2010年06月05日 18:00 [Edit]

景気の波より人口の波 - 書評 - デフレの正体

角川書店岸山様より献本御礼。

さらにブロガー向けセミナーにもご招待いただいたので、参加させていただいた。

弾言する。著者ほど日本の現状をしっかり把握している人はいないと。数多の経済学者たちがスルーしてきた日本の本当の実情が本書にはある。

我が意を得たりとは、このことだ。


本書「デフレの正体 経済は「人口の波」で動く」は、平成合併前の約3200市町村の99.9%、海外59ヶ国を概ね私費で訪問して来た著者による、「日本の傾向と対策」。

目次
第1講 思い込みの殻にヒビを入れよう
景気判断を健康診断と比べてみると/ある町の駅前に表れた日本のいま
第2講 国際経済競争の勝者・日本
世界同時不況なのに減らない日本人の金融資産/バブル崩壊後に倍増した日本の輸出/世界同時不況下でも続く貿易黒字/世界中から莫大な金利配当を稼ぐ日本/中国が栄えれば栄えるほど儲かる日本/中国に先んじて発展した韓国・台湾こそ日本の大得意先/フランス、イタリア、スイスに勝てるか
第3講 国際競争とは無関係に進む内需の不振
「戦後最長の好景気」の下で減り始めた国内新車販売台数/小売販売額はもちろん、国内輸送量や一人当たり水道使用量まで減少する日本/なぜ「対前年同期比」ばかりで絶対数を見ないのか
第4講 首都圏のジリ貧に気付かない「地域間格差」論の無意味
苦しむ地方の例……個人所得低下・売上低落の青森県/「小売販売額」と「個人所得」で見える「失われた一〇年」のウソ/「地方の衰退」=「首都圏の成長」とはなっていない日本の現実/「東京都心部は元気」という大ウソ/名古屋でも不振を極めるモノ消費/地域間格差に逆行する関西の凋落と沖縄の成長/地域間格差ではなく日本中が内需不振
第5講 地方も大都市も等しく襲う「現役世代の減少」と「高齢者の激増」
苦しむ地方圏を襲う「二千年に一度」の現役世代減少/人口が流入する首都圏でも進む「現役世代の減少」/所得はあっても消費しない高齢者が首都圏で激増/日本最大の現役減少地帯・大阪と高齢者増加地帯・首都圏/「地域間格差」ではなく「日本人の加齢」/団塊世代の加齢がもたらす高齢者のさらなる激増
第6講 「人口の波」が語る日本の過去半世紀、今後半世紀
戦後のベビーブームが一五年後に生んだ「生産年齢人口の波」/高度成長期に始まる出生者数の減少/住宅バブルを生んだ団塊世代の持ち家取得/「就職氷河期」も「生産年齢人口の波」の産物/「生産年齢人口の波」が決める就業者数の増減/「好景気下での内需縮小」が延々と続く
第7講 「人口減少は生産性上昇で補える」という思い込みが対処を遅らせる
「生産性」と「付加価値額」の定義を知っていますか?/生産年齢人口減少→付加価値額の減少を、原理的に補いきれない生産性向上/「生産性向上」努力がGDPのさらなる縮小を招く/間単には進まない供給側の調整/高齢者から高齢者への相続で死蔵され続ける貯蓄/内需がなければ国内投資は腐る/三面等価式の呪縛/「国民葬時間」の制約を破ることは可能なのか?
第8講 声高に叫ばれるピントのずれた処方箋たち
「経済成長こそ解決策」という主張が「対策したフリ」を招く/「内需拡大」を「経済成長」と言い間違えて要求するアメリカのピンボケ/マクロ政策では実現不可能な「インフレ誘導」と「デフレ退治」/「日本の生き残りはモノづくりの技術革新にかかっている」という美しき誤解/「出生率上昇」では生産年齢人口減少は止まらない/「外国人労働者受け入れ」は事態を解決しない/アジア全体で始まる生産年齢人口減少に備えよう
第9講 ではどうすればいいのか 々睥霄塢挈義悗ら若者への所得移転を
若い世代の所得を頭数の減少に応じて上げる「所得一・四倍増政策」/団塊世代の退職で浮く人件費を若者の給料に回そう/若者の所得増加推進は「エコ」への配慮と同じ/「言い訳」付与と「値上げのためのコストダウン」で高齢者市場を開拓/生前贈与促進で高齢富裕者層から若い世代への所得移転を実現
第10講 ではどうすればいいのか◆―性の就労と経営参加を当たり前に
現役世代の専業主婦の四割が働くだけで団塊世代の退職は補える/若い女性の就労率が高いほど出生率も高い
第11講 ではどうすればいいのか 労働者ではなく外国人観光客・短期定住客の受入を
高付加価値率で経済に貢献する観光収入/公的支出の費用対効果が極めて高い外国人観光客を誘致!
補講 高齢者の激増に対処するための「船中八策」
高齢化社会にける安全・安心の確保は第一に生活保護の充実で/年金から「生年別共済」への切り替えを/戦後の住宅供給と同じ考え方で進める医療福祉分野の供給増加
おわりに――「多様な個性のコンパクトシティたちと美しい田園が織りなす日本」へ
あとがき

本書の指摘で最も重要なのは、主題の「デフレの正体」ではなく、「人口の波」、いや Lee Kuan Yew 言うところの"Silver Tsunami"である。人口ボーナスが、人口オーナスへ。この指摘そのものは「未来思考」でもなされているし、「人口学への正体」では本一冊まるごと使って論考している。

本書が重要なのは、それが一体日本にとって何を意味するかまで述べていることだ。

それでは、"Silver Tsunami"は日本に何をもたらすのか。

日本国経済がいくら「うまく行っても」、日本人経済、とくに現役世代経済が「うまく行かない」という状況をもたらす。事実日本国経済は、外国との収支を見る限り多いに美味く行っていることが、第2講で示される。主だった国で日本に対して黒字なのは、スイスだけなのだ。しかも相手国の経済がよくなればなるほど日本の黒字も増えるという構造になっているので、中国の経済成長が日本にとってプラスにこそなれマイナスにはならないこともあわせて示される。

にも関わらず、それは日本人の経済はうまく行かない。生産性を向上すればするほど、うまく行かなくなる。なんでそんなことになってしまうのか?

いくら生産性が向上しても、それを使ってくれる人が増えないからだ。ただでさえ絶対人口が減っている上に、高齢者世代へ貢ぐ分まで増えているのにどうすれば彼らが使ってくれるというのか?

「しかし彼ら高齢者世代とて永遠に生き続けるわけではない。亡くなればそれが次の世代に相続されるではないか」と思っている方、甘い。その「次の世代」だって同時進行で高齢化しているのだ。その結果老人の財産を老人が相続するという「老々相続」が常態となる。

P. 164
本当に、日本人の平均寿命がロシアの男性並みに六〇歳を切っていたりすれば、全然様相は違ったでしょう。子供がまだ三十代で買いたい者もいろいろある時期に、相続が発生しますから。ところが女性は世界最長寿、男性も長寿ベスト三に入っている日本では、亡くなる側ではなく相続する側の平均年齢が六七歳だというのです。

実はこれ、拙著「弾言」でも指摘したことである。右の図は本書ではなく「弾言」のものだ。

「弾言」第二章 高齢化で変わる世界

 すると何が起こるか?

 20世紀の成長神話が成り立たなくなります。全体の人口が減ってしまうのは人類史においても生物史においてもよくあることでしたが、歳をとった個体の数が多いままそうなるというのは未曾有の出来事です。

 今までの社会は、明日の経済は今日よりも大きいだろうという期待、つまり成長バイアスがかかっていました。こういう社会では、若者は借金をするのが得策です。ストックの少ない若者は、借金をしてストックを大きくすることにより、本来なら未来にならないと買えないモノを今日買うことができます。

 ところが、老人が多くなるとどうなるでしょう。老人にストックがよどみ、若い人にはカネが行き渡らなくなる。若者は未来を前借りできなくなるのです。つまり、将来の収入を当てにした借金ができなくなると言うことです。

 昔は、親が60から70代で亡くなり、その遺産を40代、遅くとも50代前半の子供が相続していました。ところが今だと、親の財産を相続するのはだいたい還暦を過ぎてから。自分たちが老人になって初めて遺産を相続できる。

 老人は根本的に消費力が低いんです。高齢者向け商品が大ヒットしたと聞いたことがありますか? 歳を取れば食も細くなりますし、モノを欲しがらなくなります。時々そうでない人もいますが(笑)。

 今、一番財産を持っているのは70代の人たちで、引退したての60代ではありません。彼らはどっさりストックを残したまま死に、そのストックが別の老人に相続されてしまう。昔は、老人が死ぬと、大きなフローを必要としている若い人が相続していたのです。

 日本の経済がうまく回らなくなってきた一番の理由はそれですよ。

本書の指摘と提言は、我が目を疑いたくなるほど「弾言」そして「働かざるもの、飢えるべからず。」と重なる。しかし重要なのはこのことではない。私の本はおろか、本をほとんど読まない(とセミナーで述べた)、その代わり現場の観測と生の統計資料を誰よりつぶさに見て来た著者も同じ結論に達したということである。

「理論」と「観測」、それぞれ別ルートで出した結論が同じ。

偶然の一致などでは、ありえない。

しかしこれまで拙著や「未来思考」を含め、本書の結論が含まれる本はあっても、それが主題で、かつ観測結果が豊富に載っている本はそれほどなかった。本書の意義がそこにある。本書の経済における意義は、宇宙物理学におけるCOBEやWMAPの意義に相当するのだ。

COBEの観測結果を見て、ある宇宙物理学者は「神を見た」と言ったそうだ。

本書を読んだあなたがそこに見いだすのは疫病神かも知れない。

しかしそこからいくら目を背けても、疫病神はどこにも行かないのだ。

まずは見て欲しい。

疫病神の、正体を。

Dan the Economic Animal


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正確にはまだ読んでいるのだけど、これは週末に読んだ方がいい。 デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)藻谷 浩介 角川曮..
日本は海外より弱くなったのか【読んだ本】デフレの正体【若だんなの新宿通信】at 2010年06月18日 22:15
  最近、締め切りが重なり外出することすら困難になってきているのですが(今日もまだ一歩も家の外にでていない!)、まるで養豚場の豚みたいな生活です。 そこで、先日、角川書店の岸山さんに呼ばれて、一日一度の散歩のついでに藻谷浩介(日本政策投資銀行参事役)さんの
デフレの正体【水野俊哉の日記】at 2010年06月07日 15:14
pppppppppppppppppppppppp■デフレもバブルも統制3法からだけど・・・   2002/10/30/p/p/p/p/p/p/p/p/p/p/p
世界デフレ都市TOKYO!【TYOスクラッチ】at 2010年06月07日 00:32
この記事へのコメント
巨大ECのレビューでこの本への批判が多いけど、トンでも本扱いで「読むな!」と罵倒するたぐいは威力営業妨害や名誉毀損の疑いがあるかもね。現実が理論や数式のとおりだと思い込んでるイタイ図式経済学オタクが多すぎるのかな。
Posted by affylive at 2011年12月28日 16:39
ごめんなさい。経済学的には、誤りだらけの本です。

詳しくは、ブログ『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門』
http://abc60w.blog16.fc2.com/
カテゴリ:藻谷浩介をご参照下さい.

(宣伝ではないのですが、拙著『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門供戮鬚読みいただければ、間違っていることが如実に分かります)

以下、論点を少しアップします。

(1)貿易黒字はもうけではない。
P50…ハイテク分野では日本にかないっこないフランスやイタリアが…ブランドの食料品と繊維と皮革工芸品を作ることで、日本から貿易黒字を稼いでいるんですよ。…日本だってアジア相手に同じことができるんです。何を怖がっているのか。
p189…技術開発は全力で続けて、日本企業には最先端に立っていただきたい。でも首尾よくそうなっても、稼いだ外貨が内需に回る仕組みを再構築しない限り、外貨が稼げずに死ぬということになる前に、外貨が国内に回らないことで経済が死んでしまうのです。

 経常収支黒字額=資本収支赤字です。つまり、貿易黒字=外国への資金貸出額のことです。ですから、貿易黒字は、日本国内には還流せず、海外資産として積み上げられます。過去の貿易黒字の積み上げ(海外資産)が、日本の対外資産になっています。海外純資産は,平成20年末現在,225兆5,080億円に上ります。やはり,世界一の対外債権国です。稼いだ?外貨は、国内にはまわすことが出来ません。

伊藤元重(東大教授)編著『貿易黒字の誤解−日本経済のどこが問題か−』 東洋経済新報社1994 
 p27 黒字はどこにいったのかといえば,「海外への資産の蓄積になった」という答えになる。
 p89 「日本は多くの産業において強い競争力を持っており国際経済で一人勝ちしているから,日本の貿易収支や経常収支は黒字である」というのがいかにばかげた議論であるか…わかることだろう。
Posted by barukan_0901 at 2010年09月27日 21:09
「今のご老人は戦中戦後派が多数だから、」

「贅沢は敵だ」と教わってきた方々ですからね。三つ子の魂百までではないですが、なかなか贅沢はしてくれないのでしょう。
Posted by bobbob1978 at 2010年06月07日 10:29
 生前贈与の税率を引き下げつつ、その金額をその年度以内に消費した場合は税金をさらに還付する。こうすれば少しは消費に回るでしょう。子供手当てよりはいいんじゃないでしょうか?今はほとんど生前贈与などやっている人はいないでしょうから、政府の懐は痛まない。まあ、あくまでも少しでしょうが、子供手当てよりよっぽどマシな結果をもたらすと思う。
 相続税の引き上げ、引き下げは、この問題には何の役に立たない。今のご老人は戦中戦後派が多数だから、いくらお金持っていても安心できないでしょうから、どちらにしても死ぬまでお金は持っていくと思う。政府を信用してない年代。だから、マイナス金利でも導入しない限り、相続税引き上げは消費拡大にはつながらない。
Posted by minomi66 at 2010年06月06日 11:21
マーケットのグローバル化や諸国の制度のハーモナイゼーションなどで、ある程度まで何とかならんのですか?日本だけ考えるから行き詰るけれど、若年労働人口を非生産的なままたくさん抱えている国は多いんです。(たとえばインドネシア)。そこを生かさないと。

まあ、それでも世界的に少子化していますから、世界中で制度設計を変えないといけないのは確かです。その中でも、日本が突出した先端的少子高齢化地域であるということは、私たちは、人類にとって偉大な実験を今行っているということです。光栄ではありませんか。
Posted by h7bb6xg3 at 2010年06月06日 09:55
人口動態の変化なんて当然前提だと思ってたら意外に経済学なんてスタティックなんですね。経済学なんかこそ理性の限界・知性の限界的なものを自覚してもらわないとどーしよーもない気がします。

人口オーナスや世代会計など、日本一貧乏らしい経済ライターのトラスト立木さんも同じようなことを『この国の経済常識はウソばかり』で書いていました。婚活とかも触れます。それから世代別に投票できる数を差別化し、投票の先物を先渡するような制度設計とかも触れてました。是非読んで書評してくださいよー。

Posted by livesheep at 2010年06月05日 23:19