うまい!

レトリック抜きで、文字通り。

本書「プリンに醤油でウニになる」は、味覚をサイエンスで斬った本。タイトルの「プリンに醤油でウニ」にはワケがある。水からの伝言は皇帝陛下の新しい服と同じで見える人にしか見えないが、こちらは王様が裸であることを喝破した子どもにもきちんと見える。

目次 - Si新書『プリンに醤油でウニになる 味覚センサーが解明した仰天の食の謎』概要 (サイエンス・アイ新書Web)より。
第1章 味って何だ
味はバーチャル!? / 五感を総動員 / においは味覚に影響を与える / おいしさは複雑 / 主観と客観 / 人により、食べものにより異なるおいしさ / 属性とは / 味とにおいを測るとは / 味は5つの基本味から構成される / 苦味の話 / 誰もが好む味、甘味 / うま味は英語でもUmami / 辛味と渋味は味ではない
第2章 味を測る
味を受け取る場 / 味のレセプター / 人工生体膜を作る / 味覚センサー開発初期 / インセントの独立 / 後味を測る / 新鋭機TS-5000Zの登場 / 味香り戦略研究所の効果 / 脂質膜 / 脂質膜電極 / 5つの味への応答 / 応答パターンで味を識別する / 味を目で見る / 味覚センサーの表現する味 / 食譜
第3章 味はバーチャル
コーヒー牛乳=麦茶+牛乳+砂糖 / ヨーグルト=牛乳+酢 / ウニ=プリン+醤油 / いろんな食材を組み合わせて / 味を創る / バーチャルテイストの実現
第4章 においもバーチャル!
においとガス / においコード / これまでのにおいセンサー(ガスセンサー) / においコードセンサー / 電極の修飾と構成 / 3種類のにおいを測る / においの多次元模型 / においの合成
第5章 味の不思議に迫る
コーヒーの味を測る / 苦味が減る! / 脂質膜表面を見てみよう / 油脂が入ると味がまろやかになる / 霜降り肉の秘密 / うま味が飛躍的に増す(相乗効果) / スイカに塩 / お米の味を測る / アミノ酸の味 / 応答パターンを規格化する / アミノ酸のテイストマップ
第6章 味覚センサーの進化
渋味用センサーの開発 / 甘味用センサーの開発 / 味物質と脂質膜との相互作用 / 味の創造と再生 / 味覚センサーを持ち歩く / 身近な材料で味覚センサーを作ってみよう! / 味のわかるロボット
第7章 味覚・嗅覚感性文化
商品ラベルに味の表示 / 味・におい通信 / 味わい、鼻のきくロボット / センサーを身につける / 新しい科学技術の創出 / サルヴィタス情報社会の実現に向けて / 食育について / 再び主観と客観
付録 テイストマップ

著者の前著「感性の起源」は以前紹介した。感性を研究対象にするとは雲をつかむような、頭がウニになるような話だと思いつつもそのすごさに感服していたが、しかしそれだけに前著は観念的かつ哲学的で、読みやすい本とは言いがたかったが、今回は「味を測る」というきわめて具体的なテーマに話を絞ることで、一目見てわかる本に仕上がった。

404 Blog Not Found:Sentio Ergo Sum - 感性の起源
特に本書の副題である「ヒトはなぜ苦いものが好きになったか」、すなわち味覚に関する考察においては、「プリン+醤油=ウニ」を科学的に再現、すなわち一旦要素に分解し、それを再構成することで本質を再現することに成功している。そして「食譜」に想いを馳せるのだ。

目次を見てわかるとおり、付録のテイストマップはまさにその「食譜」そのものだ。つかみどころがないように思われた味覚がここまで鮮やかに「見える化」されるというのは、もう一見せずにはいられない。

都甲潔は、まさに雲をつかんだ男である。いや、味の測り方を実装した以上、雲のつかみ方を誰にもわかるように説明してしまった男というべきか。個人的にはノーベル賞クラスの成果だと思うのだが、医学賞と化学賞とどちらが適切なのだろうか....

ごちそうさまでした。

Dan the Book Taster