2007年06月27日 13:00 [Edit]
無限は君が思っているほど大きいとは限らない
この「可能無限」という言葉は、120% Fasionable Nonsenseだと考えている。それも、人畜無害なものではなく、「水からの伝言」なみかそれ以上に危険な。
My Life Between Silicon Valley and Japan - フューチャリスト宣言や茂木さんのことやはてなのことなどを酔っ払いながら書いてみる茂木さんが最初に「自分が書いた文章」を披露しながら、「自分は可能無限の世界を愛していて、人間の有限性というのを受け入れることが未だにできずにいる。だから物事を決められないのが自分の欠点なんだ。弱さなんだ。そういう秘密を頭に浮かべながら、この文章書きました」みたいな話をしていた。
茂木は可能無限を以下のように定義している。
フューチャリスト宣言 p.156最近のマイブームに、「可能無限」という概念があります。もともと数学用語で、自然数を1、2、3...と数えて行ったときに、どんな大きな数(n)を考えてみても、さらに大きな数(n+1)を、可能性としてどこまでも提示できるということ。可能無限は、「もう一つ増やす余地がある」という意味での「空白」によって常に支えられている。
「茂木センセ、それ、『可算無限(countable infinity)』のtypoでっか?」で片付かない問題が、ここには潜んでいる。なぜなら「あなたたちには無限の可能性があります」と大人が言う時には「無限の可能性があるのですから、あなたが望む未来もその中に含まれています」ということを行間で主張しているからだ。要はそれが本当かどうか、ということだ。
Q:可能性が無限として、その中にあなたが探しているものは必ず見つかるか?
私の8歳の娘にもわかる反証をしてみよう。ある国では、偶数の番号札を持っている人には必ず年金を出す事にしている。出生時に番号札は必ず渡される。あなたもそれを持っている。そこには見間違えようのない自然数が書いてある。あなたは年金をもらえるだろうか?
そこに奇数の番号が書いてあったら、答えはNo、だ。国が無限の予算を持っていても、あなたが年金をもらうことはない。これは、「無限の可能性が、解の存在を保証しない」一番トリビアルな例。
この設問、実は私が積極的不登校を決めた理由の一つになっている。上記の問答を教師としたのだ。彼は数学の教師だったのだが、これを彼は「屁理屈」の一言で片付けた。私にとっては切実な問題でも、彼にとっては、授業の妨げにしかならない揚げ足取りというわけだ。
後に私は、これをもっとシステマティックにやっている例を知る事になる。イスラエルの電話番号だ。大学生だった時に、パレスティナ人の友人に聞いた話なのだが、彼女によると、かの国では、電話番号を見るだけでそれがユダヤ人のものか否かが分かるのだそうだ。それが上記のメソッド。「市民」に「可能無限」を保証しつつ、非ユダヤ人を完璧に排除するシステムを、彼らは実にあっさり構築したわけだ。
イスラエルの名誉のために言っておくと、これは20年前の話であり、今もそうなのかは、そもそも本当にそうだったのかはわからない。しかしここで問題にしたいのは、イスラエルの人権侵害ではない。
私は、物心がついた時から「偶数の世界」(even world)で、奇数番号(odd number)を持っているという感覚をずっと抱いて来た。世の中には何もかもあるが、自分の居場所だけはそこにない、という感覚。それが錯覚であればいいのだが、そういう世界の実装の仕方を私はあまりに多く知っているのだ。
最も簡単なのは、偶数を装って生きる事。猫ならぬ一をかぶって過ごすのは、それほど難しくない。しかしそれを四六時中やっていては、膚も心も荒む。私はここにいてはいけないのに、世の中に嘘をついてまでここにいる。その結果その場所の正当な持ち主の居場所を奪っているのではないかという罪悪感さえ抱くようになる。
私は、少なくとも「君たちには無限の可能性があります」という詭弁を言いたくもないし、ましてやそれが詭弁であることすら気がつかないほどの莫迦にはなりたくない。
しかし、「じゃあどうすればいい」という質問を満足する答を持っているわけでもない。
一つヒントになるのは、世界も自分も定数ではない、ということだ。偶数しか場所がない世界が、奇数を欲するように変わることだってあるのだ。私にとって一番の驚きは、20代で妻子を得たこと。もし世界も私も変わらなかったのだしたら、それは「数学的にありえない」はずだったのだ。
どちらがどう変わった結果、そのありえないはずのことが起こったのか、私には未だにわからない。それでも一つ言えるのは、そのありえないはずのことが起こったのは、私の諦めが悪かったからだ。
しかし、「だから君も諦めるな」と言えるほど私は君のことも世の中のことも知らない。私が居場所を見つけたことは、君が居場所を見つけられることの保証にはならない。少なくとも数学的には。それでも、「あんな奴でもうまくいったんだから、俺にうまくやれないはずはない」という気持ちを抱く人はゼロではない、はずだ。だからこんなことを書いている。
Dan the Being Not Even Odd
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そんなことはありません。"potential infinity" Aristotle で検索することで、その事実は容易に確認できるはずです。
有名なゼノンのパラドックスに対するアリストテレスの反論などが、アリストテレスが可能無限について言及した部分となります。
野矢氏が「可能無限」「実無限」なる言葉を作り上げたというのは、哲学界における氏のポジションを考えれば、ありえない話です。
可能無限は、英語では potential infinity となり、アリストテレス以来の歴史を持った概念です。
数学の世界では、特に19世紀末、カントールの無限論の出現に関連して、カントールと対立した立場の数学者が立脚した無限に対する見方になります。
茂木氏の説明は、その通俗的な説明としては問題のないものなので、可算無限云々の部分はあまり良くないように思えます。
また、1998年以前にも用例はあたりまえに存在すると思います。こういう用語の用例を探すときに、新語でもない限りはwebに頼るのは全く間違っていると思います。
「可能無限」はアリストテレスが言い出したという説もネットでたくさんみつかるんですけど、もしかしたら「可能無限」をでっちあげた人が言い出した説が広まってるだけなのかもしれませんね。
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茂木を批判してるのかしてないのか・・・
可算無限のTYPOでっかで済まない って書いてあるのにどう誤読されたんですか?
ノーベル賞を取りたいなどなど、
表面的なものはいくらでもでる。
ところが「望むものに対するクエスチョン」が
必ずといっていいほど抜け落ちる。
なぜか?
数学的、論理的に捉えられる「可能性」という言葉と
「願望」というはなはだ抽象的な言葉を同等に扱うからだ。
この手の問答が「屁理屈」に陥りやすい原因はそこだ。
実無限=無限長のarray=静的な対象としての無限
女性運動の壮絶な歴史とか聞いてるとこれですよね。
これは可能無限なんて信じてなかったけど結果的にみつかったよって話?
それともいまだ彷徨ってるよってことかな。
(by カントール)なんで、
無限集合論的な物の方が近いと僕は感じる。
有限の籠の中から発する、無限の未来というか。(よくわからナぬガ
可能が無限でなくて、可能から発生する条件分岐の樹のでかさというか。
早い話紙を100位折ると宇宙の大きさに達するという事だ。
と電波的な事を書いてみるテスト。
あえて茂木さんの話を誤読すると、
自然の法則は無限にあるということなのでしょうか?
もしかしたら、宇宙が膨張しているという説のように、
「自然の法則も増え続けている」とか?!
何でこんなことを考えたのかというと、
研究が進めば、科学者の仕事はいずれ無くなるのかもしれない、
と考え、あるいは、そういう意味でゴールが近いのなら、
科学者は科学の知のマップみたいのなものを考えているのかなあ、とか、
社会の中で科学技術が果たせる限界とか考えているのかなあ、とか。
茂木さん的立場で考えると、まだまだ可能性があるから、
科学の限界なんて考えなくてもいいかなあと思ったりします。
でも、(僕が勝手に考えている)小飼さん的立場で考えると、
科学の限界について考えるのも、誠実な科学者の態度かなあと思ったりもするわけです。
支離滅裂な文章になってしまいました。失礼しました。
有限性と無限性のはざまの不思議について語ってるんであって
無限の未来とか、そんな安っぽい文脈を提示してるんじゃないよ。
人の文章を恣意的に一つの(本人の本意ではない)文脈に回収して
批判するのはどうかと思う。
もうバークレイに戻ることもできないし
さっそうとしたスーツ族になることもできない。
フィールズ賞もノーベル賞もチューリング賞もないだろう。
ああ大人になるってってあきらめることなのですね・・・
家庭教師をしていた頃、中学3年生に高校に行かなかったときの予想といったときの未来予想図を描きます。大人がしてあげられるのは未来の現実的な選択肢を示してあげること。そしてかつ夢を抱かせること。
まあオプチミストかつヒュー茶リストのお二人ですし、少数派ですからがんばって「可能無限」を語っていただきましょうっ。
あなたが国を変え、奇数の番号札の人が年金をもらえるようにする。
はアウトですか?
>可能性が無限として
なので