2010年06月20日 11:00 [Edit]

消費税は三重に逆進的である

世代間格差を憂ているはずの大竹先生がこの論文を出したのは皮肉としかいいようがないが…

消費税は逆進的ではない - 池田信夫 : アゴラ
実証的にも、この推定は確かめられています。大竹文雄氏と小原美紀氏によれば、次の図のように(所得が最高の)10分位の消費税の生涯所得に対する負担率は4.05%であるのに対して、第1分位の負担率は1.59%。消費税は、かなり強く累進的なのです。

それでもやはり消費税は逆進的である。


同論文の「消費税は逆進的である」という点に関して最も重要なのは、以下の仮定である。

例をあげて説明してみよう。世の中に、全く同じ所得水準の人しかいなかったとする。20歳から60歳まで、年収が500万円、60歳以降は年金所得が200万円で80歳まで生きるとしよう。人々は、生涯同じレベルの消費水準を達成できるように貯蓄し、それを取り崩すとする(図2)。ここで、簡単化のために、金利をゼロとすると、人々は毎年400万円ずつ消費すれば、60歳まで毎年100万円ずつ貯蓄し、60歳以降は毎年貯蓄を200万円ずつ取り崩すと、80歳でちょうど貯蓄を使いはたすことになる。これが、経済学でライフサイクル仮説と呼ばれる消費行動を説明する理論のもっとも簡単なケースである。

これにそって人々が消費行動を取るのであれば、一生涯でならせば消費税率は変わらない、というわけである。

ところが、この論文を追って発表された

では、この前提そのものがおかしいことを指摘した上で、以下のような結論を導いている。

大卒大企業のサラリーマンは,約4億円の生涯所得を獲得し,生涯で消費税を1,259万円負担することになる。この生涯消費税負担を生涯所得で割ると,消費税の生涯負担率は3.14%となる。一方,高卒零細企業のサラリーマンは,約2億2,600万円の生涯所得を獲得し,808.9万円の消費税を負担することになり,消費税の負担率は3.58%となる。この表からは,生涯所得が高くなるにつれて,消費税の負担率の低下が観察される。したがって,生涯所得でみたときも,やはり消費税には逆進性が存在することになる。

どうしてこうなるのだろう?

低所得者は、高所得者のように貯蓄にまわす余裕がないからだというのがその理由である。

さらに驚くべきことに少なくとも日本の高齢者は貯蓄を取り崩してはいない。

図録▽年齢別の資産額と収入額

もし退職後に預金を取り崩しているのであれば、資産のピークは退職直後である60代にあるはずであるが、ところが見ての通り70を過ぎても資産は減るところか微増すらしている。

2004年の30歳未満の世帯主の家計資産は、817万円であり、70歳以上の家計資産は5,961万円と7.3倍に達している。同じ倍率は1999年には6.7倍であったので、資産の年齢格差は広がっているといえる。下の方の図により、世帯主の年齢別に資産の減少率をみると、若い世代の方が、資産の減り方が大きくなっており、この結果、年齢格差は広がったのである。

この状態で消費税率を上げ、それを社会保障の財源にあてたら一体どうなるのか。

この傾向がますます進むことは子供でもわかる。老人はわかりたくないだろうが。

消費税は単に高所得なほど低実効税率という意味で逆進的であるにとどまらず、高資産者ほど低実効税率という意味でも逆進的であり、その上福祉の財源にあてることによって、高齢者ほど低実効税率--どころか負の消費税!--という逆進性が加わり、逆進性は三重になるのだ。

格差と希望」 P. 223
強い不満をもつ人の方が、強い政治力を発揮することが多い。絶対的水準では貧しいはずの人から豊かな人への所得移転を促進するような規制や所得再配分政策が行われてしまうのは、人間のそうした[相対的な水準を適用してしまいがちな(引用者註)]特性のためだ。正社員の既得権を守ったがために就職氷河期が発生したのも、公的年金改革が進まないのも同じ理由ではないだろうか。

そして消費税増税が通ってしまうのだとしたら、それも同じ理由ではないのだろうか。

いや、もう一つ理由がある。ストックを無視してフローの話をしていることだ。フローだけ見ているから、高資産で低所得な高齢者に低資産で「高所得」な現役世代が貢ぐ羽目になるのだ。というわけでストックの話をするまえに体力が尽きたので次回へ続く。

Dan the Taxpayer


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 前回の記事で、不用意に消費税増税に賛成してしまったのは軽率だったかなと反省し、しばらく少し前に盛り上がった消費税増税をめぐる議論をおさらいしていました。    消費税論争の復習には次の2つのまとめ記事が便利です。今後この議論が再燃することは...
消費税が逆進的ではないほんとうの理由――斎藤貴男『消費税のカラクリ』を読む【平岡公彦のボードレール翻訳日記】at 2010年10月17日 21:45
 世界中のお金持ちが独占してきた  「税金を浮かせて資産を増やす方法」を知れば、...
所得税・住民税・消費税がゼロに!⇒世界中のお金持ちが独占してきた...「税金を浮かせて資産を増やす方法」【あれ欲しい】at 2010年07月01日 18:07
というわけで、前回からの続き。 なぜ増税は消費税であっては駄目なのか - 小飼弾 : アゴラ長くなったので、続きは次回ということにさせていただく。が、ヒントはここに上げてもよいだろう。
税金は死んでから納めよう【アゴラ】at 2010年06月24日 01:41
いま、日本中で消費税増税に関する議論が盛んです。そこで、これまでの議論をまとめた上で、私の考えを書きたいと思います。 ブログ上の消費税の議論のまとめ まず、消費税増税に賛成する議論としては、金融日記の藤沢数希氏や、アゴラの池田信夫氏が先頭に立っています。
消費税増税議論について考えてみる【Galileo(ガリレオ)のブログ】at 2010年06月21日 06:16
この記事へのコメント
消費税、年収300万円以下は全額還付も検討 菅首相

2010年6月30日20時59分

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 菅直人首相は30日、消費税率を引き上げた場合の低所得者への負担軽減策として、年収300万円程度を下回る人に税金を全額還付する方式を検討する考えを示した。食料品などの生活必需品にかかる消費税率を低く抑える軽減税率の導入にも言及した。

 首相は、すでに税金還付方式を検討する考えを打ち出しているが、対象の年収の目安を示したのは初めて。低所得者の負担感が増す消費税の「逆進性」への具体的な対策を示すことで、自ら呼びかけた超党派の議論に向けた機運を高める狙いとみられる。

 この日、参院選の応援で訪れた山形市内の演説で「例えば年収300万、400万以下の人にはかかる税金分だけ全部還付するという方式、あるいは食料品などの税率を低い形にする方式で、負担が過大にかからないようにする」と述べた。青森市内での演説では「年収200万円とか300万円とか少ない人」、秋田市内では「年収300万とか350万円以下の人」と述べた。所得税の課税最低限(夫婦と子ども2人の世帯で年収325万円)が念頭にあるとみられる。
Posted by hahirogayuku at 2010年07月01日 07:08
消費税が逆進的だという論は理解できます。

そして、おそらく、自分がワープアだと思う方々は、民主には投票しないと思う。私は違う理由で民主は支持しないが、自分がワープアではないと信じたいこともあって、消費税アップには賛成です。というか、今の日本に本当にワープアが多いのなら民主は今回の選挙で負けるだろうけど、おそらく大半の自称ワープアは消費税アップに賛成なんじゃないかと思う。
Posted by kawanaka at 2010年06月23日 11:00
私は、荘司雅彦氏のブログで「税制はフラット化へ」と題するブログが記載されたので、まさか憲法をある程度は勉強した弁護士がそのようなことを言うまいと、上記の趣旨に基づき批判したところ、「累進課税は共産主義的な政策で望ましくない」という返答をいただいた。

今は、荘司雅彦氏のブログはコメントできないように設定してある為そのやり取りも削除されている。

私は心の底から驚いたのであった。ここにコメントさせて注意喚起させていただく。社会契約説とは何を意味するのか知らない人が社会契約説について論じることが出来るのが、現代社会のお寒い出版事情である。

池田信夫のような何だか分からない人は世の中に数多いるのだと感心した次第である。
Posted by hahirogayuku at 2010年06月23日 04:53
伊藤真氏によると、
P46において、「このように憲法は税の決め方(租税法律主義)を要請するだけではなく、税制の基本方針(応能負担原則)を示しているのです。
 憲法にかなった応能負担原則の税制をさらに具体化すると、…樟楡任鮹羶瓦砲靴董⇔濘焚歙任任△襪海函勤労所得課税を軽くし、資産所得課税を重くすること。(中略)生計、生活費にかかる分については、できるだけ非課税にしていくこと。以上のような応能負担原則にもとづいて税制を構築しなければならないことを、まさに憲法が求めています。」とある。

また、加藤晋介氏によるとP30で、「社会契約の実質化」と題して、以下のように述べられている。
「福祉主義とは、ケインズ主義を実質的内容とする、「弱者のために富者が負担を負うことにより有効需要がつくられ、その結果、経済も円滑に循環する」というものです。
 著しく富んでいる人と著しく貧しい人がいる社会は健全ではありません。10%の人が90%の富を占めたとすると、たかだか10%の人が消費するだけですから、こんな社会では、生産は拡大しません。これを累進課税や富の再分配(たとえば年金)によって、均等化すれば、生産は拡大します。こうすれば、富んでいる人も継続して一定の収入をえることができます。富んでいる人は、工場などに出資しますから、そこで継続的に大きな収入が得られる。このような共存共栄を図る政策としてのケインズ政策、そして、それを憲法的に「生存権」というかたちで実現したのが福祉主義です。」
Posted by hahirogayuku at 2010年06月23日 04:48
小飼さんが紹介した「13歳からの法学部入門」の著者、荘司雅彦氏のブログによる、「フラットな税制が望ましいとする意見

http://plaza.rakuten.co.jp/justice7711/diary/200801070000/

憲法25条1項
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する(生存権)。
2項
国は、すべての生活部面において、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない

憲法とは、法律の親分などではなく、国民の国家権力に対する命令規範である。

99条
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

この条文には「国民」が入っていない。従って、国民が憲法を守るのではなく、国家権力に守らせる側にいることを示している。

83条
国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない(財政民主主義)。
84条
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする(租税法律主義)。

従って、税制については、国民の生存権を出来る限り守る形で議決されることが望ましい。実際、国民の生存権に適うような法律や予算になっていない場合には、裁判の場で憲法的価値を実現する為の裁判が幾つか為されてきたが、必ずしも判例は、憲法的価値の実現に応えてはいない(例えば、朝日訴訟や堀木訴訟)。

憲法の知恵ブクロ、伊藤真著
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4406053514
P45〜
加藤晋介の憲法入門
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4426109108
P30〜
Posted by hahirogayuku at 2010年06月23日 04:37
やっぱりマルクスは若い時に読んでおくべきだと思った。「下部構造は上部構造を規定する。」http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8B%E9%83%A8%E6%A7%8B%E9%80%A0

 例えば、大学の先生に大学は大人の幼稚園と批判しても蛙の面に小便だ。大学のお陰でおまんまが食えるからだ。別に体面なんかどうでもいいのだ。如何に学生に貢献しているかもどうでもいいのだ。

 同じように、マスコミも、鳩山内閣を批判すればおまんまが食える。何をどうすれば良いかはどうでもいい。それを考えても飯は食えない。そうではなく、国民の不満を鳩山にぶつけ(魔女狩り言論)民主党を批判すれば飯が食えるのだ。知的耐性はいらない。苦労せずして飯が食えること、これが一番生存する上で大事なことなのだ。

 こうして、日本は愚民で覆い尽くされることになる。現にそうではないか。

 日本に、本当の意味で、かつてはいたとされる知識人は何人いるのか是非教えて欲しい。マスコミは日本人(の一部)を愚民化していると思う。
Posted by hahirogayuku at 2010年06月22日 19:12
まぁ、長期と短期では当然影響が違って来ますよね。
生涯消費なんて50年レベルの話です。短期的には逆進性の影響が大きいでしょう。
Posted by bobbob1978 at 2010年06月21日 16:56
とにかく、国民は増税の背後にある考えについては、管首相のブレーンの小野善康大阪大学教授の考えを知る必要がある。信奉するためではなく、批判検討の材料にするためです。そのために、図書館からでも良いから、小野教授の親書を読む必要があると考える。

ただ、自分の家計からお金が出るとか出ないとかの利己的なレベルのみならず、国全体のありようを考えて納得ずくで税制を議論し、選挙に、投票すべきだ。
Posted by hahirogayuku at 2010年06月21日 11:58
小野先生の示唆は以下であったようです。赤字国債の発行が限界に近付いているとの考えのため、消費税増税をして、それを雇用に回し、失業率を3%に下げるためぜひとも財源が必要な模様です。別途所得税の税率引き上げも民主党は視野に入れている模様です。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-15903920100621
Posted by hahirogayuku at 2010年06月21日 11:47
税制を議論しているのに、なぜ消費税だけを取り上げて、所得税を無視するのですか?

その時点で、税の公平性について考えるのは、可笑しいですよ。
Posted by hiroshi4834 at 2010年06月21日 00:22
このように、増税と言っても、2の所得税の累進性を上げる(貧乏人からはカネを取らず、金持ちから余計に金を取る)と考えられます。

こうすると一見金持ちが損をするようですがそうではありません。

例えば、イチローを例にとります。イチローが一億年に稼ぎ、50パーセントの課税をされたとします。すると、イチローの稼ぎは5000万円です。しかし、そもそも消費税を10パーセントに上げると、そもそも国民みんながケチになり、倹約するので誰もプロ野球に関心を持たなくなり、そもそもイチローはカネを稼ぐことすらできなくなります。総合的な視点では、所得税の累進度を上げた方が、逆に長い目で見た場合、金持ちも得をするのです。

従って、所得税の累進性を上げるべきと考えます。
Posted by hahirogayuku at 2010年06月20日 23:09
増税にも二つあります。
1.消費税増税(貧乏人からも金を取る)
2.所得税の累進課税率を上げる(金持ちから金を取る)

この点につき、管首相のブレーン、大阪大学経済学部教授小野善康内閣参与の発言はこうです。

http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/100611/fnc1006110740001-n3.htm
Posted by hahirogayuku at 2010年06月20日 23:07
現在の日本では、年金などの給付の状況をみても、高齢者むけの社会保障はやけに手厚い反面、若者への保障、とくに失業保障などはまったく立ち遅れていますので、こういう結果が出るのはある意味当然なのではないかと思いますね。しかしそもそも貯蓄をたくさん残して死ぬという行為自体は、これは自身で稼いだお金の一部をドブにすてているようなことですので、批判してもみてもしょうがないような気もしますし・・・(遺産の相続を前提にすると、グラフの見方自体が複雑になってきますし。)これ自体は、デフレの原因であるからけしからん、というくらいのことかと。むしろやはり社会保障制度のゆがみを矯正するための財源を今後どうするか?という話になってくるわけでしょう・・・それから、そもそもの話、では何故に諸外国では消費税を財源に税制を運営しているのでしょうか?見習うべき点はないでしょうか?など、読んでいて感じますね。
Posted by ikuside5 at 2010年06月20日 20:25
相続税を100%にするのとセットにしたらいいという話?
Posted by morold at 2010年06月20日 17:50
消費税の逆進性とその緩和策 - 橋本恭之http://www.jbaudit.go.jp/effort/study/mag/pdf/j41d03.pdfのPDFのリンクがちゃんと貼られてないですよ。
Posted by hansei3 at 2010年06月20日 11:47
日本の高齢者の「貯め込み」は異常ですよね。「福祉の貧弱さが原因だ」という意見もあるけど、福祉が強靱というわけでないアメリカでも、退職後の高齢者は貯金を取り崩している。
http://www.chuomitsui.jp/invest/pdf/repo0606_5.pdf
Posted by ryo511 at 2010年06月20日 11:37