2008年10月27日 05:00 [Edit]
道に出る人、必読! - 書評 - となりの車線はなぜスイスイ進むのか?
早川書房東方様より献本御礼。
大変失礼ながら、「渋滞学」と同じ柳の下のどぜうかと思いきや、その柳が生えているのが実は小島で、その小島を取り囲む大海に潜む大魚だった。
間違いなく、この12ヶ月に読んだ中で最も面白く、かつ考えさせられた一冊だ。
本書「となりの車線はなぜスイスイ進むのか?」の原題は"Traffic: Why We Drive the Way We Do (and What it Says About Us)"。直訳すると「交通:なぜ我々はああいう運転をするのか。そしてそこから我々自身に関して何がわかるのか」。邦題はそのうち、もっとも「渋滞学」に近い一章のタイトルをそのまま抜き出したもの。「渋滞学」が「なぜ渋滞するのか」一本に絞り、そして自然科学にきわめて忠実にクルマもドライバーも単純化した上で結論を導きだしているのに対し、本書は「交通と心理」というきわめて社会学的な話題を、これまたきわめて社会学的に、あえてものごとを単純化せずに、その複雑さをそのままに提示している。ある意味、この両書はきわめて対象的であり、両方読むと面白さ倍増という、あわせ読みにもってこいな組み合わせとなっている。
目次 - となりの車線はなぜスイスイ進むのか?:ハヤカワ・オンラインにもないので手入力- プロローグ 私はなぜ高速上の工事区間でぎりぎりまで車線合流しなくなったのか?
- 第1章 どうしてとなりの車線の方がいつも速そうに見えるのか?
- 第2章 あなたが自分で思っているほどよいドライバーではない理由
- 第3章 路上で裏切る私たちの目と心
- 第4章 どうしてアリの群れは渋滞しないのか(そして人間はするのか)?
- 第5章 どうして女性は男性より渋滞を引き起こしやすいのか?
- 第6章 どうして道路を作れば作るほど交通量が増えるのか?
- 第7章 危険な道の方がかえって安全?
- 第8章 交通が語る世界、あるいはご当地運転
- 第9章 スーパーボウルの日曜日にビールを飲んでいるフレッドという名の離婚した医者とモンタナの田舎でピックアップ・トラックに乗るべきでないのはなぜか?
- エピローグ ドライビング・レッスン
- 訳者あとがき
本書には、交通に関して誰もが疑問に思う話題がおよそ何でも載っている。そのことは目次を見ても察していただけるだろう。いや、一つある。「交通と経済」に関する話題。燃費とか道路の建設費だとかいう話題は、あえて載せていない。載せていたら「わずか」445ページには収まらなかっただろう。
その中でも、やはり一番の見所は「交通安全」に関する話題だろう。第7章「危険な道の方がかえって安全?」に出てくる、道路標識を95%撤去したら、交通量が減らなかったにも関わらず事故が60%減ったロンドンのケンジントン・ハイ・ストリートの事例は、目から鱗というか、目から標識というか、重大事故が起こると信号機が「生えてくる」この国においてはなおのことびっくりである。
この第7章だけでも読む価値ありなのだが、ジャーナリストである著者が世界中を取材してまとめあげた本書は、一章一章が発見に満ちている。センターラインなどに溝を掘って、タイヤがのっかると不快な音をたてることでドライバーに「正しい」運転を促すアレのことを「ランブルストリップ」と呼ぶことは本書ではじめて知ることが出来た。こういうどこにもあるのに名前がわからないものは「ぐぐり」ようがないだけに、本の面目躍如だ。
P. 443自ら自動車を利用しながらこう言うのは偽善だが、体重数十キロの人間が二トン近い鉄の塊を乗り回し、出発地と目的地に必ず駐車場が必要で、ほとんどの時間は使われていないなどという無茶が、なぜ成り立つのか?
本書はその疑問に答えるのではなく、皆が忘れかけている、あるいはスルーしようとしているこの設問を改めて思い出させてくれる一冊なのだ。
しかし、本書は「だからクルマを捨てよう」のたぐいの宣言は一切ない。そういう本であればすでにあるし、これほどのページ数は必要ではない。
下手に要約していないのがよい。本書は445ページ。並の単行本の倍はある。注釈も多いので、文字数だけなら新書の三倍は下らないだろう。発熱中ということもあり、私も「徐行」して読んだのだが、それもよかった。速読しない方がよい本もあるのだ。
日本語版の編者が東方だから「ゆっくりしていってね」というのは単なる偶然の一致だと思うが。
ソフトカバーなのもよいし、注釈をエンドノートではなくサイドノートにして参照しやすくしてあるのもよい。そして何よりも1,890円という価格が、よい。まじ2,980円の見間違えかと思った。
ドライバーも、そうでない人も、道を行く人であれば(そして日本語が読める人であれば)実に得るものが多い一冊だ。残念ながら(クルマであれ自転車であれ)運転しながら読書は出来ないのであれば。そう。読書の面から見ると「より運転しない生活」というのは悪くない。ドライブを一回パスしてでも、いや、クルマを売ってでも読む価値が本書にはあります。
Dan the Casual Driver
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"放題はそのうち、"
"邦題はそのうち、"
ありがとうございます。夢でなくてtypoを食べてくださって:)
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