2008年07月25日 00:00 [Edit]

この手があったか! - 書評 - 日本という方法

ああ、やっとこの本を紹介できる。

初出2008.07.17; 「課題図書」につき暫く更新

本当はすぐにでも紹介したかったのだけど、この「方法」に対する私の理解が正しかったのか、「検算」してからそうしたかったのだ。そして今日、著者本人に検算していただく機会を得た。「間違い」ではなかったという確証以上のものを得る事が出来た。

日本を知りたかったら、まずこれを読め!

だけど、「100冊読むよりこの1冊」なんてことは言わない。

それは、日本という方法ではないのだから。


本書「日本という方法」は、私がこれまで読んだ日本論の中で、心身ともに最も腑に落ちた一冊。The Bestである。そしてこの本を読んだ事で、読書欲がますます高まった。なぜ数多の良著のように、「他のクソ本は捨て、この本を極めよう」ではなく、「もっと本を読もう。クソ本を恐れずに」となったのだろうか。

それこそが、日本という方法だからだ。

目次 - ISIS より
    第1章 日本をどのように見るか
    第2章 天皇と万葉仮名と語り部
    第3章 和漢が並んでいる
    第4章 神仏習合の不思議
    第5章 ウツとウツツの世界
    第6章 主と客と数寄の文化
    第7章 徳川社会と日本モデル
    第8章 朱子学・陽明学・日本儒学
    第9章 古学と国学の挑戦
    第10章 二つのJに挟まれて
    第11章 矛盾と葛藤を編集する
    第12章 日本の失敗
    第13章 失われた面影を求めて

それでは、「日本という方法」とは何か? 要約というのであれば、俳句どころかひらがなで七文字に収まってしまう。

P. 10
一途で多様

これが著者による最も短い要約。

こんなのある

P. 12および第11章
絶対矛盾的自己同一

by 西田幾太郎

「俳句化」すると、こうだろうか。

おもかげを 残したままで うつろい行く

そう。「日本という方法」を単にお品書きするだけであれば、いくらでも要約できるのである。しかし、その要諦は「要約の否定」いや、「要約の寸止め」なのだ。だから、「もっと読みたく」なるのだ。

優れた本というのは、そのほとんどが自己相似的な構造をしている。書名を「展開」すると目次になり、目次を「展開」すると「本文」になる。本書はその点においても実に優れた本で、「日本という方法」という書名だけでも「わかる人はわかる」し、「わかる」にも関わらず、いや「わかったからこそ」読み進めずにいられないのだ。本書のすみからすみまで、そして本書を越えて。

また、優れた本というのは大いに自己言及的でもある。本書は、日本有数の本読みにして希代の編集者である著者が、「日本という方法」に沿って著したのが本書なのである。これが面白くて役に立たないわけがない。

しかし、この「日本という方法」は、「方法」であるのと同時に「方法論の否定」、いや「否定の否定」でもある。排中律では単に「肯定」であるが、しかし単純な「肯定」ではない。あくまで「否定の否定」なのだ。否定しないこと、すなわち一様でないことに一途なのが、日本という方法なのだ。

飽きれたことに、これは「一様であることことがたった一つの冴えたやり方」が成り立つ、工学の分野においてすら事実なのだ。電力の周波数が二つもある国が他にあるだろうか?電圧やソケットの形というなら他にも例があるが、電圧やソケットの形はユーザー側でも対処できる、「安価な多様性」だが、周波数というのは発電機で決まってしまうのでむっちゃ高額な多様性である。

この点において泣けるのが文字コード。主なものだけでなんと四つもある。ISO-2022-JP、Shift_JIS, EUC-JP, そしてUnicode。これを相互変換するためのプログラムを私が担当しているというのはご存じかもしれない。

そう。実は「日本という方法」は、極めて高コストな方法でもあるのだ。この方法がこの国で育まれた理由がまさにそれだろう。放っとけば雑草が生い茂るような豊穣な地でないと、この方法を育む余裕はないのだ。一神教が砂漠で生まれたのは偶然ではない。神様を何人も置くような余裕はそこにはなかったのだ。

しかし、豊穣な地というのであれば、別にこの島国でなくともいくらでも存在する。しかしそういったところのほとんどが、「唯一神という方法」に占拠されてしまった。一神教は迷いがない分、強い。そしてひとたび戦ともなれば、迷いが少ない方が強い。こうして大陸は「唯一神という方法」にあらかた占拠されてしまった。

幸いなことに、日本は島国だった。いくら豊穣でも、そこに行き着くのは至難の業。それも、ブリテン島のように泳いで渡れるほどの距離ではなく、水平線の向うである。それでも島伝いであれば、何とか行けるものの、大軍を送り込むのは無理で、たまに「新しい方法」が流れ着く程度。しかも流れ着いた方法はすぐに優れた「おもかげ」を取り出された上、もっと優れたものに「うつろって」しまう。それが鉄砲であろうがクルマであろうが。

そんなわけで、この「日本という方法」はこの島国でねんごろに育まれてきたが、今、この方法は未曾有の危機に直面している。それも一つでなく二つも。世界のフラット化と少子高齢化だ。

前者は言うまでもないだろう。コンテナ船に747にインターネット。島だった日本に架かる橋がこれほど多かった時代はなく、そして今後もこの橋は増え続ける。鉄砲を真似されたポルトガル商人は悔しがるしかなかっただろうが、ディズニーは著作権で守られている。これが、「おもかげ」の危機。

そして、少子高齢化。日本がこれまでうつろい行くことが出来たのは、うつろう人々がいたからだ。そしてそれはほぼすべての場合、それは現状に満足できぬ若い人々だった。知恵と経験では劣っても、数と熱意に勝る彼らが、日本をうつろわせてきた。今、このサイクルが停滞し、ものによっては逆転しつつある。これはまさに日本が「日本」を自覚して以来の危機ではないだろうか。人口は確かに今までも増減してきたが、これほど「頭でっかち」になったことはかつてなかったのだ。「うつろい」もまた危機に瀕している。

しかし、この日本という方法が生き残れるかどうかが、世界が、そう世界が今後うまくやっていけるかの分かれ目になると私は踏んでいる。特に重要なのは、世界が貧困を克服した後だ。その後に世界が平和にやっていけるかどうかは、世界に日本という方法をインストール、いやプラグインできるかどうかにかかっている。今はまだその時ではない。が、その時が来た時、日本という方法は生き残っているだろうか。

残念ながら、現時点において日本という方法の維持費は、日本人しか負担していない。たまたま日本には豊かな人々が大勢いたおかげで、この方法は保たれていた。しかしそのどちらも失われつつあるのだとしたたら、我々はおもかげを残しつつうつろい続けることが出来るだろうか....

今更紹介するまでもないだろうが、著者はあの千夜千冊の中の人。あれだけの読書量がないと、本書を編む事は出来ない。しかし、著者は本書を著し切っていないし、編み切ってさえいない。本書はまぎれもない松岡正剛の作品でありながら、いや松岡正剛の手によるものであるからこそ、そこで用いられた素材はその味を全く損なっていないのだ。

まるで、日本の料理のように。

P. 1067
私の最も好きな「日本という方法」です。のちに岡倉天心は「あえて仕上げないで、想像力で補う」といいました。もっとわかりやすくいえば、そこに水を感じたいから抜いたという、あの枯山水の方法です。

そう。そこに水を見いだすのは、読者たるあなたの仕事である。だから、本書は Consistent (首尾一貫)で Comprehensive (完結)な良著の対極にある。

わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: ドラッカー「マネジメント」はスゴ本
そこらで1,500円で売っている「ビジネス書」は、本書の一部をうす〜くのばして「再利用」していることに気づく。広い世の中、「ビジネス書を読むのがシュミ」なんて変わった御仁もいそうだが、100冊のビジネス書より、1冊の本書を使うべし。

本書はそれより安い1,200円。本書を見ると、本の値段とは一体何なのだという気分にさせられる。しかし、本書という「おもかげ」は、「うつろい」を読者に求めずにはいられない、100冊どころか1,000冊,10,000冊、100,000冊と渉猟せずにはいられなくなるのだ。

日本という方法を、求めて。

Dan the Japanese by Method


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P. 10 一途で多様 これが著者による最も短い要約。 404 Blog Not Found:この手があったか! - 書評 - 日本という方法 この前後に物凄く反応してしまった。 読書力 (岩波新書) 作者: 斎藤孝 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2002/09 メディア: 新書 に書いてあった事を読ん
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書評リンク - 日本という方法―おもかげ・うつろいの文化 (NHKブックス)
日本という方法―おもかげ・うつろいの文化 (NHKブックス)【書評リンク】at 2008年08月11日 08:50
小飼弾さんブログを読んで、読みたい読みたい!読まなきゃ読まなきゃと思いながらようやく読めた本。 「日本という方法」という言葉の意味??.
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この記事へのコメント
「日本数寄」と交互に読むと、結構いい感じですよ。
Posted by noiehoie at 2008年07月18日 00:34
旧約聖書には、おひとり(エハッド)である神の啓示を受けた民の、その神への背信と回復の繰り返しの歴史が記録されています。むしろ、「唯一神教」を受け入れるのが困難な傾向を「人」や「共同体」は持っていること、またそこから離れ神を讃える選択をしうることを表明しているように読めます。

砂漠だから、一神教が成立した、というのはよくなされる主張ですが、歴史の実態はもう少し複雑な様相をしている可能性は無いでしょうか。
Posted by 読者 at 2008年07月18日 00:45
ほんとどうでもいいんですけど、

H本という方法

と空目
Posted by Youth at 2008年07月20日 21:28
「一様であることことががたった一つの冴えたやり方」→「一様であることこそがたった一つの冴えたやり方」??
Posted by ふみ at 2009年06月11日 09:00
インターネットと国際航空とコンテナ貨物船の侵略を受けているのは世界中全部。日本も外の世界、今後は特に中国とインドネシアとインドの攻撃に大きくさらされるけれど、こっちも、サイバー反撃、教育反撃、製品反撃はかなり強力で、日本発の攻撃に屈服するところもたくさん出てくるはず。日本は、21世紀のギリシャになれるか?

日本の歴史を振り返ると、鉄砲とタバコは速やかに入手したけれど、トウモロコシの種をもっと早い時期に南蛮人から入手しておくべきでした。

もう2つ残念極まりない日本史の失点は、明の永楽帝、清の康熙帝、乾隆帝の時代に開版された北京版チベット語訳仏典を招来、研究しなかったこと。そして、江戸の蘭学者たちが杉田玄白、前野良沢に習って、ラテン語の学習も一緒に継承しなかったこと。これらは痛恨事でした。トウモロコシの集中栽培とチベット語訳仏典の研究とラテン語訳アリストテレス研究書の研究を江戸時代に着手していたら、たぶん昭和日本は満州国を失わずにすんだはずです。

まあ、これから、中国向け輸出用高付加価値とうもろこしの栽培と、チベット語訳仏典の研究と、ラテン語とアラビア語のアリストテレス研究書の学習と研究に努力すればよいのです。きっと、そういうのが「日本という方法」。
Posted by enneagram at 2009年06月12日 14:54
「日本は、21世紀のギリシャになれるか?」
         ↓
「日本は、21世紀の古典ギリシャになれるか?」のほうが表現が正確ですね。訂正します。

でも、そういう言い方をすると、21世紀の「ローマ帝国」になりかねないお隣の中華帝国に飲み込まれてしまうことになるのか。そうならないように注意が肝心、肝心。
Posted by enneagram at 2009年06月13日 10:30
「日本という方法」はきわめて「高コスト」。

ただ、高コストに耐えるためには、それだけの経済の裏づけもあるということだと思います。

なにより、平安時代初期には、東北地方でもほぼ、水稲栽培が広く普及していたことが最大の経済の裏づけだろうと思います。米は、単位農地面積当たりの収量が大きい。つぎに、日本中の鉱山からおびただしく湧いて出てくれた大量の金銀銅。これが、長い間「日本という方法」を支えてくれたのでしょう。

一方、日本なりの低コスト化の工夫もありました。ひらがな、カタカナの発明、念仏宗の普及など。それに、日本からあれほど貴金属が生産できた割には、長い間、宋銭、明銭に依存していて、自前の通貨をまともに市場で通用させるコストをなかなか支払おうとしなかったみたいです。

明治時代に「日本という方法」を可能にしてくれたのは輸出用の絹糸。現在の日本で、「日本という方法」を可能にしてくれているのは、海外で引っ張りだこの日本アニメ?
Posted by enneagram at 2009年06月14日 06:08