2007年07月12日 04:00 [Edit]

書評+画評 - ぼくらの

今年見ている、そして読んでいる作品の中で最も痛い作品。

原作も、アニメも、ノヴェライゼーションも。


本作、「ぼくらの」の設定は、至ってシンプル。ひと言で言ってしまえば、十五少年漂流記ならぬ「十五少年犠牲記」。

IKKI 連載作品紹介−ぼくらの 鬼頭莫宏
とある夏休み――自然学校にやってきた15人の少年少女。そこで、小学生の宇白可奈を除く14人の中学1年生は、ココペリと名乗る謎の人物と契約を結んだ。その契約とは、地球を守るため巨大ロボット・ジアースに乗り込むこと。ただし、このロボットを操縦するものは、その代償として命を落とす。しかし戦わなければ、地球は滅亡する――!!

本作は、実に外道な話である。12,13歳の男女に殺し合いをさせるというだけでも外道だが、そのルールが徐々にしか明らかになっていかないという点において、その冷酷さは「バトル・ロワイヤル」をも上回る。同作ですら、ルールの説明は「主催者」によって最初になされているのに、本作では、「負ければ世界が消滅。48時間以内に決着しなければ不戦敗、しかし勝ってもパイロットは死ぬ」というルールは、二人目の犠牲者が出たところでやっと明らかにされる。しかも彼らが誰と戦っているかということまで明らかにされるのは、さらに話が進んでからなのだ。

本作品のキモは、「思春期に入って間もない少年少女に、世界を知らせないまま世界を背負わせる」この設定にある。この設定に沿ってさえいれば、あとは委細だ。この設定を思い立っただけでも、鬼頭は鬼才だ。

もっとも神はディテールに宿るので、この点においては原作にもアニメにも小説にも言いたいことは多々ある。

まず、原作の絵。正直、もう少し画力が欲しい。極力漫符を排しているものの、それでも汗が漫符的。逆に、涙をこらえている姿がそう見えない。誰の表情にどういう意味があるのか、絵ではなく主人公たちの独白を読まないと飲み込めないというのは、漫画としては小さからぬ欠点だと思う。人物の輪郭を、一筆ではなくデッサンの鉛筆のように重ね書きしているのも、作者の持ち味、というよりは、作者の自信のなさに見えてならない。佐藤秀峰あたりが本作を描き直したらどうなるのかとふと思った。浦沢直樹だとあざとすぎる絵になるような気もする。

私は、このあたりの画力不足が補われているだけでも、アニメ版はありがたい。ジアースの途方もない大きさと人類の理解を拒絶する超絶さやコエムシの得体の知れなさは、原作よりアニメ版の方が格段に上だと思う。指名されたパイロットに「死化粧」が現れる設定はアニメ版オリジナルだが、これは原作に逆に取り入れてほしいほどの好設定ではないか。

その一方、アニメ版は、ジアースやコエムシといった異世界由来のものの質感が向上した一方、もう一つの重要な異物、すなわち主人公たちの心と体を、あまりにわかりやすくしてしまっているようにも感じる。特にチズの扱いがそうで、あれは原作の方がよかった。あの「ためらい絵」も、あの時には抜群の効果を発揮していた。チズは「わからない」まま描くのが正しい。チズ本人だってわからないのだから。あの年齢の「自分の心と体のわからない感」というのは、その年を経た者であれば誰もが覚えているのに誰も再現できない。それを描こうとしただけでも鬼頭は果敢だ。

だから、アニメ版に憤る原作ファンの気持ちも痛いほどわかる。が、私には「ぼくらの」の設定が、原作者を含め誰か一人の手で描き出すにはあまりに大きなものにも思える。アニメ版(というより森田版というべきか)にしろ小説版(というより大樹版?)にしろ、少しずつ違う描き方があってもいい、というより、そうしないと「描き落とし」が出てしまうのではないか。

森田宏幸のブログ 弁解
これだけは約束できます。「子供たちはなぜ死ななければならなかったのか?」という原作最大の謎から私は逃げません。

これがある限り、アニメ版を支持せずにはいられない。

それにしても堪え難いのは、本作品の入手困難さ。原作は品薄で、第一巻はAmazonですでに在庫切れだし、アニメ版は地上波では首都圏と名古屋と大阪でしか見れない(ネットをまさぐるとそれほどアクセス困難ではないけれども)。各位とももう少し配給というものを考えてほしいなあ。

今、完結が最も待ち通し作品。「楽しみ」というのとは違う。読んでいて、また見ていてこれほど辛い作品というのは下手すると「火垂の墓」以来かも知れない。しかしいったん見てしまった者は、もう目を離すことが許されないのだ。ココペリに「騙された」少年少女たちが、ゲームを放棄できないことに似て。

Dan the Fan Thereof


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なるたるを見たことがある人にはすぐに「鬱な作品」ということが絵でわかってしまう。そんな作品。 15人の少年少女が、思い入れのある椅子と同じ形の「マガジン」に装填され、 ランダムに巨大ロボットのパイロットになっていく。。。そして、一度パイロットになったものは死
「ぼくらの」を見て【connvoi_tyouの日記】at 2007年07月16日 01:16
ニコニコ動画(RC) ‐朝鮮中央放送 ニュース 逆再生版 http://www.nicovideo.jp/watch/sm549945 気合いを入れてしゃべると子音が強くなるので 逆再生すると弱い母音+強い子音+弱い母音+強い子音・・・となり うまく一つの音に聞こえないんだと思うんだがどうであろう...
ここは酷い逆再生ですね【障害報告@webry】at 2007年07月13日 01:13
この記事へのコメント
アニメがあんな形で終了してしまった今、
Danさんの評価をぜひ聞かせていただきたいと思います。

個人的にはアニメ「ぼくらの」は
なかったことにしてほしいと思っています。
Posted by Dursan at 2007年09月28日 18:10
atさん、画とか描いたことあるかな?
ああいう線を自信がないって捕らえるのは、
あながち間違いじゃないよ。
下書きで満足する素人みたいなもん…てわかんないか^^;
聞いててもわからないと思うので、たくさん描いて実感するのが、一番だと思います。
Posted by ねずみ at 2007年08月01日 00:36
資本金 500円
動力 命
会社の倒産か、僕らの死か。
Posted by 通りすがり at 2007年07月14日 00:41
Danさん、お久しぶりです。

原作のファンですが、アニメ版がまた別の良さを持つことに成功していたとは予想外でした。チェックしてみます。
Posted by dante at 2007年07月13日 23:32
あの絵だからこそいいんだけどなー
線は初期作品から見ていればわかるが、作品を積み重ねた結果ああなった。自信がない云々は正直意味不明、妄想の領域。

実際の人間だって表情一つで内面を見とおせるわけじゃない。
漫画的表現には即してないかもしれないが、わかりやすい絵=上手い絵ではない。
単純に一つの意志を示すのではなく、色々な感情が読み取れる表情を書けるのがいいところかと。
逆にアニメは表情を単純化しすぎ(改変はむしろストーリーの方が目立つが)、そもそも作画が崩壊しすぎ。
細かな変化よりもわかりやすさを求めるならそれもありだが、個人的には支持できない。
Posted by   at 2007年07月13日 08:28
『なるたる』はオンラインで読めますよ。

http://comics.yahoo.co.jp/kodansha/kitoumoh01/narutaru01/shoshi/shoshi_0001.html
Posted by ほるほる at 2007年07月12日 22:52
鬼頭作品なら『なるたる』がオススメですよ。
絵も今よりきれいでアニメっぽいです。
でも絶版なので、古本屋かオークションでしか手に入りませんが。
Posted by のり夫 at 2007年07月12日 21:46
Mr.Fanhongこれを読んでどうやって
そういう考えになるのかわかりません
Posted by 自爆テロを行うイスラム過激派と神風特攻は一緒 at 2007年07月12日 20:54
永井豪先生のチェス人間の話を連想するんですが。
Posted by おやじです at 2007年07月12日 15:58
1巻は重版が明日出る予定ですよ
Posted by makimaki at 2007年07月12日 13:46
実物を見ないでここに書いてあることだけで考えると、
図式的には、「自爆テロを行うイスラム過激派」みたいなのといっしょだな。
ココペリとやらは、ようするに彼らの信じる「神」だろう。
Posted by Mr.FanHong at 2007年07月12日 13:25
知らなかった。。。これを原哲夫さんが書くとたいへんなことになりますね「ひでぶっ」
Posted by blog49 at 2007年07月12日 08:53