2009年05月11日 00:05 [Edit]

才能は誰のものか? - 書評 - 天才! 成功する人々の法則

講談社青木様より献本御礼。

初出2009.05.10; 販売開始まで更新

ゲラの段階から拝読したので、紹介するまで少し待ちくたびれてしまった。改めて本になったものも手元に届いたので、「404 Blog Not Found:プロが独り立ちするためのたった一つの条件」で予告したとおり、やっと書評を上げられてほっとしている。

結論だけ言えば、才能というものに対し、少しでも「なにかしたい」という思いがある人は、必ず目を通すべき一冊である。[続きを読む]を押す前に注文しても後悔しないということは折り紙をつけさせていただく。


本書「天才! 成功する人々の法則」の原題は"Outlier"。これは著者の造語で、「標準から外れた位置にいる人々」を意味する。「ウソを通しきる人々」ではない(私は最初そう勘違いしてしまった)。その意味において邦題は間違ってはいないのであるが、直訳するにもほどがある。他の作品でも感じることだが、訳者はもう少し単語、特にキーワードに対して注意を払うべきだと弾言する(もっとも「断る力」のような bullseye もあるのだけれども)。実際、「天才」というのは書籍的には「凡才」すぎる言葉で、講談社の検索を使ってさえ、本書ではなく「天才柳沢教授の生活」がトップに来てしまう。

私なら、本書の邦題を「地才」としていただろう。

目次 - 講談社 BOOK倶楽部:天才! 成功する人々の法則より
プロローグ ロゼトの謎
ロゼト住民の死因は、老衰だけだった!
健康すぎる村
個人を超えた視点
第一部 好機
第一章 マタイ効果

選ばれたのは個人の実力? / 「樹」より「森」を見よ / アイスホッケー界の鉄則とは? / 偏りが生まれる三つの条件 / 成功は会社やシステムによって決められる / 完璧な誕生日

第二章 一万時間の法則

ネット界のエジソン / 「生まれつきの天才」は存在する? / 「t=k」の福音 / リバプールではなくハンブルク? / すべては一台の端末から始まった / 歴史上最大の「好機」とは

第三章 天才の問題点 その一

IQ195の男 / 天才の遺伝学的研究 / ノーベル賞受賞者の卒業大学 / レンガと毛布、何に使う / ターマンの誤算

第四章 天才の問題点 その二

大学は僕のためには何もしてくれない / オッペンハイマーの機知 / 親の仕事はここで決まる! / ランガンに欠けていたもの / アウトライアーになれなかった神童たち / たったひとりで成功した者はいない

第五章 ジョー・フロムの三つの教訓

世界最強の弁護士 / 「成功」物語の真実 / エリート弁護士は白い靴を履く / 「恥ずべき仕事」が「儲かる仕事」に / 生まれる最適のタイミング / 才能だけでは食えなかった時代 / “人口の谷間”の優位点 / 「僕たちの商売が見つかった」 / ユダヤ人移民の好機 / 「意義ある仕事」の三つの条件 / 家系図は語る / 超一流事務所の四人の出自

第二部 「文化」という名の遺産
第六章 ケンタッキー州ハーラン

仁義なき戦い / 南部に根強い“名誉の文化” / 「くそったれ」実験の成果 / 「文化」は成功に影響するか

第七章 航空機事故の“民族的法則”

着陸目前の悲劇 / 最悪のエアラインからアウトライアーへ / 大惨事はなせ起こるのか / 副操縦士の沈黙 / 非常時に求められる能力 / “何気ない”緊急事態 / 六種類の話法 / 「たぶん、そう思います。どうもありがとう」 / 原因の真相 / ホフステッドの次元 / 三つの悪条件が重なったとき / せいいっぱいの発言だった / 大韓航空再生の秘策 / 遅すぎた「提案」

第八章 「水田」と「数学テスト」の関係

黄金色の海 / 「数字に強い」は言語で決まる? / 勤勉だった稲作農民 / 水田がつくる文化の精神 / 素晴らしき勘違い / 数学は忍耐である / 偶然の一致? それとも……

第九章 マリータの取引

貧しい街の“名門”学校 / 「勉強のしすぎ」は健康破壊につながる? / 学力格差はなぜ起こる / 授業、授業、授業 / 「宿題は多くなければ、ニ、三時間で済む」 / すべての人々に好機を与えよ

エピローグ ジャマイカの物語

恵まれた双子 / 母の「成功」物語 / 特権という遺産 / ブラウンフェイスとビッグマスター

解説 勝間和代
生まれつきの天才などいない?
鬼才マルコム・グラッドウェルが私たちに贈る「天才論」
注解

それでは、本書の主題である「才能」とは一体なんなのだろうか。

ここで、あえて言葉遊びをしてみよう。「天才」の「天」から、「天地人」を連想して、それぞれの才がどんなものかを考えてみる。

天才
天から得た、すなわち本人の意思とも環境とも関係なく会得した才能。
地才
地から得た、すなわち環境によって会得した才能。
人才
人から得た、すなわち本人の意思により会得した才能。

これをもとに本書を一言でまとめると、「実は天才とされる人の多くは地才である」、あるいは「地才が人才を育て、その結果が天才」となるだろう。才能というものにしめる環境の役割は、我々が思い込んでいる、いや思い込まされているよりずっと大きいというのが、本書の主旋律なのだ。

おそらく本書で一番喧伝されるのは、「一万時間」であろう。私自身、すでに取り上げている。

404 Blog Not Found:プロが独り立ちするためのたった一つの条件
一万時間続けよ

しかし勘違いしないで欲しい、「だから努力が重要なのだ」という根性論を、本書はとらないのだから。一万時間というのは、本人の努力、すなわち人才だけで獲得するのがいかに困難かという例を、本書はこれでもかとばかり例示する。

たとえば、アスリート。もし彼らの才が天からの授かり物だとしたら、確率論的に彼らの誕生日は均一に分布しているはずだ。実際近代人の誕生日はそうなっている(それ以前は、夏に少ないなどの偏りがあった)。ところが、実例はこうである。

プロ野球12球団Jリーグ(J1)合計
4-6月生まれ

244人

7-9月生まれ

200人

10-12月生まれ

176人

1-3月生まれ

98人

4-6月生まれ

171人

7-9月生まれ

125人

10-12月生まれ

87人

1-3月生まれ

71人

これは本書のために講談社が調べた結果だが、見ての通り年度初めに近いほど多く、年度末に近づくにつれて少なくなっている。本書に出てくる事例はアイスホッケー選手だが、そこでもやはりこの傾向が見られる。このことは「マタイ効果」として知られているが、なんでこんなことになってしまうのか、本書でぜひ確認していただきたい。


ガキ使 ジミー大西の英語の授業 投稿者 No-rain_No-rainbow

才能にとって最も重要な環境は、もしかして言語かも知れない。まずは、これをご覧いただこう。

「笑ってはいけない学校 ジミー大西英語レッスン」の海外反応
正に、" その発想はなかったわ " 的な面白さが海外の人にはあった感じ。

一通り笑った後で、改めて考えてみよう。"ten ten"は、日中韓、あるいはCJKV言語においては決して不正解ではない。数を数えるという単純な行為一つとっても、より簡単な言語とより難しい言語があるのは確かだ。その結果、九九を覚える年齢が、東アジアと欧米では二年も違う。数字の取り扱いにおけるマタイ効果は、アスリートの時以上に大きいのだ。

最近の家計簿を見て愕然としたのは、教育費の高さ。11才と7才の娘たちに、我が家は12万円も支払っている。飛び抜けて多額ではないが、しかしどの家庭でも出せる金額ではない。親ばかを差し引いてもなお利発な娘たちであるが、それを見ると彼女たちが利発なのもむしろ当然という気分になってくる。日本社会でデフォルトで得られないはずの環境を彼女たちは享受しているのだから。

才能というものの天地人比がどうなっているのか、正直私も分からない。本書もそこまで定量的な調査はしていない。しかしそこに占める地と人の比率が、常識よりもずっと大きく、そしてそれは我々の力で変えることができるのだということは、もっともっともっと知られていい。

それを知ることは、我々の才能の総和を大きくするだけではない。社会に対する我々の認知をも変えることにつながる。才を粗末にする社会を、我々は大切にするだろうか?もし天才というものの才能が、彼らだけのものではなく社会的財産なのだとしたら、それに対する投資責任もまた、社会にあるはずなのである。

Dan the Outlier


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早読みで頂いたこの本。 「天才!成功するひとの法則。」 天才! 成功する人々の法則/マルコム・グラッドウェル ¥1,785 Amazon.co.jp ようやく読み終えたのがちょっと前。 そんなに、そんなに環境って大事なのか という衝撃と、なんとかなんないか・・・?...
天才!成功するひとの法則。【ITと好奇心と冒険の日々】at 2009年06月07日 20:18
この本は、有名な書評ブログ「404 Blog Not Found」で評価されてい
マルコム・グラッドウェル「天才!成功する人々の法則」【いのちのパン研究所】at 2009年05月29日 12:35
【基礎データ】 著者: マルコム・グラッドウェル 訳者: 勝間和代 出版社: 講談社 2009年5月 ページ数: 350頁 紹介文: 全米では発売3カ月で100万部突破 「生まれつきの天才」はいない? 勝間和代さん激賞! 「成功の方法・天才になる法則がつかめる本」 ...
天才! 成功する人々の法則【書評の可能性】at 2009年05月15日 02:04
天才! 成功する人々の法則講談社勝間 和代(翻訳)発売日:2009-05-13amazon.co.jpで詳細をみる (Amazy) 【本の概要】◆今日ご紹介するのは、何度かこのブログでも取り上げてきた、マルコム・グラッドウェル作、勝間和代さん翻訳の「天才! 成功する人々の法則」。 すでに....
【勝間さん激賞!】「天才!成功する人々の法則」がいよいよ発売へ!【マインドマップ的読書感想文】at 2009年05月13日 08:35
いわゆる高知能指数系な意味で天才ともてはやされる人間がゴマンと居たり、そういう人と仕事をしなければいけない業界で細々と暮らしているせいか、才能とはなんたるものか、僕なりにいろいろ考えてきました。結論を先に言うと、社会的に意味があると考えられる天才とは、生....
才能は勝手に育つカビのようなもの【理系脳毒之助Diary】at 2009年05月11日 17:45
この記事へのコメント
P・F・ドラッカーが随分前に、ここで挙げられた話について結論
出してたよな、生まれついてのリーダーや天才というのはいない
って。
Posted by   at 2009年11月17日 19:08
アスリートの生まれつき分布については、1988年に東海大学の講義で教えられましたし、その発表をした人が前年に「なるほど・ザ・ワールド」で出題されておりました。
Posted by てんてけ at 2009年05月17日 17:38
>BNFさん

アマゾンでは、帯ナシの書影を掲載するのが原則だそうです
(キャンペーン等、実態とそぐわない情報が記載されている
場合問題となるので)。
Posted by とおりすがり at 2009年05月12日 19:28
あれ???
何で勝間の顔入りの帯はずしたの????
Posted by BNF at 2009年05月11日 19:38
>outlierがどんな形で使われていようと、意味は間違えていないから別にいいでしょ。タイポのようなもん

意味がどうこうじゃなく、普通の辞書に載っている語を(調べもせずに)著者の造語だと弾言しているところが不信感を煽ってるわけで。
Posted by Outlier at 2009年05月11日 10:32
ジョセフ フロム=スキャデンすよね!?
懐かしい。
Posted by 帝釈天 at 2009年05月10日 23:25
教育を金でなんとかするっていう習慣自体を改めるきっかけになると良いですね。「社会に出たら〜〜〜〜」って言う人たちもいますが、そういう人たちも結局、我が子に多額の教育費をつぎ込んでいるようなので。

【教える=金を出す】
って考え方から、

【教える=知恵を分け与える】
って変わることを強く望みます。


あくまでも理想論ですけどね〜
Posted by naitoyuki at 2009年05月10日 22:06
outlierがどんな形で使われていようと、意味は間違えていないから別にいいでしょ。タイポのようなもん
Posted by san at 2009年05月10日 22:04
才を粗末にしまくっても、こうして日本は存在しているのだから、
才なんて使い捨てでいいのではないですか。
Posted by KKMM at 2009年05月10日 20:49
環境が天才つまり周辺をあるいは国を変えるような人材をつくる。
今後の日本の政策でもきちんと反映してほしいですね。
Posted by 30男 at 2009年05月10日 19:01
リクエストをさせてください。

>教育費の高さ。11才と7才の娘たちに、我が家は12万円も支払っている。

差し支えなければ、内訳を教えていただきたいです。
Danさんのような方が、どういう教育費の使い方をされているか、
お子さんの教育にかかわっている身としては、とても興味が
あります。

そのお金の使い方を決断された理由と、Danさんの
「教育哲学」も、おいおい教えていただきたいです。


Posted by とおりすがりの教育関係者 at 2009年05月10日 18:50
彼女は個人の問題ではなく社会構造としてのゆがみを指摘しているのに対し、小飼弾さんは感情で反応しているだけのような気がする。「高偏差値大学の卒業生というのが、その時点では「人が作ったゲームの高得点者」に過ぎないということがある。」という社会構造がおかしいと彼女は言っているのである。日本の教育システムがなぜ作られたゲームで高得点を取ることに価値を置きそれに大半の国民を没頭させるのか、という社会構造の問題である。それは彼女の弾氏への反論を見れば明らかだろう。その趣旨を正確に理解できていない。感情で反論している。大半の読者には受けがいいんだろうけど。実務でバリバリやってきた人が陥りがちな「自身の経験」至上主義。
「頭がどれだけ優秀か、というのは、どれだけのことを自分ごととして頭がとらえられるか、ということ。裏を返せば、それをどれだけ社会ごとという名の他人ごととして頭がとらえるかが、バカの度合いということ。」これは社会問題を議論する以外の状況において非常に大事であると私も思うとあえて言っておくが、社会問題を論じる際、結果自己責任論を押し付けてしまう要因、源泉になっているのだろうと私は思う。皮肉なことに。
たとえば「反貧困」湯浅誠では貧困が自己責任論に回帰されてしまうのは、貧困を生みだす要因を正すことにつながらない、という趣旨のことを述べている。この本でも自己責任論を押し付ける代表格としていつも登場するのは実務家の人たちであった。皮肉なことに自分はどんなにつらい時も奮い立たせてやってきた、という想いがその基礎的条件すら有してなかった人にもできるはずだと自己責任論を押し付けてしまうのである
Posted by 2008年7月30日の記事への提言 at 2009年05月10日 18:49
outlierも知らないダンコーガイってちょっと意外だった。
Posted by せいさんぎじゅちゅ at 2009年05月10日 18:33
ランダムハウス、研究社新英和、ジーニアス英和大辞典、リーダーズ英和など、代表的な辞典にはみな載っている言葉ですね。ランダムハウスを引用しておくと、

1 戸外に寝る人[動物].
2 職場外に居住している人,通いの従業員.
3 〖地質〗 外座層(↔inlier):浸食作用により,周りの古期岩体に取り囲まれて孤立している新期岩体.
4 (一般に)本体から離れた部分;離れ島.
5 門外漢,部外者.
6 (19世紀の米国辺境地帯において)叢林(そうりん)に住む人,山賊.
7 〖統計〗 外れ値,異常値:推定値から異常に離れているもの.

目次だけからではどの意味か分かりませんが、yotaroさんの線で、異端児といった意味でしょう。

マタイ効果ってよく知りませんが、持てる者ほどますます持てるようになる、という意味で4-6月生まれが最も恵まれているということを示すつもりなら、同期間の出生数で割った比率で示さないとあまり意味がないのではないでしょうか。確率論は、月平均の出生数が一様であることを保証しているわけではありませんから。
Posted by ミストラル at 2009年05月10日 16:57
最後の1文、良い事言った!
日本の社会にもっと広めるべき。
Posted by lily at 2009年05月10日 16:08
これはyotaroさんが正しい。outlierは造語ではなくてdeviant pointみたいな感じで普通に使われてる言葉ですね。
Posted by ぷるる at 2009年05月10日 15:32
一般的な用法と少し異なっているという点では"Outlier"は造語かもしれませんが,一応.

Outlierは統計学のコンテキストでは,仮定している分布の中央から極端に外れた事例のことを言います.(和訳は「外れ値」)
たぶん,内容からすると,まったくの造語というわけではなくて,この用法の延長なのではないかと...
Posted by yotaro at 2009年05月10日 14:53