2009年03月02日 21:00 [Edit]

s/世界/市場/g であれば異論なし - 書評 - なぜ世界は不況に陥ったのか

日経BPより献本御礼。

私にはむしろ「まさか」より「やはり」という感想が強かった一冊。今の市場がなぜこういう状態に陥ったかを解説した本としては、一番説得力があると思う。例によって「世界同時バブル崩壊」に関する本が雨後のタケノコのように出ているけど、そのうちの何冊読むにしても、本書は外せない一冊となるだろう。


本書「なぜ世界は不況に陥ったのか」は、共著者の池尾和人によれば

プロローグ
本書では、この「半教半学」の福沢精神に基づいて、池田信夫さんと私(池尾)が、いずれが教授役いずれが聞き役という区別なく互いに議論しあうという形で、〈今回の金融危機の本質とインプリケーション〉を明らかにすることを目ああした集中講義を行いました。その中では、あわせて〈経済学の現代的地平〉とはどのようなものかについても語り合い、そこからいまの事態がどのように見えてくるかも論じています。

という講義をまとめた一冊なのだが、どちらかというともう一方の池田信夫が質問し、池尾和人が答える場面が多かった。「教学率」は、池尾7:池田3といった感じか。

目次 - 池尾・池田本の表紙 - 池田信夫 blogより
プロローグ(池尾和人)
第1講 アメリカ金融危機の深化と拡大
- サブプライム問題から全般的な信用危機へ
その1 サブプライムローン問題
その2 全面的な信用危機への拡大
その3 リーマン・ブラザーズの破綻以降
第2講 世界的不均衡の拡大:危機の来し方(1)
- 1987年、1997年、2007年までの節目を振り返る
その1 長期不況:1970年代末〜1987年
その2 アメリカ経済の再活性化:1987〜1997年
その3 マクロ的不均衡の拡大:1997年〜現在
第3講 金融技術革新の展開:危機の来し方(1)
- デリバティブ、証券化、M&A
その1 伝統的銀行業の衰退と金融革新
その2 デリバティブ取引の意義
その3 投資銀行の成功と変質
第4講 金融危機の発現メカニズム
- 非対称情報とコーディネーションの失敗
その1 過剰投機はなぜ起きる:エージェンシー問題と「美人投票」
その2 取り付けの合理性とリスクテイク
その3 市場型システミック・リスク
第5講 金融危機と経済政策
- 「市場の暴走」と「政府の失敗」
その1 「政府の失敗」の結果
その2 経済思潮の変遷
その3 経済政策をめぐる争点
第6講 危機後の金融と経済の行く末
- 中長期的な展望と課題
その1 投資銀行は終わったのか
その2 規制監督体制見直しの課題
その3 長期不況の予感
第7講 日本の経験とその教訓
- われわれは何を知っているのか
その1 「失われた10年」の原因
その2 「失われた10年」の教訓
その3 不良債権問題への政策的対応
エピローグ(池田信夫)

いささか手前味噌かつ変な感想だが、本書は「小飼弾のアルファギークに逢ってきた」の経済学版といった感がある。同著はギークがギークと「半教半学」しているが、本著では元「放送記者」だったエコノミストがエコノミストとそうしているわけである。池田の現職だけではなく前職の経験も実によく活きていて、一「聴講生」としてずいぶんと楽しませていただいた。

ただし、「アルファギークに逢ってきた」においてもギーク語の解説を最低限にとどめ、まだギークの世界でも常識となっていない言葉のみを脚注で解説したように、本書も「GDP」のような、経済学者にとってあまりに当たり前の言葉までいちいち解説しているわけではない。これらの基礎知識はあらかじめ仕込んでおいた方がよいだろう。ちょうどいいタイミングで「 ハリ・セルダンになりたくて」の矢野浩一さんが「一年間「経済学入門」を担当したので最後に「まとめ」」て くれたので、

を読んでから読むと、池・池講義に付いて行きやすいのではないだろうか。

というわけで、平たくいうと大変「面白くてためになる」一冊なのであるが、私にとっては得た答え以上に、経済学に対する疑問も増えた一冊でもあった。本書で最も印象的だったのが以下の下り。

池尾◆少なくとも、経済学の道具箱にはいろいろな道具があるということは知っておいてほしい。普通、世の中の人が思いつきそうなアイデアは全部実はあるので、経済学はこういう話しを見落としているという話しはあり得ない(笑)。

大変心強い一言なのだが、だとしたらなぜ経済に関して、人々は「経済学者」よりも「経済人」の言葉により耳を傾けるのだろう?たとえば医学に関して、たとえどれほど実績があろうとも市井の治療師の意見の方が医師よりも重んじられるということはまずない。経済学が科学だとしたら、それはどこまで工学として応用できるのだろうか。もっと平たく言えば、経済学はどこまで経済にたいして「使える」ようになったのだろうか?

ゼロというつもりはもちろんない。私とて経済学の言っていることを自分の経済的利益のために利用してきたし、そのおかげで今がある。しかしそれは経済学に素直に従った結果というより、「経済学はこう言っているけれども、オレはこう思う」という具合に、経済学の判断と自分の判断が食い違う時には後者を優先してきた結果でもある。

一年間「経済学入門」を担当したので最後に「まとめ」 - ハリ・セルダンになりたくて
トンデモエコノミストは「これは欧米では常識だ!」などと言いながら嘘をblogや雑誌に書いていますが、彼らを反面教師として講義は常に標準的な教科書に沿って行いました。

こういうと叱られるのを承知で申し上げれば、巷の経済学に対する認知は、それ以前の「エコノミストという存在そのものがトンデモである」にむしろ近いと感じている。しかし巷というのはトンデモが実は結構好きなので、エコノミストも好きであるのだ、と。

私自身はそれよりもよっぽど経済学を信じている。それだけに、いかに実際の商売においては経済学者のようにふるまってはならないかもよくわかるのだ。ケインズの美人投票に例えれると、ミス・エコノミストに投票すると負けちゃうのだ。

というわけで、目下エコノミストに最も聞きたいのが、以下の問題提起に対する答え。

Anyone who believes exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist.
有限の世界で幾何級数的な成長が永遠に続くと信じているのは、キチガイと経済学者だけだ

実はこの問題提起は Kenneth E. Boulding という経済学者によるものである。「標準装備」で答えられないというのであればそれもいい。倉庫まで道具を取りに言っていただいても構わない。お待ちしております。

今回の金融危機は、これにきちんと正面から答えよという経済から経済学者への回答要求のように感じてる。

Dan the Economic Animal


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http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51183779.html にかいてあった。 Anyone who believes exponential growth can go on forever in a finite world is either a madman or an economist. 有限の世界で幾何級数的な成長が永遠に続くと信じているのは、キチガイと...
だいたい線形【○△□】at 2009年03月02日 23:36
 NHKスペシャル「アメリカ発世界自動車危機」(2009年2月2日放送)ではGM
GMが生んだサブプライム破たん【TYOスクラッチ】at 2009年03月06日 09:35
書評リンク - なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学
なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学【書評リンク】at 2009年03月06日 13:39
何故かは解らないけど、自分が誤解していると思うことでも正解に繋がると感じるときが...
経済的自尊心の呪縛【edry(えどりぃ)の粋狂】at 2009年03月07日 00:23
この記事へのコメント
s/取りに言って/取りに行って/g
Posted by 旅人A at 2009年03月02日 22:31
たとえば1%という「低」成長を江戸時代と同じ264年続けると経済規模は何倍になるでしょう? という命題に対してもっとも少ない文字数でプログラミングして答えを出せる言語は何かな?

まあそんな規模の経済活動を支えられるほど資源もないし、人もいないんですけどね。ゼロ成長・ゼロサム社会でも市民が楽しくあまり苦労せずに暮らせる社会を作るにはどうしたらいいかな?
Posted by ほげ at 2009年03月02日 23:11
BASICインタープリタ等多数が次の7文字で
1.01^264
Posted by 釣られました at 2009年03月02日 23:28
しくった。BASICは「?」が必要でした。
Posted by 釣られました2 at 2009年03月02日 23:30
もし経済学が「世界は滅びる」と予測し、そのとおり世界が滅びたとしたら、それは経済学の成功といえるのか、失敗といえるのか。
Posted by 挧 at 2009年03月02日 23:49
答える意味のなさそうな質問がここには多いな。
Posted by Kei at 2009年03月03日 00:04
s/目ああした/目指した/?


$public = 'edry(えどりぃ)';

s/経済学者への回答要求/$publicへの回答要求/i
Posted by edry(えどりぃ) at 2009年03月03日 00:14
長期的に見れば人はみんな死んでしまうのでどんな経済学も無意味です。
Posted by 太陽 at 2009年03月03日 00:26
経済学を普通の社会に応用するときの一番の問題点。
社会全体にとっては経済学的に正しくても、
個人レベルでは割に合わない経済学的判断が存在すること。
社会はそういう個人の集まりであること。
そして、社会は一部の似たような個人の集まりによって
事実上支配されていることが多いこと。
そしてその一部の集まりの利害は経済学的な判断に
反すること。
Posted by でも at 2009年03月03日 04:58
「なぜ世界は不況に陥ったのか」で…経済問題は心理の影響が大きいし、心理は国家にはコントロールできない…という結論めいた話がでてくるところが面白いですね。究極的に経済も心の問題なんだと…。
Posted by Y-BAT at 2009年03月03日 13:43
そもそも景気って「気」だしな
Posted by shou at 2009年03月07日 05:07
経済システムは、歩が生産される将棋のようなものです。
金や銀は、取られても再度盤面に登場する
チェスとは違います
現在の経済学は、歩の生産と取り合いに焦点をあてすぎています。
米国が経済学の焦点をそのように意図的にズラしているのかもしれませんが。
Posted by PK at 2009年03月09日 08:52
成長はフローであり、流れ、販路、流通です。
購買力は、ボトルネックがあると、そこの吸い込まれます。
昔は金本位制でお金に吸い込まれました。
今は、物流のボトルネックである地政学的な要衝を米国が押さえることを
ドルが体現することで、購買力が管理されています。
ロシアの資源の流通もウクライナとグルジアがボトルネックになっています。ロシアはここを完全に支配していないので、ロシアは自国の資源を自由に扱うことが出来ない。
鯨問題も、それを十分に繁殖させることで一種のボトルネックを作ろうと言うことでしょう。
あらゆることが、流通(ロジスティックス)とボトルネックと資源のマトリックスの問題に還元されます。
Posted by PK at 2009年03月09日 09:30
ロシアはソ連崩壊でGDP半減、その後エリティン時代に金融デフォルトってなどーしよーもない国ですが、そのシノギ方が先進国からは想像できないものですねえ。大学で東欧関係について受講したけど、現実のロシアのパワーやシノギ方は中沢新一や佐藤優でないと把握できないというか。物々交換と贈与でクリアするなんて想像できないけど、それが旧超大国の姿だとすると…なんかコワイかも。
Posted by Y-BAT at 2009年03月09日 19:01
強く強調しておきたいのは学問が必ずしも実践的である必要は実はないわけで(その程度は分野に依るが、確かに経済にだったら言えることかもしれないが)むしろ実践的でなければならないという誤った考えが学問の基礎を形骸化させるわけです。文科省の研究資金の組み方はこうした実務の人たちの誤った考え、認識不足から来ているのだろう。
また学者自身もそれを十分に理解し、声を上げないのも問題だと思うのだけれども・・・
Posted by 山田 at 2009年05月31日 00:18