2008年10月29日 07:00 [Edit]
不可思議なモノ、汝の名は、性 - 書評 - 雌と雄のある世界
集英社新書編集部よりいつもどおり献本御礼。
「ヒトの性」という「限定的」な科学的知見を、物語と作者の想像力で膨らませて一編の物語にしたのが「できそこないの男たち」なら、「生物の性」という、より「広範囲」な科学的知見を、あくまで生物学的かつジャーナリスティックにまとめたのが本書であり、実に対極的である。両方あわせて読むとよいが、読む順番としては本書が先の方がよいかも知れない。
本書「雌と雄のある世界」は、前述のとおり、またタイトルのとおり、生物学における性を、あくまでジャーナリスティックに、第三者的な視点から描いた一冊。
『雌と雄のある世界』 | 集英社新書より三井 恵津子(みつい えつこ)
一九五六年お茶の水女子大学理学部化学科卒。東京大学大学院生物化学専攻、理学博士、理学部助手。ドイツ・マックスプランク研究所、アメリカ・ソーク研究所で研究の後、一九七一年から九五年まで東京化学同人現代化学編集室勤務(編集記者、後に編集長)。サイエンスライター、武田計測先端知財団プログラムオフィサー。
以上を見ての通り、著者はサイエンスにおいてもライティングにおいてもプロ中のプロである。この著者が、この話題について書いた一冊が面白くないわけがない。
目次 - 手打ち- 序章
- 第一章 個体は細胞の集合 - 細胞なくして個体なし -
- 第二章 まったく異なる役割をもつ二種類の細胞 - 生き続けるか死ぬか、それが問題だ -
- 第三章 細胞分裂の仕方にも二種類 - そこで雌と雄が分かれる -
- 第四章 すべてのもとは一つの細胞 - 一つが最後は60兆になってしまう -
- 第五章 雌と雄は、どのようにして出来るのか - 遺伝子と環境の絡み合いから -
- 第六章 環境に左右される性 - 雌と雄が入れ替わることさえある -
- 第七章 クローン動物 - 雌と雄がそろう必要を教えた -
- 第八章 植物は植物 - 生殖細胞はなかなか出来ない -
- 第九章 細胞分裂の制御 - テロメアの存在が鍵? -
- 第一〇章 細胞の死と個体の死 - 死は必然と言えるか -
- 終章
- あとがき
- 参考資料
「できそこないの男たち」において著者はストーリテラーであるが、本書における著者は徹頭徹尾ジャーナリストであり、私情を徹底的に排している。本書には「雌と雄」は出てきても「女と男」は出てこない。その代わり、ヒトに限らずさまざまな生物の性が登場する。ヒトの場合はSRY遺伝子により雌と雄は先天的に決定されるが、広大な生物界において、これは氷山の一角。外気温によって決まるものもあれば、一生の間に雌雄双方を体験するものもあれば、雌雄同体もあれば、雌だけのもものもある。強いてないものを探せば、雄だけの生物はいないということぐらいである。
なお、性転換に関しては、「性転換する魚たち」がおすすめ。本書の参考文献の一つでもある。タイトルの性転換する魚たちばかりではなく、なぜほとんどの生物で性はたった二種類なのか、そして雌雄の数が繁殖年齢でほぼ同じになるのかも明快に解説している。
さらに植物ともなると、動物を自らの性の道具にしてしまうのだからすごい。昆虫の大成功は、植物に「気に入られた」ことと無関係ではないはずだ。ヒトを含め、生殖に命がけな動物の余裕のなさと比べて、植物のなんと豊穣なことか。擬人化したとすれば、イチモツの先に止まったハチなりハエなりに愛を託し、その上蜜という褒美までとらすというのは、従属栄養生物ではまずありえない。
私の悪癖でつい擬人化してしまったが、本書にはこのたぐいの擬人化や比喩は一切出てこない。あくまで科学的な事実を、観察者視点で描写していく。それで十二分に面白い。「情報」というが、「情」抜きの「報」でも、人は感動を得られるのである。
今、私は「人」といった。これは遺伝子(gene)が支配する「体」と、意伝子(meme)が支配する「心」の複合体である。この論点で言えば、「雌と雄」というのは genetic sex であるのに対し、「女と男」というのは memetic sex という言い方も出来るだろう。うち本書では前者のみを扱っているが、後者について著者が書くことはあるのだろうか。是非一読してみたいものだ。もっとも、後者に関して客観的視点を保つのは、前者に関してよりずっと難しく、それゆえ科学的研究もずっと遅れているのではあるけれど。
Dan the Male
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購買意欲を掻き立てられました。
文字というmemeが開発されて3500年しか経っておらず、
それ以前の意伝子は絶滅、もしくは絶滅危機の状態にあるので、
対象の歴史が浅過ぎてmemetic sexは科学的研究し難い気がします。
だからこそ文学的研究が盛んなのかもしれないと思いました。

