2010年04月16日 13:30 [Edit]

自分を救いたければ他を救え - 書評 - 科学技術は日本を救うのか

ディスカヴァーより他のDIS+COVERサイエンスシリーズとともに献本御礼。

創刊三冊はいずれも科学本というより、科学と社会の関わりについて書かれた本となっている。ブルーバックスサイエンス・アイ新書のようなものを期待していた人には拍子抜けかも知れないが、レーベルの立ち位置を示すという意味では、これは上手なやり方かもしれない。

著者の立場を考慮に入れても、正直、「日本vs.世界」という図式が強すぎるとは思う。後述するが、私はこの問題に関して必要な視点は競争より協調であり、持つべき視点は「日本&世界」だと考えているので。

しかし、本書の結論である、「日本を救いたかったら世界を救え」には禿しく同意する。それを確認するためだけでも、本書に目を通す価値がある。


本書「科学技術は日本を救うのか」は、タイトルどおりの一冊。事業仕分け会議の時に本書があったら、科学者たちはもっと楽ができたはずだ。

目次
プロローグ 夢をなくした日本の子どもたち
第1章 世界トップクラスを走る日本の科学技術
1 世界は研究開発メガ競争時代に入った
2 成果を挙げ始めた日本の大学
第2章 日本経済長期停滞の真相を探る
1 成長が止まった日本経済
2 日本が不景気になった本当の原因
第3章 「第4の価値」が若者に夢を与える
1 景気回復に必要とされるのは「新しい価値」
2 低炭素社会への投資が日本の未来を救う
3 日本の若い世代に期待する
第4章 科学技術による「地球防衛隊」構想
1 若者の科学への芽を育てる
2 超伝導で地球を防衛する
あとがき

実のところ、本書の主張は「脱「ひとり勝ち」文明論」をはじめ多くの本ですでになされており、目新しさはそれほどない。第四章に登場する、「砂漠で太陽光発電し、それを超伝導ケーブルで世界に送電する」に至っては「新・太陽電池を使いこなす」のジェネシス計画そのものだ。

しかし、本書はそれがずっとわかりやすく解説されている上に、それが主題となっている。類書では主題が別にあり、「低炭素社会への投資が日本の未来を救う」という命題はその過程で登場するにすぎない。独立行政法人科学技術振興機構理事長の面目躍如といったところか。

とはいえ、「今の日本は世界有数の低炭素社会」という主張には少し異議をはさんでおきたい。

この図、本書のP.156にも登場するのだが、ここでは以下よりお借りしている。

なんと、経団連が統計を偽装!: どうしたらできる?温暖化阻止
経団連などは、日本はGDP当たりのCO2排出量が一番小さいと言っているわけだ。
本当にそうなのか?

実は欧州各国をEUでまとめてしまうことでグラフに欺瞞が出ているというのが同記事の主張であるのだが、私は別の角度から批判を加えたい。それは、生産ベースではなく、消費ベースで見たらどうなるのかということである。

たとえば、日本はマグネシウムを輸入している。作っているのは中国だ。そして中国はどうやってマグネシウムを作っているかといえば、こうやって作っている。

404 Blog Not Found:マグネシウムの二通りのレシピ

ところが、今や米国の生産量のわずか7%。辛うじて一社だけが踏みとどまっている状況です。それに代わって登場したのが、中国。

によると、2008年の金属マグネシウムの全世界生産量80万8000トンのうち、70万トンを中国で生産しています。そして、中国では電気精錬法ではなく、ピジョン法という方法でマグネシウムを精錬しているのです。

要するに、日本は貿易の形で炭酸ガス排出を外部化しているだけなのではないかということだ。これは欧州にしても同様だ。中国が低効率で日欧が高効率なのではなく、日欧は低効率だが欠かせない産業を中国はじめ新興国に押し付けているだけではないか、というわけである。

しかしこのことすら、「日本を救いたかったら世界を救え」という視点を持ってくることで一挙に批判の対象ではなく取り組むに値する課題へと変わる。科学技術はなぜ日本を救えるか?それに世界を救う力があるからだ。

ある問題を解くのに最も簡単な方法が、その問題を含む「一回り大きな問題」を解くというのは実によくあることだが、それが最も顕著なのは科学技術の世界ではないか。私は数学でこの手法に味をしめてからというもの、「問題を一回り大きく解く」のとりこになっている。この手法は科学技術だけではなく、ありとあらゆる場面で使える。「自分を救いたければ他を救え」というのは、社会を成立させている最も大きな力ではないのか。

少なくとも「日本を救う」方法として、「世界を救う」というのは「世界はさておき日本を救おう」より、ずっとうまくいく公算は高いのである。現状極論ではあるが、私はその過程で国としての「日本」がなくなっても構わないとすら思っている。国は国民を必要とするが、その逆は真ではないのだから。アインシュタインって何人だっけ?

科学技術は、普遍性があるからこそ科学技術なのである。日本でだけ有効な「科学技術」というのはありえない、日本を救いうる科学技術は、世界を救わずにいられないのだ。科学技術が日本を救うとしたら、その唯一の方法は世界を救うことなのである。

Dan the Helper of the Helpers


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LED電球を買ってきたんだが・・・・ 電球を刺すところが、口がねの部分が狭くて入らなかった 結局、まだ使える電球というか電球型蛍光灯の振り替えに 買う場合には結構気をつけないとだめだな ていうかLED電球もそういった方向での多様性を増やしていくだろうな あと4点...
ここは酷いLED電球ですね【障害報告@webry】at 2010年04月17日 00:22
この記事へのコメント
いやなものは中国へ。

繊維産業でも、金属産業でも、作業と作業環境がきつくてつらい産業はよそへ。

世界は常にしわを寄せられる弱者がどこかに必要である、と、こういうことですか?

でも、体裁のよい産業の生産性向上が、日本でそれほど進んでいますか?事務労働の快適化と負担低減は、それほど進行していないと思います。
Posted by h7bb6xg3 at 2010年04月18日 10:36
「要するに、日本は貿易の形で炭酸ガス排出を外部化しているだけなのではないかということだ。これは欧州にしても同様だ。中国が低効率で日欧が高効率なのではなく、日欧は低効率だが欠かせない産業を中国はじめ新興国に押し付けているだけではないか、というわけである。」

これは面白い意見ですね。ネット上でCO2排出権取引についての様々な意見を見て来ましたが、この見方は初めて見ました。弾さんのオリジナルでしょうか?それともどこかにネタ元があるのでしょうか?
Posted by bobbob1978 at 2010年04月16日 16:13