2008年12月25日 07:00 [Edit]

「英語の授業は英語」は可能か - 書評 - 外国語学習の科学

妻が見つけてくれた一冊。

livedoor ニュース - [高校新学習指導要領案]英語で授業…「自信ない」教諭も
「使えない英語」から「使える英語」へ。22日に公表された高校の新学習指導要領案は「英語の授業は英語で行うことを基本とする」と明記した。文法中心だった教育内容を見直し、英会話力などのアップを目指すのが狙い。文部科学省は「まず教員が自ら積極的に用いる態度を見せるべきだ」と説明する。だが教諭の英語力や生徒の理解度はばらつきが大きい上、大学入試は従来通りとみられ、現場からは効果を疑問視する声も出ている。

ちょうどよいタイミングといったところか。


本書「外国語学習の科学」は、副題に「第二外国語取得論とは何か」とある通り、すでに母国語を習得してしまった人が、どうやって外国語を学んでいけばよいのかを、主に日本語を母国語、第二外国語が英語の事例を元に論じた一冊。

目次 - 手入力
プロローグ
第1章 母語を基礎に外国語は習得される
第2章 なぜ子どもはことばが習得できるのか
第3章 どんな学習者が外国語学習に成功するか
第4章 外国語学習のメカニズム
第5章 外国語を身につけるために
第6章 効果的な外国語学習法
あとがき

本書は今年9月に出たばかりだが、読んでいて塾の講師をしていた時代を思い起こしてむしろなつかしい感じがした。「あ、これやってた」、「あ、こういう『へんな英語』がいっぱい教科書にものっていた」など。残念ながら本書には「画期的な外国語習得法」は出てこないけれども、それだけに本書の知見には実感がこもっている。

それがどういうものかは本書を確認してもらうとして、第二外国語習得に対する著者の立場は以下のとおりであり、私も「かつて英語を教えていた」一人として首肯する。

P. 183
第二外国語種極研究はまだ発展途上なので、応用はできない、ということを言う人もいますが、筆者の立場は違います。世の中、わからないことのほうが多いわけで、だからといって何も先人の知恵に学ぶことなく、先へすすもうとするのは時間の無駄です。たとえば、野球だって同じです。自己流でうまくなる人もいるのは当然ですが、コーチに教わったり、他の野球選手が書いた本を読んだり、スポーツ科学的な研究を取り入れる人のほうが成功する確率は高いでしょう。第二外国語習得のメカニズムが100パーセント理解されることは永遠ないと思われますし、それは人間の心の働きのメカニズムを完全に解明することは不可能なのと同じです。だからといって、これまでにわかっていることを無視する、というのはあまり賢いことではないでしょう。

で、本書を読む限りにおいて、そして私の拙い経験から判断する限りにおいて、「英語の授業は英語で行うことを基本とする」のは決して不可能ではないと私は思う。実際私は受け持ちの授業では一切日本語を使わなかったし、それでいて「普通の日本の高校生」レベル以下の生徒が「留学できるレベル」まで上がり、そのうち何人かは実際に留学したのを体験している。

にも関わらず、

Dot Com Lovers: 日本の高校で英語の授業を英語で行うことの愚かさ
「あー、こりゃあダメだ」と思わずにはいられません。

という意見にうなずかずにはいられない。

H-Yamaguchi.net: 「英語を英語で学ぶ」必要はあるのか
要するに、少なくとも「一部」の英語教師は、英語を教えることはできても英語で教えることはできないのではないか、という不安を抱えているのだと思う。

からだ。いや、仮に彼らが充分英語教える能力があったとしても、一クラスの生徒数があまりに多くては、現在までに確立されている「外国語で外国語を教える方法」はうまく行かないのだ。

外国語で外国語を教えるときに、最も重要なのは、「クラスが十分に小さいこと」だと私は考えている。これは私見に留まらず、外国語教育で定評がある大学における「公式」でもある。私のドイツ語のクラスでは、(そこにおける第一外国語である)英語は禁止だったが、その一方生徒数は一クラス12名以下に抑えられ、そして授業は週5時間きっちりあり、宿題も含めれば週15時間はそれに注ぎ込む必要があった。これはドイツ語に限らず、外国語はほぼすべてそうで、教員の数が足りなければ受講できずに次の学期にまわされる。当時(20年前)は日本語が大人気で、2年待ち、3年待ちはざらだったようだ。

私が塾で何とかやって行けたのも、クラスの大きさがそれ以下に保たれていたおかげだ。

逆に、この条件さえきちんと守られるのであれば、日本人教員にこだわる必要は必ずしもないだろう。ESL (English as a Second Language)をきちんと学んだ外国人にも門戸を広げてしかるべきだ。しかし、これを高校全体に行き渡らせると考えると...「高等学校学科別生徒数・学校数−文部科学省」によると、生徒数は340万人。教員一名につき3コマ受け持つとしても10万人。あのNOVAが雇用していた外国人講師数の、25倍。これだけの教員を国内外を問わず確保するだけの算段を文科省がしているようにはとても感じられない。

しかし考えようによっては、彼らの人件費を年間500万円として(ちょっと安いかな)、5000億円もあれば、日本の高校生たちの英語力は飛躍的に高まることになる。生徒一人当たり40万円/年。「それだけかける必要があるのか」という意見もありそうだが、私学であれば年200万円はかかることを考えれば(もちろんそこで教わるのは英語だけではないけれど)、これくらいは妥当のようにも感じる。

残念ながら、英語は日本人にとって最も難しい外国語の一つだ。その難しさは本書の第1章にさんざん書いてある。しかしそれは「才能のある人でないと不可能」ということを意味しない。十分な手間をかければそれが可能なことは、私も実例で知っている。

要は本気かどうかだろう。

なぜ、日本人は英語が下手なのか。

無理矢理一言でまとめれば、本気じゃないからだ。

教える方も、教わる方も。

Dan the Nullingual


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外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か (岩波新書) 白井 恭弘 商売柄、「英語はどうやって勉強すればいいですか?」ってな質問をされることがときどきある。 正直、かなり困る。 ...
「ガイドブック」にはならないが【office UNITE】at 2009年01月25日 23:53
danさんとH-Yamaguchiさんの記事に触発されて書いちゃう。じゃーどうすりゃいいのよ、と思っちゃうから。 もうみんなわかってると思うが、英文法習得に重心の置かれた日本の英語教育方針に問題があるんだ。ここはわれわれはやりすぎた。一旦捨てるくらいでいい。 文法なんて
英語習得メソッド=英語インプット+日本人から「コツ」+ネイティブから「ダメだし」【tech tech okdt】at 2008年12月25日 11:29
 さる22日に公表された13年度からの高校学習指導要領改訂案で、「英語の授業は英語で行うことを基本に」という方針が示され、現場の教師たちに動揺が広がっているという。  「英語の授業を英語で」という、一見ごくまともに聞こえる改革だが、私には、現場を知らない文部...
「高校の英語の授業は英語で」 そんなことできるの?【文理両道】at 2008年12月25日 07:55
この記事へのコメント
「外国語学習」と「第二言語取得」は分けて考えるべきだと思います.

アメリカの小児発達学の専門家の話では,二言語を取得できるのは 11才ぐらいまでで,それ以降はどんなに頑張っても,あくまで外国語としての取得になってしまうそうです.

アメリカに住んでいるヒスパニックの子供たちを見ていると,彼らは小学校から英語教育を受けているため,流暢に英語を話していてバイリンガルなのですが,やはり母国語はスペイン語です.

「第二言語取得」とは,いわゆるバイリンガルにおける母国語でないほうの言語取得ととらえるべきではないでしょうか.その点からいうと,いまの日本の英語教育では外国語学習の域を出ることはありえないと思います.
Posted by eijunus at 2010年10月23日 05:19
著者の白井です。紹介ありがとうございます。

何カ所か、「第二言語習得」が、「第二外国語取得」となっているので、もしよろしければ訂正いただけるとありがたいです。

もちろんお気づきで、多分単なる書き間違いだと思いますが、「第二外国語」は英語を勉強したあとの、フランス語など、「第二言語」は母語以外のすべてをさします。

いわゆる直接法(外国語で外国語を教える)が可能なのは少人数にかぎられるという仮説は、なるほどという感じですが、おそらく、少人数だと、教師が生徒の注意をひきつけることがしやすいからだと思います。もし、教師が多人数でも十分に注意を引きつける手だてを知っていれば、大丈夫でしょう。注意をひきつけるためには、教師中心の活動だけでなく、グループワークなどを併用することも効果的だと思います。
Posted by 白井 at 2009年01月04日 02:14
追加

欠陥孔子 -> Hole
正孔   -> Carrior
hogehoge物イオン (日本語特有の問題として電化がマイナスの時だけ 物 をつけるよ) -> hogehoge ion
カリウム (K) -> Potassium
起電力    -> EMF
NMR -> MRI (英語ですら揺れているよ!)

とか 国力と学閥と工業(空燃比とかそういった謎語)を誇示したいのがひしひしと伝わってくるんだが
とんでも迷惑 

もともと科学は英語に限らず
ドイツ語やフランス語やロシア語から派生してるので。
(ファンデルワールス:(分子間力)とかアバランシェ:(雪崩電流)とかキルヒフォッフとか鈴木カップリングとか)

さらに日本語でバベルにしてしまうと つらい。

正直マスコミがサイエンスに疎いのもしょうがない。

英語に傾倒したほうが栄えると思うよ。
少なくとも先端分野では。
Posted by xaxaxa ! at 2008年12月30日 07:59
>日本の凄いところ

>特に自然科学領域の研究や授業を殆ど日本語に訳したこと。
>アジアやアフリカのいわゆる発展途上国はそれを放棄して、
>英語で教えていることが多い。

これはネガティブ。

変な日本語訳も正直困る
陰極 陽極 正極 負極 とか

英語のほうがわかりよくね?
元はアノード カソード。なんか日本語で増えてるし! 
電池学閥逝ってよし

自由とか革命とか社会語もちょっと英語から逸れて
意味が変になりがち。

反復子、繰返子 -> イテレータ
単項演算子 -> unary
正規表現 -> re

お、おらいりーは悪くないんだからね !
そうだ 英語でよんだらいいんだ。
Posted by xaxaxa ! at 2008年12月30日 07:41
BootstrapはNon-Verbal Communicationですよ。
Posted by Yugo at 2008年12月25日 23:30
 学生時代、「フランス人のおばちゃんがずっとフランス語でしゃべってる授業」を受けるはめになって苦しんだトラウマがよみがえりました。

 でも、英語を学ぶ授業を、(これから学ぶはずの)英語でやるって、なんか、論理的におかしい気がする(Bootstrap of Baron Munchausen!!)。

 まあ、コンピュータの bootstrap みたいに、コアになる英語が身についているとして、それを少しづつ大きくしていく、ってことなのだろうけど。

Posted by 寿命 at 2008年12月25日 21:40
雇用対策具体案確定のお知らせ、ですね
Posted by コーエン at 2008年12月25日 13:31
トラックバックしようと思ったのですが
なぜかできなかったのでこちらに。
英語で出井の授業をおこなうことによって
英語で授業できない英語教師を追いだす。
駄目な英語教育を変えるには先ずそれから始めるべき
Posted by やす@英検1級絶対合格ブログ at 2008年12月25日 12:46
「使えない学校英語」「英語に対する苦手意識」は、日本政府が優秀な人材を国内に囲い込むためのツールだったわけで
Posted by 挧 at 2008年12月25日 12:44
学校の先生には、生徒に勉強を教えている暇なんて無いです。
そこが問題。
Posted by 兎丸 at 2008年12月25日 11:15
日本の凄いところ

特に自然科学領域の研究や授業を殆ど日本語に訳したこと。
アジアやアフリカのいわゆる発展途上国はそれを放棄して、
英語で教えていることが多い。

日本の場合、英語は本気でやりたい人がやればいい、という
くらいの認識ですけどね。
昔より英語できる日本人は増えてるし、外国コンプレックスも
かなりなくなってるし。
欧州や南米のラテン諸国は、高校・大学でも英語は必修ではないが、
そのせいでどうにも困ってる、ということはなさそう。
Posted by 俗人 at 2008年12月25日 10:34
日本人が英語が下手なのは日本語だけで十分文化的な生活を送れるからですね。娯楽も英語が出来ればより多く楽しめるのは確かでしょうが、日本語コンテンツだけでも十分足りてる人も多いでしょうし。
勉強する上で一番重要なのが動機です。少子化が進み日本が世界の二等国に落ちたときには英語の必要性も高まり真面目に勉強する人も増えるでしょう。
Posted by bob at 2008年12月25日 10:15
一番いいのは、英語を母国語とする人間にもっと日本を開放することでしょう。そうすれば、日本に定住する英語圏の人間が増えます。例えば、その配偶者などが暇な時に英語を学校で教える機会がおのずとできる。

アメリカで英語以外の外国語教えている人は、このパターンが多いです。自分の母国語を人に教えることなんて誰でも出来ますからね。高卒程度の準備、学歴でも充分です。

日本が島国根性丸出しで準単一民族、言語にこだわり続ける間は、どんなに教育を良くしようと、大して英語を使えるようになるとおもいませんがね。

単に必要ないから。でも、こういうこと言うとグローバリゼーションだの国際競争力だの言う人が出てくるんだよね。
Posted by 死ぬぜ at 2008年12月25日 08:14
>無理矢理一言でまとめれば、本気じゃないからだ。
 教える方も、教わる方も。

さすが弾さん、良い事言います。
ホントにそうだと激しく同意。

英語の才能がなく、高校時代とても成績が悪かった私も
本気でコミュニケーションとしての英語を勉強し始めた後は、
自然に学校の成績も上がっていったのを思い出しました。
今ではプライベートに仕事に大変役立ってます。
Posted by シックボーイ at 2008年12月25日 07:47