2008年06月23日 11:30 [Edit]

そんなに力んじゃダメ - 書評 - がつん!力

広部@講談社Biz様より献本御礼。

ダメダメ、そんなタイトルで力んじゃ。

なんてもったいない。こんなに面白いのに。

副題の「会社を救う5つの超原則」もダメ。

なんでダメかを説明することが、本書の魅力の説明になる、そんな一冊。


本書「がつん!力」は、分析の本。「こうしなきゃダメ!」という体に訴えるタイプの本では全くなくて、「こういう視点から見ると、ものごとはこう見える」という頭に訴えるタイプの本。なのになんでこういうタイトルつけるかなあ。

目次 - がつん!力  会社を救う5つの超原則 鈴木貴博 講談社ではなくAmazonより
序章 大埋没時代がやってきた
第1章 沢尻エリカと亀田大毅と朝青龍、一番強いのは誰?
テレビとネットで火をつける「話題の原則」
第2章 一尾200円の魚が二尾150円になる理由
ロングテールで埋没を防ぐ「居場所の原則」
第3章 トヨタとグーグルを倒す者の条件
トップに勝つ「規模(スケール)の効果の原則」
第4章 マイレージとポイント制度はなぜ儲かるのか
顧客をがっちり囲い込む「還元率の原則」
第5章 リクルートがビル・ゲイツ級のビジネスを生んだ秘密
会社と商品をクリエイティブにする「組織の原則」
おわりに ~出すぎた杭でなければ生き残れない

第2章に注目して欲しい。「ロングテールで埋没を防ぐ」とある。にも関わらずタイトルに「力」を含めたところがダメ。今、最もインフレが激しいのがこの「力」なのだから。

この第二章、本書のキモと言ってもいい。今まで読んだ中で、最も秀逸なロングテールの分析なのだから。著者が見いだしたのは、ロングテールはまっすぐではなく、折れ曲がっていること。たとえばロングテールの発見の決め手とものなった、書籍の出版点数と順位の両対数グラフを描くと、ヘッド側とテイル側で直線の勾配が変わってくるのだ。ヘッド側は比較的勾配がゆるいのに対し、テイル側はキツい。そしてこの勾配のどちらに属するかで、生き残れるか滅びるかが決まるというのだ。

著者はテイル側の急勾配を、「死のすべり台」と名付けた。そしてこの「死のすべり台」を分析することで、「一尾200円の魚が二尾150円になる理由」がわかる。死のすべり台、すなわち勾配が50%よりきつい時は、点数が倍でも売上げが倍以下になってしまうのだ。

なのに、本書のタイトルは「がつん!力」。なぜこんな死のすべり台を駆け下りるようなタイトルを付けたのか。残念ながら、著者は勝間和代 でも斎藤孝 でもない。ネームヴァリューで売れる著者では(まだ)ないのだ。こういう時こそタイトル重要なのに、なぜ埋もれてしまうタイトルを付けたのか。

主題だけならまだしも、副題の「会社を救う5つの超原則」でもうorzである。これでダメが超ダメになった。

では、私ならどういうタイトルにしたか。まずは比較的易しい副題から見直してみよう。本書の魅力は、なんといってもその分析にある。単純な分析の、意外な結末。これこそが本書の一番の売りである。そして本書の弱みは、なんといっても「力が空回り」ことである。分析は明晰だが力が及んでいない。弾言する。この人には会社は救えない。しかしそのことを恥じる必要は全くない。なぜならそれは著者の仕事ではなく、コンサルタントである著者の顧客の仕事であり、そして読者の仕事である。なのに「会社を救う」では失笑を買うだけだ。

なぜ、「社運を分ける5つの逆説」としなかったのだろうか。これならば、明晰な著者の持ち味がずっと活きてくる。s/原則/逆説/gとすれば、各章の副題もがぜん鮮やかになる。

あとはこれに沿って主題にすればいいのだが、ここはあえて「一尾200円の魚が二尾150円になる理由」としたい。本書の分析の中で、最も目から鱗が落ちるのがここだからだ。長めのタイトルも、明晰だけど弱力な著者に似合う。

もちろん、「がつん!力」という力が似合う人はいる。たとえば哀川翔あたりであればこのタイトルを「着こなせる」だろう。残念ながら、著者にこのタイトルは似合わない。まるで化粧を覚えたての小娘の化粧のごとく見苦しいだけだ。

というわけで、タイトルは「デビルマン」なみに「なかった」ことにしてもらって、中身を味わっていただきたい。本当に美味だから。「分析系」の書籍では、今年一番の面白さと言ってもよかった。第2章だけではなく、残りの4つの「超原則」改め「逆説」もすばらしい。

それだけに、タイトルのまずさが際立つ。今年の書籍タイトルの、現時点におけるワースト1を認定させていただく。

Dan the Man with a Name That Explains Himself Better than Any Other


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この記事へのコメント
久しぶりに書評らしいクオリティでした。
最近のディスカバー社の書評に見られるような
なにやら鼻薬をかがされたっぽい書評に辟易いてたのでw
Posted by 東の at 2008年06月24日 13:57
やっぱり力だ!という人に読んでもらいたいから
わざわざこんなタイトルつけたのかなぁと思ったけどね
Posted by ac at 2008年06月24日 13:00
> なのになんでこういうタイトルつけるかなあ。

 筆者のコラム(http://premium.nikkeibp.co.jp/itm/col/suzuki/133/)によれば、

> “埋没状態”から圧倒的に突き抜ける力のことを、我が社では「がつん!力」と呼んでいる。

 だそうです。

Posted by 名無しさん at 2008年06月24日 02:04
続編が作れそうなタイトルですね。あ、斉と斎はぜんぜん意味が違う字らしいっすよ。斎と齋は同じかな?
Posted by やんばる at 2008年06月23日 21:20
 書評が上手になったね。
Posted by 野ぐそ at 2008年06月23日 15:49