学陽書房の村上氏より献本御礼。

添え状によると、以下のentriesを見て献本下さったようである。

こういう具体的なentriesが示された献本というのは、まず外れることがないが、本書も「当たり」であった。

本書「日本版スローシティ」は、日本においてスローシティ、すなわち「反ファスト風土 」的な街づくりをするにはどうしたらよいかを、実にさまざまな視点から考察した一冊。税込み2,625円と高めだが、この話題に興味がある人であれば充分元がとれるはずだ。

まえがき - まちづくりの考案者は、専門家から地域市民へ
序章 まちづくりは地域市民のライフスタイルを尊重し実現する手段
第1章 西欧に根づく「スローシティの精神」
第2章 市民ライフスタイルを知らない日本のまちづくり
第3章 スローシティの取組みが必要な理由--ライフスタイルを変える5つの社会変化への対応
第4章 地域固有の文化・風土を活かした「スローシティ」事例
第5章 スローシティを実践する「コミュニティ」事例
第6章 スローシティ実現に向けて
事項索引
あとがき

同時に献本された「日本版コンパクトシティ」もなかなかの力作で、都市計画に興味のある人は両方手に入れても元が取れると思うが、「日本版スローシティ」は、ある一つの点において画期的であり、先に読むならこちらを推奨する(私が読んだ順番は逆だった)。

ネットの役割が、この手の本できちんと考察されているのだ。

P. 77

インターネット社会:消費の在宅化

インターネット社会において「自宅」は、消費の場として、販売やビジネスのバトしても位置づけて、都市政策を立案する必要がある。消費、仕事、サイドビジネスまでも自宅で完結できるインターネットは、街中において「郊外」以上jに脅威となる存在だ。特に、地方都市市街中における集客の核と位置づけられる「物販業」は、消費者と販売者の双方をインターネット市場に吸収されている。

それでは、インターネットはスローシティと競合するのだろうか?いや、それどころか協調するというのが著者の意見だ。著者は「ドットコム・ガイ」の社会実験の結果を紹介した後、こう述べる。

P. 83
いかに車社会やインターネット社会が進展しようとも、郊外商業施設やインターネットでは人に提供できないものがある。物の需要が飽和した現代人は、人との交流・地域文化との触れあいを求め、さらにそこから得られる心の充足を求めている。スローシティはそういう場を目指し、郊外消費や自宅消費との差別化を図り、街中活性化を実現する手段でもある。

私もこれに賛成する。

それでは、「そういう場」にするために日本の「ファーストシティ」に何が足りないか?著者はそれを、住居でも職場でもない第三の場所、サードプレイスと呼んでいる。そういった場所がいかに足りないかは、日本の街路を見れば明らかだ。そこは、ただヒトとモノが通りすぎていく場所に過ぎない。そういうところに店が面していても、店はただ客にのみ商品やサービスを提供するのみ。それでは大規模店舗や通販に価格や利便性で対抗のしようがない。シャッター街の誕生である。

サードプレイスの必要性は、田舎のコンビニを見ればすぐにわかる。そこには誘蛾灯に引き寄せられた虫のようにたむろしている若者が散見される。しかしこれはアドホックでアンオフィシャルなサードプレイスであり、コンビニに限らず商店主はそれこそ彼らを虫のごとく、単なる商売の邪魔者としか思っていない。

この「サードプレイス」というのが、本書で最も重要な概念なのだが、他にも本書は街づくりに使えそうな知見と事例が盛りだくさんで、実に面白い。

住んでみればわかるが、東京には「東京」なる巨大都市はなく、あるのは「八百八町」である。山手線の駅は一つ一つ皆異なる。駅一つ隔てれば別の街である。中には巣鴨のようなスローシティまである。

同じ東京を真似るのであれば、東京に「東京」はないことにまず注目すべきなのだろう。

いずれにせよ、今後の日本の都市がスローでコンパクトなものになるというのは外れようのない予測のはずだ。その具体像を描くのに本書は必ず役立つ。今のうちに読んでおきたい。

Dan the Urban Rat