2008年03月01日 00:00 [Edit]

志願兵による戦訓 - 書評 - 独身女性の性交哲学

改めて確認した。

体で勝ち取った言葉の強さを。

長くて良質の書評はすでに「独身女性の性交哲学 / 山口みずか」として上がっているのでこちらは短めに。


本書「独身女性の性交哲学」は、もの言う売春婦、山口みずかが、愛とセックスの哲学。Philosophy、すなわち「愛知」よりもまさに「哲(さと)り学ぶ」という感じだ。

まえがき
第1章 「恋愛」ってなに?
第2章 「愛」ってなに?
第3章 「セックス」ってなに?
第4章 「欲望」ってなに?
第5章 「幸せ」ってなに?
あとがき
引用文献一覧

体で勝ち取った言葉の強さは、風俗嬢ライターには共通して感じる。しかし本書の特徴は、多くの風俗嬢ライターの文章から伝わってくる痛さがほとんどない。同じ(元)売春婦ライターでも、酒井あゆみ

売春論」 P. 142
管理されたいのに、管理側がこんな現状では自分でやった方がマシです。素人売春が激増しているのは、風俗業界にも一因があると言っていいかもしれません。

と言うのに対し、山口みずかはこう言い放つ。

本書あとがき P. 226
「セックス」は、お仕事でもあり、また最近は、自らが消費者として男の性を買ってみたりする趣味でもある。恋愛もひっくるめて、趣味は「男」かもしれない。

同じヴェテランでも、徴兵と志願兵ぐらい違うのだ。

その差は、売春婦となった過程にある。酒井あゆみはいわば「なしくずし的」に「流されて」売春婦となったのに対し、山口みずかはあくまでも「自らの人生を自ら管理するための、自分に最適な方法」として売春婦を選んだのだ。一言で言うと、自己責任において売春婦となったわけである。

好きで選んだだけあって、著者の男に対するスタンスは、プログラマーにとってのコードのようである。積極的に売るだけではなく、積極的に買ってもいる。あたかも高額の参考書を買いまくり、カンファレンスにも出まくるギークのようではないか。プログラマーではなくプロスティテュート(prostitute)、同じSEでも Sex Engineer。

それだけに、本書からは「セックスを特別扱いするな」というメッセージが強く発せられている。

P. 141
恋愛やセックスが厄介なのは、自分の望みに必ず他人を巻き込むからだ。

しかし、これは「恋愛やセックス」を「ビジネス」におきかえたって成り立つ。ビジネスとはまさに自分の望みに他人を巻き込む行為、あるいは逆に他人の望みに自分が巻き込まれる行為なのだから。

P. 205

異質なものを受け容れられないのは自分の問題。要は自分の心の弱さだ。

風邪だって性病だって、本人の抵抗力が弱っているときほど感染りやすいものだ。だから、いい男がいないとか、男はみんなキモいってのは、自分の精力が弱っている証なんだ。精力に溢れていれば、セックスだけなら誰とでもできるはず。

いやはや、ダンコーガイはここまでマッチョじゃないぜ。ファンのみなさんには申し訳ないけど(笑)。

それでも、もし私が女に生まれていたら売春婦になっていたかも知れないなとも感じた。いや、ヒモのまねごとをして食いつないだことだって実はあるし。でも、私の人生はずっと酒井あゆみ的だったよ。著者ほど主体的じゃなかったのは確か。

たしかに、理性的かつ論理的にセックスという仕事をマッサージや医療といった、肉体に関わるビジネスと峻別するのは難しい。私自身、それらがどう売春婦(いや、売春士か今後は?)と違うのか説明しろと娘に詰め寄られたら白旗をあげるんじゃないだろうか。

それでも、セックスが今でも特別扱いなのは、やはりそれが生殖行為でもあることなのではなかろうか。著者は「もう生殖行為は試験管でいいじゃないか」とは言うけれど、受精はとにかく受精卵を赤ん坊まで育てることは、今でも女性の子宮にしか出来ない。むしろ完全に娯楽行為となりえない部分が残っているからこそ、それを娯楽として抽出する売春というビジネスに人々は特別な感情を抱くのだろう。

それが証拠に、逆にセックスの生殖行為としての部分のみを抽出した代理母は、売春婦以上にスキャンダラスでコントロヴァーシャル(controversial)な存在として扱われているではないか。

娯楽と生殖を完全に分離する技術が確立されたとき、売春婦という存在はどうなるのだろうか。その時こそ「普通の仕事」と化すのだろうか。それともプロジェクト・ゼロのように「人工子宮」ならぬ「人工売春婦」に置き換えられているのだろうか。

しかし、この二つが分離されていないからこそ、人というのは面白い存在ではないのか。体から心を分離することは出来ない。書籍ですら、心だけで書いたものは売れない。体がともなわないと売れないのだ。売春婦の存在意義も、おそらくそこにあるのでないだろうか。

そんなことを考えさせられる一冊であった。

Dan the Married


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この記事へのコメント
なんだかんだ言ってるけど、社会的に非難されるような自分の人生を正当化したいだけなんだろうけどね
Posted by at 2008年03月03日 22:57

体と心が分離できないならば
心だけで書くことはそもそも不可能ですよね。


Posted by ? at 2008年03月02日 06:39
ポラロイドさん、
性交しました、いや、性交にしました:)
ごろーさん
流されたててたのを直しました:)
Dan the Typo Generator
Posted by at 2008年03月01日 16:46
「流されたて」売春婦→「流されて」売春婦
ですかね?
Posted by ごろー at 2008年03月01日 15:57
書名が「独身女性の成功哲学」になっています。こちらのほうがむしろ、ありそうな題名ですが。
Posted by ポラロイド at 2008年03月01日 13:14