2009年12月02日 23:00 [Edit]

使われるな使え - 書評 - 60歳までに1億円つくる術

著者より献本御礼。

はじめにお断りしておくと、本書には新しいことは何も書いていない。本書もまた星の数ほどある「金融リテラシー本」の一つである。

しかしそれがコンスタントに売れているということは、その「新しくもない」ことがわかっていない人が、星屑の数ほどいることを示している。そういう人々にとって、本書はもっとも「けれんみのない」一冊だ。勝間和代を目指すにしろ目指さないにしろ。本書程度の術はもっていたいものである。

さもなければ、あなたがお金を使うのではなく、あなたがお金に使われることになるのだから。


本書「60歳までに1億円をつくる術」は、実はお金をつくる術ではなく、お金に使われない術である。

目次
序章 「今の自由」を手に入れるために
第1章 お金の基本原則を押さえる
第2章 収入を増やす
第3章 支出を減らす
第4章 それでも投資は必要
第5章 お金を増やす

著者も序章で述べているとおり、本書の目的は「60歳までに1億円をつくる」ことではない。

「60歳までに1億円」は必要か、考えたことありますか? - SHINOBY'S WORLD
タイトルには「1億円」という文字がありますが、これは自分に必要な金額を象徴的に示した金額と思ってください。書籍の後半で1億円をつくるためにいくら必要かを年代別に示していますが、まず知るべきことは、自分にいくら必要なのか、です。

そう、必要な時に、必要な額を、どのようにしてつくるのかというのが本書の主題である。もし60歳に本当に1億円必要だとしたら、それは多すぎだと私も感じる。しかしそれでは具体的にいくらあればいいのかを即答できる人はどれくらいいるのだろうか。

今の私は、こう弾言できる。

ゼロ円です、と。

なぜか?

理由は二つある。

一つは、私がすでにこの術を身につけているからだ。金がなければ作ればいい。そして作るのはそんなに難しくない。使うことにくらべたらずっと簡単だ。本blogをはじめあちこちでさんざん言ってきたことなのでここでは繰り返さない。まとまったものなら「弾言」がある。iPhone版なら決弾」とあわせて買っても本書の値段でおつりが来る。

私はまた、この術を少しも大した術だとは思っていない。むしろくだらない術とすら思っている。だから「働かざるもの、飢えるべからず。」を書いた。60歳までに1億円が必要な社会は、そこで私が描いた社会とは対極にある。だから私は20年後、60歳になったときに著者にはこういってやりたいのだ、「あのころあなたはずいぶんと骨折りな本を書いていましたね」、と。

そう、骨折り。骨折がどう直るかご存知だろうか。

いきなり骨ができるのではないのだ。

404 Blog Not Found:仁から算へ、軟骨から骨へ (書評 - 自分の骨のこと知ってますか)
問題は、骨折が起きたときだ。ここで取り上げた「自分の骨のこと知ってますか」によれば、骨折の治癒は以下のとおり進行する。まず骨折した箇所から出血し、それが血栓になる。この血栓が、そこにいる細胞を死滅させる。次に、造軟骨細胞がやってきて、血栓が軟骨に置き換わる。そして最後に造骨細胞がやってきて軟骨を置き換える。

本書は、その意味で本当の意味での骨太(robust)社会に至る前に必要な、軟骨のような一冊なのである。

本書は、いずれ必要なくなることが望ましい。もし今から20年後に本書の知識が誰にとっても必須なのだとしたら、それは世の中が今後の20年で進歩していなかったということだ。

だからこそ、今は本書のような本が必要なのだ。

軟骨として。

足場として。

足場なしにおよそまともな建物を築くことは出来ない。完成したら不要になるからといって足場を作らずにすませる方法はもしかしたらあるのかも知れない。しかし今我々が知っているは、それが一番安上がりなやりかただということだ。

本書は、そうやって使って欲しい。

それが、著者の願いでもあるはずだ。

:Si vis pacem, para bellum.

Dan the Scaffolder


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<業務連絡> 日経ビジネスオンラインの連載【第3回】出版する価値のある本を作るに...
【小飼弾さんの書評へのコメント】「軟骨本」は15年後もきっと無くならない【SHINOBY'S WORLD】at 2009年12月03日 08:25
この記事へのコメント
20年も変わらなかった日本がこれからも変わらない可能性は高い
Posted by taka at 2009年12月08日 17:08
お金とのつきあい方・・・ですか。人それぞれ得意不得意があるとおもうので、私は得意な方にお金とうまくつきあって活用していただければいいと思っています。淡々と納税し、それがお金とうまくつきあっていける人に再配分されるような仕組みに投票する。納税と投票、必要なのはそれだけだと思って日々働いています。
Posted by T.Sasaki at 2009年12月03日 09:38
>やっぱ投資のことを考えなきゃね!



いま、相場格言集を読んでいます。

相場のある社会は視界が不安定な社会。でも、相場のない社会は活力のない社会。

まあ、本当に、「60歳までに1億円をつくる術」なんていうのは、足場であってほしいですね。いずれいらなくなる足場で。
Posted by enneagram at 2009年12月03日 08:40
この手の本は山ほど出版されていますよね。基本的にはどれも同じようなことが書いている。最低限のファイナンシャルリテラシーは必要だと思いますが、将来の不安からこの手の本が出版されるたびに買いあさるのは愚の骨頂ではないでしょうか。それこそ、池田信夫氏が言う貧困ビジネスですね。
Posted by 通行人 at 2009年12月03日 01:34
>お金に対する歪んだ付き合い方しかできない日本人
諸外国では日本人と違ってお金と正しい付き合いかたをしている!
こりゃ大変! なんとかしなきゃ! 日本人はガイジンにしてや
られるぞ! って強迫観念ですよね。わかります。
早速ボクも少ない貯金から全額投資して60歳までに1億円作ろうと
思います。やっぱ投資のことを考えなきゃね!
Posted by 通りすがり at 2009年12月03日 01:18
「本書は、いずれ必要なくなることが望ましい。」

まさに、その通りだと思っています。お金に対する歪んだ付き合い方しかできない日本人に、少なくともこれだけは知っていて欲しいという義務教育で教えるべきお金との付き合い方を新書200ページに凝縮しました。

この本の内容が日本の義務教育終了時にみんなに身についていれば、まさに必要となくなることでしょう。

でもそんな日は来るのか?

URLに感想を送ってください。

内藤忍
Posted by 内藤忍 at 2009年12月03日 00:11
むしろ、真に学ぶべき事は、人々が漠然と抱えているお金への不安を顕在化させ、その不安を解消できるかのような錯覚を与えるキャッチーをタイトルの本を出版するノウハウでしょう。
この本を読んで、お金をつくる術をマスターできる人がいるかもしれないしいないかもしれない。
しかし、唯一確実に言えることは、本が売れれば著者の懐にお金が入る。
著者にとっては、この本そのものが「60歳までに1億円つくる術」です。
Posted by KKMM at 2009年12月03日 00:03