2009年07月14日 22:00 [Edit]

労働者の商品化の果てに - 書評 - 大搾取!

文藝春秋田中様より献本御礼。

いわゆる「ワーキングプアもの」の中で、本書は集大成ともいえる。どれか一冊というのであれば、本書が現時点における第一選択肢となるだろう。「ニッケル・アンド・ダイムド」のBarbara Ehrenreichをして、「これを読まなければ、今アメリカで実際何が起こっているのか知らずに終わることになる」と言わしめるのも当然だ。


本書「大搾取!」は、現在の米国の労働者がどのような扱いを受けているのかを白日の元に晒すと同時に、それに対して何ができるのかを提言した一冊。前者であれば、前述の「ニッケル・アンド・ダイムド」や「貧困大国アメリカ」もすでにあるが、本書の特長は後者にある。

目次 - Amazonのものを大幅追補
はじめに Introduction
第一章 酷使の現実 Worked over and Overworked
分単位で休憩時間を計測、解雇社員にゴミ漁りを奨励、
最低賃金は貧困ラインを下回る...
救われないアメリカの労働者たち
第二章 不満には恐怖で Workplace Hell
安全軽視の工場で次々と事故が起こる。
声をあげた者に待っていたのは、
ひどい罪の濡れ衣だった
第三章 働く意欲が失せていく The Vice Tightens
街の歴史ある工場が大資本の傘下に。
経営は赤字ではないのに押し付けられる人件費削減。
絞って得た利益は吸い上げられるばかり。
第四章 戻ってきた十九世紀 Downright Dickensian
夜間閉鎖の家の中でサービス残業を強要され、
通報者には匿名保護もない。今のアメリカは、
貧しい人に三ドル貸してクビになる社会なのだ。
第五章 消えた会社との約束 The Rise and Fall of the Social Contract
安定雇用が経営の定石だった時代はあった。
だが、株主利益を会社が重視するようになるにつれ、
労働者への報酬はコストとみなされるようになる。
第六章 弱者がさらに弱者を絞る Leaner and Meaner
電子化で、いまや重役達も些事まで把握できる。
労働者の人間らしさを認めていたら、
現場監督のクビはすぐ交換されるのだ。
第七章 派遣 終わりなき踏み車 Here Today, Gone Tomorrow.
必要な時だけ呼び、不要になれば消えてもらう。
経営者が重宝する使い捨て労働者たちには、
保険や年金どころか誇りすら与えられない。
第八章 低賃金の殿堂ウォルマート Wal-Mart: the Low-Wage Colossus
万引き犯を捕まえた熱血警備員。
その負傷で得た報酬は、医療費逃れの懲罰解雇。
小さなスーパーはいかにして小売業世界一となったか
第九章 王道はある Taking the High Road
誰もが世界的市場を口にする。
手厚く労働者を遇していたら生き残れぬと--。
だが搾取経営に逆らって成功した事例はこんなにもある。
第十章 瀕死の労働組合 The State of the Unions
労働者にとって必要なのは、労働組合なのだ。
しかしアメリカの労働組合は腐敗しきっており、
組織率は一割にも満たない。蘇る道はあるのか?
第十一章 はいあがれない Starting out Means a Steeper Climb
金持の子は大学院でMBAをとって初任給十六万ドルも夢ではないが、
貧乏人の子には大学は学費値上げでどんどん遠ざかっている。
第十二章 夢のない老後 Not-So-Golden Years
企業年金は資金不足で反古にされ、
頼みの401kプランは欠点だらけ。
年金で充実した晩年をおくるなど、夢のまた夢だ。
第十三章 すべての船を押し上げる Lifting All Boats
グローバリゼーションで世界はフラット化した。
ならば、世界中の労働者の非人間的な搾取に
ノーを突きつけるべきなのだ。
編集部註
訳者あとがき
解説 日米大搾取のパラレル 湯浅誠

目次を見るだけで、かの国の労働者が今日おかれている状況がいやがおうでも伝わってくるが、本文はさらにすさまじい。一カ所だけ紹介しよう。

P. 31
ノースウェスト航空は解雇した社員に『節約術101』なる冊子を配った。冊子の内容は、経済的打撃を被った元社員にさらに追い打ちをかけるような侮辱的なものだった。「大事なデートにはドレスを借りましょう」「アクセサリーはオークションか質屋で買いましょう」などという節約アドバイスがあり、挙げ句の果てには「気に入った物があったら勇気を出してごみ箱から拾いましょうというものまであった。

本当の話しである。

101 Dumbest Moments in Business - And don't forget, you only need one kidney... (2) - Business 2.0
In July, bankrupt Northwest Airlines begins laying off thousands of ground workers, but not before issuing some of them a handy guide, "101 Ways to Save Money."
The advice includes dumpster diving ("Don't be shy about pulling something you like out of the trash"), making your own baby food, shredding old newspapers for use as cat litter, and taking walks in the woods as a low-cost dating alternative.

なぜ、ここまでひどいことになったのか。

「資本家が労働者を再び搾取するようになったからだ」というのは確かに事実であり原因でもあるが、真因ではない。現代の搾取者たちは、自ら鞭をふるって強制労働させているわけではない。実際本書には「搾取の首魁」が何人か登場するが、彼らは気さくで温情的な紳士にしか見えず、残酷な奴隷商人の姿を見いだすことは難しい。実際に鞭をふるう者たちは確かにいるが、実は彼らすら奴隷であるという冷酷が現実がそこにある。

それでは、なぜ資本家は労働者を再び搾取できるようになったのか。

労働者たちが、それを許してしまった--それどころかそれを望んだ--からだ。

職場では労働者である彼らも、一歩職場を離れれば消費者であり、そして401kを通して彼らは資本家としてもふるまうこととなった。彼らは消費者として企業に圧力をかけ、そして資本家達は株主として企業に圧力をかけてきた。Wal-Martの勃興は、資本家による搾取だけでは説明がつかない。

その結果、どうなったのか。

フルタイムで働いても、貧困ラインを切ってしまう職場が出来上がったのだ。

この四半世紀は、消費者、労働者、そして株主というステークホルダーのうち、両端にいる消費者と株主が最も潤った時代だった。中抜きにされら労働者たちはたまらないはずだが、しかし前述のとおり彼らもまた消費者かつ株主であり、それが問題の発見を遅くした。今日の状況は、「Wal-Martで働くのはごめんだが、買うならWal-Mart」を続けてきた結果でもあるのだ。

それでは、スーパーマーケットが全てWal-Martに化けるまで、この動きは止まらないのだろうか。

否、と著者は答える。

その答えの一つが、コストコ(costco)にある。

404 Blog Not Found:Choose or Lose - 書評 - WAL-MART エグい会社に知恵で勝つ!
向うところ敵なしに見えるWAL-MARTだが、それでもしっかり勝っている連中はたくさんいる。Appleは先日 iTunes Store で音楽小売でWAL-MARTを抜いたばかりだし、CostcoはWAL-MARTのSam's Clubにトップの座を譲り渡す気配すら見えない。

同書にも登場するcostcoは、本書では第九章に登場する。その前の第八章でWal-Martの[これはひどい]ぶりもあって、両者の差は「これが同じ小売業か」というぐらい違うが、最も違うのはCEOの給与。Wal-Martのそれが約3000万ドルなのに対し、costcoのそれは35万ドル。桁が二つ違うのだ。社員の給与は倍、CEOの給与は1/100。どちらが労働者にとってうれしいかは言うまでもないが、それ以上に大きいのは、costcoは消費者も満足させていること。消費者を満足させつつ、労働者も満足させることが決して不可能でないことを同社は示している。

こういうのも何だが、結局のところ、労働問題の解決の鍵を握っているのは、資本家ではなく労働者達自身ではなかろうか。数から行けば資本家などごくわずかだが、ごくわずかだけあって彼らは上手に労働者どおしの隙間に上手に入り込んできた。彼らに対する非難の声は、ごく最近まで実に小さかったのも、労働者たちが「同士討ち」に忙しかったからと言わざるを得ない。「中国人やインド人が悪い」という声は、「資本家が悪い」という声よりずっと大きかったし、今でもそういう声は小さくない。

「資本家が搾取しているから、労働者が貧乏になった」、これは、事実である。

しかしその時「搾取している資本家が悪い」というのでは、クメール・ルージュと同じであり、たどる運命もまた同じになるだろう。

「搾取を許して来た労働者自身が悪かった」という考えに至って、はじめて事態は好転する。そのためには、まず自分たちのおかれた状況をきちんと知らなければならない。だからこそ、本書は対岸の火事ではなく、21世紀の万国の労働者必読の赤本なのである。

Dan the Boss of His Own


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2915のファームを書き換えるためにubuntuのCDを焼いてみたのだが (initramfs)って出て起動しないんだな。前はこんなことなかったのに LaVieRXという結構スタンダードな構成でこれだし VirtualPCでも同じように止まってしまう。ファイル壊れtとるのかな
ここは酷いinitramfsですね【障害報告@webry】at 2009年07月15日 00:18
この記事へのコメント
>>s
コストコの例も出てるし
DIYってことなんじゃないの?
You達起業しちゃいなよって感じ
Posted by phh at 2009年07月24日 04:48
このエントリとコメントを要約すると「国民よ、選挙に行け」ってとこですかね。
Posted by s at 2009年07月17日 22:15
>なるほど・・
よく考えておられるようで。
参考になります。


金融日記に出てくる権兵衛と同じ人ですか?
Posted by c at 2009年07月17日 21:57
労働者が悪い。
経済システムが悪い。

って、卵が先か鶏が先かって話と同じでしょう。

問題は、全員にある。
労働者は相手を非難だけしていないで、社会のシステムに荷担しているのは全員だと、認識を持たないといけない。

だから、他国では、パレードとかストライキとかちゃんとシステムに働いているんだと思う。

日本では、それがないから、この本は有益ではないんだろうか。
Posted by こうじぃ at 2009年07月17日 18:13
完全同意できるエントリーでした。
Posted by minomi at 2009年07月17日 10:34
あっ、好景気になる前に賃上げ分補助金を企業に支給するというやり方もありそうです。いずれにしても単純に賃上げだけじゃスタグフレーションになると思います。
Posted by あかさたな at 2009年07月16日 14:44
>Kei氏
そのような好循環の前提には好景気という前提が無ければいけないと思います。はっきり言って需給インフレ以外のインフレはスタグフレーションになりやすいです。

参考 http://pub.ne.jp/tnlabo/?entry_id=1412197
Posted by あかさたな at 2009年07月16日 14:34
とにもかくにも自覚って大事よね。

他人の物を安く買い叩くことと、自分の労働が安く買い叩かれてる事に
相関性を見出せない。というか見出さない。

不都合には目をつむる。

自分にマヌーサ。
そのうちメダパニ。

いざとなったらバーサーカー。

ん?

彼らにはDQとFFの境目などありません。

Posted by otk at 2009年07月16日 14:17
これは素晴らしい記事
seesaaがトラックバック飛ぶか分からないのでコメントさせたいただいた。
Posted by 永尾駿 at 2009年07月16日 10:56
イギリスの階級社会のように同じものでも富裕層は
たくさん払えばいいのです。分不相応に安い値段で買ってはいけない。




Posted by UFO at 2009年07月16日 06:15
湯浅誠氏は「Noと言える労働者を増やさねばならない。Noと言えない余裕の無い労働者はどんな悪条件でも呑まざるを得ず、労働条件はますます引き下げられる」と言っておりますね。
Posted by WATERMAN at 2009年07月16日 00:56
カネ無いから安いところで買う→給料下がる、以下ループ。


あれ?
Posted by ミルクマン at 2009年07月16日 00:18
え、労働者が労働者の敵で、議論が終わりでは問題は永久に解決しないのでは?
幼年時〜中等教育(しない、できないことも含めて)段階から、労働者が労働者の敵になるように仕向けていたり、メディア(情報流通)のありようがあったりでこその現状では。衣食足りて礼節を知るではないけど、そんな低賃金で働かざるを得ない層を減らす社会的な仕組みがない限り、貧困層はこの書評にあるような考察を踏まえて行動できるようになるわけないよね。
Posted by foobar at 2009年07月15日 23:21
最低賃金を継続的に引き上げるべきだ。たとえば5年間で40%ほど引き上げる。
そうすると、最低賃金に近い労働の成果物は少し値上がりする。たとえば
牛丼とか、コンビニの商品とか、チェーンの居酒屋の勘定が10%〜15%値上がりする。
しかし勤労者の購買力が底辺層を中心に上がっているので、商売は繁盛する。
まっとうに税金を払う会社である限り、法人税による税収は増える。
それを使って基礎年金や障害者年金の目減りを補償する。

そういうやり方が、消費税を引き上げてどこに消えてしまうのか分からない
ような使い方をするよりも、スマートに国民生活の水準を押し上げる。
Posted by Kei at 2009年07月15日 22:16
ワーキングプアの存在を肯定している、資本家に搾取を許している、政治が悪い、になって事態は好転するのでしょう。
労働者が悪いでは、自己啓発して搾取する側に回れ、になりかねません。

法治国家ですから、法律を持って解決すべきではありませんか。
Posted by zzz at 2009年07月15日 20:19
「労働の鬱憤を消費で晴らす」
「あなた働く人 わたし消費する人」

世の中を歪めてる習慣、確かにあるなぁ。
Posted by ぽこにゃん at 2009年07月15日 16:02
ダイソーを見たときに気づいたのはオイラだけだったのだろうか...。
Posted by 名無しさん at 2009年07月15日 15:38
s/冷酷が現実/冷酷な現実/
ですか?
Posted by no name at 2009年07月15日 14:54
なのにGM
Posted by at 2009年07月15日 12:41
>「Wal-Martで働くのはごめんだが、買うならWal-Mart」を続けてきた結果

まさにその通りだと思います。

サービスを受けるものとして、徹底的に安く買いたたき、サービスを提供する側に要求を続けた結果でしょう。

その結果、良いこともあると思います。
牛丼を300円程度で食べられるのも、「企業努力(もちろんそこで働く人の努力ふくむ)」でしょう。

ただし、
自分もなんらかのサービスを仕事で提供している
と思えば、自分がサービスを受ける側になった時、
そんなに過大な要求はできないと思うのです。

自分らで、どんどん自分らのクビを締めているとしか
思えないのです。
Posted by tamao at 2009年07月15日 11:30
おっしゃるとおり。労働者の問題は労働者が何とかすべきです。
資本家うんぬんと言うなら、その資本家を探し出して糾弾するのもありでしょうし、適正給与の獲得のためにストを打つのもありです。

結局、誰かに何かをしてもらおうとしている限り、労働者の状況は良くならないと思います。自分で改善してこそ、本当に労働者は幸せになれるんではないかと思います。
Posted by 松本孝行 at 2009年07月15日 11:15
未来経済を材料にした金融がすべてのガンでしょ。未来なんて、誰にもわからないのに。で、お金持ちたちは、どうするつもりなんだろう。カードを切れるのお金持ちたち。切り方によっては、フランスの歴史、ギロチンがまっていたりして。

だいたい、アメリカばかり広告するのは、どうなんだか? 疑問だね。
Posted by えっと at 2009年07月15日 09:51
世界的に問題が起きているのは、米国が金融取引でしか生きられなくなっているということにあります。
そのために資産の時価評価という形で、変動をつくり出し、情報や軍事で市場をコントロールして稼ぐ必要があるからです。
ブラックショールズなんたらも、そうした市場での商品を設計することに貢献したために偽ノーベル賞を受賞できたわけです。金になるから。
資産価格の変動は、実体経済に酷い影響をもたらします。
残念ながら、今回の大不況をもってしてもそうした構造の是正はできていません。米国が変わらない限り、人間・人類の苦痛は続くことになるでしょう
Posted by PK at 2009年07月15日 09:14
>「資本家が搾取しているから、労働者が貧乏になった」、これは、事実である。
>しかしその時「搾取している資本家が悪い」というのでは、クメール・ルージュと同じであり、たどる運命もまた同じになるだろう。

なるほど・・
よく考えておられるようで。
参考になります。
Posted by 権兵衛 at 2009年07月15日 03:49
いや、ほんとにいい記事ですね。
是非とも読みたくなりました。

この記事だけを見ても他人事で
はないことがわかります。
Posted by yang at 2009年07月15日 02:30
『節約術101』の現物がありました。
http://cache.consumerist.com/assets/resources/nwa-101list.pdf
ノースウエスト謹製ではなく、NEASという団体が作ったもののようです。少なからぬアメリカ人労働者が会社からの餞別として「ごみ箱から拾え」というアドバイスを受けている、ということですね。
Posted by t2enonu at 2009年07月15日 00:17
1げと
Posted by . at 2009年07月14日 23:02