し分かり難いです。

    >日本においては法を守ることが必ずしも
    >社会を守るどころか損ねることにには
    >つながっていないことを指摘し、

    Posted by くま at 2007年05月28日 00:58
    立法にもアジャイル開発が必要ですか(^^;
    Posted by ひろ at 2007年05月28日 00:56