2008年01月07日 06:30 [Edit]

中途半端だけどちょうどよい - 書評 - 黄金比の謎

「中途半端」、これは一本取られた!

今まで読んだ中で、最も面白かった黄金比本。比べるのもなんだが、「黄金比はすべてを美しくするか? 」より面白かった。


本書、「黄金比の謎」は、丸ごと一冊黄金比の本。それだけなら数多くあるが、本書がなんといっても素晴らしいのは、「中途半端」というキーワードを黄金比に見いだしたこと。

目次 - KAGAKUDOJIN BOOKSELLより
  • 序章 黄金比との出会い
  • 第1章 もののかたちと黄金比
  • 第2章 黄金比を解剖する
  • 第3章 生物は黄金比を選択するか?
  • 第4章 芸術に見え隠れする黄金比
  • 第5章 数学の美しさと黄金比の仲間たち
  • 第6章 自然も好む関数の造形と機能
  • 第7章 予測困難? 数列がおりなすかたち
  • 第8章 情報科学にひそむ「ほどよさ」
  • 終章 黄金比の美しさは、どこからくるのか――あとがきにかえて
  • 付録

実は黄金比で丸ごと一冊書くのは、簡単なようでいて結構難しい。というのも黄金比そのものは、一冊の本にするにはあまりにシンプルだからだ。引っ張っても一行で収まってしまう。

1:(√5+1)/2 = (√5-1)/2:1 ≒ 1:1.618033988749895 ≒ 0.6180339887498949:1

これが導出するのに一仕事なら、「オイラーの贈物」のような持っていきかたもあるが、ところが黄金比は中学生の数学でも導出できてしまう。「x2 - x - 1 の解」。blog entryのタイトルすら、これより長いものがほとんどだ。フィボナッチ数との関連を書いても、なんとか一章ぐらい。実際「自然にひそむ数学」における黄金比の扱いがこれに近い。本blogでも黄金比は何度もとりあげているが、1 entryの長さにしっくり来るということは、本にするのは短いということでもある。

いきおい、黄金比について本を書くと、数学よりも人文的なトリビアが埋め草としてより多く詰め込まれることになり、「黄金比はすべてを美しくするか?」のような本に仕上がることが多い。それはそれで面白いのだが、黄金比そのものに美しさを感じる数学ファンにはやはり不満だろう。

本書は、その点において実に「具が多い」。そしてなぜ具が多く出来たかといえば、「中途半端」だからだ。これは棒読みの「いいかげん」ではなく「いかげん」という意味である。本書では、どうしても取り上げざるを得ない「数学外の黄金比」も取り上げつつも、関連する数学がぎっちり詰まっている。e = -1 や、対角線論法まで出てくるのには脱帽ものである。

それでいて、詰め込み過ぎになっていない。なぜならこれらの扱いも上手に「中途半端」にしてあるからだ。たとえば e = -1 は、「この関係の導出についてはこれ以上深入りしないが、参考文献を参照されたい」とさらりと「逃げている」この参考文献として、「オイラーの贈物」が挙げられているのは言うまでもない。

それでいて、高校で扱う数学で扱える範囲に関しては、付録にきちんと証明を載せている。たとえば sin x の微分が cos x であることの導出は、まるまる二ページにわたってきちんとやっている(limθ→0(sin θ/θ) を使った、これまた高校の教科書によるもの)。高校教師である著者の面目躍如である。しかもそれを付録に載せることで、本文がより「いいかげん」になっているのだから快い。

中途半端。たしかに黄金比は無理数なのだからそのとおりだ。今までの「黄金比本」は、その美しさを紹介するのに夢中で、この「中途半端」という黄金比の属性を見落としていたのかもしれない。P. 237には、著者によるベン図が出てくるが、箇条書きすると以下を全て兼ね備えているのが黄金比なのだと著者は言う。

  1. 数学におけるちょうどよさ
  2. 自然の摂理におけるちょうどよさ
  3. 人間の感覚におけるちょうどよさ

お見事。天地人が交わるところ、それが黄金比というわけだ。

この中途半端ぶりが、本書を中学生でも理解でき、理系として訓練を受けた大人でも楽しめる一冊にしている。まさに黄金比そのもののような本だ。タイミングとしては高校に入る前の春休みが一番よさそうだ。

それにしてもこのDOJIN選書 、今まで五月雨式に半分強を入手したが、外れが一冊もない。恐るべき当たり率である。残りも全部揃えてしまった。新書に比べると値段も重量も倍以上なのだが、このクォリティであらばしかたがない。残念なのは、Amazonがあまりたくさん在庫していないこと。注文はお早めに。ただし単価がAmazonプライス以上なので、あえてバラで買ってもよさそうだ。

Dan the Mathφlia


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この記事へのコメント
げざるを得ない「数学外の黄金比」も取り上げつつも、関連する数学がぎっちり詰まっている
Posted by Suse at 2008年01月08日 05:57
つまらない事ですが,
&gt;「x<sup>2</sup> - x - 1 の解」。
「x<sup>2</sup> - x - 1 <b>= 0</b> の解 (or 根)」
又は
「x<sup>2</sup> - x - 1 の <b>zero (零点)</b>」
ですよ。
Posted by ☆○ at 2008年01月07日 17:55
通りすがりの理系学生さん、
仕事(早|速)っ! この場合どっちが正解:-)
Dan the Typo Generator
Posted by at 2008年01月07日 07:08
typoですが。
『言い→良い』
ですかね。

日本語のスラング(?)にゃ、変換出来る物、出来ない物双方が存在して厄介ですな。(例:「ふんいき」とか「いい」とか)
こと、typoが多いbloggerには:)
Posted by 通りすがりの理系学生 at 2008年01月07日 07:02