2008年02月29日 00:00 [Edit]

編者梅田望夫 - 書評 - ウェブ時代 5つの定理

文藝春秋出版局経由で著者より献本御礼。

初出2008.02.27; 発売開始まで更新;リンク集追加

タイトルに書いた通り、梅田望夫・著というより梅田望夫・編という一冊。


本書「ウェブ時代 5つの定理」は、シリコン・ヴァレーの言葉を集めてそのまま載せ、それを梅田望夫が解説したもの。その点において、著者個人を全面に出した「ウェブ時代をゆく」の対照にある。同書では著者自身をなるべくそのまま掲載したのに対し、本書では著者が出会った言葉をなるべくそのまま掲載している。

目次 - Amazonより
まえがき――私の勉強法
第1定理 アントレナーシップ
私を起業へと駆り立てた言葉/起業して成功するための条件とは?/〃第三のリンゴ〃が私のアントレナーシップに火をつけた/変化の予兆を感得せよ/ビジョナリーとの出会い/失敗といっても「スポーツで負ける」くらいのこと/最高の倫理観をもった者が社会を牽引する
第2定理 チーム力
人についての黄金則/ベンチャー経営に必要な三要素/リーダーシップは料理のレシピ本のようにはいかない/好きな人と働くことが原動力/全員イエスでなければ採用しない/Aクラスの人はAクラスの人を連れてくる/自分で動く、贅肉のないチームづくり/データで判断し、行動する
第3定理 技術屋の眼
技術者たちの反骨精神――テクノロジーで権威と対抗する/技術者はものを介して考える/変化の節目で何に掛け金を置くか/テクノロジーで「百倍よくなる」未来を愛する/PCのアイコン、アップルの復活劇/プロダクトを何で差別化するか/アントレプレナーはみなマイクロマネジャーだ/変化を見抜く者が生き残る
第4定理 グーグリネス
グーグルの第一倫理――「邪悪であってはいけない」/グーグル採用術――「グーグリネス」はあるか?/一つのアルゴリズムで完璧な答えを返す/世界中からグーグルに人材が集まる訳/タイムマネージメントについて/みんなの合意が基本――マネジメントの3つの黄金則/混沌さの中に組織のパワーは宿る
第5定理 大人の流儀
日本語圏独特の匿名文化/自分は何者なのか――フェイスブックの台頭/「パブリックな意識」がネット空間を進化させる/人々の善性を信じよ/世の中をよくしたい? ウォールストリートを興奮させろ/苦しいときこそ、大人が社会を鼓舞する/若い人の流儀を尊重する/愛するものを全うする/
あとがき――私の最終定理

その点において実に残念だったのが、フォーマット。

P. 13
本書で取り上げる言葉の数々は、英語です。日本語に訳しても、なんとか原文の切れ味が残るよう、翻訳家の上杉隼人さんのご協力をいただいてベストを尽くしたつもりです。ぜひ英文も読み飛ばさずに味わっていただきたいと思います。

にもかかわらず、見た目はこんな感じなのである。実際は縦書きである点に留意。

P. 25

起業して成功するための条件とは?

スタートアップ(企業)する以外の何も思いつかないなら、
スタートアップせよ -- ロジャー・マクナミー

If you cannot imagine doing anything other than your startup,
Do the startup -- Roger McNamee

 日本ではベンチャーという言葉がよく使われ、私もわかりやすいのでよく著書の中で使いますが、シリコンバレーではスタートアップという言葉の方が主流です。

そう。一目見て原文より訳文の方が目立つのだ。

編集者は著者の意を十分汲んだのだろうか? まず原文を大きく載せ、次に訳文を控えめに載せるべきではないのか。思い切って全編横組みにすることまで考慮してもよかったのではないか。

しかし、そこに載せられている言葉は、実に力強い。忙しい人は、そこだけ読んでもよいし、本書もそういう「使われ方」も想定されている。特に

P. 259

自分がやらない限りこの世に起こらないことを、私はやる -- ビル・ジョイ

I try to work on things that won't happen unless I do them. -- Bill Joy

は、私もお気に入り。これを一番最後に持ってくるところがニクい。

アントレナーシップ、チーム力、技術屋の眼、グーグリネス、そして大人の流儀。これが著者の言うところの5つの定理だが、実は定理(theorem)というのは、公理(axiom)から導き出すものだ。この公理は本書に明示的に書かれているわけではない。しかし、賢明な読み手であれば、それを見抜くのは易しい。と同時に、それを貫くのがどれほど難しいかも知っているはずだ。

その公理は、まだ英語すら存在しない昔にすでに見つかっている。

和して、同せず。

そう、孔子(Confucius)である。論語には、この言葉はこのように登場する。

君子和而不同、小人同而不和

日本語であればこうだ。

君子は和して同せず、小人は同して和せず

ちなみにこの言葉は先日紹介した「右手に「論語」左手に「韓非子」」にも登場する。論語を取り上げた大抵の書物には登場するのではないか。

和して同せず。これほどインターネットの存在意義を言い当てた言葉はないではないか。しかし、気を抜けば簡単に同して和せずになってしまうのもその特性である。君子になるのも小人になるのもこれほど簡単な時代はかつて存在しなかったのだ。

これの適切な英訳を探したのだが、残念ながらぐぐった程度では満足の行くもの見つからなかった。一応以下のページを紹介しておく。

The Analects of Confucius - Lun Yu XIII. 23. (340)
The Master said, "The superior man is affable, but not adulatory; the mean man is adulatory, but not affable."
The Master said, 'The gentleman agrees with others without being an echo. The small man echoes without being in agreement.'

さらに仏語版と日本語版もあるのだが、仏語が不案内の私でも仏語版の方がしっくりくる。

というわけで、英語版をひねってみた。

The great ones share with the rest without following them.
The little ones follow the rest without sharing with them.

「和」も「同」も実に広くて深い意味を持っているが、私にとって一番しっくり来るのが、"share"と"follow"だった。みなさんはいかがだろうか。

著者の梅田望夫さんと私には、和して同さない関係が出来ている。少なくとも私はそう思っている。だから快い。今では面識があるが、面識がない頃からそうだった。面識がない相手であっても、和して同さない関係を結べる。それがネットの凄さなのではないか。

その意味で第4定理の「グーグリネス」に対する違和感が私には強い。グーグリネスは、私には和して同することに感じられてならないのだ。第5定理の「大人の流儀」を矛盾ととるべきか、矛盾の止揚ととるべきか、それが問題だ....

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ウェブ時代 5つの定理 この言葉が未来を切り開く!【hobo-sickboy-】at 2008年04月06日 06:47
ウェブ時代5つの定理を遅ればせながら本日読んだ。購入後すぐに読まなかったのは理由がある。「まえがき」をまず読んでから、これは「名言」の英語を音読すべし!と思ったので、通勤中に読むことが憚られたからだ。その意味で、弾さんが指摘しているように、 編者梅田望夫
[書評]ウェブ時代5つの定理を「音読」する【はにゃおか研究日誌】at 2008年03月16日 02:37
      表題にある梅田氏の最新本を一読した。 今日は新潟まで出張だったため、往復の時間をたっぷりと使って読んでみた。 最初の感想…。 小飼弾さんのエントリ『編者梅田望夫 - 書評 - ウェブ時代 5つの定理』にあるとおり、 そう。一目見て原文より訳文の方が目立つの
[書評]ウェブ時代 5つの定理 この言葉が未来を切り開く!【Ron’s Backlog】at 2008年03月04日 23:33
梅田さんのブックマーク経由で発見。 イヤならやめろ! 堀場雅夫 Entrepreneurshipを探る旅 : 天は二物を与えず。されど「一物」は与えている。しかるに... 20世紀は集団の時代。幼児100人と大学生1人が「綱引き」で勝負をすると、おそらく幼児100人が勝つ....
好きを貫きたかったら - 書評 - イヤならやめろ!【404 Blog Not Found】at 2008年03月02日 13:48
ウェブ時代 5つの定理の書評を小飼弾さんが書いています。 私もAmazonで注文しているますが、まだ届いていないです。 小飼弾さんの書評に気になった事が書かれていたのでメモっておきます。 実は定理(theorem)というのは、公理(axiom)から導き出すものだ。 404 Blog Not Fou
[本][金言][孔子][梅田望夫][小飼弾][ロールモデル][思うこと]『ウェブ時代 5つの定理』の小飼弾さんの書評で気づいたこと【理想未来はどうなった?】at 2008年03月01日 16:43
およそマッチョとなったもので、そう思わぬものはいない。少なくとも私は遭ったことがない。 小市民も幸せに暮らせる社会へ - 雑種路線でいこう早く日本をsync先輩のような典型的日本人が大切に育てられ小市民としての幸福を全うできるような、本来あるべき日本社会を恢復し...
小市民の敵は、小市民【404 Blog Not Found】at 2008年02月29日 13:30
404 Blog Not Found 編者梅田望夫 - 書評 - ウェブ時代 5つの定理 引用 ------ 和して同せず。これほどインターネットの存在意義を言い当てた言葉はないではないか。しかし、気を抜けば簡単に同して和せずになってしまうのもその特性である。君子になるのも小人にな...
コミュニティは、簡単に小人の同して和せず【web2.0】at 2008年02月28日 00:24
この記事へのコメント
s/企業/起業/
Posted by 安敦 at 2008年02月29日 13:21
定理と
来ましたかぁ。
Posted by higekuma3 at 2008年02月28日 22:27
otkさん、
ありゃま、ほんとだ。直しました。
Dan the Typo Generator
Posted by at 2008年02月27日 22:11
P. 259のビルジョイの引用部、原文の名前が「Roger McNamee」
Posted by otk at 2008年02月27日 21:52
(koredake|koredakenyuumon)さん、
維新、いや更新しました。
Dan the Typo Generator
Posted by at 2008年02月27日 21:52
s/明治/明示/g
Posted by koredakenyuumon at 2008年02月27日 21:44
s/明治/明示/g
Posted by koredake at 2008年02月27日 21:43