2007年06月20日 08:00 [Edit]

書評 - 人類は衰退しました

これを見てすぐ注文したのだけど、到着は昨日。

レジデント初期研修用資料: 「人類は衰退しました」感想
以降読んだ人限定、ネタバレ全開で…。

結論からいうと、blogではネタバレしようがない作品。

なぜなら、これは子猫の写真集と同じだからだ。


本書「人類は衰退しました」は、口で説明すれば、衰退していく現人類と、それに入れ替わるように登場した新人類の交遊録、ということになる。ただし本書の世界では、現人類は旧人類であり、妖精さんたちこと新人類が現人類。Sci-Fiの王道中の王道だ。

ところが、本書は、「ラノベ」ということになっている。まだ私が「ラノベ」が何たるかを「こんなもんでいかがでしょうか」というほど多く読んでいない。少なくとも 涼宮ハルヒは全然ピンと来なかった。が、本書は「わかった」。

本書において、設定はどうでもいい、というわけではないが、主役ではないのである。この点において本書はハードSFの対局にある。本書の価値は、本書に描写された世界を眺めて楽しむ、というよりなごむことにある。「ネタバレしようがない」というのは、そういうことだ。ぬこの解剖学を滔々と語ったところで、それはぬこの写真集のネタバレに少しもならないのと同じこと。

しかし、本書は「本物の子猫写真集」でもある。ネズミーアニメやきてぃちゃんではない。子猫を子猫たらしめるためには、和毛の一本一本まで忠実に丁寧に再現しなければならない。本書はそういう描かれ方をしている。以下、ある意味本物のネタバレ、というより覗き見。主人公(名前はない!)が妖精さんたちと最初に出会うシーン。

「ごめんなさい、こんなつもりではなかったんですけど、こんなことになってしまって。」
 三人は涙目でわたしを見上げてきます。
 嗚呼、いたいけな瞳。
 スイッチがオンになっちゃいそうです。
 「ええと、何か召し上がりますか?それとも--」エスプリの効いた冗談で場を和ませようと試みます。「あなたたちのことをわたしがおいしく食べてしまいましょうか?」

でも調停官が主人公でよかったね、妖精さんたち。medtoolzさんだったらとっくにホルマリン漬けだったよ:-P

こういうゆるい世界をゆるがなく稠密に描写する著者の才能は大したもの。続編を早く眺めてみたい。しかし、なぜ稠密描写が可能になったかというと、過去に膨大な質量の作品が背景にあるから。これらの作品を見聞きしているのとしていないのでは、作品をどれだけ楽しめるかが全然変わってくる。子供でも則楽しめる、というより子供でないと楽しめないネズミーワールドやサンリオワールドと、そこが決定的に違う。

だから、ラノベ、というか少なくとも本書は、同じお菓子でも、おやつではなくフルコースの後に出てくるデザートといった趣きがある。そういう本が日本で売れている、ということは、いかに普段日本人がうまいものを食っているか、ということの傍証になると思う。

一つ言えることは、人類が本当に衰退した後では、本書のような本は誰も書き下ろせないだろうということ。需要そのものが消滅しているし、妖精さんたちも読まずにペーパークラフトにしてしまうだろうから。

というわけで、アドレナリンにどっぷり浸かって、交感神経がぱんぱんに張りつめている人は。是非ご一読を。増刷も済んだようなので今は入手しやすくなっているはず。

Dan the Kittiphilia


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というわけで誕生日。築25年という憂鬱
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この記事へのコメント
実際ロミオを知ってる人や普段ラノベを読んでいる人でないと、手に取るまたは買うというとこまでいかないでしょう。
それを「普段うまいものを食っている」と日本の出版物の中で考えるかとは難しいのでは?
Posted by シジナ at 2007年12月27日 00:26
ロミオだから
裏は黒々なんじゃあないのだろうかと思ってしまう
Posted by ありー at 2007年06月22日 02:15
ロミオを知らない人は『なんだこの文章?』と思うでしょうね
ロミオを知っている人は、どこまでが本気なのが判っている
Posted by 1 at 2007年06月21日 07:01
子供でも則楽しめる→即
ですね。
この本、面白そうですね。
Posted by ごろー at 2007年06月20日 19:25