2009年11月04日 16:00 [Edit]
「どうせ」を死語に - #書評_ - NASAより宇宙に近い町工場
ディスカヴァーより献本御礼。
この一年に出た自己啓発本の中では、啓発力No.1の一冊。あなたの自尊心は、ロケットのように舞い上がることうけあい。
ただし、技術本として見た場合、つっこみどころ満載一冊でもある。
よって本entryでは、まず「穴」に対して「だったらこうしてみたら」を提案した上で、本書の特長を紹介することにしたい。
本書「NASAより宇宙に近い町工場」は、カムイスペースワークスでロケットを作ることで「どうせ無理」という言葉をこの世からなくすることを試みている著者の主張。
目次
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著者が作っているのは、単なるロケットではなく、革命的に安価かつ安全なロケットである。
P. 17今、僕らがつくっているロケットは、北海道大学大学院の永田晴紀教授が開発したもので、ポリエチレンを燃料にしています。爆発しない、安全なロケットです。
ここまでは、いい。CAMUIロケットが安価かつ安全であり、そして実際にロケットとして機能することはJAXAも認めている。
しかし、その直後にこれである。
一般のロケットが危険なのは、ガソリンを燃料にしているからです。
口からガソリン吹いたよ、わたしゃ。
ガソリンを使ったロケットは不可能ではないはずだが、そんなロケットがどこにあるのか私は知らない。使われているのは、液体燃料ならケロシンか液体水素。そして固体燃料だったら、合成ゴムに酸化剤を練り込んだもの。
CAMUIが画期的なのは、燃料が個体で酸化剤が液体酸素という、ハイブリッドであること。
CAMUIが安全な理由、それは燃料と酸化剤がきちんと分かれていて、かつ燃料が比較的難燃なことにある。これだとどうやって燃料を燃やすのかという問題があるが、そここそがCAMUIのチャームポイントであることは、上のリンクを読めばわかる。
ところが、本書には「ハイブリッド」のハの字も出てこないのである。辛うじてオビのCAMUIロケットの写真に"HYBRID ROCKET"という文字が認められるだけである。
他にも本書には、ずっこけるような間違いがいくつも認められる。
P. 147そこで僕たちは人工衛星もつくることにしました。僕たちは人工衛星の開発を始め、二〇〇六年に打ち上げました。僕らのロケットでは打ち上げることができなかったので、日本のN5というロケットに載せてもらいました。
この人工衛星は実在した。
ただし、同ページにあるように、打ち上げたのはM-Vというロケットである。N5などというロケットは存在しない。
要するに、著者は無知であり、ロケット業界という世間を知らないのである。
著者は、バカである。
愛すべき、バカである。
著者は無知ではあっても無能ではない。そして忌むべきは無知ではなく無能であり、無知を責めるように見せかけて無能を諦める言葉、それが「どうせ無理」というのが著者の主張であり、そしてその主張を口ではなく手で証明するために自らロケットを作って飛ばしているのである。
その事に、感動せずにはいられない。
P. 53僕の友達で、一生懸命葡萄を育てている人がいます。将来はワインをつくりたいと言っていました。葡萄を育てるだけでも大変で、畑の手入れを一生懸命しています。
そんな彼の悩みの種は、ワインをつくるためにはステンレスでできたドイツ製の素晴らしい装置が必要だけれども、とても高価なので買えそうにないということでした。
そこで、僕は彼に尋ねました。
「ワインっていつからあったっけ?」
そうしたら、彼の顔が輝きました。ワインの歴史をとうとうと語り始めます。「ワインはね、古代ギリシャのね、紀元前から…」というところで、僕は話をさえぎってしまいました。
「紀元前に、ドイツもステンレスもないよね」
と言ったんです。「そういえばそうだね」と彼も言います。
「最初、どうやってつくったのさ?」
「足で葡萄を踏んづけてつくったんだよね。そういえば今でも、フランスに足で踏んづけてつくっている人たちがいるね」
という話になりました。「だったら、やってみればいいでしょ」と彼に言ったら、あれはチャレンジする気になっていました。
本書には、こうして著者自らの手で培った言葉があふれている。
それだけに、著者の「無知」が本来こういう言葉を最も届くべき人々から彼らを遠ざけてしまうことを恐れずにはいられない。少し調べればこうした部分はいくらでも補正できたはずだ。
ディスカヴァー社長室blog: 科学って面白い! 技術ってスゴイ! 理系ってステキ! DIS+COVERサイエンス創刊! 記念講演会にいらっしゃいませんか? ●干場科学っておもしろい! 技術ってスゴイ! 理系ってステキ!
というのであれば、編集側にだって「だったらこうしたら」という責任はあるはずだ。私が指摘した間違いというのは、ちょっとWebを検索するだけですぐに見つかる(だからリンクを貼ってある)。ちょっと著者の言葉を鵜呑みにしすぎていないか?「だったらこうしたら」という著者の願いをスルーしすぎてはいないか?
著者のようなタイプの「バカ」が、日本でバカのままでいられるのは珍しい。しかし、この国が必要としているのは著者のようなバカであり、学校でちやほやされるような「おりこうさん」ではないのだ。
「バカ」のままであれとは、言うまい。
しかし、「どうせ」というのであれば黙ってもらっていた方がいい。言うのであれば「だったらこうしたら」、だ。「どうせ」は宇宙に捨ててもらうじゃないか。著者がそうしたように。
Dan the Makers' Little Helper
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>「液体燃料」の一般的な例として「ガソリン」が出てきたのを、
> 誤解して単に「ガソリン」としたり、「M-V」を聞き違えて
>「N5」としたのをそのままにしたりしてしまいました。
聞き書きの本だとしても、
しゃべった本人が最終的にチェックしているのでは?
もしかして、そんなこともしないのですか?
だとしたら、ビックリ・・・
ロバート・ゴダードさんのロケットの燃料はガソリンだったと思います。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B4%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%89
http://blog.goo.ne.jp/nan_1962/e/3309597a2d73d3d0d3f5d7750fd3030b
ちょっと編集者のミスってのは残念ですねぇ。植松さんがそんなことを知らないわけがありませんし。ただ読む一般の読者は植松さんのことを誤解してしまうかもしれません。なので、本文にも編集者のミスであるということを説明してあげてください。
http://myhome.cururu.jp/camuispaceworks/blog
彼はブログにもあるとおり、将来を担う子供達のためにやるたびに足が出てしまうくらいの講演とロケット教室を全国で開催されています。細かい原稿チェックの時間が取れなかったのかもしれませんね。
私もこういう編著本の場合、注意はしていますが時々ミスが出てしまいます。
ただ、もし、本当にそのように本気で言っていたとしたら、私はむしろ好感をもてます。
調べるという行為は必ずしも百科事典や検索エンジンを使うことが正しいとは限りません。
実験屋であれば、実験を行うことが「調べる」という行為の最も正しい実践方法かと思います。リスクが多少あっても、実体験をもとにした知識の蓄積が最短ルートの場合もあります。(死ななければ)
ただ、ロケットエンジンを扱うとなると、ちょっとハラハラしますね。
辛口だけど温かみのあるつっこみと、編集担当の方の誠実な対応に好感が持てました。
利口というのは、過去をよく知っているということ。未知を探し当てるのは、いつでも反時代的なばかどもたち。
そういうこと。
そして見当違いのただの「バカ」が大多数であることも。
俺なんか甘っちょろいから、信じて突き進んで深い挫折を味わっちゃう
連中に責任を感じてしまう。
"一般のロケットが危険なのは、ガソリンを燃料にしているからです。" これを誤魔化すのは難しいなー。
それでも、"一般のロケットエンジンが危険なのは、ガソリン系の燃料を燃やしているからです。" という意図で書いたものですと言っとけば言い逃れできる。
ロケットエンジンの中にはジェットエンジンも含まれますから、ということを苦し紛れに付け加えて。
なーに 大丈夫 大丈夫、誤魔化せるってこれぐらい。
(ガソリンじゃなくてせめて灯油って書いてあれば「小学生向けにわかりやすく言ったんだな」とか思えたのに・・・)
