2010年02月02日 21:00 [Edit]
最も「リアル」が「見える」一冊 - 書評 - なぜコンピュータの画像はリアルに見えるのか
出版社より献本御礼。掲載が遅くなってしまって大変申し訳ない。
本書は「コンピューターで画像を扱う」ことに関する一般書としては一番の出来。一般書であるので、本書を読んだ途端CGが作れる、ということにはならない。それより幅広く、そして深い教養を与えてくれる一冊であり、コンピューターで画像を扱うという行為そのものへの興味を引き立ててくれるので、どんな専門書よりも前に出会っておきたい一冊でもある。
おかげでCGに関しては完全な「消費者」にすぎないと思っていた私でさえ、画像/動画ファイルをあらためてあれこれといじりまわすようになってしまった。本blogの更新頻度低下に一役買った一冊かも(苦笑)。
本書「なぜコンピュータの画像はリアルに見えるのか」が類書と最も異なるのは、「コンピューターの」に入る前に、「画像」、すなわち我々がものをどう見ているかをきちんと考察していることにある。あるいは、我々が何を「大して見ていない」か、を。
目次 - なぜコンピュータの画像はリアルに見えるのか 視覚とCGをめぐる冒険|書籍出版|NTT出版より- プロローグ――なぜ視覚が重要視されるのか
- 第1章 あなたの目が「見て」いるもの――外界についての最強の探知機
- 1. 波とは何か?
- 2. 光をとらえる目のはたらき
- 3. ヒトの3原色、色の3原色
- 4. 光の進み方のふしぎな性質
- 5. 身の回りにある光についての疑問
- Column 1 移す、写す、映す
- 第2章 碁石を並べて絵を描く――絵や文字を見せるためのシステム
- 1. コンピュータが画像を扱う2つの方向
- 2. 見せるための道具の進化
- 3. 碁石でかたちを描く――デジタルな点と線
- 4. 光景のメモ道具――デジタルカメラ
- 5. 図形問題いろいろ
- Column 2 光学迷彩
- 第3章 偉大なるふとん圧縮袋――JPEGという画像のルール
- 1. 限界に挑戦した男シャノン
- 2. 現代の魔法 JPEG
- 3. 紙とエンピツで画像処理をやってみる
- 4. コンピュータに目を持たせる
- 5. 画像と人や社会との関係
- Column 3 スクリーンセーバ
- 第4章 ドーナツ形をしたゲーム世界――コンピュータの中で生まれる立体
- 1. 図形をやわらかく考える
- 2. 境界か中身か
- 3. 人の動きや自然界の形を再現する
- Column 4 光と陰から「かたち」を彫り上げる
- 第5章 光と闇を計算する――現代の魔術コンピュータグラフィクス
- 1. コンピュータに絵を描かせる
- 2. 雨の晩はクルマが運転しにくい
- 3. 光あるところを求めて
- 4. いまそこにある軌跡――やわらかな光を生み出す
- Column 5 CGを見抜くコツ
- エピローグ――コンピュータを見つめる目
- 参考図書
- CGで有名な映画
- 付録 紙とエンピツで画像処理をやってみる
そのことを理解せずして、例えばJPEGは理解できない。JPEGは実に画期的なデータフォーマットだった。非可逆的、すなわち「元のデータを復元できない」にも関わらず普及した最初のフォーマットだったのではないだろうか。なにしろ元のデータの1/20から1/100で、「見た目にはほとんど変わらぬ」画像が再現されるのだ。
しかし「ほとんど変わらず」は「全く変わらず」ではない。圧縮率--正確には捨象率--が高くなると、画像がモザイクがかったものになったり(ブロックノイズ)、変な線が入ったりする(モスキートノイズ)。これは何に由来するのか。
さらに最近では、動画もふつうにやりとりするようになってきた。こちらはもう非可逆圧縮なしには成り立たない。ハイビジョン品質の画像、すなわち1080pの動画は、圧縮なしだと30fpsの場合で約750Mbpsになる。これは現在のHDDの実効速度に近く、GbEが「真っ黒」になる情報量だ。実はこれでも1ピクセルあたりの情報量は12bitで、フルカラーRGBの24bitの半分しかないのだが、YouTubeに上がっている1080p動画は4Mbps以下。なんと1/200なのだ。
それでもYouTubeの1080p動画は、素人が見ても「ノイズが入っている」のが明らかにわかる。しかし QuickTime X が1080pでファイル保存する時の10Mbpsだと、ちょっと見ただけでわからない。そしてこれは、DVDの「一倍速」よりもやや低い。要するに、最新のH.264だとDVDに1080p動画が2時間きっちり収まってしまうのだ。
しかし今なお画像、それも動画というのはコンピューターにとって重い処理であることは、ネットブックが1080pはおろか720p動画さえきちんと扱えないことを見てもわかる。その一方で、最新のMacはMacBookでさえ余裕で1080p動画が見れるし、ネットブックよりもさらに非力なはずのiPhoneが無理なく480p動画を再生できる背後にはGPUがある。そのGPUとは一体なんなのか。
画像を再生するということに関しただけでも、本書はこれだけの疑問に答えてくれる。さらに本書では、そうした画像をどうやって作るかも、小学生にもわかるように、そしてPh.Dでも納得するように説明してくれる。
それにしても、画像処理は昔も今もコンピューターにとっては総力戦。ハードウェアもソフトウェアもほんと「一生懸命」。その息吹を感じ取れるようになるだけでも、本書の価値はある。「コンピューターってすごい」という思いを新たにすること間違いなし。もうつきあって30年になる私でさえそうだったんだから。
Dan the Man with Too Many Pictures and Videos to Process
