2007年11月07日 15:45 [Edit]

「ウェブ時代をゆく」を読む - Vantage Point

実は本書の内容に関する私の感想は、池田さんのそれとほぼ一致する。

池田信夫 blog ウェブ時代をゆく
年をとると、本を読むのが速くなる。書いてあることの大部分が既知の話なので、飛ばして読めるからだ。逆にオリジナルな学術書は、1冊読むのに1ヶ月かかることもある。だから私の場合、本の価値はそれを読むのにかかった時間にほぼ比例する。

それでは、なぜ

404 Blog Not Found:一識者から梅田望夫へ - 書評 - ウェブ時代をゆく - 会社員さんのコメント

この本に対する見解が池田さんと弾さんでは180度違っているように感じられますが、それはどうでもよろしい。
私が興味深く思ったのは「この見解の違いはどこから来るのか?」です

なのか。


私と池田信夫(ここから敬称略)が最も異なるのは、最後の一行だ。

池田信夫は、本に「自分の知らないこと」を期待している。だとしたら、すでにblogまで立てている人々にとって本書は「ありきたり」以外の何者でもない。

それに対し、私が本に期待しているのは、「自分が見ていない角度」である。それが既知か未知かは二の次というより、むしろ既知のものの方がその対象を別の角度から見たことがあるだけより楽しめたりもするのだ。

梅田望夫は、それを"Vantage Point"として紹介している。

p. 098
三つ目が「Vantage Point」(バンテージ・ポイント)だ。これはシリコンバレーの投資家ロジャー・マクナミーの言葉である。若者のキャリアについて私と話をしていたときにロジャーは「若者はバンテージ・ポイントに行くべきだ」と言った。「バンテージ・ポイント」とは「見晴らしのいい場所という意味。その分野の最先端で何が起きているかを一望できる場所のことである。

私が本に期待しているのは、これなのである。

なぜか。

本で最新知識を学ぶのは二十... - キモーイ キャハハハハハハ - はてなセリフ

もはや新しいことを本から学ぶことは不可能に近いからだ。その傾向はWebどころかTVどころか新聞の時代からあったが、まだその頃は視点の数が少なすぎて、これらの「本より速いメディア」が見落とす「新しいこと」はあまりに多かった。

ところが、今や新しいことは、新しいことを見つけた人が真っ先にネットに上げる。MLに流す。blogに書く。Webに上げる。もはや本では間に合わない。ギークの世界ではすでに15年前からそれが常識となっていたが、今やそれがありとあらゆる分野に及んでいるのだ。

そういう時代における本の役割とは一体何か?

それを示したのもまたギークだった。

Perl, the first postmodern computer language

Modernism is also a Cult of Originality. It didn't matter if the sculpture was hideous, as long as it was original. It didn't matter if there was no music in the music. Plagiarism was the greatest sin. To have your work labeled ``pastiche'' was the worst insult. The only artistic endeavor in the Modern period not to suffer greatly from the Cult of Originality was architecture. Architecture went in for simplicity and functionalism instead. With the notable exception of certain buildings that were meant to look like Modern art, usually because they contained Modern art. Odd how that happens.

The Cult of Originality shows up in computer science as well. For some reason, many languages that came out of academia suffer from this. Everything is reinvented from first principles (or in some cases, zeroeth principles), and nothing in the language resembles anything in any other language you've ever seen. And then the language designer wonders why the language never catches on.

No computer language is an island, either.

In case you hadn't noticed, Perl is not big on originality. Come to think of it, neither is Linux. Does this bother you? Good, perhaps our culture really is getting to be more postmodern.

Larry WallがこのスピーチをLinuxWorldでしたのが1999年。世間がWebをモダニストの視点で捉えていたとき、ギーク達はポストモダンを見つけていたのだ。Linuxは、ギーク達にとってオリジナルではないが「気持ちのいい」ものだった。Perlもしかり。LispersとAlgolistsにとって、この世に新しいものなのもはや何もないに等しかったのだから。

それでもPerlは「面白くて気持ちがいいもの」として受け入れられた。そしてそれ以外にも「面白くて気持ちのいいやり方」がありうることをRubyが示した。

例えば、私は「不完全性定理」に関する本を、少なくとも過去にこれだけ紹介している。

もし本の役割が「不完全性定理の理解」であれば、このうちのどれか一冊だけで事足りる。いや、岩波数学事典があればいい(ちなみに私は第三版を持っているが、第四版を買うべきか迷い中。両方使ってみた方の感想募集中)。しかし、不完全性定理をどう見ているかという点において、これらは全て異なり、そしてそれらの別々の視点があることによって、その理解はより深まる。

留意して欲しいのは、ポストモダニズムというのはモダニズムの否定ではなく、モダニズムを内包していることだ。だから「新しいことの書いてない本など無価値」というのは一つの立派な意見である。ポストモダンなモダニストというのは、ギークの世界にも存在する。言語で言えばPythonなどがそれに相当するだろう。

その意味において、池田信夫というのは見応えがあるVantage Pointであり、梅田望夫というのもまた行ってみる価値のあるVantage Pointであり、そして「ウェブ進化論」よりも「ウェブ時代をゆく」を私がより高く評価するのは、前著ではまだ「新しいことを紹介する」姿勢が強かったのに対して、本著では「新しいかどうかはさておき、これがオレの視点」という姿勢を強めたことにある。

本blogの読者であるあなたにとって、小飼弾はどんなVantage Pointなのだろうか。

小飼弾の自宅は、こんなVantage Pointだ。その光景は実に見慣れたものだが見飽きない。

Dan the One of the Vantage Points


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この記事へのコメント
古いことは本で整理された状態で学べる、という良さがある
Wikibooksがもうちょいなんとかなると違うのですが。
Posted by diachronic at 2007年11月09日 13:15
本当は自分達の問題なのにすぐ若者や子供の問題にすりかえる
Posted by オヤヂ目線 at 2007年11月07日 23:14
知る知らないは二次元、Vantage Point は三次元だと。
Posted by hk at 2007年11月07日 22:37
この記事は完全に破綻している。
人がなぜvantage pointに行こうとするのか。新しい知識・情報・見方を得たいからだ。この世に新しいものが何もないというのならvantage pointに行く必要などさらさらない。また時間のスピードと新しいことをゲットすることとも関係ない。ゲーデルなど完全に無関係、ポストモダンも無関係。あえて言うならfashionable nonsense pointだろう。
Posted by 佐藤秀 at 2007年11月07日 21:30
s/この世に新しいものなの/この世に新しいものなど/
でせうか?
Posted by 肉チェッカー at 2007年11月07日 19:59
こうも考えられます。
池田さんの視点が梅田さんの視点に近過ぎたため「新しい知識」だけでなく「別の視点」すら得られなかったのかも知れません。「自分と同じだから褒める」のではなく、「自分と同じだから褒めない」のだとしたらそれはそれで池田さんらしい気もします。
Posted by bob at 2007年11月07日 18:27
僕は本好きの部類に入りますが、自分がなぜ本を読むのか、という理由を今回弾さんのエントリーを読んで改めて自覚した気がします。霧が晴れたような感じで、身も心もリラックスできました。
池田信夫さんの意見は筋が通っており、読んでいるとどっしりと大地に根が生えた大木に触れているような気がしますが、弾さんや、梅田さんのエントリーからは、軸を自分に置きつつ(依存はしない)、必要とあれば根っこを引き抜いて他の場所(観点)に移動してしまう柔軟さを感じます。僕はこちらの方が好きです。結果的に正しいかどうかはともかく、楽しくて、広がりがあり、かつ生き抜く意思を感じます。
Posted by Isao at 2007年11月07日 17:41
おおおお……解説ありがとうございます。

私なりの理解ですが、
池田さん …… 知識にせよ視点にせよ、新奇性を求めている
弾さん …… 自分が持っている知識や視点との差異について、検証性を求めている
てとこでしょうか。

つまり弾さんがこの本を絶賛したのは、「梅田望夫のソースコード」をオープンソースのごとく衆目に晒したから、ということなのかと私は理解しました。
私の理解はズレているかも知れませんが、大変参考になりました。
どうもありがとうございます。
Posted by 会社員 at 2007年11月07日 17:21
>もはや新しいことを本から学ぶことは不可能に近いからだ。
こういう持って行き方は違うんじゃないですかね。人類にとって新しいことは、本には書いてないけど(これはインターネットの時代のはるか前からそうですが)、「私」にとって新しいことは本に書いてある訳ですから。

Posted by 昔から at 2007年11月07日 17:04
僕にってはだんさんは情報フィルターかもしれないです。
まだ僕はプログラミングやってあんまり時間がたっていないので、情報を集めるのが苦手+それほど時間をかけられない(基礎体力向上に時間使いたい)ので、だんさんを最新情報を集めるための情報フィルターにしています。
もちろん、Vantage Pointとして見ていますが、どちらかというと憧れでもあり、未経験者の観察でもあるので、Vantage Pointとは言いがたいような。
Posted by 通りすがり at 2007年11月07日 16:15