2009年02月18日 00:00 [Edit]

ガチな歯ごたえ - 書評 - 日本人なら必ず誤訳する英文

ディスカヴァーより献本御礼。

初出2009.02.14; 販売開始まで更新

以下の言葉に偽りはない。

ディスカヴァー社長室blog: あなたならどう訳す? 日本人なら必ず誤訳する英文 ●干場
編集担当のフジタ部長が、つけたコピーは、 「英語自慢の鼻をへし折る!」 どうやらへし折られたのは、フジタ部長自身のようです

私もへし折られはしなかったが、鼻の曲がる思いがした。

「ネイティヴ・スピーカーでも誤認する英文」としても通ると弾言ではなく断言する。


本書「越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文」は、「ダ・ヴィンチコード」をはじめとするミリオンセラーをいくつも訳してきたプロの翻訳家による難解英語集。よくもまあこれほど集めたものだと簡単、いや感嘆せずにはいられない。現代日本のノンフィクションで、おそらく「英語本」というのは「お金本」の次に多そうなジャンルだが、ここまで歯ごたえがある本はほとんどない。

ディスカヴァー社長室blog: あなたならどう訳す? 日本人なら必ず誤訳する英文 ●干場
  1. Bobby was so absent-minded he didn't remember buying a birthday present for Linda.
  2. I waited for fifteen minutes--they seemed as many hours to me.
  3. Upon hearing of the new idea, Fred challenged it.
[ナンバリングは引用者]

これはまだちょろいレベル。ちょろいので機械翻訳させてみた。

英語翻訳 - エキサイト 翻訳
  1. ボビーが非常にぼさっとしていたので、彼は、リンダのためにバースデープレゼントを買っ たのを覚えていませんでした。
  2. 私は15分間待ちました--彼らは何時間も私にとって見えました。
  3. 新しいアイデアを知って、フレッドはそれに挑戦しました。

不合格。ではあるが、以下に比べれば格段によい。

Google Translate
  1. ボビー不在だったので、彼はリンダの誕生日プレゼントを買う気を覚えていない。
  2. 私は15分ほど待った-ように多くの時間をメインにしてください。
  3. 新しいアイデアを聞いた時には、フレッドに挑戦。

orz.

ちなみに、元文を添削してみるとこんなところか。

  1. Bobby was so absent-minded he didn't remember he (had) already bought a birthday present for Linda.
  2. I waited for fifteen minutes--it felt like fifteen hours.
  3. As soon as Fred heard of the new idea, he raised an objection to it.

これをもう一度Excite翻訳にかけててみる。

  1. ボビーが非常にぼさっとしていたので、彼は、リンダのために既にバースデープレゼントを買ったのを覚えていませんでした。
  2. 私は15分間待ちました--それは15時間のような気分でした。
  3. フレッドが新しいアイデアを知るとすぐに、彼は、それを反対しました。

おお、まともじゃないか。

より散文的に、口語的になってしまったが誤読の余地はぐっと減っている。文章はなるべく短く、節(clause)が長過ぎれば複数の文に分割するのも厭わず、受動態はなるべく避ける。「非論理的な人のための論理的文章の書き方入門」は、英語でももちろん役に立つ。本書は「こういう風に書くべからず」集としても使える。英語は母国語としてより外国語としてより使われる以上、多少のニュアンスを削ってでも主題が明快に伝わるよう話し、そして書くべきである。

が、それはあくまでノンフィクションの場合である。物語の場合、それでははっきり言ってつまらない。本書に出てくる表現の多くは、物語の地の文から来ている。「話せるだけ」の人は、かならず誤読し、そして誤訳するだろう。本書を通して、読者はプロの読み方を学ぶことが出来るのだ。

本書で改めて気がついたのは、英語に限らず文章=textというのは文脈=contextあってはじめてわかるということ。本書では難問とされている後半の例題の方がむしろ私には易しく感じられたのは、その方が文脈がはっきりするからだろう。

もう一つ、こと翻訳に関しては、ソース言語よりターゲット言語の知識の方こそ問われるという点。その意味で一つ誤訳とまでは言えないけれども適訳とも言えない問題を発見したのでこの場で指摘さえていただく。

P. 106
You may have the loan now you have offered good security.
→確実な抵当を出したのだから、お金を貸してもらえるだろう。

問題は「抵当」という言葉だ。"security"の訳としてここでは「抵当」を当てていて、これで意味は通るのだが、英語の security と mortgage 、そして日本語の「担保」と「抵当」は意味は同じでも重さはだいぶ違う。securityの中身が土地や建物といった property なら「抵当」が妥当だが、そうでなければ「担保」が妥当。この場合これ以上文脈がないので、使用範囲がより広い「担保」の方が適当なのではないか。

それにしても、新書(ディスカヴァー用語では携書)でこれだけ楽しめる本は久しぶりだった。こういうと起こられちゃうかもしれないが、ダ・ヴィンチ・コードよりこっちの方がずっと面白かった。

というわけで愉快な問題を引用して本entryを締めくくることにする。ちょっとだけ元より難しくした。高齢者向き?

Q-63 She said that that that that that boy used was wrong.

Dan the Nullingual


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久々の読み応えのある英語本です。 『越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文 (ディスカヴァー携書)』です。 以下、Amazon の商品紹介から。 1000万部を超えるベストセラーとなった『ダ・ヴィンチ・コード』はじめミステリーの名翻訳家として知られる越前氏が、 長年にわた...
『日本人なら必ず誤訳する英文』【外資系で働く】at 2009年06月13日 13:47
書評リンク - 越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文
越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文【書評リンク】at 2009年02月14日 20:31
この記事へのコメント
>私もへし折られはしなかったが、鼻の曲がる思いがした。

鼻が曲がるという慣用句だと、なんか本を批判しているみたいですな。
Posted by 通りすがり at 2009年05月05日 17:37
「こういうと起こられちゃうかもしれないが、ダ・ヴィンチ・コードよりこっちの方がずっと面白かった。」

起こられちゃう、という表現が失笑を誘いますね。
言葉に鈍感な方なのかな?
Posted by 隠居 at 2009年02月27日 20:42
端的に言うと、
TOEIC685くらいの人が、
読みたがる話題です。
Posted by higekuma3 at 2009年02月19日 00:37
なぞなぞクイズと同じで、
フィクションですからね。

予備校でも習いましたが、
「そんなんごちゃごちゃ言うなら、日付で言うたらええです」

@Next Friday, this Fridayの議論の際。
Posted by higekuma3 at 2009年02月18日 09:43
>he didn't remember HAVING bought a birthday present.
じゃなきゃおかしいでしょ。

受験英語厨乙。
くだけた言い方なら元の文でも良いのですよ。
Posted by ラーメン好きストーカー at 2009年02月17日 05:48
異議ありですね。プレセントを買ったのが、思い出すより前のことなら、
he didn't remember HAVING bought a birthday present.
じゃなきゃおかしいでしょ。あるいは弾さんの言い換えでも、
he didn't remember he HAD already bought a birthday present.
じゃなきゃ。日本人が訳し間違える、と言うより、元の英語が間違っているということですね。
Posted by 通りすがり at 2009年02月16日 23:44
1は、remember doing(〜したことを覚えている)とremmber to do(忘れずに〜する)の違いですね。
2は、as がポイントというところでしょうか。
3は、単にchallangeの訳し方の問題ですね。手元のWebster Dictionary にはchallengeの意味の一つに、object to というのがありますが、この意味を選択できるかというところでしょう。でも知らなくても、×の訳例は日本語として不自然なので、気の利いた人なら○の訳例に近い訳し方をするでしょうね。

久しぶりに大学受験時代に勉強したことを思い出しました。「日本人なら必ず誤訳する英文」と言うのは、この例文を見る限りは言いすぎかなという気がします。


Posted by 風竜胆@文理両道 at 2009年02月15日 14:59
Dan氏も最近は単なる太鼓持ちでしょ。
昔の書評と違って批判的なこと全然言わねーじゃん。
Dan氏に献本する出版業界人なんて下心持った営業と変わらん。
Posted by ていうかさ at 2009年02月15日 13:24
ここに挙げられている例文だけだと,大学受験英語を極めた状態にある現役受験生なら間違えないかなー,と思います.
Posted by 昔受験英語を極めた大学生 at 2009年02月14日 23:27
起こられちゃう

怒られちゃう?

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勝間和代さんの「Book Lovers」で紹介
されていましたね!\(^o^)/
Posted by Kimball at 2009年02月14日 23:20

脇が甘いというか、鼻持ちならないというか・・・。「ホンモノ」と認識したからこそ執筆を依頼したんじゃないのか?

出版人としての矜持を疑う。
Posted by 誉め言葉になってないよ at 2009年02月14日 21:55
早速の書評、ありがとうございます! 弾さんならきっと気に入ってくださるはず、と思う反面、がーんと厳しい批評だったらどうしようかと内心どきどきしておりました。やっぱり、越前敏弥氏はホンモノだったか!
Posted by 干場弓子 at 2009年02月14日 21:21
ちゃうちゃうちゃうんちゃう

を思い出した。
Posted by toi at 2009年02月14日 19:35
She said that(1) that(2) that(3) that(4) that(5) boy used was wrong

(1)ということを
(2)あの
(3)that
(4)ところの
(5)あの

あの少年が使ったあの that は誤りだと彼女は言った。

かな。
Posted by keis at 2009年02月14日 18:13