2010年03月18日 23:00 [Edit]

noblesse oblige agricole - 書評 - 百姓貴族

普通に入手。それこそスーパーで何となくカゴに入れた感じで。

激旨!!甜菜のように甘く、家畜運搬車に乗せられ行く牛のように切ない。百姓(ひゃくせい)必携の一冊。

鋼の錬金術師」がピンとこない人でも、およそもの食う人々で本書に何の感慨も抱かぬという人はありえないのだし。


本作「百姓貴族」は、マンガ家とは世を忍ぶ仮の姿、実は植物も動物も育てる本当の百姓貴族である著者の農業エッセイマンガ。その生き様は、まさに貴族と呼ぶにふさわしい。文字通り、やんごとない。

やんごとない - 大辞泉
《「止む事無し」が一語化したもの》

そう。止む事なし。とかく農家は忙しい。しかも著者の実家は酪農と畑作双方をやっており、「洗濯/風呂/ねる/鮭の解体」としてまとめられた「非野良仕事」の時間は0時から5時までの5時間と、三食それぞれ30分づつだけ。それをものごころをついた時からやっている。貴族百姓にとって、子供も立派な働き手なのだ。「猫の手も借りたい」という言葉があるが、ネコまで立派に働いているのだから呆れてしまう。どう働いているかは本書を読んでのお楽しみ。

たしかにこれだけ働いていれば、激務の代表だと思われている漫画家すら楽な仕事ということになるのだろう。著者の母はトラクターの上で産気づいたそうだし、著者自身産休も取らず出産して業界を驚かせているのもうなづけるところだ。

それでも、というよりだからこそ著者の農業への愛はぱねぇ。その半端のなさがきちんと絵になっているところが素晴らしい。エッセイ漫画だけあって、著者を含めた人物は「まんが絵」としてさらりと書いてあるのに、農機具はハガレンと同じく「現代激画絵」として丁寧に描き込まれているのだ。牛の屎尿処理車のかっこいいことったら!

貴族は、きれいごとじゃない。

本来の貴族も、百姓貴族も。

本書が職業エッセイとして卓越しているのは、そこがきちんと描けていることにある。「派遣切りにあった人七人を雇い入れたら三日で全員辞める」世界がそこにはある。それだけ丹誠込めて育てた乳牛が、役目を終えたらあっさり肉になり、搾り上げた牛乳がミネラルウォーターより安く買いたたかれ、生産調整の名の下に捨てられてしまう世界がそこにある。そんな世界に生きている(た、とは言うまい)著者たちが noble でなかったとしたら、何が貴いというのだろう。農業、それも専業はまさに noblesse oblige である。

きつく、きたない、危険。どれをとっても最高峰の止む事なき日常を生きて来たものだけが得られる百姓貴族の生活を、わずか714円で試食できるとはふとっぱらすぎる。ごちそうさまでした。

Dan the Humble Civilian


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