2008年04月12日 23:30 [Edit]

News - ニアミス事故逆転有罪 - 木から落ちた猿の罪

このニュースも、昨今話題の医療崩壊も、「プロの過失」を司法が問うことそのものがはたして正しいのか、ということに尽きるのではないか。

livedoor ニュース - [日航機ニアミス事故]管制官2人に逆転有罪判決 東京高裁
静岡県上空で01年、日航機同士が異常接近(ニアミス)し、乗客57人が負傷した事故で、便名を取り違えて指示したとして業務上過失傷害罪に問われた国土交通省東京航空交通管制部の管制官2人の控訴審判決公判が11日、東京高裁であった。高裁は1審の無罪判決を破棄し、籾井(もみい)康子被告(39)に禁固1年6月、執行猶予3年▽蜂谷(はちたに)秀樹被告(33)に禁固1年、執行猶予3年を言い渡した。

まず、こちら。

2008-04-12 - 弁護士 落合洋司 (東京弁護士会) の 「日々是好日」
自らの、プロとしてあってはならないミスを上記のように言う被告人の言は、いただけないな、と思いますね。

ヤメ検、すなわち法曹以外の世界でプロに接する機会が少なかった者らしい不見識である。法曹もまた過失を犯しうるものであるが、「法のプロ」が「娑婆のプロ」と決定的に違う点に見事に配慮を書いている。

法曹は、過失を問われない。冤罪は明らかに法曹の過失であるが、それに対して刑事罰を受けた法曹というのは存在したのだろうか。私の知る限り「過失」で刑事罰を受けた検事も判事も一人も存在しないはずだが、私は法のアマチュアなので、いたら是非教えて欲しい。

かといって、私は以下にも賛同しない。

バカな裁判官が航空管制をガタガタにさせるって・・・ - NC-15
 正直言ってこれは無茶苦茶な判決というか。どのバカな裁判官がこんな判決下したんだろうか。

無茶苦茶な判決、というのには同意するが、これは控訴審である。そもそもなぜ検察が控訴する必要があったのかが私には不可解だ。「検察の負け」だからだろうか。そもそも起訴する必要があったのだろうか。

しかし、この件につき「誰が悪いか」といえば、つきつめれば日本が国民主権を謳っている以上、我々である、ということになる。「どう悪いか」といえば、過失とはプロ、アマを問わず、減らすことはできても無くすことは出来ないという、業種を問わず、仕事を知るものほど強く知っている知見から目をそむけていること、となる。

asahi.com:「もう管制できない」ニアミス逆転有罪、現場に衝撃 - 社会
一方で、多くの犠牲者が出たり、過失が明らかだったりした場合には「刑事責任は当然」という意見が強くなる。被害者感情もある。再発防止と刑事責任追及のどちらに重きを置くか、議論を求める声が高まっている。

過失にあたって、刑事罰がほとんど役に立たず、その一方で損害賠償+事故防止策強化モデルが多大な成果を上げているのは、この事件が起こった航空業界ではすでに常識となっていると同時に、「失敗学」を通して他業種のエンジニアにも共有されつつある認識である。

もし飛行機事故をすべからく刑事罰で罰していたら、航空機はここまで安全な乗り物となっただろうか。

極論に聞こえるかも知れないが、私は業務上過失(傷害|致死)罪そのものを廃止すべきだと考えている。過失は損失ではあるが、罪とは言えないからだ。そして業務上過失罪で加害者を罰しても、被害者感情を100%納得させることは不可能である。その代わり、損害賠償を厚くし、事故防止策の導入を義務づける方が社会損失も少なくなるはずである。

プロもミスを犯す。全てのプロがそうである。だからそのミスを罪としてはならない。ただしミスによる損失は、プロの契約不履行と見なせるので、その損害は賠償するのがプロとしての責任である。プロ個人で賠償するにはあまりに大きな損失とて、業界全体であれば賠償は可能だ。保険だってある。

プロの罪は、そのミスを放置することにある。事故そのものがプロの罪ではない。事故から学ばぬことが罪なのだ。

その点において、日本の法曹業界の罪は他の業界にも増して重いのではないか。冤罪防止一つとっても、そのための具体策の導入にあれほど抵抗するのはなぜだろうか。

しかし、その罪を「放置」する一方、罪も憎んで人も憎んできたのが我々国民でもある。法曹や医師といったプロフェッショナルを「先生」と呼び、しかし事故があったら彼らを罪人扱いしているのは他ならぬ我々なのだ。プロはお上でもなければましてや神でもない。むしろ「下僕」なのだ。

「主」としてどう「プロ」を遇するべきか、主権者であれば常に考えておく必要があるのではないか。

Dan the Man to Err


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システムと「個人」の「過失」【アメリカ発祥の地でアメリカ法を思考する】at 2008年04月14日 15:53
この記事へのコメント
事故調査を→事故調査の動向を
Posted by Piichan at 2008年04月15日 17:16
福島県の産婦人科医の裁判と高知の白バイ隊員死亡事故の裁判の判決は今後の日本の事故調査を左右しかねないので注目しています。

高知の白バイ隊員死亡事故の被告人である片岡晴彦氏を支援する会の公式サイト
http://www.geocities.jp/haruhikosien/
Posted by Piichan at 2008年04月15日 17:13
>× もし飛行機事故をすべからく刑事罰で罰していたら
>○ もし飛行機事故をすべからく刑事罰で罰すべきとしていたら
>○ もし飛行機事故をすべて刑事罰で罰していたら

参照先にも書いてある通り、
>「必然的に」「当然のように」「そうあるべきこととして」という意味用法
があるので元の文でも意味は通る。
(すべきこととして刑事罰で罰していたら)
Posted by koji at 2008年04月15日 09:53
学生でない限り自らも何らかのプロな筈なのに
他人の事になると何で短絡的に断罪したがる人がいるんでしょうね?
ショップやファミレスで親の敵をとるように烈火の如く店員を罵倒して
いる人を見ると、自分が同じ立場になったらそれは理不尽と
感じないのか不思議でなりません。
ましてプロならば契約不履行をどのように埋め合わせするのが
妥当かと問われる方がよほど堪えるはずなのに
根拠のない感想ですが、そういう人って非技術者に多い気がします

マスコミが堪えないのは契約不履行という概念がないから?
Posted by ard at 2008年04月15日 03:01
>業務上過失(傷害|致死)罪そのものを廃止すべき
そんなこと言い出したら例えばトラックの運転手なんか減るでしょうね
リスク高すぎますもん、一瞬たりとも気を抜けないのに
それでも100%防げませんから、交通事故。

まぁ危ない運転が減るから嬉しいような気もしますがw
Posted by 風 at 2008年04月14日 01:20
確かに(自分以外の人間の)無謬性を強く要求する人が増えた気がしますね。
こうなったら、公務員もその個人の判断の間違いに対して罪を問うべきだと思うのです。
たとえばPSE法の連中とか、廃業した中古業者一人一回、首をのこぎりで挽く権利があるんじゃないかと。
Posted by ataru at 2008年04月14日 01:08
rijin氏と同意見。
ただし、集団としての警察は社会的制裁は受けてますね。マスコミによって。大多数の真面目にやってる現場のおまわりさんのモラールは落ちつづけてるだろうね。
検事、裁判官(+マスコミ)が裁かれているのは見たことがないけれど。

この国の人たちは一定の質を保った仕事をするためにはコストがかかること、
最高のレベルのプロが仕事をしても一定の割合で不具合が起こること(だから
弾氏のいうように失敗から学ぶ仕組みが必要)ということがいつからわからなくなったんですかね。
Posted by nanashi at 2008年04月14日 00:34
 sakurada さん、こんにちは。

 本当に管制官をやる人がいなくなるなんてことないだろうって、多寡を括ってますね?

 医療界では分娩を取り扱う医師が激減しました。手術をする外科医と初診を担当する一般内科医も新規参入が激減中です。

 プロは代替困難だからプロなんです。

 対応を誤れば、簡単にいなくなります。

 小理屈をこねくり回すのを止めて、えん罪が発生したら警察官は懲戒免職、検事は逮捕・懲役、裁判官は高額な賠償金となった場合、どれぐらいの法曹が弁護士会に逃げ出すのか、ちょっと考えてみれば分かるでしょう。司法制度が麻痺します。
Posted by rijin at 2008年04月14日 00:13
>>注意義務を履行できなかった責任を問うているのでは?
>それだったら民事になるんじゃない?

民事は注意義務云々じゃなくて,損害との因果関係の認定じゃないでしょうか?

刑事罰としての過失罪は,高度な注意義務を怠った過失を問うわけで.管制官は資格を持った人々ですよ.リスクのわりに報酬が安いとかそういう問題はあるとは思いますが.

でもまあ,過失罪で禁固刑とか懲役刑を科しても矯正効果がどうなのかは疑問.
Posted by sakurada at 2008年04月13日 23:18
内容に関係ないコメントで失礼します。
Windows Vista上のIE7でブログを開くと
古めかしい書体になります。(文字も旧字に化けることも)
もし意図するものでなく、また簡単に対処できるようならば
スタイルを変えてみてもらえるでしょうか。

<表示例>
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-SanJose/7809/404n.gif
Posted by がおぴ at 2008年04月13日 21:55
この判決が確定したら、管制官不足のためにどこかの空港が閉鎖になるでしょう。
Posted by 挧 at 2008年04月13日 20:56
× もし飛行機事故をすべからく刑事罰で罰していたら
○ もし飛行機事故をすべからく刑事罰で罰すべきとしていたら
○ もし飛行機事故をすべて刑事罰で罰していたら

参照:http://d.hatena.ne.jp/keyword/%a4%b9%a4%d9%a4%ab%a4%e9%a4%af
Posted by Yuichirou at 2008年04月13日 14:25
最近特に世論のプロフェッショナルに対する敵視が強くなっているようですし、実際にはこのエントリーと逆方向に法改正がなされそうな悪寒。
Posted by ケケケ at 2008年04月13日 13:12
×見事に配慮を書いている。
○見事に配慮を欠いている。

かな?
Posted by もり at 2008年04月13日 09:49
>注意義務を履行できなかった責任を問うているのでは?
それだったら民事になるんじゃない?
Posted by YN at 2008年04月13日 02:23
システムとして不可避であった場合にはそもそも業務上の過失罪は問われないのではないかな?

罪が問われるのは,当然その業務に携わる者(プロフェッショナル・個人)が払わなければならない注意義務を履行できなかった責任を問うているのでは?
Posted by sakurada at 2008年04月13日 01:05