2009年06月27日 23:30 [Edit]

目指すところは同じなのだが - 書評 - 経済成長って何で必要なんだろう?

著者より献本御礼。

実は前著「日本を変える「知」」も、私が購入した直後に献本が来た。この場を借りて御礼。

前著はずいぶんと厳しい評価をしたが、本書では事実上の主著者の飯田さんが主張する「経済かくあるべし」と私が考えているそれとが実はほとんど離れていないことを確認できたのは嬉しかった。

だからこそ、「シノドスは自然科学者も招け」という思いはますます強くなったのだけど。


本書「経済成長って何で必要なんだろう?」は、前著「日本を変える「知」」で扱っていた経済を「ズームアップ」した一冊。

目次 - Amazonより
1章 高度成長とは何だったのか----戦後日本経済思想の源流と足枷
岡田靖×飯田泰之
2章 戦争よりバブル、希望はインフレ
赤木智弘×飯田泰之(司会・芹沢一也)
3章 何が貧困を救うのか
湯浅誠×飯田泰之(司会・荻上チキ)

本書における主著者の主張を大まかにまとめると、以下のようになるだろう。

  • 経済学は、もっと実践的になるべきである。
    芹沢 それに対して日本では、サイエンティストばかりで、エンジニアとしての経済学者というアイデンティティが弱いと。 飯田 もちろん経済学はよりいっそう採点すとしての方向に進むべきだという主張もあります。サイエンスとしての経済学という観点から現在の経済学を評価すると、その発展段階は数学やサイエンスにおけるギリシャ時代にあたるということになるでしょう。つまり3000年後には役に立つかもしれないが、いまいえることは少ないというわけです。
     僕はそうした見方には反対です。ギリシア時代にもエンジニアはいたんですよ。錯誤しながら薬を見つけたり、投石機をつくったり、暦をつくったりしていたわけです。もしそれがないのであれば、経済学って和讃になってしまうと思うんです。絵馬の問題を解いて神社に奉納していればいいと思うんですよ。そういう意味で、僕は経済学者は歯医者でなければならないと思いますし、エンジニアでならなければいけないと思っています。
  • 「昔はよかった」はウソである
  • 昔よりよくなったのは、経済成長あればこそ
  • 日本は貧困率の高い若者から貧困率の低い老人に再分配している
    飯田 ....僕が新自由主義でないところは、「再配分をしろ」ということです。
  • ベーシックインカム賛成
    飯田 ....年金というのは何をやっているのかというと、貧乏な若者から税金をとって、金持ちの年寄りに配っている。それよりも生活保護やベーシックインカムで生活を保障し、それ以上の部分については、個々人が自分の判断で預貯金すればよい
  • 消費税より所得税
  • 累進課税には経済安定効果がある

他にもあるが、これらのどれ一つとして、私が反対のものはない。どころか本blogの主張はほとんどがこれにそったことである。

ただし、一つ決定的な違いがある。「経済成長」という言葉の主語だ。

主著者のそれは、「日本」である。「日本の潜在成長率が2-3%あるのに、1%にとどまっているのはもったいないし、潜在成長率が顕在化するだけで問題の多くは自然消滅する」というのが、著者の主張する「経済成長は必要である」の理由だ。

私のそれは、「世界」である。それも「永遠」ではなく、貧困の根絶まで、あるいはもっと具体的に「70億人が現在の米国並みにエネルギーが使え、自家用車が手に入る」までだ。それが理想ではなく現実に可能であることは「 脱「ひとり勝ち」文明論」に書いてある。著者はポルシェ911ターボより速い電気自動車eliicaを作ったサイエンテフィック・エンジニアである。

そうなった暁には、日本は少なくとも経済大国ではなくなっている。小国でもないので「中国」ということになるが、経済問題、というより経済そのものが問題でなくなるにはそうするしかない。また、そうならない限り、すなわち日本が経済大国としてまかり通ろうとする限り、いくら日本経済が成長したところで、格差問題は解決しない。世界が貧乏である限り、賃金は日本水準でなく世界水準の方に引き寄せられ、それを無理矢理止めようとすると今度は雇用そのものが失われるからだ。

宇宙は、不断で無限の経済成長は許していない。

しかし、たかだか100億人に満たない地球人全員に、今は先進国の住民しか享受していない富を与えることを禁止しているわけではないのだ。

Economy of Infinite Growth はありえない。

しかし、 Economy of Abundance は可能なのだ。

そのために乗り越えなければならないのが、なんといってもエネルギーだ。逆に言えば、エネルギー問題さえ解決してしまえば、経済問題は問題にならなくなると言ってしまって過言ではない。「脱「ひとり勝ち」文明論」もこの点を正しく指摘している。

そして、その問題を乗り越えたとき何が起こるかは、インターネットのインフラが証明している。キャパシティが一定量を超えると、もはやそれ以上それを欲しがらなくなるのだ。ネットに関しては、それは100Mbpsだった。個人の経済に関しては、現時点で1000万円/年のオーダーだろうか。もっとこれは「技術革新」で変わる可能性もある。100Mbpsで満足している大きな理由としては、圧縮技術は欠かせない。YouTubeやニコニコ動画がありえるのは、動画は1/100-1/1000に圧縮されているから。社会が進むことで、「もうおなかいっぱい」ラインが下がる可能性は否定しきれない。

お金と生き方の学校」 P. 130
小飼 ....もし、全員が億万長者だったら、お金なんて少なくともステイタスにはならないわけですよね。湯水のごとくエネルギーが使えるようになったら、本当にそういう世の中になり得るんですよ。そして、理論的にそうもっていけない理由はまったくないです。太陽エネルギーだけ考えても、それは不可能ではありません。僕はそういう時代を見てみたいです。お金を前にして、「みんなこんなものに夢中になっていたの?」と、いまの僕がパチンコに対して注ぐ視線を、みんながお金に対して注ぐ時代がいつか来るんじゃないかと思うんです。

むしろ日本をはじめとする先進国の役割は、ポスト貧困時代における社会と経済の設計ではないのだろうか。確かに経済運営において、経済成長というのは七難を隠す。苦労して社会を設計するより、「一にも二にも経済成長」と言った方がずっと楽だし、冷戦後に先進国が選んだのは、経済成長依存経済という名の後進国経済だった。

その結果、どうなったのか。

貧困はちっとも減らなかったのである。少なくとも、先進国においては。

正直、経済成長依存経済が続けられればどんなに楽かと私も思う。その意味で団塊の世代がやってきたゲームはずっと簡単なゲームだった。先進国が今直面しているのは、一段と難しく、それだけに一段とやりがいのあるゲームなのではないか....

そういうことを考えるためにも、今の経済学はもっと心理学と物理学(に|を)学ぶべきだ。経済の主体たる人を動かしているのがこの二つをないがしろにしてきたことこそ、経済学の最大の問題ではないのだろうか。

Dan the Economic Animal


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とにかくみんな、これを読め【WATERMANの外部記憶】at 2009年06月30日 07:45
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資本主義の難点 - 書評 - 新しい資本主義【404 Blog Not Found】at 2009年07月29日 13:42
自由国民社柳瀬氏経由にて共著者より献本御礼。 脱貧困の経済学 飯田泰之 / 雨宮処凛 これ、この一年で出た経済学の一般本としては最もいい出来の一冊。 しかも、総選挙前というすばらしいタイミングで出版される。 投票権のある人は、老若男女を問わずこれを....
一票はこれを一読してから - 書評 - 脱貧困の経済学【404 Blog Not Found】at 2009年08月19日 01:18
この記事へのコメント
s/経済学はよりいっそう採点す/経済学はよりいっそうサイエンス/;
Posted by 北斗柄 at 2009年06月28日 00:38
s/経済学って和讃/経済学って和算/;
Posted by 北斗柄 at 2009年06月28日 00:41
物理学は賛成です。少なくとも熱力学第二法則と統計を
理解していない人間に指導者になって欲しくはありません。

心理学はあまりにも未発達な学問なのが問題では?
行動心理学・進化心理学・脳生理学の三つがつながる余地が
いまだになく、あまりにも深い部分で精神分析に食い荒らされて、
「これが心理学だ」という決定的なことが誰にもいえません。
Posted by Chic Stone at 2009年06月28日 10:23
>ただし、一つ決定的な違いがある。「経済成長」という言葉の主語だ。

>私のそれは、「世界」である。それも「永遠」ではなく、貧困の根絶まで、あるいはもっと具体的に「70億人が現在の米国並みにエネルギーが使え、自家用車が手に入る」までだ。

→私も小飼さんに大賛成。だから私も、「超伝導、核融合、核化学」という「お題目」をみんなで唱えよう。実現可能とするために、と申し上げています。超伝導、核融合、核化学の利用が世界中で日常化した社会は、世界中を現代アメリカ、現代日本に変えることが可能なのではないかと考えます。

現代経済学が心理学と物理学(に│を)学ぶべきなのは確かですが、現代生物学は両者に橋を掛けられるところまで行っていません。私なんかは、近代科学の後裔の諸科学よりもむしろ、11、12世紀のイスラームの学術とか、中論・唯識論・密教などの大乗仏教から展開した諸思想、諸技法のなかに、心理学と物理学の橋を掛けるカギが潜んでいるのではないかとかんぐって試行錯誤しております。まあ、そこから経済学をひねり出すのは、また一苦労なわけですけれど。
Posted by enneagram at 2009年06月28日 13:55
現代経済学が物理学や心理学を学ぶ前に、弾さんが経済学をきちんと学ぶべきではないか。
ほんの数ヶ月前、複素経済学wを絶賛してブログ界に複素祭りを巻き起こした人が、経済について何を言っても説得力に欠きます。
やたらと飯田さんに絡む前に、まず経済の基本を勉強すべきでしょう。
少なくとも、複素経済学なんてトンデモに引っかからない程度に。
Posted by のぶ at 2009年06月28日 21:28
現実問題として、経済成長は過去のことになりつつあると思います。
私は、基本的に、マイナス成長を受け入れて考えるようにしています。
小泉円安政策時代で、成長路線は終わったと思います
Posted by PK at 2009年06月29日 00:35
いや、PKさん、私は、頭がおかしいと思われるのを覚悟して言うのですが、これから、世界中の先進国で、もちろん、世界中の新興国、発展途上国でも、経済の大発展が起こるような気がするのです。

根拠は、2005年の中部国際空港開港とつくばエクスプレス開通。2006年の神戸空港開業、北九州空港開業、成田空港南ウイング完成、都道環状8号線全面開通。2007年のPASMO、nanaco、waon発売開始。日本だけでもこれだけ優れたインフラが近年に整備されて、来年あたりからそれらの効果が爆発的に社会に影響を与えるようになるはずです。

アメリカで大陸横断鉄道の全線複線化が完了するとか、パナマ運河の拡幅工事が終了するとか、アメリカのボストン─ニューヨーク─ワシントン間、サンフランシスコ─ロサンゼルス間、中国の北京─上海間に日本の新幹線が導入されて開通するとかそういうことが起これば、まだまだ世界経済は大発展の余地があります。

まだ、マイナス成長の受け入れまでは、ずいぶん時間があると思っています。日本がもうマイナス成長では、世界中の新興国、発展途上国が救われません。
Posted by enneagram at 2009年06月29日 10:20
世界全体としてみれば、これだけ世界中で国債が増加しているので、金融が緩んで成長しやすくなります。
しかし、起こるのは、日本が高度成長期に経験した生産性格差インフレ型の成長だと思います。一次産品を押さえている白人諸国が既得権層になる。
工業国は、デフレ気味になるということです。
特に、先進工業国は大変です。
日本に限って言えば、高齢化少子化で国内需要が減る上に、世界的には性s生産性格差インフレ成長ですから、マイナス成長が自然だと思います
Posted by PK at 2009年06月29日 16:03
サミットで笑顔を見せる首相は壊れていると思います
Posted by at 2009年07月11日 18:59