2009年03月22日 17:30 [Edit]

命を吹き込む - 書評 - メイキング・オブ・ピクサー

早川書房小都様より献本御礼。

必読、必読、必読。

ピクサーという会社の生み出すものに、なぜ魂があるのかが、これでわかる。

ピクサーという会社に、なぜ魂があるのかが、これでわかる。

そして魂を見失いつつあるあなたは、その過程で失いかけた魂を再び見つけるだろう。


本書「メイキング・オブ・ピクサー」は、タイトルどおり Pixar の物語。スティーブ・ジョブスとアップルに関しては、すでにあまりに多くの物語が書かれ、今後も書かれると思われるが、アップルに勝るとも劣らない、ジョブスのもう一人の「子」であるピクサーに関しての物語は少なかった。

目次
  1. アナハイム
  2. ガレージにて
  3. ルーカスフィルム
  4. スティーヴ・ジョブス
  5. ピクサー・インク
  6. 離陸その1 - トイ・ストーリー
  7. 離陸その2 - トイ・ストーリー
  8. 「まるで全面戦争のようだった」 - バグズ・ライフトイ・ストーリー2
  9. モンスター・シティの危機 - モンスターズ・インク
  10. エメリービル - ファインディング・ニモMr.インクレディブル
  11. 帰郷 - カーズレミーのおいしいレストラン
エピローグ
付録1
付録2
訳者あとがき

しかし、本書の主人公は、ジョブスではない。ジョブスはピクサーに欠くことのできない人物であり、本書でも多いにページを割いているが、しかしジョブスではない。それではジョン・ラセターか、惜しいというか、ラセターを主人公とするかは、「モンスターズ・インク」の主人公をマイクとするのであれば、そうとも言えるだろう。しかしサリーを主人公とするのであれば、やはり主人公はエド・キャットムルその人だろう。この三者の中で最も古くからピクサーに携わり、しかし最も世間一般に知られていないこの人をきちんと主人公にすえた時点で、本書が傑作になることは決定したと言える。

それでは、このキャットムルというのはいかなる人物か。もしCGが物理学だとしたら、アインシュタインに相当する人なのだ。

P. 30
キャットムルは、一九七四年に発表した博士論文の、いわば三連単--双三次パッチ、Zバッファ、テクスチャ・マッピング--によって、その後何の功績も残さなかったとしても、コンピュータ・グラフィックスの分野で不朽の名声を博していたはずだ。だがかれにとってこうした業績は、本当の目標、つまりコンピュータ・アニメーション長編映画への足がかりでしかなかった。

ちなみに「双三次パッチ」とはBスプラインのこと。この程度の「直訳」はご愛嬌。

キャットムルというのは、アインシュタインが自らスターシップを設計、施工したような人なのだ。

ピクサーに命を与えたのは、間違いなくキャットムルなのだ。

しかしそのピクサーが生きながらえていくのは、キャットムルだけでは無理だった。1974年の博士論文から「トイ・ストーリー」の大ヒットまでには、20年の時を経ている。20年泥の中で生活していたというわけだが、その20年がどんなものであったから、本書でぜひご確認いただきたい。

そうしてなんとか生きてきたピクサーに、「物語」という生きる理由を与えたのがラセターであり、そして自ら生きていけるようになるまで「糧」を与えたのがジョブスなのである。

あまりに有名なこのスピーチの中で、Pixarもまたジョブスがスタートアップしたといっているけど、以上の事情をふまえれば、ちょっとそれはいいすぎという気がしないでもない。ジョブスは確かにピクサーの「産みの親」ではないのだから。しかし育ての親の一人であり、独り立ちするまで最後まで面倒を見た親であるというのは確かで、それがどれほど苦しいことだったかは本書を読めばわかる。あなたは人生のどん底で、いつ利益を生むかもわからない会社に六〇億円つぎ込むことが出来るか?

そう。糧。その意味において、ジョブスのやくどころは、やはりブーだろう。

ピクサーの作品の共通項を取り出すと、「大人の事情」との戦いということになるだろう。だから作品が子供向けなのに、むしろ大人が感動してしまう。キャットムル、ラセター、そしてジョブスといった人々は、いかにしてそれに打ち克ってきたのか。

いかにして Hungry でありつづけたのか。

いかにして Foolish でありつづけたのか。

いかにして Pixar を Animate = 命をふきこみ続けてきたのか。

ぜひ、本書でご確認いただきたい。

400ページ近い大著であるにもかかわらず、ソフトカバー、2000円で出してくれた早川にも感謝。

Dan the Fan Thereof


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この記事へのコメント
稀少なリンゴの登場人物は二人。

スティーブ・ジョブズと木村秋則

弾さん「奇跡のリンゴ」は、もう読みました?
Posted by カーネルサンダース見習い at 2009年03月28日 00:12
世の中の社長には、
2つのパターンがあります。

せこい社長と、せこくない社長。

せこい社長は、小粒まま残る。
せこくない社長は、消えるか大粒で残る。
Posted by higekuma3 at 2009年03月24日 02:15
各位、
ありゃま。直しました。
Dan the Typo Generator
Posted by at 2009年03月23日 00:14
正:むしろ大人が感動してしまう。キャットムル、ラセター、そしてジョブスといった人々は、いかにしてそれに打ち克ってきたのか。
誤:むしろ大人が感動してしまう。キャットラム、ラセター、そしてジョブスといった人々は、いかにしてそれに打ち克ってきたのか。
Posted by roly at 2009年03月22日 20:25
正:ピクサーに命を与えたのは、間違いなくキャットムルなのだ。
誤:ピクサーに命を与えたのは、間違いなくキャットラムなのだ。
Posted by fu7mu4 at 2009年03月22日 20:13