2008年02月16日 13:30 [Edit]

小さな物語の大きな市場 - 書評x2 - ケータイ小説論二冊

「ケータイ小説がウケる理由」は毎日コミュニケーションズ出版事業本部編集第3部書籍編集1課の田島様より、「なぜケータイ小説は売れるのか」ソフトバンク・クリエイティブの上林様より献本御礼。

どちらも「ケータイ小説論」ではあるが、その毛色は好対照である。


ケータイ小説がウケる理由」は、メディア、すなわち器としてのケータイ小説に焦点があたっているのに対して、「なぜケータイ小説は売れるのか」の方は中身、すなわち作品としてのケータイ小説に焦点を当てている。両方読むとケータイ小説論はもうマスターしたといっていいだろう。

目次 MYCOM BOOKS - ケータイ小説がウケる理由より
はじめに
ケータイ小説をご存じですか? / ケータイ小説は「小説」ではない / 本書を読むにあたって
序章
モバイル・インターネットの誕生から、ケータイ小説へ / モバイル・インターネットの誕生 / モバイルは飛躍的に成長している! / モバイル・コンテンツ市場は1兆円を突破する! / ユーザーが近い、モバイルの世界 / モバイルと女子中高生
第1章
ケータイ小説の誕生からヒットまで / ケータイ小説とは / ケータイ小説のパイオニア「魔法のiらんど」 / ケータイ小説、書籍化の先駆けになった『Deep Love』 / ケータイ小説の女王、「内藤みか」氏の登場 / 「魔法の図書館」のスタート / 『恋空』が発売1ヶ月で100万部突破! / 『赤い糸』が発売1週間で100万部達成 / モバイル大手ポータルの参入が相次ぐ / ケータイ小説のヒットの特徴―ケータイで読み、書籍も買う
第2章
「心」で読む―ケータイ小説にハマる若い女性たち / 読者にとってのケータイ小説 / ケータイは手放せない / ケータイ小説は「心」で読むもの / ケータイ小説ユーザーの特徴的なポイント / ケータイ小説ユーザーから見えてくる「共感」のカタチ
第3章
作家たちの素顔と、伝えたい想い / 自らの紡ぎだす言葉で、読み手と共感し合う / ケータイ世代に正確な情報を伝えたい / ちゃんと向き合っていれば、ちゃんと返してくれる / 伝えたい想いがそこには確実にある / ライブのような執筆現場・ラフな執筆スタイル / ケータイ小説には、ケータイで見せる工夫が重要 / ユーザーとともに作り上げる世界
第4章
ケータイ小説の仕掛け人たち―ヒットの背景とビジネスの根幹 / 2つに分かれるケータイ小説の仕掛け人 / ユーザー参加型のサービスを目指す「魔法のiらんど」 / 人気のケータイ小説は女の子が理想とする恋愛モノ / ケータイ小説はメール・コミュニケーションがベース / 自己表現メディアとしてさらに発展させたい / ユーザーの夢を叶えるための書籍化 / 自己表現メディアとして、自由な形のコンテンツをサポートする / 「共感」「共有」がキーワード / 作家たちを守っていきたい / 魔法のiらんどのカルチャー「アイポリス」 / ケータイSNSとケータイ小説の連動「Gocco」 / SNSを活かした高機能ケータイ小説プラットフォーム / ユーザー同士は親身になって作品を応援する / インデックス・グループの総合力を活かして展開 / ケータイ小説の金の卵を発掘「テレビ東京」 / 番組とモバイルの連動 / 番組の企画自体がコンテンツ開発 / ケータイ小説と映像との連携にチャンス / 表現したい彼女たちを応援したい「双葉社」 / 『恋空』の次を狙いたい / ケータイ小説の文化に対する理解を大切にしたい
第5章
ケータイ小説は心を伝えるコンテンツ / ケータイ小説は読書ではない / リアル・身近―ユーザーがより近いところにいる / メール・コミュニケーション―モバイルが生む新しいテキスト文化 / 恋愛モノ・切ない―より深い「共感」、心の深いところで「共有」 / 口コミ―友だちからメールで / 展開が早い―情報のスナック化現象 / ケータイ小説がウケるポイント
第6章
ケータイ小説は次世代マーケティングだ / ケータイ小説をモバイル・ビジネスに活かす / ケータイ小説に学ぶ、次世代マーケティング / ケータイ小説は共創する世界だ / ケータイ小説は次世代マーケティングの成功例 / ケータイ小説が示唆する、モバイルの未来 / モバイルのメディア価値が上がる
さいごに
参考文献・サイト
取材にご協力いただいた方々
目次 - 「なぜケータイ小説は売れるのか」(手入力)
序章 ケータイ小説七つの大罪
第一章 ケータイ小説のあらまし
第二章 ケータイ小説市場の最前線
第三章 ケータイ小説の内容
第四章 ケータイ小説を巡る言説
第五章 なぜケータイ小説は売れるのか
あとがき

どちらがジャーナリスティックかといえば、「ケータイ小説がウケる理由」。こちらは単に著者の意見をまとめるに留まらず、実際のケータイ小説家のインタビューも行っているのに対し、「なぜケータイ小説は売れるのか」の方は、著者が読了ケータイ小説のみをよりどころとして書かれている。

そして、どちらが面白いかといえば、「なぜケータイ小説は売れるのか」。それも僅差とかではなく圧倒的に。「ケータイ小説がウケる理由」が「クソ本」ということではなく、料金分以上の価値がある、読んでおいて損がない本ではあるが、「なぜケータイ小説は売れるのか」は、「電波男」以来の傑作なのだから。

どちらも共通しているのは、「ケータイ小説は小説にあらず」という点。小説として見るから、小説しかしらない「PC系」のオジンオバンが理解不能という点で、両社は一致している。

しかし、「ケータイ小説がウケる理由」の方はそれを「新たなメディア」であるという点で留まってしまっているのに対し、「なぜケータイ小説は売れるのか」は、それが新たなメディアであるという点を踏まえた上で、それが「物語の大衆化」、もう少し正確には「物語を書くという行為の大衆化」であることを喝破している。それであるが故に著者は、

P. 151
結局のところ、それらのリアル系ケータイ小説で「感動して泣ける」か、それとも筆者のように年甲斐もなく憤るかは、

と、作品としてのケータイ小説への嫌悪感、いやorz感をあらわにしつつも、ケータイ小説の読者(そしてケータイ小説の場合にはイコール作者)に対しては、予定調和が確約された「小さな物語」としてのケータイ小説を水戸黄門と対比さえつつ

だが、小乗だから不必要だとか、大乗より劣っているといういうことにはならない。小乗の物語は即効性のある薬で、大乗の物語は革新的な新薬(ヨーロッパ風に言えば、新訳)なのだ。いずれも社会にとって必要なものだ。

と理解を示している。

「電波男」を知る者に取って、ケータイ小説よりもむしろこの「ものわかりのよさ」の方が驚きかも知れない。著者も成長、いや成熟したのだ。私はこのことを慶びたい。そこには「電波男」の熱いパトスがない代わりに、暖かい愛がある。これはケータイ小説が提示する「本当の愛」ではないかも知れないが、私にはこちらの愛の方が快い。

そういうわけで、「なぜケータイ小説は売れるのか」には二つの点で感謝したい。一つは「電波男」以来の面白い論評を読ませてもらったこと、もう一つは私の代わりに反吐を吐くまで(本当に; あとがき参照)ケータイ小説を読んでくれた事。おかげでもう私はケータイ小説を読む必要性を全く感じなくなった。嫌いでも読まなければならない作品というのは、仮にも知的生産を仕事にしているものであれば必ずある。ケータイ小説がそうなりかけていただけに、これは実にありがたい。今後はただ一言こう言えばいいのだから。

「本田透以上の感想は、私からは出てきませんよ」、と。

それにしても、本田透というのは物語書きとしてはツマンネだが、物語論者としてはスゴい。しかしそれは、ツマンナくても物語書きで居続けようとするからこそ成り立っているのだろう。自分がなりたいものと、自分が向いているもののギャップが、これほどうまく機能している例も珍しいのではないか。

Dan the Man with Too Many Articles to Read


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なぜケータイ小説は売れるのか (ソフトバンク新書)本田 透 ソフトバンククリエイ
なぜケータイ小説は売れるのか【蔵前トラック供at 2011年11月23日 12:20
偶然かどうかは分かりませんが、ケータイ小説をテーマにした新書が、最近続けて2冊発
ケータイ小説、2つの視点【シロクマ日報】at 2009年12月14日 18:52
大西@原書房様より献本御礼。 ケータイ小説的。 速水健朗 で、結論。 ケータイ小説を読まない者にとってケータイ小説に対する最も適切な態度は、笑止して放置して無視すること。
「大きなお世話」 - 書評 - ケータイ小説的。【404 Blog Not Found】at 2008年07月14日 10:55
読了。 世界の電波男 本田透 本田透は物語作者としては二流以下だが、物語論者としては日本における最高峰だと改めて実感。 今まで私が読んだ物語論の中で、最も楽しめた一冊。
物語論の最高峰 - 書評 - 世界の電波男【404 Blog Not Found】at 2008年04月28日 14:03
この記事へのコメント
ケータイ小説はケータイという特性=パーソナルなものという私的空間を理解しないとならないですね。だから小説ではなくショーセツ。新しいジャンルだと思えば笑わなくてもすむ。ワイヤードの恋空の解説を読んでそう思いました。
Posted by きっとマン at 2008年02月17日 10:28
あくまで歴史小説にこだわっていたコナン・ドイルみたいな感じなんでしょうか>本田先生
Posted by コーエン at 2008年02月17日 08:56
え?携帯小説って、新聞小説の現代版では?
単に、読者が新聞層だけだったのが、携帯で広くなって対象がおっさん
から女子高生に移っただけでしょ。その点だけは、結構大きな革新だと
思うけど、基本的には失楽園にうつつを抜かしていた団塊のおっさんたち
と同じでしょ。

新しいメディア論の類って、「新しい」と言えばそれで好きな話が
できるので、そういう論法使っているだけじゃないかと思う。
Posted by 通行人 at 2008年02月17日 03:00
携帯小説って読んだことないな〜

今度よんでみます
Posted by さき at 2008年02月16日 16:40
s/対比さえつつ/対比さえしつつ/g
Posted by し at 2008年02月16日 15:21
s/両社は一致している。/両者は一致している。/
Posted by 北斗柄 at 2008年02月16日 14:43