日本実業出版多根様より献本御礼。

うーん、これは。

ちょっと大風呂敷を広げ過ぎではないか。

本書〈「振動力発電」のすべて〉は、株式会社音力発電の創設者が、その事業である振動力発電に関して述べたもの。

目次 - Amazonより
1章 究極のエコ・エネルギー「振動力発電」に成功!
2章 「騒音」や「振動」を電力に! 日本発のエネルギー革命
3章 はじめからうまくいく研究などなかった
4章 研究開発からビジネスへ いざ挑戦!
5章 「音力発電」「振動力発電」で脱石油が実現する
「エネルギー革命」宣言

振動力発電とは、一言で言うと「マイクロフォンを発電機」にするということ。実際著者の「振力電池」のプロトタイプは、イヤフォンなどに使われるピエゾスピーカーを改造して作られており、この点においてたとえば以前話題になったWESなどと違い、ガセでもニセ科学でもない。少なくとも定性的には、振動力発電というのは間違っていない。

しかし、定量的には、どうか。

著者は、「首都高速の舗装をすべて発電床(C)にすれば、火力発電所2-3個分の電力を供給できる」と主張している。正確には、首都高速道路(株)がそう試算したと書いている。その一方で、それだけの発電床を作るコストがどれくらいで、それだけの圧電素子を作るのにどれくらいのエネルギーが必要かは全く書いていない。

一方、このあたりの定量的な試算は、太陽電池や風力発電ではすでに終わっている。この二つに関しては「あとは粛々とコストダウンと普及を進めればよい」ところまで来ている。これらの実用化済みの「エコ」発電と同列に比較するには無理がありすぎる。

本書には、実証実験もいくつか登場する。きちんと実証実験したところはえらい。しかしそこで登場する数字は、楽観よりも懐疑をより強めるものではあった。出てくる単位は「ワット秒」である。「ワット時」ではなく。これではとてもパワーエレクトロニクスには使えない。

しかし、これは発光ダイオードを光らせるには充分な電力ではある。

著者の志は買おう。実証実験までもっていったのも素晴らしい。しかし、振動力発電がエコ・エネルギーと主張するには、著者の「振力電池」はしょぼすぎる。はっきり言っておもちゃである。

おもちゃで、いいではないか。

太陽電池とて、まずはそこから実用化された。今や電卓のほとんど、腕時計のかなりの部分が太陽電池駆動である。そのレベルの給電であれば、現状でも可能であることを著者は実証した。まずはそこからやるべきだろう。下手に「エコ」だとか「火力発電所何基分」と言われるとむしろ引いてしまうし、つっこみもきびしくなる。

おもちゃであれば、発電できることそのものを評価してもらえる。採算がどうだとかは目をつぶってもらえる。

まずはおもちゃを極めるべし。「脱石油」だの「脱原子力」だのはその後でいい。

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