2008年05月26日 18:45 [Edit]
最高のサイエンス・ノンフィクション - 書評 - iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか?
日本実業出版社企画戦略室長大西様より直献本御礼。
「あとで読む」つもりが、目次を見ただけで堪えられなくなり、引き込まれるように読了。
これはすごい。今はなき「科学朝日」「サイアス」に連載していた頃の立花隆に匹敵する、いやそれ以上のインパクトだ。
本書「iPS細胞 ヒトはどこまで再生できるか?」は、ここ十年の生命科学の最大級の発見、いや発明、iPS細胞に至る今までの物語と、そこから導き出されるこれからの物語を、科学者としてもジャーナリストとしても訓練を受けた著者が丁寧かつ迅速に書いた一冊。献本下さった大西さんによると、「iPS細胞に関して書かれた一般書としては本邦初」とのことである。
目次 - 日本実業出版社より
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まず本書が日本実業出版という、科学関係の本とは今までそれほどなじみのない出版社から出てきているのにも驚いたが、それも相対論とかDNAとかいう、ある程度売れることが期待できる「定番の啓蒙書」ではなく、いきなりド最先端の分野で一冊出したのに驚いた。なにしろiPS細胞という名前そのものの登場が2006年8月、ヒトiPS細胞が出来たのに至っては去年の11月だ。
こうしたあまりに最先端の情報というのは、科学に限らず情報が錯綜して混沌とするものだが、本書はそれを実にわかりやすく、しかしあくまで科学的にまとめている。その仕事の速さと品質の高さは脱帽ものだ。
たとえば、著者はゲノムを一冊の本、遺伝子をその本のページに例えることで、全能性の損失や再獲得を実にわかりやすく図解する。これなら中学生でも理解できる。そう。iPS細胞の概念そのものは、実にわかりやすいものだ。
だからこそ、素人も玄人も巻き込んだフィーバーとなっている。ES細胞からiPS細胞への流れは、フラーレンとカーボンナノチューブの関係を彷彿とさせる。後で見つかった方が応用力が高く、そして日本人が見つけたという点でも共通している。
では、iPS細胞とは何か。induced pluripotent stem cells、人工多能性幹細胞とあるとおり、成人の普通の細胞から作られた=誘導された幹細胞である。受精卵が必要なES細胞(embryonic stem cells)と違って、倫理上の問題が格段に少ないのだ。
それではiPS細胞があると、何が出来るか。医療が根本的に変わる。脊髄損傷も治療できるようになるかも知れない。ヤクザの指つめも元に戻せるかもしれない。もう臓器を求めて海外に行く必要もなくなるかもしれない。それが医療にもたらすインパクトは、種痘以来かも知れない。
ここまでは第三章までのおおよそのあらすじで、出版の速さを考えれば本書はそこまでで出してもよかったはずだ。しかし、本書の真骨頂はそれに続く章にある。素人ですら平常心を失いかねないこの状況で、将来どのような問題が登場するかを先回りして考察しているのだ。
著者は、理想と現状のギャップを、飛行機の発展に例えてこう述べる。
P. 246仮に、1997年のドリー誕生や1998年のトムソンによるヒトES細胞株の樹立を「自然の力を利用すれば、空を飛べる」ことを証明したリリエンタールによるグライダー実験の時代だとすれば、2007年の山中によるiPS細胞の樹立は、「人工の推進力を用いて空を飛べる」ことを証明したライト兄弟の実験成功と言えるかも知れない。
この比喩も見事だが、それに続く指摘が、じれったく、そして素晴らしい。
二つの世界大戦は、航空機の研究に多くの頭脳と資金を投入した。その結果として航空技術は確立し、第二次世界大戦後に長距離国際線が登場する下地を作った。しかし」それから、実際に一般の人々がその恩恵を受けられるようになるには、さらに時間がかかった。六〇年代以降に空の旅行が一般化したと書いたが、日本人にとっては高度経済成長を経たあと、八〇年代以降が本当の意味で「大衆化の時代」であったといえるだろう。
私自身は、そこまでかかるとは考えていない。それでもiPS細胞が臨床で使われるようになるには10年ぐらいはかかるだろうし、それが一般化するにはさらに10年ぐらいはかかるのではないか。しかも著者も指摘するように、再生医療がもたらす問題は、仮に生命倫理の問題が全くないとしても、少子高齢化と格差拡大という懸念が存在するのだ。
とはいえ、これらの問題は一冊の本で扱い切るにはあまりに大きい。本書の「万能性」(pluripotent)は稀に見る高さだが、それでも「全能」(omnipotent)ではないし、またある必要はない。しかし、本書は今後の生命科学と再生医療を語る上で、必読の「幹本」と言うのは確かだ。
しかしこれが単著デビューとは。田中幹人、恐るべし。そしてこれを一本釣りした日本実業出版も恐るべし。
Dan the Collection of Deduced Cells
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s/生命尾倫理の/生命倫理の/
じゃないでしょうか?
Typoの指摘ありがとうございました。
Dan the Typo Generator
(正)しかし、それから


