2008年01月19日 19:45 [Edit]

モラルリストラの必要性

120%同意。

モラルハザードの構造 (内田樹の研究室)

モラルハザードというのは「マルチ商法」に似ている。

自分はつねに「騙す側の人間」であり、決して「騙される側の人間」にはならないという前提に立てば、マルチ商法は合理的である。

騙される側の人間が無限に存在するという前提に立てばこの推論は正しい。

であるが故に、追補の必要性を強く感じたのでentry。


まず、アンダーアチーバー(underachiever)とオーバーアチーバー(overachiever)の定義について。あるいは「弱者」と「強者」の定義について。私が内田樹に違和感を感じるのは、これらが一個人に対して全体的、あるいは積分的に使われているように見受けられることである。

しかし、「弱者」と「強者」は、実のところは極めて局所的かつ微分的な概念である。時と所が変わってしまえば簡単に入れ替わってしまう。財の多寡をもってみれば私は強者ということになるが、それは通貨も言語も通用する日本や英語圏でのみ通用する強さであって、そのどちらも通用しない戦乱の国では私はとたんに弱者となる。「空間微分」してもこのありさまだが、「時間微分」してみればこのことはさらに顕著となる。私が「強者」と見なされるようになったのは後半生のことであって、それ以前はどう見てもいわゆるワーキングプアよりも「弱者」であった。祇園精舎の鐘の音は、自分が今どこにいるかでころっと変わってしまうのだ。成金は皆このことを体で知っている。諸行は無常なのだ。

このことは、個人に関して事実であるに留まらず、社会に関しても事実なのだ。

何をもって underachieve とし、何をもって overachieve とするかは、刻一刻と変わっている。そして現代というのはこの変化が実に激しい時代なのだ。にも関わらず、モラル(moral)の方はほとんど変わっていない。この速度差こそが、今日本を覆っている不安の根源だと私はにらんでいる。

その最たるものが、年金制度であろう。

現在の年金制度というのは、以下の前提においてはフェアである。

  1. 構成員が一応に歳をとること
  2. 構成員の数が一定であること
  3. オーバーアチーバーは若くで、アンダーアチーバーは老いている

この前提全てが、すでに崩壊している。そして年を追うごとに崩壊の度合いを増している。

まず1.に関しては、栄養と医療の充実で、歳の取り方はかつてよりずっとゆるやかに、しかし落ちるときは急激に落ちるようになった。腰の曲がった老人をすっかり見かけなくてどれくら経つだろう。その一方で、寝たきり老人というものが出現するようになったのはいつのことだろう。

2.は、もうここで繰り返すまでもないだろう。団塊ジュニアのころと比べ、今の出生数は半分しかないのだ。

そして3.である。フローのみでアチーブメントを判断するのであれば、これは未だに事実であろう。しかしアチーブメントにはストックも含まれるべきであり、そしてストックまで含めれば両者は逆転する。

もしオーバーアチーバーがアンダーアチーバーを援助することがフェアというのであれば、年金制度廃止どころか逆年金でなければフェアではない。しかしルールもモラルもそのまま。その結果、今では年金制度がねずみ講として機能している。

さらに救いがないのが、そのモラルを規定する権利が、あいもかわらず老人の手に握られていることだ。

日本の政治はなぜ「変化」できないのか - 池田信夫 blog
さらに深刻な問題は、一つの地域の中でも利害が均一ではないことだ。現在の日本経済で最大の対立は、払った以上の年金をもらい、天下りなどによって戦後の高度成長の果実を「食い逃げ」しようとする団塊以上の世代と、その逆に年金収支はマイナスになり、中高年の終身雇用を守る犠牲でフリーターになっている若い世代の世代間対立である。これは世論調査では明白だが、選挙結果には反映されない。おかげで若い世代が政治に絶望し、投票率が低くなるため、よけいに老年・農村の利益が選挙結果に反映される・・・という悪循環になる。

多数派の老人が少数派の若者から収奪する。それも法にのっとって。最大最悪のモラルハザード、それは移ろい変わる世の中において、固定的普遍的なモラルを押し付けることではないのか。

日本の政治はなぜ「変化」できないのか - 池田信夫 blog
これを打開する方法として、井堀利宏氏が提唱しているのが、年齢別選挙区だ。たとえば30代までの有権者を青年区、40〜50代を中年区、60代以上を老年区とし、地域と年齢の2次元の指標で選挙区を構成するのだ。これだと多くの青年層が棄権しても、青年区の定数が青年有権者の人口に対応しているので、青年世代の利害を代表する政治家が選出される。今は変革のときである。

モラルの破壊だろうか?しかし私はこれくらいのモラルリストラをやらなければこの国ヤバいと強く感じている。さもなければモラルそのものに従うことがコスト割れしてしまうのだし、実際そうなっている。

とはいえ、私は具体的にどうすればモラルリストラを成せばいいのか分かるほどの賢者でもなければ強者でもない。少なくとも今のところは。しかし、自分の家族と自分程度であれば「勝ち逃げ」しようと思えば出来る程度には強者である。そういう私にとって、現在のモラルを墨守するインセンティブは大きいとはいえない。これは他の若い成金たちにとっても同様だろう。

これは相当ヤバいことではないのか。現在のモラルというものが、最も援助力があるものにとって最も効用の少ない仕組みとなっていることは。これではもっと「救いようがある」社会に「強者」が流出してしまうのもやむえないのではないか。

ちなみに、ここでいう「効用」は所得や財産がさらに増えることを意味するのではない。所得や財産を差し出すことによって、彼らにとって社会がより居心地のよい場所となることである。彼らはそうしたくてうずうずしているし、実際「モラル」を持ち出されなくていい場所であればそうしている。ここではそういう場所の一つとして「オープンソース」を挙げるに留めておくが、彼らの多くは「強き者はより強く、弱き者はより弱く」をよしとしているわけではないのだ。

しかし、彼らの持っている力は、現時点において「社会」を通したとたん、彼らから見てあさっての方に行ってしまうことも彼らはよく知っている。折角税金を払っても、それはまず国の借金返済にあてられ、次にハコモノにあてられ、彼らが手を差し伸べたい弱者には尻尾しか残らないことをよく知っているのだ。

だから、今のところは「各自強くなれ」と言っているわけである。もしモラルリストラのための冴えたやり方がたった一つでも見つかったら、私はすぐそれについて書くだろう。今のところは、わからない。わからないから、自分のケースをしばしば披露しているわけである。

わからぬ時には、回答が見つかるまで生き残る、いや生きのばす。それが私の現時点におけるモラルである。

Dan the Achiever, Under or Over


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小飼弾氏のブログで印象に残ったフレーズをメモします。 モラルリストラの必要性 (404 Blog Not Found 2008年01月19日) 何をもってunderachieveとし、何をもってoverachieveとするかは、刻一刻と変わっている。 そして現代というのはこの変化が実に激しい時代なのだ....
メモ【evaluate it】at 2008年01月20日 01:31
私のRSSリーダーには、日本のブログは5つしか入っていないので、それ以外は読まないのだが、その1つであるdankogai氏からのTBで、また内田樹氏の変な記事を読まされたので、簡単に事実誤認を訂正しておく。 まず今回のNHKの事件が「モラルハザード」だというのは誤りである...
インサイダー取引についての誤解【池田信夫 blog】at 2008年01月20日 01:19
この記事へのコメント
>便利じゃん。モラルハザード。

 その言葉に対応するなんらかの現象が本当に存在するのかどうか疑わしい点が問題でしょう。

 ある人々がそういう印象を抱いていたり用語の定義もわかっていない人々が主張していたりしたとしても、なんらの説得力もなくむしろ積極的にそんなものはない疑いのほうが強くなります。
Posted by あ at 2008年01月21日 00:27
…たとえば、国債の満期償還を誰が受け取っているのか、利払いを誰が受け取っているのか、ここを弄ったのが小泉改革であったわけですが…。
Posted by rijin at 2008年01月20日 22:43
>彼らはそうしたくてうずうずしている

ではなんでこういうものを作らないのか、と。
http://en.wikipedia.org/wiki/Bill_%26_Melinda_Gates_Foundation
そうすれば税金に取られる代わりに資金を直接自分が社会に役立つところに振り向けられるのに。

>折角税金を払っても、それはまず国の借金返済にあてられ、次にハコモノにあてられ、彼らが手を差し伸べたい弱者には尻尾しか残らない

そもそも国の借金ができたのも、公共事業でハコモノを作ったのも、景気浮揚のためです。それは、弱者救済には景気浮揚が最も良いというケインズ経済学の知見に基づいています。その知見が間違っているのを指摘するならともかく、そうしたマクロ経済学の根幹の議論を完全にスルーして批判だけするのはいかがなものかと。
Posted by 暇人 at 2008年01月20日 17:47
連投すみませんが、本文がやはりあまりにひどいので、引き続き突っ込んでおきます。

>しかしルールもモラルもそのまま。

今の資本主義体制下で、財産権のルールを変更するのはそれなりの手続きが必要です(ちなみに先の緑爺の本で印象的なのは、財産権と信頼の存在が資本主義経済には不可欠だという主張。そういえばホリエモンはそういう資本市場の信頼関係をものの見事に裏切ってくれましたが)。
ただ、「手前ら人数に物言わせて権力も握りカネも貯めこんでいるのはよろしくないから吐き出せ」、と言うのは、かつて共産主義者の唱えた暴力革命と選ぶところなし。
また、年金については、先のコメントに書いたように、マクロ経済スライドという比較的大きなルール変更が既に2005年に実施されています。
Posted by 暇人 at 2008年01月20日 17:46
ニート http://www.nicovideo.jp/watch/sm1768836
Posted by ニート at 2008年01月20日 17:41
>便利じゃん。モラルハザード。

『ただし、本来「モラル・ハザード」という語は保険におけるリスク関連、および経済学の国際的な専門用語であり、この言葉が日本語圏においてのみ「倫理の欠如」という本来とは異なる概念で定着することはビジネスや国際コミュニケーションにおいて意思疎通の障害になり、利益を損なうという意見がある。』(Wikipediaより)
Posted by 暇人 at 2008年01月20日 17:20
>このことは、個人に関して事実であるに留まらず、社会に関しても事実なのだ。
danさんみたいに「弱者」から「強者」に変化した人には事実でしょうが、ずっと弱者で底辺の人間には体感できる事実ではないでしょう。
だって、いつでもどこでも貧乏が常態なんですもの。ちっとも無常じゃない。無情だけど。

Posted by 通りすがり at 2008年01月20日 16:05
dan氏は、書評だけの書いてた方が良いんじゃないかと思う今日この頃…
Posted by ま at 2008年01月20日 11:08
言葉の拡大使用なんて古今ありふれた行為じゃないのか。
便利じゃん。モラルハザード。
「確信犯」なんてのも誤用の意味のほうが使いやすいなあ。
Posted by いち at 2008年01月20日 03:40
緑爺は日本の方がまだ米国より「救いようがある」と受け止めているみたいです。米国だったらマクロ経済スライドは日本ほどすんなりとは導入されなかったかもしれないですね。
cf) http://www.amazon.co.jp/波乱の時代-下-アラン-グリーンスパン/dp/453235286X
のib_pataさん引用部分。

あと、内田さんも弾さんも「モラルハザード」を誤用されているようです。
cf) http://ja.wikipedia.org/wiki/モラル・ハザード
Posted by 暇人 at 2008年01月20日 02:18
 池田先生が先に言ってますが、ぶっちゃけて言えばモラルハザードって保険に入ってるから危なっかしいことしてもいいやという意味です。道徳の危機とか何とかの意味ではありません。

 どこかで他の評論家も「若者のモラルハザード」とか言ってましたが、こういう人たちはものごとをまともに考えているのかどうか疑いたくなります。
Posted by あ at 2008年01月20日 01:42
第一政府、第二政府に分けて、
サービスを受けたい政府に税を
おさめるってのは、どう?
Posted by higekuma3 at 2008年01月20日 01:33
>構成員が一応に歳をとること

「一様に」?
Posted by 通りすがり at 2008年01月19日 23:25