2009年05月11日 22:30 [Edit]

究極の仕事 - 書評 - 任天堂 "驚き"を生む方程式

日本経済新聞出版社細谷様より献本御礼。

もう書名を見ただけで期待値Max。それだけに裏切られた時の衝撃に身構えた。本書は64だろうか?それともWiiだろうか。

後者、だった。それも花札付き!


本書「任天堂 “驚き”を生む方程式」は、今までありそうでなかった任天堂本。本日(05月11日)終値で時価総額日本七位にして、社員一人当たりの利益(売り上げでなくて!)が一億を超える、世界的な優良企業に関する本が今までなかったのには、わけがある。

目次 - 任天堂 “驚き”を生む方程式 - 井上理|日本経済新聞出版社より
プロローグ―「100年に1度」に揺らがす
第1章 ゲーム旋風と危機感
DS、1人1台への挑戦
社長が作った《脳トレ》
ゲーム人口拡大戦略とWii
ソニーとの10年戦争
「ゲーム離れ」の危機感
第2章 DSとWii誕生秘話
レストランで生まれたDS
Wiiの「お母さん原理主義」
怖がられないリモコン
毎日、何かが新しい
第3章 岩田と宮本、禁欲の経営
勝って驕らず
心はゲーマー、岩田聡
文法破る、世界の宮本茂
「肩越しの視線」という武器
「ちゃぶ台返し」の精神
部門の壁を壊す「宮本イズム」
外様社長が励む個人面談
伝統にサイエンスを
第4章 笑顔創造企業の哲学
娯楽原理主義
「任天堂らしさ」を守る
「驚き」や「喜び」を食べて育つ
似て非なるアップルと任天堂
「役に立たないモノ」で培われた強み
黒焦げのゲームボーイ
第5章 ゲーム&ウォッチに宿る原点
甦る「枯れた技術の水平思考」
遊びの天才、横井軍平
ローテクで勝ったゲームボーイ
最先端に背を向ける
第6章 「ソフト体質」で生き残る
カリスマ山内の「直感の経営」
次世代に賭けた最後の大勝負
ソフトが主、ハードは従
娯楽に徹せよ、独創的であれ
第7章 花札屋から世界企業へ
京都のぼんぼんとトランプ
勝てば天国、負ければ地獄
失意泰然、得意冷然
カルタ職人のベンチャー精神
第8章 新たな驚きの種
「ポスト脳トレ」の新機軸
クリエイター人口拡大戦略
お茶の間の復権
「草野球市場」からの刺客
エピローグ―続く“飽きとの戦い”
P. 11
任天堂は外様に経営を語られることをよしとしない。経営を称えられることすら厭う。だから個別に取材を受けるということは、これほど成功している企業であるのに極端に少ない。故にその経営を題材とした書籍も、ほとんどない。

そんな任天堂を、その商品から受ける憶測ではなく、丹念な取材と綿密な考証に基づき上梓された本書が面白くないわけがない。他の企業ならさておき、製品の100%が娯楽品である任天堂は、面白くなければ存在価値そのものがなくなってしまう。面白い日本語になってしまうが、本書は命がけで面白い、というしかない面白さだ。

感嘆したのは、本書が繁栄の絶頂にある同社の現在だけではなく、120年にも及ぶ同社の過去と、そしてかつてないほど見えない未来をきちんと書いたところ。現在の任天堂の「デュアルコア」である岩田聡、宮本茂の片方だけでも本が一冊出来るだけの重要人物であり、両氏の重要性は Gates や Jobs に劣らない。そして退社してわずか二年後、56歳で亡くなった横井軍平が世界に与えた影響は、この両者を合わせたよりもさらに大きいのではないか。カードゲームの会社を電子ゲームの会社に変えたのは、この人だったのだから。彼らのいずれか一人分だけで紙幅が尽きても十分満喫できたのだが、極めつけはあの「静かなるドン」、山内溥のインタビューも取り付けたことだろう。氏の言葉を知るためだけでも、本書を手に入れる価値がある。横井、宮本、そして岩田の主張であれば製品を通して知ることができるが、なぜ山内がこれらの逸材を魅了しつづけたかを知るにはそれしか方法がないのだから。

ビジネス書の感想文として「多いに参考になった」というのは最もあたりさわりのない締めである。しかし本書にそれは通用しない。前述のとおり任天堂は必需品を一切作っていない。山内のいうとおり、「よそと同じが一番アカン」のだ。本書で唯一「そのまま」参考にできるのは、「参考するな、自考せよ」という「メタ参考」しかない。

もっとも、まねしようにもどれだけの会社が真似できるのか。なにしろ、任天堂の仕事は「仕事」ではないのである。

小飼弾の 「仕組み」進化論
十分に発達した仕事は遊びと区別できない

任天堂のそれは、区別どころではなく、100%純粋な遊びなのである。それも、「すべった」時には何百億、何千億の単位で銭がなくなる。花札賭博どころではない。

仏教は心の科学」 P. 99

みなさんは天界に生まれ変わったら、遊んだり、音楽を演奏したり、踊ったり歌ったり、性的な行為を思う存分やったり、お腹いっぱい食べたり、そういうイメージで「楽しそうだな。天界に行きたいな」と思っているのではありませんか。

でも本当は天界では、そういうことをしないと死んでしまうのです。彼らは楽しんでいるわけではなくて、必死で生きているのです。遊ばなくては死ぬのです。音楽の波動で生きている神々は、ちゃんと定期的に、決まった時間にその音楽の波動を食べないと死んでしまうのです。我々は楽しくなるために演奏を聞いたりしますが、天界の場合は、生死の問題です。死ぬか生きるかの大問題なのです。それでも皆さんは天界に生きたいですか?

任天堂における仕事とは、このレベルの遊びなのだ。

そして、それは近未来の我々の仕事でもある。

貧困が克服された後、何が残るか。

退屈、である。

これこそが、人類にとってのラスボスなのだ。

任天堂の真の敵は、SonyでもMicrosoftでもなく、そしてAppleですらない。むしろ彼らはライバルと見なすべきだ。著者はこのことを正確に見抜いている。貧困を克服してもなお残るそれこそが、任天堂の真の敵なのだ。

本書を「面白い」を超えて役立てるには、一回り大きな視点が必要だろう。岩田がゲーム機の役割を再定義した時と同じような。そう考えていくと、一見「しょせん暇つぶしを提供しているだけの、必需性ゼロ」の任天堂のありようこそが、日本が沈むか再び昇るかを決めるのかも知れない。どれだけ売れるかでも、どれだけ作れるかでもなく、まてやどれだけ働けるかではなく、どれだけ遊べるか。

世界一の遊び企業を、まずはごらんあれ。

Dan the Customer Thereof


この記事へのトラックバックURL

この記事へのトラックバック
404 Blog Not Found:究極の仕事 - 書評 - 任天堂 "驚き"を生む方程式
404 Blog Not Found:究極の仕事 - 書評 - 任天堂 "驚き"を生む方程式【】at 2012年01月21日 21:26
角川書店亀井様より献本御礼。 ゲームの父・横井軍平伝 牧野武文 たった一人の天才が、「ただの花札屋」を「世界一の玩具屋」にしてしまう。 その天才の仕事を、たった一人で終わらせなかったという点は「任天堂 "驚き"を生む方程式」を読めば納得が行くが、しか...
Let'em apply! - 書評 - ゲームの父・横井軍平伝【404 Blog Not Found】at 2010年06月28日 20:44
任天堂"驚き"を生む方程式 井上理 「404 Blog Not Found:究極の仕事 - 書評 - 任天堂 "驚き"を生む方程式」を受けて、著者と対談したのでお報せします。 セブンアンドワイ - 日経新聞「任天堂“驚き”を生む方程式 The philosophy of Nintendo」
紹介 - 「任天堂 "驚き"を生む方程式」@7andy【404 Blog Not Found】at 2009年08月06日 14:57
クックパッド株式会社広報櫻井様より献本御礼。 600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス JavaScript これは、うまい! Webサイト制作者は、今後本書を読まずしてWebサイトについて語るべからず。 そしてそれに限らず、ものづくりに関わる全ての人....
モノヅクリスト必読! - 書評 - 600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス【404 Blog Not Found】at 2009年05月22日 22:06
小飼弾さんのブログにも書いてありましたが、任天堂、という会社が日本が世界に誇れる物凄い会社である、ということはあまり一般には知られていないのかもしれません。世界的に見ても「超優良企業」であるのは間違いないですよね。こんな記事を読むと、ちょっとだけその凄さ....
任天堂の本を予約【足利市ではたらく社長のブログ】at 2009年05月11日 23:47
この記事へのコメント
任天堂がすごいのはその退屈を退治するツールを開発したこと
なんですね。なるほど。けど退屈な状態の人間にはGDPが
発生しない。こういうエントリを書いた弾さんはさすが
開発側ですね。
Posted by    at 2009年05月18日 08:38
たまにはゲームキューブのことも思い出してあげてくださいっと。
この本が売れて横井軍平ゲーム館も復刊されるとよいのですけど。

しかし弾さんがゲームで遊んでるところなんて想像できないなあ。
いつも本読んでるかPCに向かってる姿しか想像できないです。
Posted by sky at 2009年05月13日 03:06
多いに→大いに
Posted by hoge at 2009年05月13日 02:08
エントリ違いかもしれませんが、現在「仕組み」進化論を読んでいる最中です。
プログラムという仕事の話がベースでありながら、自分の業種にもすべて置き換え可能で読めています。プログラミングを知らない自分には、切り口がとても新鮮で、購入した価値がありました。小飼さんの本の「仕組み」に、まんまとしてやられた感じです。
Posted by 読者 at 2009年05月12日 23:57
64だとしても商売的には失敗してないんだけどね
Posted by   at 2009年05月12日 22:12
64は面白さでいえばぜんっぜん失敗してないように思う
Posted by a at 2009年05月12日 17:50
誤読の余地無く「64だろうか〜」にかかるんですけど、64が失敗作だという知識の無い人にはチト分かりにくい。私も今ググッって驚きました。そんなに売れていなかったのか。

#ゲームに興味ない人はこんなモン、と言うサンプルとして。
Posted by 私もそこは引っかかりました at 2009年05月12日 12:40
ちょっと分からなかったのですが
>後者、だった。それも花札付き!
はどっちにかかっているんでしょうか。

>もう書名を見ただけで期待値Max。それだけに裏切られた時の衝撃に身構えた。

>本書は64だろうか?それともWiiだろうか。

Posted by ai2 at 2009年05月12日 11:25

2008年7月30日の記事への提言

彼女は個人の問題ではなく社会構造としてのゆがみを指摘しているのに対し、小飼弾さんは感情で反応しているだけのような気がする。「高偏差値大学の卒業生というのが、その時点では「人が作ったゲームの高得点者」に過ぎないということがある。」という社会構造がおかしいと彼女は言っているのである。日本の教育システムがなぜ作られたゲームで高得点を取ることに価値を置きそれに大半の国民を没頭させるのか、という社会構造の問題である。それは彼女の弾氏への反論を見れば明らかだろう。その趣旨を正確に理解できていない。感情で反論している。大半の読者には受けがいいんだろうけど。実務でバリバリやってきた人が陥りがちな「自身の経験」至上主義。
「頭がどれだけ優秀か、というのは、どれだけのことを自分ごととして頭がとらえられるか、ということ。裏を返せば、それをどれだけ社会ごとという名の他人ごととして頭がとらえるかが、バカの度合いということ。」これは社会問題を議論する以外の状況において非常に大事であると私も思うとあえて言っておくが、社会問題を論じる際、結果自己責任論を押し付けてしまう要因、源泉になっているのだろうと私は思う。皮肉なことに。
たとえば「反貧困」湯浅誠では貧困が自己責任論に回帰されてしまうのは、貧困を生みだす要因を正すことにつながらない、という趣旨のことを述べている。この本でも自己責任論を押し付ける代表格としていつも登場するのは実務家の人たちであった。皮肉なことに自分はどんなにつらい時も奮い立たせてやってきた、という想いがその基礎的条件すら有してなかった人にもできるはずだと自己責任論を押し付けてしまうのである。
Posted by 2008年7月30日の記事への提言 at 2009年05月12日 03:09
t2enonuさん。
おっとっと。訂正しました。リンク先の目次までは直せないのですが。
ちなみに本の方は「軍平」と正しく表記されています。
Dan the Man to Err
Posted by at 2009年05月12日 02:21
横井軍兵→横井軍平

です。
12年前に、生前の横井さんを取材して『横井軍平ゲーム館』という本を作りました。ゲーム業界の方々からたいへんな評価をしていただきましたが、諸般の事情により増刷ができず、長らく「幻の本」となってしまい、編集者としては心痛い状態がずっと続きました。
この本はまだ未見ですが、「枯れた技術の水平思考」に象徴される「ヨコイズム」が、今の任天堂にもしっかりと息づいていることは間違いないようですね。「ヨコイズム」という言葉さえ必要のないほどに。
横井さんご自身も「誰が作ったかなんて、遊ぶ人には関係ない「ですよ」とおっしゃっていました。
この本が、いい意味で横井さんに引導を渡すものであればいいなと思います。ゆっくりお休みください、横井さん。
Posted by t2enonu at 2009年05月12日 02:00
日本においては、
ソフトの輸出の中で、
ゲームは、昔からダントツです。

なのですが、
就職面接で、
待ち時間に、
ゲームやってる奴。
本読んでる奴。

どっちを価値ある存在と見るかですな。

細切れの時間を
どう使う人間かという価値観ですが。
Posted by higekuma3 at 2009年05月12日 01:15
真剣な「遊び」がすぎた例を持ち出すなら、 NINTENDO64 でなく
サテラビューかバーチャルボーイにすべき
ま。普及しなかったのは、来し方ゲームファンや大衆は、それらを
受け入れなかった | 受け入れられる要素を欠いたのも一因だ罠

# ……一定年齢以上で Wii 未経験の人間は、コンシューマ機の
# 名前=「ファミコン」と押し並べて言うがね
Posted by グリーンハウス at 2009年05月11日 23:29