2014年07月24日 08:30 [Edit]

恐れのみを恐れよ - 書評 - リスクにあなたは騙される

早川書房東方様より献本御礼。

2009.05.25 初出
2014.07.24 文庫化につき更新

本書こそ、今最も恐るべき一冊だ。

初の著作がこれだとは、著者恐るべき。


本書「リスクにあなたは騙される」の原題は"Risk: The Science and Politics of Fear"、直訳すれば「リスク:科学と恐怖政治」となる。そう。本書は、むしろ「機会」をも意味する「リスク」ではなく、恐怖というものそのものに関する本なのだ。

目次 - Amazonより
プロローグ
第1章 リスク社会
第2章 二つの心について
第3章 石器時代が情報時代に出会う
第4章 感情に勝るものはない
第5章 数に関する話
第6章 群れは危険を察知する
第7章 恐怖株式会社
第8章 活字にするのにふさわしい恐怖
第9章 犯罪と認識
第10章 恐怖の化学
第11章 テロに脅えて
第12章 結論―今ほど良い時代はない
謝辞
訳者あとがき

本書の問題提起は、オビのこの一言にとどめをさす。

リスクにあなたは騙される:ハヤカワ・オンライン
史上最も安全で健康な私たちが、なぜ不安に怯えているのか?

そうなのだ、ありとあらゆる統計が、我々は至上最も安全で、健康で、長生きであることを示している。個人の趣向はとにかく、社会的な幸福の定義に照らし合わせれば、我々は最も幸福な時代に生きていることになる。にも関わらず、なぜ我々はテロに怯え、「ならずもの国家」に怯え、そして新型インフルエンザにおびえ続けるのか。

その原因は、我々の心、いや、二つある心のうちの一つにあると著者は説く、本書では、「腹」と表記されているそれだ。原著は未読だが、おそらく"gut"となっていたはずだ。私なら「肝」と訳しただろうか。現代人の感じる恐怖、というより恐怖に対する違和感は、この「頭」と「腹」の乖離にある。いくら「頭」では恐れるべき「理解」できても、「腹」が恐怖を「実感」してしまうことは止められないのだ。

ここまでは、我々も薄々気がついているはずだ。しかし本書の本当にすごいのはここからだ。

「頭」と「腹」の食い違いを巧みに利用して利をせしめている者がいるのだ。

それが誰かは、本書で確認して欲しい。しかしこいつだけははずせないという者が、どうしても二人いる。 Bin Laden と George W. Bush である。本来敵どおしの両者であるが、しかし理性ではなく恐怖で世界を動かしたという点で両者は同類であり、そして後者の方がより多くの人を死に至らしめたことはすでに周知であるが、本書にまとめて提示されると、それの影響力--特に後者--の大きさに改めて愕然とする。

本書が Science だけではなく Politics を扱っている、いや、扱わざるを得ない理由が、ここにある。政治において決定力を持つのが「頭」よりも「腹」である以上、恐怖は科学よりも政治においてより大きな意味を持つ。だとしたら、「頭」は恐怖に対して無力なのだろうか。

それを克服した者がいる。本書にも登場する Franklin Delano Roosevelt である。合州国で最も長きに渡って大統領であった彼の第一回就任演説のこの言葉は、本書にも繰り返し登場する。

Franklin D. Roosevelt - Wikiquote
the only thing we have to fear is fear itself
フランクリン・デラノ・ルーズベルト - Wikiquote
恐れなければいけない唯一のものは、恐れそれ自体である。

今、世界が最も必要としている言葉は、これではないのか。

そして、この言葉は著者のいるカナダよりも、そして本書の主たる市場たる合州国よりも、安全で健康である日本こそが必要としている言葉ではないか。世界一安全で健康な日本人は、しかし世界一恐怖に弱いな人々でもあるのかも知れない。ちょっと経済が停滞しただけで年間の自殺者数が一万人も増え、「たかが風邪」が上陸しただけでマスクだらけになる。幸福だから恐怖に対する抵抗力が弱いのか、それとも元々恐怖に対する免疫があまりないのかはわからないが、最終章の「今ほど良い時代はない」は、日本においてこそより事実である。

それをどう実感にまで持っていくかは人それぞれであろうが、本書はその強力な一助となるであろう。タミフルより効くのは確かなのではないか。

Dan the Reasonably Fearless


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この記事へのコメント
人間の中には恐怖を避けたいと思う反面
それを必要としてる面もあるのだと思います。

恐怖すべきことがないときは、
些細なことでもそれに結び付け
心の均衡を保つようにしているのかなと。
Posted by がおぴ at 2009年05月27日 00:32
本は読んでませんけど、安全で健康で長生きであるからこそ、それが当然のように思い、それが脅かされることに恐怖を感じるのでしょう。
Posted by zzz at 2009年05月26日 22:27
危機に際して、最も臆病な者が生き残る。

というのを6000万年前の哺乳類に重ねて思い出すのもありかもしれません。
日本人のこの臆病さは無下にするのではなく、臆病さが生み出してきた解法に光を当てるのが、リスクを語るときに欠かせない要素に感じますが、如何?
Posted by かまぼこ at 2009年05月26日 10:02
↑と思ったら、内閣府の資料によると昭和四十年以降、失業率と自殺率の相関係数は、0.91とのこと。
という訳で、上のコメントはなかった事にして下さい。orz

http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2007/pdf/pdf_honpen/h022.pdf
Posted by 通りすがり at 2009年05月26日 09:03
>↑平成10年の自殺者急増について言ってるのでは?
仮に平成10年の話だとしても、その後景気が回復したにもかかわらず、10年間自殺者が高止まりしたままだった事を考えると、「経済の停滞で自殺者が一万人増えた」というのは安直すぎるような。
Posted by 通りすがり at 2009年05月26日 08:49
海外の新聞でも日本の新型インフルエンザ騒ぎに対しパラノイア国家とか日本型インフルエンザとか揶揄されていましたね。
何かが注目されたら日本では途端に皆同じ方向を向きだします。
マスコミで取り上げたから、みんなが騒いでいるから問題やリスクの大小を考えずに大変だと自分も騒ぐ。
「思考停止社会」でも語られていましたが、問題そのものの大きさよりもしたかしないかに重点が置かれ判断の基準としてしまいます。
その結果、政治家や企業も失敗をしないことが一番であり変化や挑戦を試みず無難に過ごすことがなによりも尊いこととなってしまう。

我々日本人は身の周りのリスクに対し普段からリテラシー高めておき、周囲に振り回されずもう少し自分の頭で考える必要がありますね。
そのためにもマスコミも報道の仕方というのを考えないといけないし、真の専門家の意見や正しい統計などの情報にすぐにリーチできる環境を作るべきだと思います。






Posted by アーキア at 2009年05月26日 04:32
恐れのみを恐れよ、、、ですか
えらくミクロな世界の話で恐縮ですが、個人的には人間関係や恋愛に活かしたい教訓です。

恐怖に負けることの多い日々なのでReasonably Fearlessな弾さんを見習いたいと思います。


Posted by ポン太 at 2009年05月26日 00:39
ちっちゃな揚げ足取りをする人がとても多いのにビックリです。
人の間違いや失敗なんかを、まるで鬼の首を取ったように責め立てて何が楽しいの?
Posted by 脇坂 at 2009年05月25日 20:11
全人類必読二十冊には軽く入る本です。

続編では恐怖の肉体に対する影響、
ヒトラーなどポピュリストの手法の分析、
きわめて高い支配力を持つ邪悪な犯罪者のケーススタディ、
進化心理学から呪術・魔術を中心とした世界観→
祭政一致を経てどう近代的な統治システムが
できたかの分析もやってほしいものです。
Posted by Chic Stone at 2009年05月25日 19:25
↑平成10年の自殺者急増について言ってるのでは?
Posted by croissant at 2009年05月25日 10:53
>ちょっと経済が停滞しただけで年間の自殺者数が一万人も増え
どこからそんな話を???
2008年の自殺者数は、前年から844人減の32,249人です。

ttp://www.npa.go.jp/safetylife/seianki81/210402_H20jisatsusya.pdf
Posted by 通りすがり at 2009年05月25日 10:41
ひなさん,ちゃんと読みましょう。

dan氏は「自殺者増」ではなく「ちょっとした経済の停滞」の方を
「たかが呼ばわり」しています。

あと,インフルエンザ対策は重要ではありますが,H1N1型インフルエンザと
強毒性のH5N1型ごっちゃにして「恐れて」いるのは,私も変だと思いますよ。
Posted by tnk at 2009年05月25日 10:33
自殺者増やインフルエンザをたかが呼ばわりですか、、、
最近、書き散らかし度が高いですね。
Posted by ひな at 2009年05月25日 07:26
直訳すれば「リスク:恐怖に関する科学と恐怖」となる


二番目の「恐怖」→「政治」だと思います。こちらが間違っていたら恐縮です。


おはようございます!
Posted by beginner at 2009年05月25日 03:38