2007年08月28日 00:00 [Edit]

書評 - ヒトデはクモよりなぜ強い

これも夏休み中に届いていた献本。

初掲載2007.08.27; 販売開始まで更新

面白かった、というよりも腑に落ちる一冊。


本書「ヒトデはクモよりなぜ強い」は、中央集権型の組織と分散型の組織を、それぞれクモとヒトデに例えて考察した組織論。今年読んだ(人間の)組織論としては、ウィキノミクスの次に面白かった。

  • はじめに
  • 第1章 MGMの失敗とアパッチ族の謎
  • 第2章 クモとヒトデとインターネットの最高責任者
  • 第3章 ヒトデでいっぱいの海
  • 第4章 5本足で立つ
  • 第5章 触媒のもつ不思議な力
  • 第6章 分権型組織と戦う
  • 第7章 ハイブリッドな組織
  • 第8章 スイートスポットを探して
  • 第9章 新しい世界へ
  • 注釈
  • 謝辞
  • 訳者あとがき
  • 索引
  • が、実はこれより面白い本が、すでに訳書ではなく日本人の著者によって書かれていることを指摘しないわけにはいかない。「ゾウの時間、ネズミの時間」である。こちらはビジネス書ではなく、生物学の本であるが、ビジネスをはじめ「他でも使える」生物学の知見の宝庫であり、そしてヒトデというユニークな生物を1章を割いて紹介している。本blogでも、以下でその知見を参照している。

    私がなぜ「腑に落ちた」かといえば、本書の主張もまたこれらのentriesの主張とそれほど変わらないからだ。「ゾウの時間、ネズミの時間」は、未読の方は是非これを気に一読を。ただし、もし本書を読まれる方は、むしろ本書を先に読んでから、「ゾウの時間、ネズミの時間」の知見の妙を楽しんだ方がいいかも知れない。

    とはいえ本書はあくまでビジネス書であり、生物学の知見もあくまでアナロジーに止めている。もし著者たちが生物学に通暁していたら、ヒトデはとにかく、中央集権型の組織としてクモを取り上げただろうか。実際クモは陸棲動物としては、昆虫の次に繁栄しているし、陸棲動物である以上そもそもヒトデと勝負したりしない。むしろ脊椎動物であるサカナを上げた方が、英語のゴロ(starfish vs. fish)もよくなったと思う。

    「ゾウの時間、ネズミの時間」を読んだものには、「アパッチもいいけどもっとヒトデも知ってくれよ」と嘆息せずにはいられない。特にキャッチ結合組織という、ヒトデをヒトデたらしめる最大の特徴をスルーしているのが痛い。と同時に、よくぞ見逃してくれました、という気持ちも少しある。おかげでそれをサカナにした文章を書く余地が残っているのだから。

    とはいえ、ヒトデに目をつけたのは、いいセンスだと思うし、むしろ生物学の知見を使いすぎるのは、ビジネス書としての本書の論考を損なうことになっただろう。本書はあくまでビジネス書で、対象となっているのは人間の組織である。特に二つのアパッチ--Webサーバーとネイティブ・アメリカンの双方を取り上げているのは、なかなか秀逸であり、オープンソースの謎を解くヒントの一つともなっている。

    本書がビジネス書として秀逸なのは、「クモ」と「ヒトデ」を対立させるようでいて、最後にはその両方のいいところどり、本書でいうところの「スイートスポット」を見つけることの重要性を説いていることだ。

    p. 209
    自動車業界で分権のスイートスポットを見つけたのはトヨタだ。トヨタの組立ラインが、GMのような権力集中型だったら、従業員はやる気を失い、製造する車の品質も落ちたはずだ。その一方で、トヨタが社内構造や管理をいい加減にして放置し、各チームの好きなように車を作らせる、というぐあいに分権が行き過ぎてしまったら、大変なことになっていただろう。

    実は原題は"The Starfish and the Spider".「なぜ強い」という語句はそこには登場しない。個人的にはこれは訳者の勇み足だと思う。「レクサスとオリーブの木」のように、むしろ直訳の方がよかったのではないか。

    そういうビジネスの世界における組織の考察としては、本書は実に豊富なケースを取り上げていて、仮に面白くないとしても十分に役に立つ。ハードカバーなのが気に食わないが、税込み1,860円の価値は十二分にある。組織論を語る上で、ぜひ読んでおきたい一冊だ。

    Dan the Cell


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    インターネット関連のサービスを中心に「リーダーなき組織」が勢力を強めつつあるのは何故か。本書では歴史や生物学など幅広い比喩を用いてその謎を解明していく。読者は組織論のみ...
    ヒトデはクモよりなぜ強い【EXDESIGN】at 2007年10月18日 08:48
    この記事へのコメント
    「ゾウの時間、ネズミの時間」は生物学的時間論としても一読の価値あり。弾氏のおっしゃるとおり、およそ勝負しない対決という構図はアナロジーとしては片手落ちか・・・。なぜ強いはいかにも邦訳的で。蛇足ですかね。でもないと何が主題かよくわかりにくいかも。
    Posted by blog49 at 2007年08月27日 08:08