2008年03月30日 07:45 [Edit]

To Be or Not to Be - 書評 - 限界自治夕張検証

梧桐書院代表取締役能登様より献本御礼。

404 Blog Not Found:日本はヤバくても、東京はヤバくないかも
夕張市の赤字は360億円。これを住民数12,203人で割ると、295万円になる。無理矢理夕張市を再建するより、移住支援をした方が安上がりに思えるのは私だけだろうか。

読了後、この考えがますます正しいように思えるようになった。


本書「限界自治夕張検証」は、副題に「女性記者が追った600日」とあるように、読売新聞の酒井麻理子記者が、夕張市の財政再建団体の転落から、支社開設、そして今年1月1日付けで同記者が札幌に転勤になるまでの動きを、過去の夕張市の状況を振り返りながら追った軌跡を一冊にまとめたものである。

目次 - 限界自治 夕張検証−梧桐書院にないので手入力
刊行によせて さらなる「夕張報道」に取り組む
読売新聞北海道支社長 浅海保
序章 抜かれから始まった
第一章 ついに財政再建団体へ
第二章 破綻の構図
第三章 再生へのもがき
夕張に「春」が訪れるまで
37人に聞いた18年後の夕張
あとがき
夕張市年表

本題でないので手身近に書くが、まず読売新聞という会社にあきれた。

あとがき p. 131
1部と3部のドキュメントは、ほとんどを酒井記者が新たに書き下ろした。2部は、支社編集部、東京本社地方部、社会部なども参加して連載した記事を主体にした。

にも関わらず、酒井記者の名前は著者欄はおろか、写真のキャプションを除けばここではじめて登場するのだ。せめて目次に章ごとの執筆者を書くべきではないのか。本書に限らず、読売新聞の記者が書いた本にはこの手の没個人化が多いのは一読者として極めて不快である。

ただし、夕張問題の書としては、現時点において最も包括的な一冊であることもまた事実だと思われる。なにしろ読売新聞は、この問題を取材するためにかつて閉鎖していた夕張支局を復活させたのだ。この支局復活のエピソードもまた、夕張市の変遷を色濃く反映していて実に読み応えがあった。

それでは、夕張市はなぜこんな風になってしまったのだろうか?

借金に関しては主犯ははっきりしている。中田鉄治元市長の放漫経営である。「ヤミ起債」までしてためた債務、632億円。うち地方債残高を除いた360億円を18年で返済するというのが財政再建計画である。

しかし、この事件は主犯だけで成立したものではない。24年にもわたって彼を市長に選出しつづけた市民も共犯者なら、中田の放漫経営を知りながら放置した道も共犯者なら、それを見過ごした国も共犯者である。

しかし、ここで重要なのは犯人探しではない。仮にそうだとしても「主犯」はすでに故人である。より重要なのは、市民をどうするか、のはずなのである。市民は主犯を公選したという意味では共犯者であるが、財務に関してはむしろ詐欺の被害者であることは本書を読めばよくわかる。

にも関わらず、財政再建計画はあたかも市民の罪を罰しているかのごとくである。その詳細は本書をお読み頂くとして、財政再建計画には市民が懲役18年の刑を命じられたような圧迫感がある。ところが、市民は別に刑務所に閉じ込められているわけではない。転居の自由はもちろんある。実際財政再建計画発動後の1年で、900人以上がそうした。そのまま行くと、夕張市は財政再建計画完了予定の2024年を待たずして無人になる。ところが、財政再建計画では、終了後の人口を7000人と見積もっている。市民に厳しいくせに、市民の地元に残ろうという気持ちに甘えているとしかいいようがない。

それでは、夕張市はどうすべきだったのだろうか?

本書には、まさにその夕張市の「中の夕張市」である、「大夕張」の事例も紹介されている。

P.133
今でこそ同じ夕張市だが、大夕張・南部地域とそれ以外では、異なる企業の城下町として別々の文化をはぐくんだのだ。

この大夕張は三菱が、それ以外では三井系の北炭が炭坑を経営していたのだが、炭坑が駄目になったときの両社の対応は両極端であった。

P. 134
撤退の仕方も違った。北炭が倒産して借金を踏み倒して出て行ったのに対し、三菱は計画的な撤退だった。三菱は、閉山にあたり、希望者全員の雇用先を確保しただけではなく、市に10億円を寄付した。

そう。会社に解散があるように、街が解散したっていいのである。この時夕張市がそうしていたら、傷はずっと浅くて済んだのだ。しかし、市民が選んだのは、「炭坑を観光に」をスローガンにした中田であった。あまり上品なたとえではないが、とーちゃんに先立たれたかーちゃんが、よりによってヒモと再婚したようなものである。

本書を読んで、改めて感じたのは、夕張市は再建すべきではない、ということだ。それよりも、市民を「逆疎開」させた方がいい。もちろん全員である必要はない。夕張メロンの栽培農家は残る方を選ぶだろう。まずは「逆疎開」する市民を決め、残る者に必要かつ残る者で維持できる程度の行政サービスを残した上で、ディアスポラするのである。

ディアスポラというと哀しい響きがするかも知れないが、元々は「種がまかれる」という意味である。新天地でうまくやれないものも当然出るだろうが、それは夕張市に残っても同じこと。もちろん、自発的にそうしている市民も少なくないが、財政再建計画という名の「いじめ」でねちねちとそう追いやるよりも、きっちり解散した方が心理的な痛みも、そして財務的な痛みも少ないのではないか。

そして、全国には第二、第三の夕張市が日本全国に控えている。破綻した地方自治体をどうするか、というのは他人事ではないのである。喫緊に手法を確保しておく必要がある。しかし夕張市のやり方が正しかったかどうかがわかるには、少なくとも18年もかかるのである。

まずは、きちんと終らせるべきなのではないだろうか。

Dan the Taxpayer

追記:

H-Yamaguchi.net: 400億円を「保証」した人々を称えようではないか
あ、そうだ。都知事も忘れちゃいけないな。計68人として、400億円も頭割りにすれば1人あたり最大でも「たったの」6億円弱。その節は皆さんよろしくー

これ、中田市政の後を継いだ夕張市の後藤健二前市長には冗談でも揶揄でも何でもなくそうだったらしい。

P. 115
あとでわかったことだが、不出馬の理由はもう一つあった。自己破産した3セク「夕張観光開発」に、個人で5000万円の連帯保証をしていたのだ。社長になったとき、よく知らされないまま、中田元市長から自動的に引き継がされていたという。最悪の場合、市長の自己破産もありうる。自らの金銭面からも、市長選に出馬する状況ではなかったのだ。

で、慎太郎君はいくら債務保証しているんだろう?

追^々記

asahi.com:夕張市長SOS「再建計画、実行ムリ」 - 政治
財政再建計画が2年目に入った北海道夕張市の藤倉肇市長は2日、大幅な歳入不足と老朽施設崩壊などによる予想外の支出があるとして、「353億円を18年間で返済するという計画通りの実行は極めて困難」と表明した。

案の定。


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梧桐書院から発行された「夕張の破綻」に関して読売新聞北海道支社夕張支局の女性記者を中心に書かれたルポである。 私がこの本を知った...
読売新聞は、どうしてこの本を中央公論から出さなかったのだろう?【若だんなの新宿通信】at 2008年04月08日 12:37
   郊外型大規模店は道路財源とセットで考えなきゃいけないという話です。  以下、論拠。    街はできるだけコンパクトに保ち、高齢化社会や環境保全に対応して行こうという考え方は、すでにヨーロッパなどでは常識になっています。  ところが日本では、商業施設のみ
[不動産][その他]道路財源と郊外型大規模店【不動産屋のラノベ読み】at 2008年04月07日 21:40
asahi.com:宿題忘れの児童、床の上でプリントさせる 福岡の小学校 - 社会 http://www.asahi.com/national/update/0403/SEB200804030003.html 開放型教室のせいで児童をしかるのに躊躇するようになるってのが 小六の時の担任の先生の意見だった。たしかにそうだよな し...
ここは酷い開放型教室ですね【障害報告@webry】at 2008年04月03日 23:54
できない約束をしてはいけない。責任ある立場の人は特にそうだ。まさか見識のある人た
400億円を「保証」した人々を称えようではないか【H-Yamaguchi.net】at 2008年03月30日 23:32
この記事へのコメント
夕張市民の敵は夕張市民。
ただ、連中がウィンプなだけでしょ。
放って置けばいい。
Posted by あほ at 2008年04月05日 00:45
破綻前後の例の街に関わったのだが、いまだに破綻後一年間の後味の悪さが心にこびりついている。高齢者が残り続ければ長期的に見て悲惨な結果となることは多くの有識者がシュミレーションしているのに、メディアはそれをかき消すかのようにおめでたい再建ドラマを演出し続けた。特にひどかったのは医療関係で、客観的評価があいまいなままテレビ演出だけ派手にしたり、目立ちたがりのような言動を繰り返し、専門家筋からは酷評されていた医師が「(融資の返済が終わる)10年後にはここから出て行く」と公言しているのにも関わらずメディアだけで実体のない英雄扱いされている。結局こういったことすべてが、これから日本中で起こる混乱を隠すための「太鼓持ちのあやつり人形」なのだ。「移住支援をした方が安上がりに思える」という意見を読んで、やっとまともな論説が世に出るようになったのだとむしろ安心している。
Posted by カネミ at 2008年03月31日 20:50
序章 抜かれから始まった → ?
手身近 → 手短
にも関わらず → にも拘わらず

炭坑でできた町は、炭坑が無くなればゼロの状態に戻っていくのが自然の摂理。軍艦島が閉山後3ヵ月で無人になったのに対して、夕張は17年間(最初の閉山からなら34年)無為無策だったわけで、失われたチャンスはいかほどのものかと。
Posted by nom at 2008年03月31日 19:23
よその土地でも食べていける自信のある人から順々にいなくなると、最終的には、たとえば核廃棄物の最終処分場誘致に反対するような骨のある人は皆無になるのでしょう。
Posted by Kei at 2008年03月30日 18:21
無理に企業誘致しようとするより、十勝とかみたいに土地にあった産業(酪農、農業など)と、その加工業を主体とする街に移行していったほうが良いように思えます。
街自体は、縮小するだろうけど...
Posted by 豚野郎 at 2008年03月30日 16:43
自治体の破産はない(と言うより「取りっぱぐれ」が無い)、というのが債券価格の基本なので、もし消滅になると債券価格の暴落=金利暴騰という凄いことになるので旧自治省も潰すことは出来ないでしょうね。それからお年寄りは、新しい土地に馴染みにくいのでストレスを抱えるという弊害もあります。高齢化が進みすぎている過疎地は地獄です。

制度上予定していないことが起きるとどうにもならない。弾さん意見には大賛成なんですが。撤退という選択肢があれば楽なんですがね。

第二第三の夕張は、自動車税で持っているところでしょう。
Posted by 東 at 2008年03月30日 16:01
>仁さん
先の市長選挙で落ちた羽柴某という方が、採掘権をくれたら採掘所を作って町おこしをする、と言っているそうです。
さてその市長選挙で勝った現市長ですが、難しいとかなんとか言ってはぐらかしているようです。少なくともTVの取材で見る限りは、まともに取り合う気が見えませんでした。
Posted by mogera at 2008年03月30日 15:12
二酸化ガスを液状化して地下に埋め込む技術の国際実験の実施を
日豪で合意しましたね。
今、ニュースで流れてました。

夕張、個人消費関連以外の抜本的な歳入増加を考えると
安全とのトレードオフなんですかね。
Posted by はるお? at 2008年03月30日 13:28
なにかこのページに細工してある?
Posted by ページが飛ぶんだけど at 2008年03月30日 13:26
実家は鷲田氏と同じ町にある。

行き止まりの山間の閉塞感は都市生活者にはまあ理解不能だろう。
Posted by 令博 at 2008年03月30日 12:45
人命とのトレードオフで採算に合わないから日本の炭鉱は消えたので、坑道を掘る従来の方式はもはや無理。

代わりに、経済産業省の温暖化対策の名目で、二酸化炭素を注入して替わりにメタンガスを得るプロジェクトが存在する。この実験施設の候補地が夕張だったはず。

但し、メタンの方が温室効果が高いので、実験としてメタンが外部に漏洩することなく確実に回収できなければ、温暖化対策としての名分が立たなかったりする。
Posted by 令博 at 2008年03月30日 12:36
地図の上から人は見えない。
Posted by uminot at 2008年03月30日 12:29
以前一度飛行機の時間調整か?東側へ大きく回って夕張山地上空を通過した際に地上を見たら夕張は本当にどん詰まりの地域。
そんな地理による心理的閉塞感も夕張にはあるかもしれない。南部は交通網の一端にかろうじて引っかかっているが。

人口が減ったら「市」は「町」「村」へ変更すべきではないか?過疎ならそれなりに身の程を知るべきなのに、それを認識しないまま市民が生活を続けていた気がして、夕張市という土地というか名称には以前から違和感があった。
スキー場やら石炭博物館などのCMが流れるのを見て、それが何?と結構思っていた。

因みに夕張山地に南北に連なるあと4つの市町が破綻予備軍で、「積立金の取り崩しがどうの」とかで夕張市の二の舞にならないように数字をいじくっている最中のはず。
Posted by 令博 at 2008年03月30日 11:01
つぶしてしまうのも1つですが、

炭鉱再開発というのはダメでしょうか?
まだ採掘可能だと思うのですが。
原油価格は下がりませんし石炭見直しもあるでしょう。


Posted by 仁 at 2008年03月30日 10:57
「夕張問題」鷲田小彌太、祥伝社新書 というのが昨年出ていて、大雑把に状況を把握するには良いかも。

但し、著者も後書きで触れているが、夕張郡在住者であって夕張市在住じゃない。札幌方面へ視界が開けた馬追丘陵西側斜面が彼の住まいのあるところ。勘違いしている読者もAmazonレビュ−にいるようだ。
Posted by 令博 at 2008年03月30日 10:54
 いま、夕張からほど近い町の小さな診療所に来ています。

 日本では地方自治体の破綻処理の手法は極めて硬直的で、再建を認められることはあっても、清算および解散を認められることはありません。債務整理の方法が乏しく、理由あってのこととは言え、債権者の保護に重きが置かれています。

 破産による再出発の方法がないのです。
Posted by rijin at 2008年03月30日 10:41